多元主義

2つ以上の複数の究極的な存在、理論や方法を容認するという立場であり、英語の“pluralism”がこれに該当する。なお、多元論とも訳されることもある。これと対立する立場が、唯一絶対の究極的な存在を考える一元論である。一元論は、存在の始原として唯一の要素を規定するところにその特徴がある。

古来より多元主義は、様々な論者によって展開されてきた歴史を持つ。古典としては、哲学におけるピタゴラス学派などが有名である。また、近代思想に大きな影響を与えたデカルトの心身二元論や、現代の自然科学における物理学理論なども例として挙げられる。さらに、宗教を例にすれば、多神教は宗教的多元主義であると位置づけられる。このように、多元主義という概念は、一般にあらゆる分野においてさまざまな意味づけが行われている。そのため、字義通りにその意味も多元主義的であり、常にさまざまな場面において用いられる語の背後にある学問文脈を考慮に入れた読み取りに注意をせねばならない。

従来までの個別諸科学における見解は、代表的なものだけでも多岐にわたるが、幾つかを列挙すると次のようになる。第1に、20世紀初頭において、英国の自由主義者と社会主義者によって確立された政治哲学として見る動きがある。この場合の多元主義とは、国家が持つ統治権力を市民社会の様々な領域に拡散させるという考え方を意味する。これは、今日に続く小さな政府をめぐる議論に結びついている。第2に、1960年代に米国の政治社会学者が議論を行いながら構築をした多元主義に関する見解がある。この場合においても、権力が社会を構成する様々な社会組織に分散化されていることが議論の対象となり、権力が競合する小さな組織に分散されることにより、それぞれの社会セクターが自らの利益を保持できるとされた。このような権力の分散としての多元主義は、民主主義とその範囲を拡大するものとして議論をされてきた。第3に、これら2つのアプローチはハースト(Hirst1988)によって結合され、結社民主主義論(Associative Democracy)が形成されたとする見解がある。いずれの見解を取るにしても、個別諸科学において扱われてきた多元主義への見解においては、「権力の関係」に焦点が置かれ、その分散や均衡関係の結果に焦点が置かれている。さらに、ハーストの見解などにおいても特徴的であることとして、アソシエーションならびに国家が議論に必ず含まれていることに特徴がある。これには、国家を理論的・批判的に対象化をしていく中で、国家と呼ばれる存在とそこにおける政治システムを正確に描写しようとする試みの過程が読み取れる。

さて、関係論に立脚する政策情報学は、さまざまな超領域的、諸科学横断的アプローチを包含しており、その思考様式は多元主義的な性格である。その思考において、焦点が当てられるものは、政治における多元主義であると考えられる。それは、上記に述べてきた代表的な見解と同様に、一般多数の個人や団体が自由に政策形成プロセスに参画し、多様な影響力を行使しうる状態にあることを強調する考え方として用いられることが多い。例えば、ロバート・ダールは、民主主義に不可欠な制度の一部としての多元主義について、市民が自分の意見を表明する権利を適切に保護し、市民が他の人々と連帯をして政治生活に実際に参加していきたいと望んだ時に必要な政党、利益団体ないしはその他の結社をつくる権利を保護する制度であると述べている(ダールほか2006)。

このように、政治における多元主義は、近代民主主義のコアとなる概念として位置づけられる。だが、政策情報学的思考においては、そのような限定的な見解だけでなく、新しい知識と方法を共創するその特性上、異なった立場にある者たちが共同で発見型の作業プロセスを試みることこそが、多元主義の源泉となりうるということに注意が必要である。

従来の個別諸科学においては、静的かつ安定した体系・構造を指向している反面、新しい知識と方法としての政策情報学は、最終図柄が予測できない共同作業であり、その性格が異なる。そして、常に自己再組織化していく動的な生命体とでも例えられる政策情報学においては、一元論がそもそも成立し得ず、そのプロセスの始点から最終図柄が見えない未来までの一連のプロセスにおいて、常にさまざまな理論や方法の存在がゆるやかに担い手たちに受容される。

引用文献

  • ロバート・A・ダール, ジャン・カルロ・ボセッティ著, 伊藤 武訳, 『ダール、デモクラシーを語る』. 東京, 岩波書店, 2006, 199p
  • Paul Hirst. "Representative Democracy and Its Limits". The Political Quarterly. Vol.59, No.2, pp.199-213 (1988)