登場人物
小暮 澪(こぐれ みお) 女性
20代後半。洋服デザイナー。東京都出身。
高槻 蓮(たかつき れん) 男性
20代後半。エンジニア。高知県出身(土佐弁)。
配役表
小暮 澪:
高槻 蓮:
監修者様(敬称略):サブレ
X(旧Twitter)リンク:x.com/19861127a?s=20
高槻
「小暮……?」
小暮
「……高槻?」
小暮M
「大学時代のサークル同窓会。
私はそこで、当時気になっていた人と再会をした」
高槻
「なぁ、二人で抜け出さない?」
小暮
「え?」
小暮M
「私にだけしか聞こえないように呟かれた言葉に、ドキッとした。
頷き返すと、高槻は幹事の一人に声を掛けそのまま二人で同窓会を抜け出した。
高槻オススメの個室居酒屋で、私達二人だけの同窓会が始まる」
-個室居酒屋-
高槻
「乾杯」
小暮
「乾杯!」
-グラスのぶつかる音-
高槻
「(飲み)はあ、久々のお酒だぁ」
小暮
「(飲み)んー、美味しい。あ、地元の言葉で話してもいいよ」
高槻
「いいのか?」
小暮
「いいよ」
高槻
「じゃあ、遠慮なく。(ここから最後まで方言で)標準語、堅苦しかったがよ」
小暮
「方言抜けたのかと勘違いしちゃった」
高槻
「そんな訳ないやろ。職場やと困るき直したがよ」
小暮
「伝わらない言葉もあるもんね」
高槻
「そうながって。やっぱり地元の言葉で話しゆう方が落ち着くわ」
小暮
「そっか」
小暮M
「高槻は高知県出身。
当時は何言ってるのか分からなくて苦労したのを覚えてる。
素直にどういう意味?って聞き返せば、標準語で答えてくれていた。
地元の言葉が方言だったって気づいた時の高槻の顔、面白かったなぁ」
小暮
「にしても、再会できるなんて思わなかった」
高槻
「俺も」
小暮
「二人で抜け出さない?って言われるとも思わなかったよ」
高槻
「そう?」
小暮
「仲良い人いたじゃん。門倉(かどくら)くんとか、山本くんとか……話さなくて良かったの?」
高槻
「門倉と山本は今でも連絡取り合うちゅうし、別に大学以来久しぶりに会うとかじゃないき大丈夫やき。」
小暮
「そうなんだ」
高槻
「つい先週、門倉と山本には会うたしな」
小暮
「ええ!?」
高槻
「ははっ、ええ反応するやか」
小暮
「驚くよ」
高槻
「そうかもしれんにゃあ。
小暮の方は最近どんな感じなが?仕事とか」
小暮
「んー、順調、かな?」
高槻
「仕事何しゆうが?」
小暮
「デザイナーだよ」
高槻
「デザイナー?もしかして洋服か?」
小暮
「うん」
高槻
「……夢、叶えたがやな」
小暮
「覚えててくれたんだ」
高槻
「覚えちゅうよ。……そっか。夢叶えるなんて凄いやん。どんな服デザインしゆうが?」
小暮
「メルシアって洋服ブランド知ってる?そこから販売される洋服をデザインしてるよ。
最近販売された物だと、夏に出たワンピースかな」
高槻
「それって、女優の鹿島めぐるとコラボした服か?」
小暮
「そうだよ。知ってたんだ」
高槻
「知っちゅうも何も、テレビを見るたんびに流れちょったき。
それにネットでも色んなインフルエンサーが評価しちょったし、ユーザー人気もざまぁ凄かったき覚えちゅう」
小暮
「そうなんだ。私ネットとかやってないから評判とか分からないんだよね」
高槻
「それに、姉貴もメルシアの服は好きで買いゆうき」
小暮
「え、ほんと?わぁ、嬉しい。お姉さん元気?」
高槻
「手が付けられんばぁのはちきんよ。早う結婚相手見つけて落ち着いてほしいもんやなぁ」
小暮
「あはは、お姉さんらしい。そっかぁ、お姉さん元気そうで良かった。高槻の方は仕事どうなの?」
高槻
「俺?順調って言えたらええけど、まぁ、程々かにゃあ。エンジニアしゆうき、納期に追われて大変ながよ」
小暮
「エンジニア!?ぇ、かっこいいね」
高槻
「かっこええか?地味な仕事やと俺は思うけんど」
小暮
