すっかり葉が落ちた木々と共に添は立っていた。辺りは一面に白くもやがかかっていて、木々の他にはなにもなかった。木肌は乾燥してひび割れている。目に映る景色は寒々しいのに、身を打つ風が吹くことはなく、まどろみのようなぬるさが添を包み込んでいた。

 しばらくその場にぼうっと立ち尽くしていると、後ろの方から声が聞こえた。この空間で初めて音がした瞬間だった。

「添」

 馴染みのある声が添を包む。振り返ると、かつてよく目にした男が立っていた。

「練牙さん」

 発した音も、よく添に馴染んだ。練牙が遠慮なく歩みを進め、添に近づいてくる。練牙の周りはぼんやりと光っていた。光が差しているというより、練牙自身が発光しているようだった。

 そうしてようやく、添はここが夢の中だと気づいた。何もない空間に木だけが生えていることも、景色と気温がちぐはぐなのも、添の感覚が鈍いのも、練牙がいるのも、おまけに光っているのも、すべてがおかしかった。

「しゅうまいへのプレゼント、どれがいいかな」

「この木とか?」

「いいな! でも枝折っちゃ悪いよな……」

 木を手折ってプレゼントにするのもわけがわからないし、そもそも練牙はいま、しゅうまいと暮らしてはいなかった。荒唐無稽な会話をしながら、虫の知らせというやつだろうか、と考える。思い返しても添が直近で怪我をした記憶はないため、練牙の。

 注意深く練牙を観察する。目の前の練牙は、どこかを怪我することも損なうこともなく、記憶のままの姿で無邪気に笑っていた。

 いま練牙がどこでどう暮らしているのか、添は知らなかった。練牙は本当にあっさりと、HAMAツアーズを去ってしまったから。可不可が定期的に連絡を取っているようだけど、その話も添は聞かないようにしていた。聞きたくなかった。

 練牙と過ごした最後の時期はつまらない気持ちになって、シゴトを増やしたり寮に帰らなかったりしていた。それなのにいまこうやって何もなかったかのように話しているのだから、添はおかしくて笑い出しそうだった。

 ふたりの近況や仕事については話さなかった。添の夢なのだから当然だった。ただ、昔となにも変わらない練牙がそのまま動いていた。

 そうしているうちに、朝日が昇ってきた。それでも練牙は光っていて、ふたつの光源がまぶしくて仕方がなかった。

 添が目を細めていると、練牙がさらに近づいてきた。すこし手を伸ばせば抱きしめてしまえるほどに。けれどふたりの距離は近づくだけで、互いに触れることはなかった。添がそう望んでいるのか、実際の練牙もそうなのかは、わからなかった。対峙する練牙の虚実が曖昧になっていく。

「じゃあそろそろ行くな!」

「またね」

「ああ、また!」

「また」なんてないのに、と思いながら去っていく練牙の背中を見る。練牙が離れたらすこしだけ寒くなって、光だけではなく熱まで発していたのかといまさらになって気づいた。

 こんな夢早く覚めてしまえと思うのに、添はそこから動かないまま、いつまでも練牙の背中を見ていた。