過去のセミナー (2022年度)

       @統計数理研究所

世話人 伊庭幸人 坂田綾香  菊地和平 (統数研)

2022年 4月12日 (火)  

白井 伸宙三重大学 総合情報処理センター : ホスト 坂田綾香

自己回避ウォークの負のエネルギー弾性  

ゴムや高分子ゲルなどの高分子網目から構成される弾性体は、温度を上げると硬くなることが知られている。この硬化の起源は網目を構成している部分鎖のエントロピーが減少する変形に抗う力、つまりエントロピー弾性である。ところでヘルムホルツの自由エネルギーの式 (A=U-TS) を眺めてみると、弾性体の変形に起因する自由エネルギーの変化は、エントロピーの変化だけでなく内部エネルギー (U) の変化もあることに気付く。加硫天然ゴムなどの場合、この内部エネルギー変化由来の弾性(エネルギー弾性)はエントロピー弾性に比べて小さいことが知られている。高分子ゲルに関してもエネルギー弾性が小さいと信じられてきたが、近年の化学架橋ゲルを用いた実験により、ゲルはエントロピー弾性と同じ程度のスケールのエネルギー弾性を有し、しかもその値は負であることが実験的に示された [1–3]。内部エネルギー変化の寄与だけを考えれば、高分子鎖はむしろ変形したがっていたのだ。ここにゲルの柔らかさの秘密が隠れているに違いない。

 本研究ではこの負のエネルギー弾性のミクロな起源を明らかにするため、自己回避ウォークに相互作用を加えたシンプルな統計力学モデルを用いて解析を行った。立方格子上の自己回避ウォークの厳密数え上げを行った結果、高分子鎖と溶媒分子の間の相互作用が引力であるときエネルギー弾性の寄与がエントロピー弾性と同程度のスケールかつ負となった。これは高分子ゲルの実験結果と整合し、高分子ゲルの負のエネルギー弾性は高分子鎖と溶媒分子の引力相互作用に由来することの理論的な証明になっている [4]。さらに自己回避ウォークのローカルな硬さを表す物理量を定義し計算してみたところ、「溶媒分子が高分子鎖をローカルに硬くすることで、架橋点を繋ぐ高分子鎖全体では柔らかくなる」という負のエネルギー弾性発現のメカニズムも解明することができた。


[1] Y. Yoshikawa, N. Sakumichi, U. Chung, and T. Sakai, "Negative Energy Elasticity in a Rubberlike Gel", Phys. Rev. X 11, 011045 (2021).

[2] N. Sakumichi, Y. Yoshikawa, and T. Sakai, "Linear elasticity of polymer gels in terms of negative energy elasticity", Polym. J. 53, 1293 (2021).

[3] T. Fujiyabu, T. Sakai, R. Kudo, Y. Yoshikawa, T. Katashima, U. Chung, and N. Sakumichi, "Temperature Dependence of Polymer Network Diffusion", Phys. Rev. Lett. 127, 237801 (2021).

[4] Nobu C. Shirai,  and Naoyuki Sakumichi, "Negative Energetic Elasticity of Lattice Polymer Chain in Solvent", arXiv:2202.12483

https://doi.org/10.48550/arXiv.2202.12483 

2022年 5月17日 (火)

舘野 道雄氏(東京大学 先端科学技術研究センター): ホスト 坂田綾香

コロイド分散系の気-液相分離ダイナミクスとゲル化

可逆的な引力相互作用をもつコロイドの分散溶液は、濃度、温度、イオン強度などの制御変数が適当な値になると、気体相(溶媒リッチ相)-液体相(コロイドリッチ相)への相分離によって、クラスターやネットワーク状の凝集構造を形成し粗大化を始める。さらに後者の構造が動的に凍結されると、いわゆる「コロイドゲル」が実現される。この構造凍結(ゲル化)のメカニズムとして、液体相のコロイド体積分率 \phi_rich がガラス転移点 \phi_g を上回ることで相分離過程がスローダウンする、というシナリオ[1]が多くの支持を得ている。しかしながら、このシナリオは主にゲル化が殆ど完了した静的状態の観察結果をベースとしていることもあり、共通の理解には至っていないのが現状である。本セミナーでは、ゲル化に至るまでの相分離過程について議論する。より具体には、\phi_rich はどのように \phi_g に接近するのか?相分離のスローダウンが開始される時刻に液体相ではどのようなことが起きているのか?これらの過程で溶媒の流れはどのような役割を果たすのか?などのゲル化ダイナミクスに関する疑問について、ゲル化の他のシナリオや自身の研究成果[2]も交えて議論する予定である。

