「絶対にオレ様が勝つ!」

「どんなものを選んでくるのか見ものだな」

 バチバチと火花を散らし合う練牙と礼光。お昼どきのバラエティ番組のコーデバトルの撮影──ではなく、ただの買い出しでこうなっているのには理由があった。

 今晩もバルコニーで晩酌をしようと話していた際。

「今日はオレがぜんぶ用意する!」

 と練牙が息巻いたことで、風向きが変わった。

「どういう風の吹き回しだ」

「いいだろたまには! オレの肥えた舌を味わわせてやるよ」

「そうか」

「おい! なんでキスしようとしてくるんだよ!」

「お前が舌を味わわせるとか言うからだろ」

「はあ!? バカじゃないのか!?」

「バカはお前だ……」

 そうしてギャイギャイ言い争ったのち、「今日の晩酌の酒とつまみで勝負だ!」と、しっかり礼光に口内を味わわれ涙目になった練牙が吐き捨てていったのだった。

 もう昔の自分じゃない、二回も朔次郎さんに特訓してもらったんだ、今のオレならわかる。

 そうやって練牙を強く支えていた自負も、ディスカウントストアで大量に並ぶ酒瓶を前にした途端、あっけなく崩れていってしまった。

(ふたつから選ぶならまだしも、どれがどれだか多すぎてわかんねえ……ラベルも読めないし)

 夢十夜で夜鷹が注いでくれている風景を思い出そうとしてもダメだった。そもそも、ワインに限らずいろいろなものを混ぜて作ってくれている気がする。練牙がいまここで急にわかるわけがなかった。諦め、ワインの棚を後にする。

 じゃあ、と今度は添がよく部屋で飲んでいる日本酒を見てみる。しかし、練牙はなんでも美味しく飲み、そしてすぐに酔っ払ってしまうため、純米酒と純米吟醸酒の違いもよくわからない。朔次郎の特訓はワインの方が多かったため、致し方ないだろう。

 ワインも日本酒も価格の高いものを選べば良いのだろうが、「オレ様が勝つ」と豪語したからには、つまみも合わせて完璧なマリナージュにしたかった。よって、日本酒もなし。

 結局、礼光がいつも飲んでいる紹興酒に落ち着いた。見慣れたラベルなら酒のチョイスは間違いない。あとは礼光が普段選んでいない、けれど美味しそうなつまみを買えば完璧だ。

 サングラスを光らせ鼻高々になる練牙を、他の客は遠巻きに見ていた。

「お前勝負する気ないだろ!」

 いざ晩酌、とバルコニーに集まったときのことだった。礼光が持ち込んだのが変わらず紹興酒だったため、練牙は吠えた。それは犬のように吠えた。

「あるぞ」

「だって、いつもと同じだろ」

「年代物だ」

「え?」

 見ると、ラベルに二〇二六と書いてある。

「ワインと同様、熟成期間が長くなると味も変化する。そんなことも知らなかったのか」

「知っ……てたに決まってんだろ! そこまで見えてなかったんだよ!」

「お前も紹興酒となると俺の勝ちだな」

「なっ」

 練牙はまだ酒を見せていなかったが、礼光にはお見通しだったらしい。なんとなく、酒瓶を背中側に隠す。

「紹興酒を選ぶとは予想外だったが」

「オ、オレはお前が譲歩しないのが予想外だったけどな! オレへの思いやりで違う酒用意したりするだろうが」

「するわけないだろう。俺の好きな味をお前にも覚えてもらう」

 なんでもないように言うと、礼光は年代の違う紹興酒をそれぞれグラスに注ぎ──練牙が隠したものはあっけなく取られた──、ふたつずつ座席の前に置いた。

「家から持ってきた三〇年ものだ。うまいぞ」

 礼光の横の座面をトントンと叩かれて、おずおずと座る。

「こうなったらつまみで勝負だ! 完璧なマリナージュだとギャフンと言わせてやる」

「マリアージュだ、笨蛋」

 完全に礼光のペースに呑まれたことが悔しくて一気に煽ったそれは、とろりと甘くて美味しかった。