新型コロナウイルス感染症治療薬

北海道大学&塩野義製薬

2022年の仕事始めに合わせるように,オミクロン変異株の爆発的感染拡大が始まった.昨年暮れにはメルク社の飲み薬モルヌピラビルが特例承認され,ファイザー社の飲み薬パクスロビドの承認申請も間近とのことである.一方,国産の飲み薬(塩野義製薬)は感染者減少による治験者不足のため予定より遅れていると言う.塩野義製薬が開発中の化合物S-217622の構造については情報がないが,北海道大学との共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬とアナウンスされている.

モルヌピラビル

パクスロビド

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬S-217622の国内第2/3相試験の開始について 2021/09/28に記されている文章は以下の通り.

【S-217622について】

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬であるS-217622は、北海道大学と塩野義製薬の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬です。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有しており、S-217622は3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制します。SARS-CoV-2感染動物を用いた非臨床試験において、ウイルス量を速やかかつ有意に低下させることが確認されております。日本において、2021年7月から第1相臨床試験を開始しており、現在、軽症のCOVID-19患者または無症候のSARS-CoV-2感染者を対象とした第2/3相臨床試験を実施中です。

北海道大学のホームページを調べると,以下の記事(2021.9.14)がある.

新型コロナウイルスの増殖を抑える核酸代謝拮抗薬の発見~コロナウイルスやフラビウイルス等,広域的抗ウイルス薬としての期待~

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北海道大学大学院薬学研究院の研究グループは,5-ヒドロキシメチルツベルシジン(HMTU)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して強力な抗ウイルス活性を有することを発見しました。

本研究で着目したSARS-CoV-2やデングウイルス(DENV)については,これまでに多くのワクチン及び治療薬の開発研究が遂行されてきたにもかかわらず,未だ完全に有効な治療法は確立されていません。そこで研究グループは,新たな治療薬候補の探索を目的として,同大学院薬学研究院創薬科学研究教育センターの化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを実施し,抗ウイルス活性を有する核酸代謝拮抗薬の同定を試みました。その結果,HMTUがSARS-CoV-2やDENVを含む,複数のウイルス種に対して強力な抗ウイルス活性を有することを見出しました。続いて,本化合物の作用メカニズムについて解析した結果,本化合物はウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)によりRNA鎖に取り込まれ,RdRpにより媒介されるウイルスRNAの合成伸長を阻害することを見出しました。加えて,ウイルス感染実験の結果から,本化合物はウイルス感染過程の後期におけるウイルスRNAの複製を阻害することで,ウイルスの増殖を強力に抑制することを見出しました。本研究において,本化合物が新型コロナウイルスをはじめとするヒトコロナウイルスや,ヒトに重篤な疾患を引き起こすDENV,ジカウイルス(ZIKV),黄熱ウイルス(YFV),日本脳炎ウイルス(JEV),ウエストナイルウイルス(WNV)等,幅広いウイルス種に対して強力な抗ウイルス活性を有することを見出しました。これらのウイルスに対する完全に有効かつ安全な治療薬は存在しないため,本研究成果によって,新たな治療薬の開発が進むことが期待されます。

SARS-CoV-2やデングウイルス(DENV)等のRNAウイルスは,自身のゲノムを複製する際にRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を介した核酸合成を行う.HMTU-TPは,RdRpによってウイルスRNA膜に取り込まれる.未成熟なウイルスRNAが産生されるため,続くウイルス蛋白の産生が阻害され,ウイルス粒子が産生できなくなる.

研究成果は,2021年9月10日(金)公開のiScience誌にオンライン先行掲載され,PDFファイルをダウンロードして読むことができる.論文では5つの類似構造化合物が掲載されている.共著者に塩野義製薬の研究者も含まれていて,特許申請されている.

論文概要

新たに出現または再興するウイルス感染症は、世界中で毎年重大な罹患率と死亡率を引き起こし続けており、健康と世界経済の両方に深刻な影響を及ぼしています。デング熱ウイルス(DENV)および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)に対する重要な薬剤発見研究にもかかわらず、これらのウイルスに向けられた完全に有効で特異的な薬剤は発見されていません。ここでは、北海道大学の化合物ライブラリーからのツベルシジン誘導体の抗DENV活性を調べ、5-ヒドロキシメチルツベルシジン(HMTU、HUP1108)が、有意な細胞毒性なしに、サブマイクロモルレベルで強力な抗フラビウイルスおよび抗コロナウイルス活性の両方を有することを示しました。さらに、HMTUはウイルスRNA複製を阻害し、SARS-CoV-2感染プロセスの後期段階で複製を特異的に阻害しました。最後に、HMTU5'-三リン酸がウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼによって触媒されるRNA伸長を阻害することを示しました。私たちの調査結果は、HMTUがSARS-CoV-2を含む広範囲の抗ウイルス剤の開発のためのリード化合物として役立つ可能性があることを示唆しています。

図 Tubercidin とtubercidin 誘導体 (A) tubercidinの一般式. (B) tubercidin (HUP1136). (C) 5-hydroxymethyltubercidin (HUP1108, HMTU). (D) 5-formyltuberucidin oxime (HUP1069). (E) 3-tubercidin N-oxide (HUP1077). 出典 iScience 2021 Oct 22;24(10):103120

「核酸代謝拮抗薬,特にツベルシジン誘導体は細胞に対して強い毒性を示すが,本研究により見出さ れた HMTU は,試験した細胞においては顕著な毒性は認められていない」と述べている.

塩野義製薬が治験の経口薬S-217622はモルヌピラビルRNAポリメラーゼ阻害剤であるのに対し.3CLプロテアーゼ阻害剤であり,タンパク質合成を阻害するため,ヒト細胞内で増殖することができず,結果としてウイルスの増殖抑制効果を発揮すると考えられる.治験中の薬物の構造は,承認後に公開される添付文書を見るまでは判らないが,治験の成功を祈りたい.

以上,備忘録的に紹介する次第である.