[1] See, e.g., E. Zaccarelli, J. Phys. Cond. Matter 19, 323101 (2007).

[2] M. Tateno and H. Tanaka, Nat. Commun. 12, 1 (2021).; M. Tateno, T. Yanagishima and H. Tanaka, J. Chem. Phys. 156, 084904 (2022).

2022年  5月24日 (火)  

柳澤 実穂 氏 (東京大学 大学院総合文化研究科) : ホスト 坂田綾香  

細胞サイズ空間が誘起する高分子混合系の相分離

細胞内では、生体高分子間の液-液相分離や、相分離凝集体の液-固転移など、多様な相転移が生じ、それが生命機能や病気と関与することが分かってきた。高分子間の相分離は、マイクロリットル量以上(バルク系)では実験・理論ともに古くから研究されてきたが、細胞のように少量かつ表面を膜が覆うミクロ系での研究は限定的である。我々は、細胞サイズ空間では、微小体積や表面を覆う膜界面の効果により、バルク系とは異なる相転移が生じると考え、それらが実験的に操作可能な人工細胞を用いる研究を行ってきた。その結果、細胞サイズ空間では、生体高分子のナノ構造転移やゾルゲル転移をふくむ様々な相転移が、バルク系から変化することが分かってきた

[Sakai, et al., 2018, ACS Cent. Sci., Watanabe, 2020, B J. Phys.Chem.]。本セミナーでは、相分離するポリエチレングリコール(PEG)とデキストラン(Dex)混合溶液を細胞サイズ液滴に閉じ込めると、バルクで系では均一相であっても、あるサイズ以下の液滴中では相分離が生じ、さらに分離度がサイズ減少に伴い大きくなる現象を見出したので紹介する [C. Watanabe, et al., doi:10.1101/2022.03.23.485531]。またこのサイズ依存的な相分離現象について、高分子の鎖長依存的な膜界面濡れや、膜界面が誘起する核形成の観点から議論したい。 

2022年 5月31日(火) 

三村 和史 氏 (広島市立大学 情報科学研究科) : ホスト 坂田綾香  

ダンピングを導入した反復アルゴリズムの性能評価

ダンピングは、反復アルゴリズムを安定化するために用いる手法である。ダンピングでは、1回の反復で値が大きく変化しないように値を更新するように反復アルゴリズムを修正する。適用が簡単なので、いろいろな反復アルゴリズムに適用される。スパース推定のための反復アルゴリズムである近似的確率伝搬法は、条件次第で反復計算が不安定になることが知られておりダンピングの導入によって安定化される。ダンピングが導入された反復アルゴリズムは、変更前の値と相関のある値をとるため、アルゴリズムの性能がどのように変化するかは相関を扱うことのできる手法での解析が必要になる。ここでは、ダンピングが導入された近似的確率伝搬法の反復アルゴリズムを解析するための経路積分法に基づく漸近的理論を紹介する[1]。

[1] K. Mimura, J. Takeuchi, "Dynamics of Damped Approximate Message Passing Algorithms," Proc. of the 2019 Information Theory Workshop, 2019. 

