アブストラクト
8月9日(土)
14:00~15:00 服部真史(ノッチンガム大)
講演題目:曲線上のHyperKähler多様体をファイバーとするファイバー空間のモジュライと準射影性
アブストラクト:高次元多様体のモジュライ空間を準射影多様体として構成する問題は、代数幾何学において基本的かつ重要な課題の一つであり、複素数体上でも多くの多様体のクラスにおいて未解決のままである。K安定性において尾高氏は、K安定性を用いて偏極多様体のモジュライが構成でき、そこに自然に定まるCM直線束が豊富になるという、Kモジュライ予想を提唱した。Kモジュライは、複素微分幾何学では特別なKähler計量のなすモジュライ空間として期待されている。ここで、 Kモジュライ空間は線形同値類を区別するモジュライ空間$\mathcal{M}$を指すのか、線形同値類を区別せず数値的同値類を区別するモジュライ空間$\mathcal{N}$を指すのかについては、明示的な区別がなされておらず興味深い問題として残されている。
一方で、HyperKähler多様体はTorelli型定理とBaily-Borelコンパクト化の理論により、Kモジュライの構成が可能であることが知られている。本講演では、曲線上のHyperKähler多様体をファイバーとするファイバー空間のモジュライ$\mathcal{M}$と$\mathcal{N}$が、HyperKähler多様体のモジュライのBaily-Borelコンパクトへの準写像のモジュライを通じて、準射影的スキームとして構成できることを解説する。また、$\mathcal{M}$上ではCM直線束が豊富になるというKモジュライ予想の一端を支持する結果を解説する。一方で、$\mathcal{N}$上では、CM直線束が定義できないことについても触れ、両者の違いとその幾何学的意味についても考察する。
15:10~16:10 山岸亮(九州大学大学院数理学府)
講演題目:K3曲面上の層のモジュライ空間と特異点
アブストラクト:超ケーラー多様体の構成においてアーベル曲面やK3曲面上の層のモジュライ空間を考えることは基本的であり、層のモジュライ空間が特異点を持つ場合にその性質を調べることの重要性は O'Grady による超ケーラー多様体の例の構成からもうかがえる。本講演の前半ではこれらの背景を簡単に振り返り、後半はK3曲面上の適当な層のモジュライ空間と有限群の作用を考えることで高々孤立特異点を持つ20次元の超ケーラー多様体を構成できるという結果 (Hsueh-Yung Lin 氏との共同研究) について紹介する。
16:30~17:30 Andres Gomez(Aarhus University)
講演題目:TBA
17:40~18:40 馬昭平 (東京科学大学理学院)
講演題目:直交型モジュラー形式入門
アブストラクト:超ケーラー多様体のモジュライ空間は概ね直交型モジュラー多様体と呼ばれるタイプのモジュラー多様体になっています。モジュラー形式とは大雑把にいえばモジュラー多様体上の函数であり、モジュラー形式を調べることとモジュラー多様体を調べることは表裏一体の関係にあります。直交型モジュラー形式の研究の歴史は比較的新しく、1990年代に始まったばかりです。その現状と課題について、非専門家を対象として、講演者の及ぶ範囲で概観を試みてみたいと思います。
8月10日(日)
9:45~10:45 高松哲平(京都大学理学研究科・白眉センター)
講演題目:On the pointed Shafarevich conjecture for symplectic varieties
アブストラクト:Shafarevich 予想とは、固定した代数体Fと有限素点の有限集合S、正整数dに対し、F上のd次元アーベル多様体であり、S外でよい還元を持つ(:= smooth proper なモデルにのびる)ようなものの同型類が高々有限個になる、という定理で、Faltings と Zarhin により証明された。
この予想はその他の様々な多様体でも類似を考えることができて、特に(滑らかな)既約シンプレクティック多様体の場合は、André、She などの先行研究のもと、最終的に私の以前の研究 ([Fu-Li-T-Zou]) により解決された。
一方で、Shafarevich 予想には、以下のような幾何学的(すなわち複素数体上の)類似が考えられる:基点付きの曲線(C,0) と、smooth projective 多様体Xを固定したときに、(C,0) 上の smooth proper family で 0-fiber が Xになるようなものの一般ファイバーは高々有限個か?
