「添はその、か、彼女さんと、交換コーデ? っていうのしたことあるか?」

 すっかり夜も更け、バルコニーでたばこでも吸おうかと考えながらも部屋でくつろいでいた頃。

 同じく部屋のなかで、何かを聞きたそうにしては考え込み、ひとりで百面相を繰り広げていた練牙に促してやれば、おずおずと聞かれたのはそんなことだったので、添は拍子抜けしてしまった。てっきり、もっと面倒なこと──連休に寮の皆で出かけようだとか、添のプライベートにすこし踏み込んだことだとか──を聞かれると思っていたので。

「……なんですかそれ?」

「友達とか恋人と、持ってる服を交換して楽しむ? らしいんだ」

 そう言いながら練牙が見せてきた雑誌に表示されていたのは、ファッション誌のとあるページだった。

「仕事で出た雑誌の見本もらったから他のページも見てたんだけど、いま流行ってるって特集があって」

 見ると、『仲良し&おしゃれで一石二鳥!? 交換コーデで一週間着回し☆』というコピーとともに、性別も年齢もさまざまなペアが写っていた。ページをめくると、その日ごとのコメント──大事な商談がある日はジャケットでバッチリ! だとか、今日は寝坊! そんな日はラフな格好で♪ だとか──が添えられたコーディネート集が載っている。

 コーディネート全体の雰囲気を寄せるシミラールックは聞いたことがあるが、いまは大胆にも服を交換するのが流行っているらしい。

 クローゼットの共有は流行る流行らないじゃなくない? と思ったが、雑誌が「流行」と言っているのであればそれは流行になるのだろう。そういうものだ。同性のカップルや家族であれば比較的交換もしやすいだろうし、理に適ってはいるのかもしれない。

「やー、それはないかなー。女の子の服オレが着たら、だいたいパツパツだろうし」

「そ、そうだよな! ごめん、変なこと聞いて」

「いえいえ」

 当初の疑問は解消したにもかかわらず、練牙はまだ何かを考えているようだった。

 数ページにわたる特集を流し見し、最初のページに戻ったところで、添はなんとなく練牙の考えていることがわかってしまった。

 ──仲良し&おしゃれで一石二鳥!?

 おおかた、この『仲良し』に惹かれて誌面を見、妙な憧れを抱いてしまったというオチだろう。この犬は友だちという言葉をずいぶんと特別視しているから。

「じゃあオレ、たばこ吸ってくるね」

 こうも素直に影響される人ばかりなら流行を作るのも簡単だろうね、と思いながらポケットに手を入れると、あるはずの箱がなかった。面倒だけどコンビニまで買いに行こうとジャケットを手に取ったところで、ふと思い至る。

 服を交換することの何が仲良しになるのか添にはわからなかったが、世間はそういう価値観らしい。そして何より練牙の願望なのだから、利用しない手はないだろう。服を交換するだけで機嫌が良くなるなら安いものだ。

 言い訳じみた言葉を脳内で連ねながら、ジャケットを練牙の肩に被せた。

「わっ!? どうした、添」

「たばこ切らしちゃったんでコンビニ行こうと思うんですけど、練牙さんもどうです?」

「い、行く!」

 反射的に返事をしつつも、肩に乗ったジャケットと添の顔を見比べている。事態をきちんと把握していなそうな練牙に、はっきり言葉にして教えてやる。

「そのジャケット練牙さんに貸すからさ、なんか上着貸してよ。あんま高級じゃないやつがいいなー」

 練牙はみるみるうちに表情を明るくし、「貸す! 待ってろ!」とクローゼットに駆け寄っていく。本当に犬そのもの、と思いながら、練牙が変装時に使うサングラスのうちのひとつを拝借した。

 色つきレンズの視界不良さに辟易としている添を見て、練牙がさらに喜ぶまで、あと十数秒。