2022年  6月7日(火) 

富谷 昭夫 氏(大阪国際工科専門職大学): ホスト 伊庭幸人

機械学習を用いた格子場の理論の高速化

格子場の理論とは、時空を離散化することで数値計算可能な形にした場の量子論の一種である。1980年のM. Creutzによる初の数値計算から始まり、実験と比較可能な結果を多くもたらしてきたが、計算のパラメータを現実に近づけることで臨界減速というモンテカルロ計算の非効率性が問題となってきた。近年の機械学習手法の発展が格子場の理論の計算に応用される様になってきたが未だ多くの議論がなされている。本講演では、機械学習を用いた格子場の理論の高速化について近年の進展を含めて基礎的な部分から議論する。 

2022年  6月28日(火) 

唐木田 亮 氏(産業技術総合研究所 人工知能研究センター): ホスト  坂田綾香 

カーネル法の統計力学的解析とそれによる継続学習の評価

深層学習の発展に伴い, パラメータ数が大きい過剰パラメータ系の汎化誤差解析が進みつつある. その一種の極限として, 訓練済みモデルがカーネルリッジ(レス)回帰に帰着するneural tangent kernel (NTK) regimeの研究も進んでいる. Canatarらはこのカーネルリッジ(レス)回帰にレプリカ解析を用いて, 多重降下現象に代表される非自明な汎化誤差の増減を明らかにした[1].  同様の結果をランダム行列理論で厳密化する研究も進みつつある[2].

本講演ではこれらの背景を概観しつつ, 汎化誤差のレプリカ解析をNTK regimeにおける継続学習で展開する. 継続学習や転移学習など複数のタスクを順番に学習する枠組みは応用の観点から注目を集めているが, 性能の向上や劣化の理解はいまだ限定的である. 我々はまず, 知識転移の正負の切り替わりの評価, たとえばタスクの類似度が高くても破滅的忘却(catastrophic forgetting)が出現することを示す.  次に, 汎化誤差はタスク間類似度だけでなくサンプル数にも依存し, 非単調な増減を示すことを明らかにする. 特に負の知識転移を防ぐには, サンプル数の均衡が重要となる.

[1] A. Canatar, B. Bordelon and C. Pehlevan. "Spectrum dependent learning curves in kernel regression and wide neural networks",  Nature Communications, 2021.

[2] H. Hu and Y. M. Lu, "Sharp Asymptotics of Kernel Ridge Regression

Beyond the Linear Regime", arXiv:2205.06798, 2022.

[3] R. Karakida and S. Akaho, "Learning Curves for Continual Learning in Neural Networks: Self-Knowledge Transfer and Forgetting",  International Conference on Learning Representations, 2022. 

2022年 7月25日(月) 

中石 海 氏(東京大学 大学院総合文化研究科): ホスト 伊庭幸人

確率文脈自由文法のランダム平均による自然言語の数理モデルにおける相転移の不在 

Context-free grammar (CFG) は自然言語の最も基本的な文法構造を記述する形式文法である[1].CFG には自然な確率的拡張が存在し,probabilistic context-free grammar (PCFG) と呼ばれる[2].PCFG は自然言語の単純なモデルとみなせる.個別の言語の振る舞いではなく,言語一般が典型的に示す振る舞いを表現するには,PCFG をなんらかの確率分布のもとランダムに生成し,平均を取れば良いと考えられる.これが DeGiuli によって提案された Random Language Model (RLM) である[3].彼は RLM の数値解析を行い,その結果に基づいて,PCFG が従う分布をコントロールするパラメータを連続的に動かしていったときに,生成される文法構造が秩序を持たない領域から秩序を持つ領域への相転移が起こると予想した.さらに,この相転移を無秩序な「言語」を話す幼児が秩序だった言語を話せるようになる言語獲得のアナロジーとして解釈した.しかし我々はこのモデルを理論的に解析し,PCFG が従う分布が解析的である限り予想されていた相転移は起こり得ないことを証明した[4].このことは自然言語のより複雑なモデルの考察の必要性を示唆する.


[1] N. Chomsky. Syntactic Structures. Mouton & Co., 1957.

[2] F. Jelinek, J. D. Lafferty, and R.L. Mercer. Basic methods of probabilistic context free grammars. In Speech Recognition and Understanding, pages 345–360. Springer, 1992.

[3] E. DeGiuli. Random language model. Phys. Rev. Lett., 122(12):128301, 2019.