この講演では、滑らかな既約シンプレクティック多様体、あるいは特異点をもつシンプレクティック多様体に対し、上述の「基点付きShafarevich予想」の証明を解説する。本講演は、Lie Fu氏, Zhiyuan Li氏, Haitao Zou氏との共同研究に基づく。
11:00~12:00 伊藤哲史(京都大学理学研究科)
講演題目:Arithmetic moduli and finiteness results for quintic del Pezzo threefolds
アブストラクト:1980 年代の Faltings による Shafarevich 予想の解決以降、代数多様体のモジュライ空間の数論的構造とその有限性問題への応用は、K3 曲面や超 Kähler多様体のような「アーベル多様体に近い」多様体を中心に広く研究されてきました。最近では、Fano 多様体に対する研究も行われるようになってきました。本講演では、Picard 数が 1 の 3 次元 Fano 多様体の分類 (いわゆる「周期表」)の中でも特徴的なクラスの一つである「quintic del Pezzo 多様体 (V5 多様体)」について、最近得られた結果を紹介します。V5 多様体の自己同型群、直線の Hilbert スキーム、モジュライスタックの構造を任意の底 (標数 2 の体や混標数の場合も含む) で調べ、明示的な有限性定理 (明示的 Shafarevich 予想) を与えます。また、V5 多様体の幾何学が、5変数交代形式の3つ組や3変数対称双線形形式の分類という古典的な数論の問題と関係していることについて触れたいと思います。(本講演は、金光秋博氏 (東京都立大学)、高松哲平氏 (京都大学)、田中祐二氏 (BIMSA) との共同研究 https://arxiv.org/abs/2506.15086 に基づくものです。)
13:30~14:30 田副一樹(京都大学理学研究科)
講演題目:K3曲面の非崩壊極限とバブル
アブストラクト:ケーラー多様体の極限は直近十数年の複素幾何における中心的な話題の一つとなっている。特に、非崩壊極限と呼ばれるある種の良い極限およびそれらのバブルと呼ばれる極限は代数幾何的な側面を多く備えており、複素代数/微分幾何両側面からの関心を集めている。本講演では特にK3曲面の場合に絞り、古典的な結果のサーヴェーから始めて、バブルの分類定理に至るまでを紹介する。
14:45~15:45 尾高悠志(京都大学理学研究科)
講演題目:Canonical torus action on symplectic singularities
アブストラクト:Polarized (or hyperKahler metrized) K3 surface often degenerates to K3 orbifolds with ADE singularities (non-collapsing limits). Higher dimensional natural generalization of ADE singularities are the so-called (holomorphic/algebraic) symplectic singularities. Kaledin (2003) conjectured they are all "conical" i.e., with torus action of positive weights. Joint work with Namikawa sensei gives a new approach to the problem and surrounding area. The idea has a differential geometric (or K-stability theoretic) origin and it provides canonical torus action on any symplectic singularity, with explicit characterization. In particular, we prove the strengthened Kaledin's conjecture for those on smoothable symplectic varieties. cf., https://arxiv.org/abs/2503.15791.
16:15~17:15 本多正平(東京大学数理科学研究科)
講演題目:Smoothable vs nonsmoothable spaces with Ricci curvature bound
アブストラクト:よい日本語が思いつかなかったのでタイトルは英語で書きましたが、「smoothableな空間」、もっと一般に「a prioriにはsmoothableかわからない空間」に対して、Ricci曲率にかかわる幾何学をどのように展開するか、というのは基本的な問いでして、現在では完璧といえる答えが知られています。そしてその答えを与える幾何学は約 1 年ほど前のGábor Székelyhidiの仕事を皮切りにケーラー幾何との密接な関係が見えてきました。本講演ではそのあたりについて、および最近のSong Sun(Zhejiang University)氏との共同研究についてお話します。