「エンジニアってどんな仕事なの?」
高槻
「エンジニアにも色々あるがやけんど、俺がしゆうがはアプリシステムを作る仕事ながよ」
小暮
「ええ、凄いじゃん高槻!」
高槻
「大袈裟や。守秘義務が多い仕事やき、あんまり外では言えんがやけんどね」
小暮
「仕方ないよ」
高槻
「終わった仕事で言えるがは、先月にリリースした三島屋デパートのポイントアプリあるろ?」
小暮
「ぁ、よく使ってる」
高槻
「あれ作ったが、俺」
小暮
「ええ!」
高槻
「ははっ、ええ顔」
小暮
「本当に凄いよ高槻」
高槻
「おおきに。こんなに褒められるとは思わんかった」
小暮
「アプリを一から作ってるんでしょ?色んな人に褒められるんじゃないの?」
高槻
「誰かに言うことなんぞないし、会社の人間は出きて当たり前と思っちゅうき。
それに納期とかで追われるきそんな言葉言われたことないにゃあ。強いて言うならお疲れ様くらいかのう」
小暮
「そっか」
高槻
「小暮が褒めてくれたき、今までの苦労や努力が報われた。ありがとう」
小暮
「そんな、私なんて……」
高槻
「……学生の時から変わっちょらんな。そうやって自分を謙遜するところ。まぁ、それが小暮のええところながやろうけど」
小暮
「自分じゃ分からないよ」
高槻
「誰かのしてきたこと、努力したところを見つけて褒めてくれるところ」
小暮
「その人が苦労して努力して、成功させてきたんだから普通は褒めない?」
高槻
「普通じゃあるか。みんな自分のことで精一杯ながよ。他人のそういう部分に目を向けて褒める余裕なんてないき。
学生のころならあったかもしれんけんど、ない人が殆どやったし……社会人になったらそう考える余裕すらないしにゃあ」
小暮
「そういうものなんだ」
高槻
「小暮のええところや。もっと自信持ってええよ。俺が保証するき」
小暮
「ありがとう。……高槻も、変わってない」
高槻
「ん?」
小暮
「自分じゃ気づかない部分に気づかせてくれるところ」
高槻
「なるほど」
小暮
「大学時代、高槻に助けられた」
高槻
「そうながか?」
小暮
「私、夢を諦めようって思ってた時があったでしょう?」
高槻
「……あー、あったな?」
小暮
「その時、私の描くデザインが好きって言ってくれたじゃない?」
高槻
「言ったな。小暮の描くデザイン、俺は好きやき」
小暮
「その言葉に、救われた。何度も書き直してデザイン画破いてるところも見られたしね!」
高槻
「あったなぁ。諦めたい奴はあんな顔して何回も書き直さんよ。
"これも違う"、なんちゅう言葉を呟きながらな」
小暮
「そんなこと言ってたんだ」
高槻
「すごい顔しながらな」
小暮
「いやぁ、忘れてぇ」
高槻
「(笑いながら)嫌や。絶対忘れてやらん」
小暮
「もう、最悪」
-グラスが空になったのに気づく-
高槻
「酒、まだ頼む?」
小暮
「んー、もう一杯だけ頼もうかな」
高槻
「なに飲む?」
小暮
「レモンサワー」
高槻
「つまみは?」
小暮
「んー、焼き鳥がいいなぁ」
高槻
「もも?」
小暮
「あー、焼き鳥セット」
高槻
「これか。分かった。すいませーん」
-店員を呼ぶ-
高槻
「レモンサワーと、ビールを一つずつ。
あと、この焼き鳥セットを二つお願いします」
-注文を受けた店員が戻る-
小暮
「学生の頃の話ついでに言うけどさぁ。高槻に隠してたことあるんだよね」
高槻
「ん?なに?」
小暮
「高槻のこと、気になってた」
高槻
「……」
小暮
「いきなり言われて驚くよね!ごめんね!」
高槻
「いや……」
小暮
「もう六年も経ってるし時効かなって!」
高槻
「……今は?」
小暮
「え?」
高槻
「今は、もう気になっちゃあせんがか?」
小暮
「えっと……」
-店員がメニューを持ってくる-
小暮
「(必死に話の流れを切ろうとする)ぁ、ほら!お酒と料理来たよ!冷めないうちに食べちゃおうよ!