[4] Kai Nakaishi and Koji Hukushima. Absence of phase transition in random language model. Phys. Rev. Research, 4:023156, 2022.

2022年  9月27日(火) 

長野泰志氏(東京大学 大学院総合文化研究科) : ホスト 坂田綾香


馬蹄型事前分布による圧縮センシングの統計物理学的解析

Bayes 統計学では正規分布の分散の確率的混合による階層型事前分布が注目を集めている。なかでも標準偏差に事前分布を半コーシー分布としたものは馬蹄型事前分布 (Horseshoe prior) と呼ばれ、スパースモデリング (SpM) における事前分布としての有用性が知られている [1][2]。階層型事前分布による SpM における指針として、局所的分散の事前分布の裾を重くとること、大域的分散を適切に調整することなどが指摘されているが、それぞれが果たす役割の理解は十分ではない。本セミナーでは馬蹄型事前分布による圧縮センシングの復元可能性を統計物理学の方法で評価し、それぞれの指針が信号復元に与える影響についての理論的な結果を紹介する [3]。また、他の階層型事前分布について同様の解析が可能であることを説明する。

References

[1] Carlos M Carvalho, Nicholas G Polson, and James G Scott. 

Handling sparsity via the horseshoe. In Artificial Intelligence and Statistics, pp. 73–80.   PMLR, 2009.

[2] Anindya Bhadra, Jyotishka Datta, Nicholas G Polson, and Brandon Willard.

Lasso meets horseshoe: A survey. Statistical Science, Vol. 34, No. 3, pp. 405–427, 2019.

[3] Yasushi Nagano and Koji Hukushima. 

Phase transition in compressed sens-ing with horseshoe prior. arXiv preprint arXiv:2205.08222, 2022.

2022年  10月4日(火)  


羽田野直道氏(東京大学生産技術研究所): ホスト 伊庭幸人


ランダム系の非エルミート量子力学

「非エルミート量子力学」とは、エルミート演算子であるべきとされる量子系のハミルトニアンを、敢えて非エルミート化することによってどんな現象が起こるかを調べる分野です。実数から複素数への拡張の演算子版とでもいうことができます。物理的な動機だけでなく、道具として利用することもあります。

 非エルミート量子力学をおおまかに分類すると3種類のアプローチがあります。一つは現在「開放量子系」と呼ばれている分野ですが、原子核の崩壊を記述するために、原子核の有効ハミルトニアンに複素ポテンシャルを導入するという試みは20世紀の前半から行われていました。もう一つは、現在「PT対称性非エルミート系」と呼ばれて研究されているもので、大袈裟に言えば宇宙全体が非エルミート系であり、たまたまエネルギー固有値が実数である領域に存在するのだという考え方です。これはCarl Bender氏らによって1998年に提唱されました。3つ目は、様々な物理系(とくに古典統計力学系)を変換することによって有効的に得られる非エルミート系を研究するものです。

 本講演では3つ目の研究の一例として、私とDavid Nelsonが1996年に提唱したモデル[1,2]における1次元ランダム系の局在と、非エルミート性による非局在化をお話しします。伝導電子系にランダムポテンシャルが加わると、量子干渉効果のために波動関数が局在する傾向が強まります。これをアンダーソン局在と呼びます。特に1次元系ではほとんど全ての固有状態が空間的に指数関数的に局在することが知られています。そこに、一方向への流れをつくるような非エルミート・ベクトルポテンシャルを導入すると、ランダムネスの局在効果と非エルミート性の非局在効果が競合し、局在していた固有状態を押し流して非局在化する転移を起こします。このとき同時に固有値が実数から複素数に転移します。その転移点を探ると、そもそもエルミートな極限で、どの程度強く局在していたかを知ることができます。最近では、ニューラルネット[3]や量子ウォーク[4]でも同様の議論が行われています。


[1] N. Hatano and D.R. Nelson,

Localization transitions in non-Hermitian quantum mechanics,

Phys. Rev. Lett. 77 (1996) 570--573.

[2] N. Hatano and D.R. Nelson,

Vortex pinning and non-Hermitian quantum mechanics,

Phys. Rev. B 56 (1997) 8651--8673.

