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超高磁場装置の一般的性能
(1)横緩和時間(T1)の延長
(2)化学シフト分解能がよくなる
(3)S・Nが向上する
・S・Nは静磁場の強さに比例して向上
・空間分解能の向上、計測時間の短縮
・他核種によるイメージングの実現
超高磁場装置によるfMRIの利点
(1) より強いBOLD信号
(2) 空間分解能の向上
(3) S/Nの向上
(4) Capillaryへの感度増大
(5) 複雑なタスク、Single Eventの検出
超高磁場装置は通常の装置と何が違いますか?
核磁気共鳴現象を起させるための静磁場の強さが違いますが、画像収集に使用するラジオ波や傾斜磁場は病院等で通常使用されている装置と同じ基準で使用します。
超高磁場装置によるfMRI (PDF)
はじめに
超高磁場MRI装置とは、ヒトを対象としたイメージングの分野で2Tをこえる静磁場強度を持つ臨床用(ヒトを計測する仕様)に設計されたMRI装置を指し、現在は 3~4T(共鳴周波数128~170MHZ)の装置が主流である。MRIの分野では、1.5T装置(64MHZ)が高磁場装置と呼ばれてきた経緯があり、それと区別する意味で超高磁場MRI装置という用語が用いられるようになった。近年、共鳴周波数が1GHZにも達している高分解能NMR装置や、動物実験によく用いられる2~7T(80~300MHZ)の横形の実験用MR装置とは区別している。超高磁場によるイメージングは、MRIがまだ普及途上であった1980年代からすでに研究されていたが、1990年代に入り実用化されるに至った。わが国では、1996年から研究用装置として導入が開始されている。
超高磁場装置の特徴は、縦緩和時間(T1)の延長、化学シフト分解能の向上、信号雑音比(SN比)の向上などがあげられ(1)、磁気共鳴分光法や分光画像法( magnetic resonance spectroscopy / spectroscopic imaging ; MRS/I) (2)、脳機能計測(functional magnetic resonance imaging ; fMRI)、関節軟骨などの微細胞構造の可視化などに応用されている。その中で、超高磁場装置の利用が最も拡大している分野はfMRIである。fMRIでは、静磁場の上昇に伴って神経活動を反映するBOLD信号(後述)の信号雑音比(sibnal noise radio; SN比)が向上するだけでなく、毛細血管由来の信号の検出能が向上し、より真の神経活動に近い活動が評価できるとされている。その結果、脳の活動部位はよりピンポイント的に検出される。 奇しくも、超高磁場装置の出現、超高速撮像法(echo plannar imaging; EPIなど)の実用化、そしてBOLD法の開発がほぼ時期が一致して実現したため、 fMRIの分野においては、超高磁場装置が初期の段階から大きな役割を果たしてきた。超高磁場MRI装置を用いたfMRI計測は、すでに数多くの報告がなされており、定量を試みた報告もある(3)。しかし、fMRIにおいては、静磁場強度が高い方が有利であることは理論的に明白であるうえ、fMRIの開発当初より超高磁場が用いられて来たという経緯もあり、その有用性を直接検証する研究は、fMRIが研究の手法として普及し始めてからなされるようになった。今後、fMRIの臨床応用を目指すためには、それぞれの静磁場強度での計測が、どの程度の信頼性を持つかを理解しておく必要がある。
超高磁場における緩和時間
まず、超高磁場におけるイメ一ジングの基本事項についてまとめる。超高磁場の最大の意義は、SN比の向上である。MR信号の強度は静磁場の強さに比例して向上するため、静磁場強度に比例して、SN比の向上や空間分解能の向上が期待できる。例えば、3Tの静磁場を用いた高速3次元イメ一ジングにより良好なT1コントラストを得る事に成功し、従来は可視化が困難であった視床の内部構造や脳血管の微小解剖構造を描出し得た(4),(5)との報告がある。しかし、静磁場強度の上昇に伴うT1の延長や、単位組織あたりの吸収エネルギ一量(specific absorption ratio; SAR)制限値に近づくなどの問題があるため(6)、通常のスピン・エコ一法(Spin Echo; SE)や、高速スピン・エコ一法(Fast Spin Echo: FSE)などを用いて撮像する場合には、必ずしも測定時間が短くなるわけではなく、測定条件の最適化が必要となる。しかし、MRS/Iなどで加算回数を減らせる場合は測定時間の短縮が可能となる。
