「システム・ダイナミクス」(system dynamics) はコンピュータを使って「経営や行政の問題」「環境に関する問題」「広い人間関係・社会の問題」をはじめとする複雑な問題について、その本質を理解したうえでの的確な解決・状況改善提案や方針策定をするのための手法です。なお、システム・ダイナミクスは、略してSDとも呼ばれます。
システム・ダイナミックスの特徴は以下の三つです。
リアルな世界では操作・介入をすれば必ずリアクションがあり、臨んだ結果があると同時に副作用も起きます。つまり、私たちのビジネス環境は「システム」を構成しています。
一般に、システムそのものが問題・課題の発生源となっている場合、その一部を変更することでは事態を改善することはできません。
今日の解決が翌月の問題の原因になっていることは、しばしばあります。担当者がどんなに誠意を持って取り組んでも、問題を引き起こすことがあります。
これは、あるアクションの影響を様々な経路を巡り巡って、元のアクションを起こしたものに戻ってくるためです。システム・ダイナミクスでは検討対象にフィードバック・ループ(因果関係の循環)を見出し、その影響を調べることで、課題について「対処療法」ではなく「根治」を目指します。
「問題や検討対象をシステムとしてとらえる」ということは、案外昔から重要だとされ、様々な手法が提案されてきました。それらをまとめて「システム思考」と呼ぶことが多いです。
システム思考の様々な手法の多くは、定性的な「問題の腑分け」を行うものです。しかし、定性的な手法では「結局何をどれだけ行えばよいのか」という問いに答えられません。
システム・ダイナミクスはコンピュータを用いて、複雑なシステムであるビジネスや社会の問題について、定量的に結論を導き出します。
「痛みを伴うが頑張ろう」ではどんな活動もとん挫します。「これだけの期間、これだけの苦労があるが、そのあとはこれだけよくなるから頑張ろう」と言われて、初めて改善・改革・困難なプロジェクトは成功できるというものです。案外、人は定量的な情報を欲しがるものです。
私たち人間の反応や組織の反応は刺激に対して線形(比例的)に反応しないことがしばしばあります。
勝ち馬に乗るような消費行動を起こす消費者心理は、マーケットシェア情報に比例して商品の好感度が上がるのではなく、おそらくは少しでもリードした商品に大きくなびくということが普通でしょう。ここにはマーケットシェア情報に「非線形」に反応する消費者があります。
意思決定をするときに、「少し様子を見てから」と時間をかけることもあると思います。また、タスクの終了に時間がかかることもあるでしょう。これをシステム・ダイナミクスでは「遅れ」と呼んでいます。
こうした「非線形な関係」「遅れを伴った進行」を数学モデルであらわすことは大変ですし、表せてもその会を求めることは困難でした。しかし、コンピュータを使えば簡単にわかりやすく扱えます。
システム・ダイナミクスの詳細は多くの既刊書にて述べられています。そのなかでも特にわかりやすく説明としては、G. P. Richardson & A. L. Pugh IIIによる"Introduction to System Dynamics Modeling" (MIT Press, 1981)のChapter 2が挙げられます。
システム思考の紹介をする書籍としては稗方和夫・高橋 裕「システム思考がモノ・コトづくりを変える」(日経BP, 2019)があります。