[3] A. Amir, N. Hatano, D.R. Nelson,

Non-Hermitian localization in biological networks,

Phys. Rev. E 93 (2016) 042310 (20 pages)

[4] N. Hatano, H. Obuse,

Delocalization of a non-Hermitian quantum walk on random media in one dimension

Ann. Phys. 435 (2021) 168615 (13 pages).

2022年 10月25日(火) 

川本 達郎 氏(産業技術総合研究所 人工知能研究センター): ホスト 坂田綾香

ランダムグラフと隣接行列の統計(力)学  

多くのデータはグラフ(ネットワーク)として自然に表現することができる。グラフデータは隣接行列を使って計算が行われたり可視化されたりするが、頂点がカテゴリカル変数であるグラフの場合、グラフと隣接行列は一対一対応せず、頂点順序の自由度がある。最適な頂点順序を求める問題は、minimum linear arrangementやseriation問題[1]として古くから研究されてきたが、本講演ではその統計的仮説検定の枠組みについて、最近の我々の研究[2]を紹介する。

研究紹介の前に、グラフのランダムネスを評価するという関連で、講演前半ではランダムグラフモデル(主にグラフの数え上げ)について、長めに紹介を行う。

[1] I. Liiv, "Seriation and matrix reordering methods: An historical overview." Statistical Analysis and Data Mining: The ASA Data Science Journal 3.2 (2010): 70-91.

[2] T. Kawamoto and T. Kobayashi, "Sequential locality of graphs and its hypothesis testing", arXiv:2111.11267 (2021)

2022年  11月15日(火) 

石曽根 毅氏(明治大学 総合数理学部): ホスト 坂田綾香

逐次変分自己符号化器による生体分子構造ダイナミクスの表現学習 

生体分子構造ダイナミクスは通常分子動力学シミュレーションによって計算される. 配位空間は数百から数万の原子座標で構成されるので,構造変化を表現する低次元の特徴を獲得する手法が提案されてきた[1,2]. 本講演では,表現学習と近年の生体分子構造ダイナミクスへの応用について説明する.また,逐次変分自己符号化器を用いた講演者の研究についても言及する.

[1] B. E. Husic and V. S. Pande. Markov state models: from an art to a science. J. Am. Soc. 2018, 140, 2386--2396.

[2] K. T. Schütt, et al. Machine learning meets quantum physics. Springer, 2020. 

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講演者のご厚意で,講演後にいただいた参考文献リストです.大変貴重なものと思います.ありがとうございました.

[1] Y. Naritomi and S. Fuchigami. Slow dynamics in protein fluctuations revealed by time-structure based independent component analysis: The case of domain motions. J. Chem. Phys., 2011.

[2] A. Mardt, et al. VAMPnets for deep learning of molecular kinetics. Nat. Commun., 2017.

[3] B. E. Husic and V. S. Pande. Markov state models: from an art to a science. J. Am. Soc., 2018.

[4] C. Wehmeyer and F. Noé. Time-lagged autoencoders: Deep learning of slow collective variables for molecular kinetics. J. Chem. Phys., 2018.

[5] C. X. Hernández, et al. Variational encoding of complex dynamics. Phys. Rev. E, 2018.

[6] H. Wu, et al. Deep generative markov state models. In NIPS, 2018.

[7] B. Lusch, et al. Deep learning for universal linear embeddings of nonlinear dynamics. Nat. Commun., 2018.

[8] S. Otto, et al. Linearly recurrent autoencoder networks for learning dynamics. SJADS, 2019.

[9] K. T. Schütt, et al. K. T. Schütt, et al. Machine learning meets quantum physics. Springer, 2020.

[10] F. Noé, et al. Machine learning for protein folding and dynamics. COSB, 2020.

[11] Y. Varolgünes, et al. Interpretable embeddings from molecular simulations using Gaussian mixture variational autoencoders. MLST, 2020

[12] W. Chen, et al. Nonlinear discovery of slow molecular modes using state-free reversible VAMPnets. J. Chem. Phys., 2019.

