施設園芸(ビニルハウスや植物工場など,雨風に晒されない環境で行う農業生産)では,太陽光エネルギーを最大限に活用して大規模な農作物生産を行うことを目的に,二酸化炭素・気温・湿度等の環境を制御しています。
ただし,環境制御の判断材料として用いられる植物の生育状態は,いまだに人間の目視による観察と経験に基づいた主観的判断に委ねられており,毎日の植物の生育状態を評価するための信頼できる数値データはほとんど存在していません。本研究室では,このような状況を打破するため,様々なセンサを用いて植物生体情報を計測して生育状態を診断し,その診断結果に基づいて栽培環境を適切に制御するための研究開発として下記のテーマに取り組んでいます。
植物は光合成する過程で二酸化炭素を体内に取り込み,自身の体を大きくするための炭水化物を合成しています。そのため,植物により多く光合成させることでより成長を促進させれるわけですが,ここで植物がどの程度光合成したかを計測する必要があります。光合成は,二酸化炭素の吸収速度を測ることで計測でき,葉っぱ1枚のレベルから植物1個体,植物個体群(複数個体)までの光合成計測を行っています。
[Reference]
表計算ソフト Excel を用いた施設生産トマトの年間期待収穫量概算ツールの開発
下元 耕太, 仁科 弘重, 高橋 憲子, 高山 弘太郎
Eco-Engineering 30(2) 47-58 2018年
DOI:https://doi.org/10.11450/seitaikogaku.30.47
植物は光合成で蓄えた炭水化物を自身の成長(栄養成長:茎の伸長,葉の増大など)に使う他,子孫を残す(生殖成長:花や実をつけたり,果実の肥大など)ためにも使います。この栄養成長と生殖成長のバランスを適切にコントロールすることが重要であり,それを行うための数値評価指標を画像計測により行います。画像計測では,比較的シンプルな画像解析アルゴリズムからDeep Learningまでの様々な手法を組み合わせて,計測したい植物の成長量を数値化する開発を行っています。
[Reference]
Practical use of Deep Learning-Based Daily Stem Elongation Measurement of Tomato Plants in Two Commercial Greenhouses
S. Toda, T. Higuchi, T. Kanoh, T. Sakamoto, N.Fujiuchi, K. Takayama
IFAC-PapersOnLine 55(32) 113-118 2022年11月
https://doi.org/10.1016/j.ifacol.2022.11.124
植物は様々な匂い成分を生産して体外に放出していますが,ストレスにさらされると放出される匂い成分の量や構成比が変化します。匂い成分計測技術の農業生産への応用を念頭において,匂い成分の構成比(匂いの質)の変化の検知に基づいて植物診断を行うシステムを開発しています。
[Reference]
Emission index for evaluation of volatile organic compounds emitted from tomato plants in greenhouses
Kotaro Takayama, Roel M. C. Jansen, Eldert J. van Henten, France W. A. Verstappen, Harro J. Bouwmeester, Hiroshige Nishina
Biosystems Engineering 113(2) 220-228 2012年10月
DOI : 10.1016/j.biosystemseng.2012.08.004