私は、平衡・非平衡系の相転移現象に興味を持って研究を行っています。ここでは、これまで行ってきた研究テーマについて紹介します。
過冷却液体の温度をさらに現象させていくと、粘性とともに緩和時間が増大しついには、粒子配置が液体同様乱雑なまま運動が凍結してしまいます。これガラス転移と呼ばれる現象です。ガラス転移は、複雑液体を急冷した際に普遍的に見られる現象であるにもかかわらず、これを引き起こす物理的機構は未だ十分には理解されていません。私は、スピングラスで開発されたレプリカ法を液体論と組み合わせた、レプリカ液体論と呼ばれる手法を用いてガラス転移の研究を行っています。
砂や石ころのように、目に見える程大きな粒の集まりを粉体と呼びます。粉体は、熱ゆらぎの影響を無視できるので絶対零度の系とみなすことができます。密度の低い粉体は、互いに接触せず、相互作用も無いので流体のように振る舞います。粉体の密度を上げていくとある密度で突然粒子が接触し始め、その相互作用によって固体のように振る舞うようになります。これがジャミング転移と呼ばれる現象です。ジャミング転移は、粉体のレオロジーや、地震、雪崩等の理解に役立つことが期待されている他、古典粒子系で見られる代表的な非平衡相転移の一例として、統計物理学の分野でも活発に研究されています。
ここ10年程の進展で、摩擦が無い球形粒子や、形状が凸な単純な形の粒子からなるジャミング転移については、その振る舞いが定性的・定量的に非常に理解されるようになってきました。一方で、粒子間摩擦が無視できない場合や、非凸な形状をした粒子系のジャミング転移等については、いまだその理解は十分ではありません。私は、スピングラスの分野で開発されたレプリカ法、ランダム行列、スケーリング理論、数値シミュレーション等、様々なアプローチを複合的に用いてジャミング転移点近傍における臨界現象を理解することを目指して研究を行っています。
定常せん断系の相転移では、2次元でも連続対称性の破れが見られたり、2・3次元でも平均場的な臨界指数が現れる等、平衡系とは定性的に異なった振る舞いが報告されています。我々は、せん断系の特有の強い異方性を取り入れたスケーリング理論を開発することによって、この現象を記述する理論的な枠組みを構築することを目指しています。