[13] A. Mardt, et al. Progress in deep Markov state modeling: Coarse graining and experimental data restraints. J. Chem. Phys., 2021.

[14] M. Ghorbani, et al. Variational embedding of protein folding simulations using Gaussian mixture variational autoencoders, J. Chem. Phys., 2021.

[15] A. Glielmo, et al. Unsupervised Learning Methods for Molecular Simulation Data. Chem. Rev., 2021.

[16] Deep learning to decompose macromolecules into independent Markovian domains. bioRxiv, 2022. doi: https://doi.org/10.1101/2022.03.30.486366.

[17] M. Ghorbani, et al. GraphVAMPNet, using graph neural networks and variational approach to Markov processes for dynamical modeling of biomolecules. J. Chem. Phys., 2022.



2022年 11月29日(火)

岩本 真裕子 氏(同志社大学 文化情報学部):ホスト 坂田綾香

3D Vicsek modelにおける局所相互作用と群れ形態

近年は生物の群れの3次元データが取得できるようになり, データから群れの形態やそのメカニズムを読み解くために, 群れの数理モデルを用いて個体間の相互作用が考察される. その代表的な数理モデルとしてVicsekモデルがある[1].  Vicsekモデルは, 自己駆動粒子モデルの1つであり, 各粒子は一定の速さで動き, 時間発展とともに方向のみを変更する. 次の進行方向は自分を含めた近くの個体の進行方向の平均をとる. Vicsekモデル[1]では定められた距離の半径内の個体を近くの個体と定義する相互作用(Metric Interaction)が用いられるが, 一方で, 距離は関係なく定められた個体数を近くの個体と定義する相互作用(Topological Interaction)も考えることができる. コクマルガラスの群れデータの解析[2]では状況に応じて2つの相互作用を切り替えていることが示唆されたが, 実際に生物がルールを切り替えているとは考え難く, よりシンプルでありながら多様な振る舞いを生み出すシステムが存在すると考えられる. そこで, 本研究では, 3D Vicsekモデル[3]をもとに, 2つの相互作用を同時に実現できる数理モデルを提案し, 数値シミュレーションからそれぞれの相互作用の特徴を明らかにする. その結果を踏まえて2つの相互作用が生み出す振る舞いを記述できる1つの相互作用を提案することを目指す.

本研究は, 菊池雄斗氏(島根大学大学院修了)との共同研究である.

[1] Tamas Vicsek, Andras Czirok, Eshel Ben-Jacob, Inon Cohen, Ofer Shochet, “Novel Type of Phase Tran- sition in a System of Self-Driven Particle”, Physical Review Letters, 75(6), 1226-1229 (1995).

[2] Hangjian Ling, Guillam E. Mclvor, Joseph Westley, Kasper van der Vaart, Richard T. Vaughan, Alex Thornton, Nicholas T. Ouellette, “Behavioural plas- tically and the transition to order in jackdaw flocks”, Nature Communications, 10, 5174 (2019).

[3] B. Gonch, M. Nagy, T. Vicsek, “Phase transition in the scalar noise model of collective motion in three dimensions”, The European Physical Journal Special Topics, 157, 53-59(2008).

2022年  12月13日(火) 

高三 和晃氏(東京大学 大学院理学系研究科 : ホスト  伊庭幸人

自己駆動性が誘起する量子相転移:“量子アクティブマター"の提案 

アクティブマターとは、自ら動く要素の集まりであり、例えば、鳥や魚の群れが代表的な例として挙げられる。自ら動く性質(自己駆動性)により系は平衡から大きく離れた状態にあり続け、この非平衡性に起因して平衡では禁止された相転移やパターン形成が生じるのが興味深い。例えば、アクティブマターの典型的なモデルであるVicsekモデルは、有限温度の2次元系であるにも関わらず、連続対称性の破れを示す[1]。アクティブマター物理はこれまで、もっぱら古典系を舞台に研究が行われ、生物系の理解などに応用されてきた[2]。一方、量子系においてはアクティブマター物理はほとんど調べられてこなかった。この背景には、アクティブマターのような非平衡開放量子多体系を実現する良い実験系が無かったことが考えられる。しかし、近年の人工量子系の実験技術の進展により、実際に散逸に誘起された量子相転移が観測されており[3]、実験的な舞台が整いつつあると言える。