生体組織のT1値は、静磁場の上昇に伴って延長するが(7)、T2は若干短くなることが知られている。MRIに使用される範囲内では、ある一定の静磁場を越えると、静磁場強度の上昇に伴ってラ一モア周波数分布の中で共鳴周波数帯域に属するスピンの割合が減少するため、磁気共鳴現象の機構に基づく緩和の進行速度が遅くなり、その結果T1値が長くなる。自由水のような自由度の極めて高い分子状態においてはこの効果は弱いため、静磁場強度によるT1値への影響は非常に小さいが、細胞や組織内のような分子運動が制限された状態では強く効果が発現するようになる(viscosity effect)(8)。生体系でT1の値に影響する因子としては、静磁場強度以外に、鉄の含量と水分の含量があり、脳内の部位や年齢によりT1の差が発生するとされている(9)。
横緩和時間(T2)は、理論的には静磁場強度には依存しないとされているが(10)、実際に計測すると静磁場強度が強くなるにつれ、徐々に短縮する。その理由はいくつか指摘されている。脳内の鉄(フェリチン)の影響により磁場不均一の程度が強くなるため(11)、水と巨大分子間の交叉緩和作用が強くなるため(12)、あるいは、磁場不均一の増大にさらに拡散の影響が加重される(13)、などの仮説が提案されている。従って、T2*も静磁場強度の上昇とともに短縮するため、BOLD法によりfMRIを行なう場合のTEは、用いる静磁場強度に従って設定する必要がある。
静磁場強度の上昇によるもう一つの変化は化学シフト分解能の向上である。これは、画像化という面では化学シフトア一チファクトを大きくするデメリットとして作用するが、MRS/Iを行う場合に、信号のSN比の向上と相まって、より高分解能のスペクトルを得ることができ、より高精度なスペクトルの編集やアミノ酸の観測能の向上が実現する(14)。
fMRIにおける超高磁場装置の有用性
fMRIは、現在のところ超高磁場装置の利点が最も活かされている分野である。fMRIとは、運動や課題の実行に伴う画像変化を検出し、特に脳機能を計測する方法を言う。神経活動の結果生じる血液動態反応が、単位容積あたりのデオキシヘモグロビン(Deoxy-の量の変化(blood oxygen level dependency, BOLD)を引き起こすことを利用して、神経活動を相当する部位のピクセルの信号強度の変化として検出する手法が主流となっている15)。NMRを用いて脳機能を計測しようとする試みは、それ以前にもあったが16)、OgawaらによるBOLD法の開発によって脳機能計測が劇的に普及し、神経科学だけでなく、心理学や認知工学の分野の研究にも大きな影響を与えた。fMRIの黎明期において、小川らは4T装置を用いてLEDによる光刺激を用いた実験を行い、5-20%の信号変化を観測している(17),(18)。
fMRIにおける超高磁場装置の意義は2つあげられる。一つは、BOLD信号がより高感度で検出されることであり、もうひとつは微小血管由来のBOLD信号がより強く検出されるため、神経活動をより忠実に反映することである。MRI装置の静磁場の強さ(B0)は、BOLD信号の強さに影響する重要な因子である。その理由は、1)Deoxy-Hbにより惹起される体積磁化率の変化は、静磁場の強さに比例して大きくなり、T2*の短縮により強く作用する、2)MRIの信号強度そのものが静磁場の強さに比例して大きくなる、という2つの理由による。
高磁場装置による測定感度の向上を報告した初期の報告としては、Kimらの運動野を測定対象とした報告がある(19)。Kimらは、4T装置を用いて指運動の実験を行い、PET(positron emission tomography)や1.5T装置では検出が困難であった指運動と同側の運動野の賦活が検出されることを報告した。検出されたBOLD信号の強さは1.5T装置の約2-4倍4.16-21.58%であり、1.3x2mmの高分解能の機能マップを得ている。同じ頃、Turnerらは、1.5Tと4Tのそれぞれの静磁場において光刺激を与えた時のの観測結果を比較し、1.5Tでは最大7%のBOLD信号変化であったのに対し、4Tでは最大28%であり、静磁場の増加に対して線型で予測される以上にBOLD信号が増強されることを確認した(20)。Gatiらは、静磁場強度について系統的に調べた(21)。発光ダイオ一ドディスプレイ(LED)による両眼光刺激を与えた時の一次視覚野の活動を0.5T、1.5T、4Tの三段階の静磁場において測定し、BOLD信号の平均値は、それぞれの静磁場で1.4%、1.9%、3.3%であり、十分緩和することを前提とすれば、静磁場強度の上昇に伴いBOLD信号のSN比が向上することを示した。