ここのお店いいね!和風の個室居酒屋なんて初めて来たよ!お料理も美味しいし、店員さんもみんな優しくて居心地いいね!」
高槻
「(小暮のセリフを遮って言っても構いません)俺も、気になっちょったよ」
小暮
「……え」
高槻
「小暮んこと。学生の時から、ずっと」
小暮
「……」
高槻
「今日の同窓会も、小暮がおるかなち思うて来たがよ。
他の同級生なんぞどうでもよかった。ただ、小暮に会いたかっただけやき」
小暮
「……うん」
高槻
「会えんかったら諦めようと思っちょった。でも、会えた。
会ったら、告白しようって決めちょった。やき抜け出そうって誘った」
小暮
「……」
高槻
「下心、あったがよ?俺」
小暮
「そ、れは……」
高槻
「小暮さ、今って彼氏おる?」
小暮
「……いない」
高槻
「好きな奴は?」
小暮
「……いない」
高槻
「じゃあ……」
小暮
「いない、けど……好きだった人は、いるよ」
高槻
「……誰?」
小暮
「……私の夢を、応援してくれた人」
高槻
「そいつのこと、今は好きやないが?」
小暮
「……好き、かもしれない」
高槻
「(軽く笑う)なんや。かもしれんって」
小暮
「(恥ずかしがる)好き、だよ」
高槻
「(嬉しそうに)そっか」
小暮
「高槻のことが、学生の時から好きだった」
高槻
「うん。俺も好いちょった」
小暮
「今も、高槻のことが好き。彼女がいないなら、付き合ってほしい」
高槻
「喜んで」
小暮
「(泣きそうになる)夢みたい」
高槻
「なぁ、名前、呼んでええか?」
小暮
「?うん、いいよ」
高槻
「澪」
小暮
「そ、そっち?待って、恥ずかしい。顔熱い。見ないで。てか名前覚えてたの!?ずるい。なにそれ」
高槻
「好きな奴のフルネームくらい覚えとるよ。俺の名前は?呼んでくれんがか?」
小暮
「……蓮」
高槻
「覚えちゅうやん」
小暮
「うぅ、待って。本当に恥ずかしい。身体熱いんだけど、もう」
高槻
「可愛い。あー、やばい。今すぐ掻きつきたい。ええ?」
小暮
「……いい、よ?」
-立ち上がり、小暮の隣に移動する-
高槻
「(抱きしめる)はは、ほんとや。身体熱い」
小暮
「高槻のせいだぁ」
高槻
「そうやにゃあ。俺のせいやな。はぁ、可愛い。澪、好いちゅう。愛しちゅうよ」
小暮
「ちょっ、耳元で言わないでよ」
高槻
「澪」
小暮
「(名前を呼ばれ、顔を上げる)ん。なに?」
高槻
「(キスをする)」
小暮
「んっ……ま、待って高槻!ここ居酒屋!店!」
高槻
「個室やき、注文せん限り誰も来んよ」
小暮
「恥ずかしいからここじゃやだ!ダメ!無理!」
高槻
「ここやなかったらええがや?」
小暮
「そ、そういう意味じゃ!」
高槻
「うちんく、くる?」
小暮
「た、高槻の家?」
高槻
「そう。俺の家」
小暮
「(恥ずかしがる)ぇ、あ、うぅ」
高槻
「嫌やなかったらやけんど」
小暮
「……行きたい、です」
高槻
「(笑う)なんで敬語ながよ」
小暮
「だ、だってぇ!」
高槻
「はぁ、ほんと、可愛ええなぁ」
小暮
「うぅ、せっかく会えたんだから、もうちょっと一緒にいたい」
高槻
「うん。俺も、一緒にいたい。
でも今は、もう少しだけこのままで……(キスをする)」
小暮
「んっ……」
小暮M
「ガヤガヤする店内の音を遠くに聞きながら、お互いの唇から漏れる吐息と声だけを聞いていた。
お酒のせいなのか分からないけど、お互いの身体の熱を感じながら抱き合う。
六年分の想いを分かち合うように、求め合うように……。
ただただ今はこのままで、そのままで……」
高槻
「好いちゅう」
小暮M
「あぁ。昔のまま。今のまま……そのままの君でいて」
-幕-
2023/12/25 「そのままの君でいて-高知県-」 公開