そこで我々は、新たに「量子アクティブマター」の物理を開拓することを目指し、理論研究に取り組んでいる[4,5]。論文[4]では、古典アクティブマター模型を拡張することで「量子系におけるアクティブマター」と呼べるモデルを初めて構築し、量子系においてもアクティブマター特有の非平衡相転移が生じることを明らかにした。具体的には、スピン依存非対称ホッピング(自己駆動力に対応)を持つ非エルミート量子多体系を構築し、その模型を数値計算(厳密対角化・量子モンテカルロ法)により調べ、いずれの場合も自己駆動力の効果により強磁性や相分離が生じることを示した。また、我々の提案する量子アクティブマター模型を冷却原子系において実現・観測するためのセットアップも合わせて提案した。これらの結果は、「量子アクティブマター」という新概念を提案し、量子多体物理・アクティブマター物理の双方にとって新しい研究の方向性を拓くものである。

本セミナーでは、我々の量子アクティブマター研究について基本的な内容から説明するのに加え、時間が許せば、現在準備中の別の量子アクティブマター模型に関する論文[2]についても紹介する。

[1] T. Vicsek et al. Phys. Rev. Lett. 75, 1226 (1995).

[2] K. Kawaguchi et al. Nature 545, 327 (2017).

[3] T. Tomita et al. Sci. Adv. 3, e1701513 (2017).

[4] K. Adachi, KT, K. Kawaguchi, Phys. Rev. Research 4, 013194 (2022).

[5] KT, K. Kawaguchi, K. Adachi, in preparation. 

2023年 2月13日(月)

加藤 譲氏 (公立はこだて未来大学 システム情報科学部 複雑系知能学科 ) 

量子散逸系におけるチューリング不安定性

活性因子と抑制因子の2変数で構成される系を活性抑制系という。複数の活性抑制系が、拡散なしの場合には一様であるが、拡散結合によって不安定化して非一様になる、という場合がある。この非直感的な不安定化現象は、チューリングの拡散誘導不安定性といい、自己組織化の典型モデルとして重要である。一方で、これまで量子散逸系のマスター方程式を用いたモデルにおいて、活性抑制系の拡散誘導不安定性に関する明確な議論はなされていなかった。本研究では、量子散逸系において、活性抑制系の標準数理モデルを提案し、量子散逸系においても拡散誘導による不安定化が起こることを示す。また、2系の拡散誘導による不安定化において、不安定化と同時に量子エンタングルメントが上昇すること、及び、量子連続測定によって量子ノイズに起因する系の対称性が破れること、を示す。


 [1] A. Turing, The chemical basis of morphogenesis. Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci. 237, 37–72 (1952)

 [2] Y. Kato and H. Nakao "Turing instability in quantum activator-inhibitor systems", Sci. Rep. 12,15573 (2022)

2023年 3月7日(火)

Liu Ziyin氏(東京大学 大学院理学系研究科物理学専攻)

Collapse and Phase Transitions in Deep Learning

Deep learning often proceeds in a balancing process between function approximation and model complexity. In different words, we want to make the learning happen while keeping the model as simple as possible. We show that this balancing process leads to a rather ubiquitous phenomenon in deep learning known as "collapses." Examples of collapses include neural collapses in supervised learning, posterior collapses in the context of Bayesian deep learning, and dimensional collapses in the context of self-supervised learning. Lastly, we demonstrate how we can classify and describe the collapses according to a phase transition framework.