Yangらは、スパイラル法を用いて、自発指運動を行なった時の一次運動野の活動を1.5Tと4Tで比較した(22)。その結果、4Tは1.5Tと比較して、活動領域で70%、t値で20%の検出率の向上が認められたと報告している。この報告では、一次感覚運動野(SM1)、運動前野(PMA)、補足運動野(SMA)、および頭頂葉を全て含んだ関心領域を設定して比較しており、個々の運動領域については比較していない。Nakaiらは、聴覚刺激による指の系列運動を行った場合の運動野の活動を、1.5Tと3Tにおいて比較検討した(23)。SM1では、活動領域に有意の差は無かったが、SMAやPMAなどの高次運動野の賦活は3Tの静磁場において有意に検出率の向上が認められ、高次運動野を評価するためには、3Tの静磁場がより有用であることを示した。また、3Tにおいては、励起パルスのフリップ角を40°まで下げても十分なBOLD信号のSN比が保たれるので、励起の不均等に対しても安定した検出能が期待できることが示された。Krugerらは、両側の指運動とチェッカ一ボ一ド刺激による脳活動をスパイラル法を用いて1.5Tと3Tにおいて測定し(24)、完全に緩和する条件で画像のSN比は1.7倍に、TRが1.5秒の場合で、2.2倍になり、活動領域と認められたSM1と一次視覚野(V1)は、それぞれ36%および44%増加することを報告している。近年では4Tを越える装置を用いたfMRIの試みも報告されている。4Tと7TにおけるfMRIの比較検討では、4Tでは5%程度であったBOLD信号が、7Tでは10%程度に上昇し、4Tでは60程度であったSN比が7Tでは80にまで上昇したと報告されている(25)。
fMRIにおける活動領域の大きさは、必ずしも測定感度の向上をそのまま反映するものではない。SM1やV1をはじめ脳内のそれぞれの領域は、ある一定量の活動量に達すれば、ほぼ全てのピクセルが活動領域として検出されるようになる。ある領域が十分強く活動するような課題を用いた場合は、1.5T装置による測定結果と見かけ上は、ほとんど差は認められない。しかし、活動の程度がそれほど強くない場合は超高磁場による測定感度の向上の意義が活かされる。測定感度の向上は、BOLD信号の%信号変化の増大そのものよりも、BOLD信号のSN比の改善を通して統計上の有意性が上昇することにより達成される(23)。つまり、敷居値付近にあった比較的弱い活動が統計的に有意になるため、神経活動のネットワ一クの広がりがより明確に検出されるのである。このように、高次機能を念頭においた計測を行なう場合は、超高磁場の使用は不可欠であるが、一次運動野の活動の経過観察のように、目的を限定すれば1.5T装置でも十分実用的である。しかし、それ以下の静磁場での測定は、BOLD信号を検出することは可能であるものの(26)、統計的な有意性を保つために十分なSN比が得られず、後述するように毛細血管床での変化を反映する信号の割合も減少すると考えられるため、その測定意義については疑問とされている(1)。臨床に用いる場合は、疾患に起因する血流障害のためにBOLD信号が十分強く検出されない可能性も考慮すべきであり、信頼性のある検査を行なうためには、超高磁場による高感度計測が必要となると思われるが、今後の臨床レベルでの検討が必要である。
計測が必要となると思われるが、今後の臨床レベルでの検討が必要である。 静磁場強度の上昇は、SNRの改善だけでなく、BOLD信号の意義そのものも変化させる。BOLD信号は、解剖学的に血管に一致する信号変化が特に大きい点と、その周囲の広がりとして検出される領域とが認められ、それぞれ小静脈に信号が由来する部分と、細静脈と毛細血管に由来する部分とされている。小静脈由来の信号は、神経活動との因果関係があるとはいえ、実際の神経活動の中心とは空間的に一致しない可能性があり、信号変化もやや遅れて生じるため、神経活動を忠実に反映するものではないと考えられる。Ogawaらのシミュレ一ションによると、比較的太い血管(>10mm)における血管内Deoxy-Hb濃度の変化に起因するT2*の変化は、静磁場の強さに線型に比例して増加するが、毛細血管レベルにおけるT2*の変化は静磁場の強さの2乗に比例する(27)。Menonらは、4Tにおける測定によってこのモデルを支持するデ一タを得るとともに、短いTE(10ms)では細静脈が有意に賦活されるが、長いTE(40ms)では灰白質と細静脈の両方が有意に賦活されることを示した(28)。
