鈴木歩「基本の定石」
「定石」って何でしょうか?
「定石は布石の部分品である」というのが答えです。
私が碁を覚え始めの頃、石田芳夫著「木谷道場入門1布石の中の定石」(河出書房新社、昭和53年)を先輩に勧められましたが、この本のはしがきに書いてあるのです。しかし、この本、入門書とか初級者向けではありません。
今思えば、なんでこんな難しい本を勧めたかな?と思います。
通常、囲碁の対局は「布石」から「中盤(戦い)」へと進み、「ヨセ(終盤)」を打ち合って終局します。
この布石をどのように打つかによって中盤での優劣が決まってきます。したがって、お互いに布石で最善の手を打とうとします。この双方にとって最善とされている手が定石と呼ばれるものです。
第1回 星編 一番基本の定石
【図①】 星へのカカリ
星に先着した黒へのカカリには、最もよく打たれているのは白1の小ゲイマガカリですが、他には白Aの一間高ガカリ、あるいは最近流行り(プロ同士の対局では頻出)の白Bのダイレクト三々などがあります。
【図②】 小ゲイマガカリへの受け
白1の小ゲイマガカリに対する黒の受け方として、最もよく打たれているのは黒2の小ゲイマ受けですが、黒Aの一間受けや黒Bの一間バサミ、黒Cの二間高バサミ、黒Dのツケなども多く打たれます。
【図③】 星の定石第1番 最もポピュラーな定石
黒2の小ゲイマ受けに対して、白は、序盤では隅が最も大きな場所ですので、白3とスベります。
黒も、黒4と三々に打ち、白の侵入を阻止します。
白「隅に入れてください。」
黒「入れさせません。」
ということです。
黒は、黒4と三々に打つことで隅に根拠ができ、安定しました。容易に2眼作ることができますので、すぐに攻められる心配はありません。
一方、白も、黒5と二間に開き、根拠を持ちます。
これで双方一段落し、基本定石の完成です。
【図④】 黒手抜きの場合
図③の白3に黒が手抜きすれば、白はすかさず白1と三々に打ってきます。
隅は、黒地変じて白地に変わってしまいます。
また、後に白Aとツメ、黒石を攻める楽しみもできます。
【図⑤】 白手抜きの場合
また、図③の黒4に白が手抜きすれば、黒はすかさず黒1とツメて白を攻め立てます。白は隅で生きるスペースがないので中央に逃げ出すことになります。
序盤で石が攻められると、地を作るどころでは無くなり、一方的な進行となってしまいますので、棋力が上がるにしたがい根拠にうるさくなってきます。
したがって、高段者同士の対局では、序盤での根拠をめぐる攻防がとても激しいものとなります。
一方、低段者は根拠にあまりこだわりがなく、相手の模様(地になりそうなところ)ばかりが気になるようで、無理な打ち込みの結果、あっちパラパラ、こっちパラパラと弱い石だらけの碁となってしまっています。
【図⑥】 星の定石第2番 一間高ガカリ定石
白の一間高ガカリです。
黒2の小ゲイマ受けは、定石が一段落すれば先手が取れますので、他の大場に回ろうとする意図です。
一方、上辺が大きいと思えば、黒Aの一間受けです。次に左方に展開します。
【図⑦】
図⑥の白7で手抜きには、すかさず黒1とツメ、白を攻め立てます。
第2回 星編 ツケノビ定石
【図①】 星の定石第3番 ツケノビ定石(その1)
白1の小ゲイマガカリに黒2とツケる定石です。黒は、早々に上辺を固めようとする意図です。その代わり、白も右辺を固めることができます。
黒2ツケに白3ハネ、囲碁格言「ツケにはハネよ!」
白3ハネに黒4ノビ、囲碁格言「ハネにはノビよ!」
白5「隅に入れてください」
黒6「入れさせません」
白7と根拠を持ちます
黒8と断点を守ります
これで定石は完成し、双方一段落です。
【図②】
図①の黒6「入れさせません」ですが、この手を打てない人がいます。
それは、白1、白3の出切りが怖いからです。
しかし、この白の出切りは無理なので怖がる必要は無いのですが、ただし、少し勉強しなければなりません。
【図③】
そこで、白の出切りに対応できるまでは、図②の黒2と無理に遮らず、黒2から黒6と上辺を地にしていけばよいと思います。
【図④】
図②の白7を手抜くと、黒はすかさず黒1ツメで攻め立てます。
【図⑤】
図②の黒8を手抜くと、白はすかさず白1と断点を狙ってきます。白5までとなった黒の姿はいかにもせせこましい感じですね。
【図⑥】 星の定石第4番 ツケノビ定石(その2)
白5で、図②と比べ一歩進める手です。
白は少しでも隅に食い込もうとしています。
黒は、黒6、黒8としっかり守ります。
白9と根拠を持ちます。
対して黒は、黒10と右側の黒壁をバックに大きく構え、白に隅に入られた分を取り戻します。
これで定石は完成し、一段落です。
【図⑦】
前図の黒10を手抜くと、すかさず白1と打たれて、黒は窮屈な思いをすることになります。