[References]

2023年 3月13日(月)

高橋 智栄氏(名古屋大学 大学院情報学研究科)

ベイズ統計と統計力学による格子タンパク質模型のデザイン

タンパク質デザインとは、人間が望む機能や構造を持つようにタンパク質を設計することである。統計力学的にはタンパク質デザインは、与えられたタンパク質の天然構造を唯一の基底状態とするアミノ酸配列を決定する問題である。これはすなわちアミノ酸配列から天然構造を予測する立体構造予測の逆問題であることを意味する。正しくタンパク質をデザインするためには、内側の順問題である立体構造探索と配列との2重の最適化を実行しなければならない。しかしながら、Rosettaなどのタンパク質デザインの計算ソフトでは、そのような構造のサンプリングなどを行わずに多くのタンパク質のデザインに成功している [1]。我々は、この非自明な原理的ギャップを説明しつつ、具体的なデザイン手法を提案することを本研究において主眼とする。我々はこの問題に対して、ベイズ統計による定式化と、それへの統計力学的解析によってアプローチしてきた。我々は、先行研究において計算量的に困難だった立体構造探索の部分を打ち消すような事前分布を導入することで、与えられたタンパク質構造に対するエネルギー最小化のような手法を導いた。結果としてHPモデルという格子タンパク質模型 [2] では、2次元の比較的サイズの小さな例題群に対しては、事後分布に対するMCMCで高いデザインの成功率を達成した [3]。また、cavity 法という平均場近似を一般化したような解析的な手法によって MCMC の部分を置き換えても、MCMCと同等の結果を得ることを確認した [4]。また加えて2次元の小さなHPモデルに対しては、事前分布の基礎となっているタンパク質の進化に関するある独自の仮説が特別なパラメータ値のときには成立していることも分かった。本発表ではこれらの結果の基礎科学的意味まで含めて議論したい。

[1] J. K. Leman et. al., “Macrommolecular modeling and design in rosetta: recent methods and frameworks”, Nature methods, 17, 665-680, 2020.

[2] K. F. Lau and K. A. Dill, “A lattice statistical mechanics model of the conformational and sequence spaces of proteins”, Macromolecules, 22, 3986-3997, 1989.

[3] T. Takahashi, G. Chikenji, and K. Tokita, “Lattice protein design using Bayesian learning”, Phys. Rev. E, 104, 2021.

[4] T. Takahashi, G. Chikenji, and K. Tokita, “The cavity method to protein design problem”, J. Stat. Mech., 103403, 2022.


2023年 3月20日(月)

伊藤 祐太氏(徳山工業高等専門学校)

符号問題の解決へ向けた複素ランジュバン法の進展 

多自由度の積分を数値的に評価する強力な手法として、モンテカルロ法がよく知られている。特に、積分を効率的に計算するためには、重点サンプリングと呼ばれる考え方が重要となる。すなわち、積分に寄与する配位を効率よくサンプリングするために、被積分関数を確率分布関数と見なして積分変数を生成する。しかしながら、被積分関数が複素数の場合には、このような素朴な重点サンプリングは立ち行かなくなり、いわゆる符号問題と呼ばれる数値計算上の困難に直面する。複素ランジュバン法 [1, 2] は、符号問題が起こる系を扱う計算手法の一つとして知られており、積分空間を実空間から複素空間へ拡張し、複素なランジュバン方程式を解くことで符号問題の有無に関わらず積分を評価できる。一方で、複素ランジュバン法がもつ特有の問題によって、期待値が正しい値に収束しない場合があることが知られている。近年、これらの問題に対して理論的な理解が進み [3, 4]、それによって様々な解決策を模索する研究 [5] も為されている。本講演では、複素ランジュバン法の導入および近年の進展について説明し、有限密度QCDなどの物理への応用例 [6] を紹介する。

[1] G. Parisi, Phys. Lett. B 131, 393-395(1985)

[2} J. R. Klauder, Acta Phys. Austriaca Suppl. 25, 251-281 (1983)

[3] G. Aarts, E. Seiler and I. O. Stamatescu, Phys.Rev. D 81, 054508 (2010)

[4] J. Nishimura and S. Shimasaki, Phys. Rev. D 92, no.1, 011501 (2015)

[5] E. Seiler, D. Sexty and I. O. Stamatescu, Phys. Lett. B 723, 213-216 (2013)

[6] Y. Ito et al., JHEP 10, 144 (2020)