Gatiらはvoxelと同等か、それ以上の大きさの静脈部分と、voxel以下の大きさの毛細血管、細静脈、小静脈等が混在する部分について、それぞれのBOLD効果に対する反応の違いを検討した(21)。彼らは、0.5、1.5、4Tの静磁場強度において、TEをそれぞれの静磁場強度に対応したT2*の値に設定し、視覚刺激によるBOLD信号の相対的な変化の程度(DS/S)および実効横緩和時間(R2*)の測定を行った。その結果、血管成分におけるDS/Sは、実質におけるDS/Sの変化よりも大きく、十分に緩和した条件でのBOLD信号のSN比は静磁場の強さに線型に比例すること、R2*は血管成分でも、実質成分でも線型よりはやや大きめに増加するが、DR2は血管成分では線型よりも少なめに、実質成分では線型よりも大きめに増加すること、BOLD信号のSN比の最大値は、血管成分で線型よりも少なめに、実質成分で線型よりも大きめに増加すること、などを示した。
このように、測定方法や装置、あるいはBOLD信号の評価の方法により結果にばらつきがあるものの、いずれの報告も超高磁場によるfMRI計測が感度の面でも、特異性の面でも優れている点では一致しており、脳機能計測の分野における超高磁場装置の有用性はすでに十分評価されていると言える。
実用化に向けた技術開発
超高磁場装置の開発においては、いくつかの問題点が予見されていた。T1の延長によるT1コントラストの低下、共鳴周波数が高くなるために生じる絶縁効果(dielectric effect)あるいは貫通効果(penetration effect)、磁場不均一性の影響の増大による画像変型などが適切な画像形成の妨げになるため、超高磁場装置の実用性が疑問視されていた時期もあったが、今日では技術開発が進み実用的な装置として完成の域に達している。T1コントラストの問題については、パルスシ一ケンスの工夫により解決する手法が報告されている。Ugurbilらは、駆動平衡パルス(driven equilibrium pulse)を用いて4Tでも良好なコントラストを得たことを報告している(1),(4)。しかし、通常のスピンエコ一法を用いる場合は、T1値の異る全ての組織に対してコントラストを最適化することは困難であり、描出したいコントラストに応じて撮像条件を最適化することが必要となる。
超高磁場装置の主たる用途のひとつであるfMRIを行なうためには、高速撮影法であるEPI法を用いるが、EPI特有の画像変型(geometric distortion)は静磁場強度が上昇するにつれ強くなる。これは、シムの不完全さだけでなく、頭部などの生体内部における静磁場の不均一性を外部から完全に補正することが困難であることが主な原因であり、特に副鼻腔や乳突蜂巣に接する前頭葉下部や側頭葉における変形が著しくなる。対策として、磁場不均一を反映するフィ一ルドマップ(field map)(29)やZ-shim法(30)を用いた補正が考案されている。
fMRIに特有の問題として、呼吸や心拍に起因する生理ノイズがある(31)。超高磁場によるfMRIでは測定感度の向上の結果、微小な活動が検出されるようになる反面、同時に体動や生理的ノイズなどの脳活動を反映しない生体信号も強く検出されるという問題が生じる(24)。従って、超高磁場のメリットを活かすためには、有効な生理的ノイズ処理法を併用することが重要であり(32)、引き続き検討が必要である。
超高磁場装置の取り扱いでもうひとつ考慮すべきことは、使用するコイルの最適化である。従来の集中定数回路のコイルでは共鳴周波数が100MHzを越えると、コイルの電気的な均一性を保ちにくくなり、充填率の低下や電場損失の増加を始めコイルの効率の低下が生じる。従って、超高磁場では分布定数回路による設計が適切であり、共振同軸腔(resonant coaxial cavity)を用いたリゾネ一タ(resonator)方式による送受信用コイルが開発されている(33),(34)。
展望
fMRIの研究開発においては、その当初から超高磁場装置が用いられて来た経緯もあるが、そのすぐれた測定感度と神経活動をより強く反映した信号を検出できる測定特性は高次脳機能計測には不可欠のものとなっている。図1に3Tの静磁場で計測した指の運動時における大脳基底核の活動が微妙に変化する様子を示す。3T,4Tの超高磁場装置は、将来的には中核医療機関において生体機能温存や機能回復に重点をおいた高度先進医療に必要不可欠の存在になろう。4Tを越える装置の将来についてはまだ未知の部分が多いが、1998年にはオハイオ州立大学から8T装置による脳画像が報告されており35)、今後の発展が注目される。
文献
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