逆問題へのアプローチ

主催 JST AIP加速研究

日時: 2023年3月23,24日

場所: 統計数理研究所 セミナー室5 (D314, D315).現地での参加は少ない人数に限られています.どうしても現地での参加を希望する場合は shiro[at]ism.ac.jp までご相談ください.一部の講演は zoom で配信します.詳細は以下のプログラムをご覧ください.オンライン登録はこちら (締め切りました)

概要

対象の計測に関するさまざまなの問題では,観測された結果からその対象の詳細を探る逆問題を扱っている.求めたい対象の情報が観測される情報よりも多いときには不良設定となり,さまざまな困難が生じる.本研究会ではそうした逆問題に対応している話題を異なる複数の分野から集め,どのような方法で問題に取り組み,解決しているのかを時間をかけて議論する.

プログラム

2023年3月23日(木)

12:30 - 14:30 池田思朗(統計数理研究所)現地のみ)

Event Horizon Telescope によるブラックホールシャドウの撮像について

超長基線電波干渉計 (VLBI: Very Long Baseline Interferometer) は電波天文学において電波天体の高解像度画像を撮るための有力な方法である.Event Horizon Telescope (EHT) Collaboration によるブラックホールシャドウの撮像は VLBI による大きな成果である.VLBI では,複数の電波望遠鏡で同じ天体を同時に観測し,そのデータを処理することによって画像のフーリエ変換にあたる観測値を得る.ただし,電波望遠鏡の数には限りがあるため,フーリエ空間の情報は再構成する画像の情報に比べて少なく,画像再構成は不良設定の逆問題となる.EHTによるブラックホールシャドウの撮像では,これまで電波干渉計の撮像で用いられていた方法に加えて新たな方法が提案された.そこでは,新たな統計量に基づく画像とデータの適合度の評価を採用し,新たな画像に関する制約を用いた.本講演では,こうした新たな画像再構成の方法を説明し,その結果からどのように科学的な主張を構成したのかを説明する.

14:45 - 16:45 中根崇智(大阪大学)(zoom 配信)録画 

低温電子顕微鏡単粒子解析における三次元再構成のしくみ

低温電子顕微鏡(CryoEM)を用いた単粒子解析法(SPA)は、結晶を用いずに生体高分子の立体構造を得られる手法である。電子顕微鏡・検出器・解析アルゴリズムの進歩により、この10 年ほどで到達可能な分解能は劇的に向上し、分解能革命と称されている。筆者は、オープンソースの SPA 解析プログラムである RELIONの開発に従事しており、2020 年には蛋白質の SPA として世界初の原子分解能を達成した(Nakane et al. Nature, 2020)。

SPAにおけるデータ処理とは、対象粒子の多数の二次元投影像から三次元構造を再構成する問題である。粒子は任意の方向をとりうるから、その位置(並進 2 パラメータ)と姿勢(3 つの Euler 角)を推定しなければならない。また、試料に照射できる電子量は電子損傷によって制限されており、一つ一つの粒子像はノイズを多く含む。そのため、数万〜数十万の粒子からの情報を適切に重み付けしつつ統合して信号雑音比を改善する必要がある。しかも試料中には壊れた粒子や異なる構造の粒子も混在しているので、同じ構造の粒子ごとに分類して処理する必要もある。

RELION はこれらの問題を empirical Bayes 法の枠組みで定式化し、EMアルゴリズムによって解くアプローチを実装し、分解能革命の推進に貢献した。また、他のグループによって確率的勾配降下法も導入され、EM アルゴリズムの初期値をどう決めるかという問題も解決した。

今回の講演では、電子顕微鏡についての予備知識を要求せず、SPA における三次元再構成問題とそれを解決したアルゴリズムを紹介したい。また、時間に余裕があれば、離散的ではなく連続的な構造変化を示す試料をどう取り扱うかという未解決問題について、どのようなアプローチがされているかも紹介したい。

17:00 - 18:00 藤本晃司(京都大学)(現地 + zoom 配信 )

間引き収集MRIデータからの情報抽出

 MRIによる観測はフーリエ変換過程を含むという点で他の医用画像イメージと大きく異なり、疎な観測データからの画像復元手法との相性が良いとされる。本講演では圧縮センシングとMR Fingerprintingをおもなトピックスとして、間引き収集MRIデータからの情報抽出の手法について具体例を呈示しつつ、問題点について議論する。

2023年3月24日()

10:00 - 12:00 河原創(JAXA)(現地 + zoom 配信 )

時系列観測から太陽系外惑星の世界地図を推定する

NASAの次期将来計画の方向性を示すAstro2020では、地球近傍の地球型系外惑星の直接撮像が最優先課題の位置づけとなった。近い将来、このような宇宙直接撮像が実現しても、系外惑星は地球から遠すぎるため、その惑星表面は直接空間分解できない。 惑星全体からの反射光の時間変化である時系列データは観測可能なため、この一次元情報から惑星表面の二次元空間情報をいかに復元できるかが惑星探査の一つの重要課題となる。本発表では2010年に最初の提案をおこなった、この惑星の世界地図を推定する手法であるSpin-Orbit Tomography (SOT)の理論的発展を中心にお話ししたい。

具体的には、まず単色時系列データを定常表面分布に再生する(ほぼ)線形逆問題の解法(L2,L1+TSV)とヌル空間、ベイズ線形逆問題の解としての事後分布(ガウス過程の場合)、線形パラメタに加えて少数の非線形パラメタが含まれている場合のMCMC手法をお話しする。次に発展として、非定常表面分布(三次元ムービー)を再生する多パラメタ線形逆問題の解法としての拡大・再収縮テクニック、多バンド時系列データからスペクトル成分と表面分布を求める重み付き行列分解を紹介し、最近の発展として後者二つの統合もお話しできたらと考えている。集中的にマニアックな話をして、できればSOTで開発した手法の他分野への応用もしくはその逆を議論できたらうれしいです。

13:00 - 15:00 端山和大(福岡大学)(現地のみ

重力波の再構成について

2016年の重力波初検出から現在に至るまで、数多くの重力波が検出され、観測データから重力波源について理解する研究がいよいよ盛んにおこなわれている。

現在主流となっているレーザー干渉計型の重力波望遠鏡はその構造上、天球上広範囲に感度を持つため、その観測データにはおよそ全天球方向からの重力波が記録されるという特徴がある。一方で、観測データから重力波源を特定し、その波形・物理の詳細を知るためには複数の重力波望遠鏡が必要となる。この際に重力波は複数の偏向モードの重ね合わせた形で放射され、それぞれの偏向モード、天球位置、波源の向き、時間によって異なったアンテナパタンで望遠鏡と干渉する。さらに、重力波望遠鏡の観測の20%を占める突発性雑音は各望遠鏡でコインシデントに出現する。観測データから重力波を再構成するためにはこうした中で逆問題を解いていくことになる。

重力波源としては連星合体やパルサーといった、理論的によくモデル化されたものや、現象の非線形性が強い重力波源や未だ知られていない重力波源といったモデル化が不可能なものもある。本講演では、モデル化されていない重力波について扱い、観測データからその波形を再構成する研究、また重力理論のテストにも利用される、いまだ発見されていない偏向モードの再構成の研究について考える。

15:15 - 17:15 矢田部浩平(東京農工大)(現地 + zoom 配信 )

位相復元問題とその応用

複素信号の絶対値が観測され,その観測信号のみから元の複素信号を復元する技術を位相回復や位相復元と呼び,様々な分野で研究されている.本発表では,位相復元の問題設定を確認し,応用分野における研究事例を紹介する.