登場人物
小暮 澪（こぐれ みお） 女性
２０代後半。洋服デザイナー。東京都出身。
高槻 蓮（たかつき れん） 男性
２０代後半。エンジニア。熊本県出身（人吉球磨弁）。
配役表
小暮 澪：
高槻 蓮：
監修者様（敬称略）：とまと
X（旧Twitter）リンク：x.com/Tomatosann1112?s=20
高槻
「小暮……？」
小暮
「……高槻？」
小暮Ｍ
「大学時代のサークル同窓会。
私はそこで、当時気になっていた人と再会をした」
高槻
「なぁ、二人で抜け出さない？」
小暮
「え？」
小暮Ｍ
「私にだけしか聞こえないように呟かれた言葉に、ドキッとした。
頷き返すと、高槻は幹事の一人に声を掛けそのまま二人で同窓会を抜け出した。
高槻オススメの個室居酒屋で、私達二人だけの同窓会が始まる」
-個室居酒屋-
高槻
「乾杯」
小暮
「乾杯！」
-グラスのぶつかる音-
高槻
「（飲み）はあ、久々のお酒だぁ」
小暮
「（飲み）んー、美味しい。あ、地元の言葉で話してもいいよ」
高槻
「いいのか？」
小暮
「いいよ」
高槻
「じゃあ、遠慮なく。（ここから最後まで方言で）標準語、堅苦しかったとばい」
小暮
「方言抜けたのかと勘違いしちゃった」
高槻
「そんなわけなかやろ。職場やと困るけん直したとばい」
小暮
「伝わらない言葉もあるもんね」
高槻
「じゃっとたい。やっぱ地元の言葉で話しとる方が落ち着くと」
小暮
「そっか」
小暮Ｍ
「高槻は熊本県出身。
当時は何言ってるのか分からなくて苦労したのを覚えてる。
素直にどういう意味？って聞き返せば、標準語で答えてくれていた。
地元の言葉が方言だったって気づいた時の高槻の顔、面白かったなぁ」
小暮
「にしても、再会できるなんて思わなかった」
高槻
「俺も」
小暮
「二人で抜け出さない？って言われるとも思わなかったよ」
高槻
「そう？」
小暮
「仲良い人いたじゃん。門倉（かどくら）くんとか、山本くんとか……話さなくて良かったの？」
高槻
「門倉と山本は今でも連絡とりあっとるし、別に大学以来久しぶりに会うとかじゃなかとけんよかとよ」
小暮
「そうなんだ」
高槻
「つい先週、門倉と山本に会っとるけんね」
小暮
「ええ！？」
高槻
「ははっ、ぎゃんよか反応するやん」
小暮
「驚くよ」
高槻
「そぎゃんか。小暮の方は最近どんな感じと？仕事とか」
小暮
「んー、順調、かな？」
高槻
「仕事何しとると？」
小暮
「デザイナーだよ」
高槻
「デザイナー？もしかして洋服？」
小暮
「うん」
高槻
「……夢、叶えたとたいね」
小暮
「覚えててくれたんだ」
高槻
「覚えとうばい。……じゃっか。夢叶えるなんて凄かね。どんな服デザインしたと？」
小暮
「メルシアって洋服ブランド知ってる？そこから販売される洋服をデザインしてるよ。
最近販売された物だと、夏に出たワンピースかな」
高槻
「そいって、女優の鹿島めぐるとコラボしとった服？」
小暮
「そうだよ。知ってたんだ」
高槻
「知っとるも何も、テレビを見るたびに流れとるけん。それにネットでも色んなインフルエンサーが評判しとったし、ユーザー人気もすごかったけん覚えとうばい」
小暮
「そうなんだ。私ネットとかやってないから評判とか分からないんだよね」
高槻
「それに、姉貴もメルシアの服は好きで買っとるけんな」
小暮
「え、ほんと？わぁ、嬉しい。お姉さん元気？」
高槻
「手が付けられんくらい元気ばい。早く結婚相手見つけて落ち着いてほしいくらいたい」
小暮
「あはは、お姉さんらしい。そっかぁ、お姉さん元気そうで良かった。高槻の方は仕事どうなの？」
高槻
「俺？順調って言えたらよかけど、まぁ、程々たいね。エンジニアしとるけん、納期に追われてじゃーじかよ」
小暮
「エンジニア！？ぇ、かっこいいね」
高槻
「かっこよかか？地味な仕事だって俺は思うばい」
小暮
「エンジニアってどんな仕事なの？」
高槻
「エンジニアにも色々あるとけど、俺がしとるのはアプリシステムを作る仕事ばい」
小暮
「ええ、凄いじゃん高槻！」
高槻
「大袈裟。守秘義務が多い仕事やけん、あんまり外では言えんけどね」
小暮
「仕方ないよ」
高槻
「終わった仕事で言えるとしたら、先月にリリースした三島屋デパートのポイントアプリがあるやろ？」
小暮
「ぁ、よく使ってる」
高槻
「あれ作ったの、俺」
小暮
「ええ！」
高槻
「ははっ、よか顔」
小暮
「本当に凄いよ高槻」
高槻
「ありがとう。そぎゃん褒められると思わんかった」
小暮
「アプリを一から作ってるんでしょ？色んな人に褒められるんじゃないの？」
高槻
「誰かに言うことなんてないし、会社の人間はできて当たり前って思っとるけんね。それに納期とかで追われるけんそぎゃん言葉言われたことなかよ。強いて言うならお疲れ様くらいたい」
小暮
「そっか」
高槻
「小暮が認めてくれたけん、今までの苦労や努力が報われた。ありがとう！」
小暮
「そんな、私なんて……」
高槻
「……学生の時から変わってなかよな。そぎゃんして自分を謙遜するとこ。まぁ、それが小暮のよかところなんやろうけど」
小暮
「自分じゃ分からないよ」
高槻
「誰かのやってきたこと、努力したところを見つけて褒めてくれるところ」
小暮
「その人が苦労して努力して、成功させてきたんだから普通は褒めない？」
高槻
「普通じゃなかよ。みんな自分のことで精一杯とよ。他人のそぎゃん部分に目を向けて褒める余裕なんてなか。学生のことならあったかもしれんけど、なか人が殆どやったし……社会人になったらそう考える余裕すらなかとたいし」
小暮
「そういうものなんだ」
高槻
「小暮のよかところ。もっと自信もってよかとたい。俺が保障する」
小暮
「ありがとう。……高槻も、変わってない」
高槻
「ん？」
小暮
「自分じゃ気づかない部分に気づかせてくれるところ」
高槻
「なるほど」
小暮
「大学時代、高槻に助けられた」
高槻
「そうと？」
小暮
「私、夢を諦めようって思ってた時があったでしょう？」
高槻
「……あー、あったな？」
小暮
「その時、私の描くデザインが好きって言ってくれたじゃない？」
高槻
「言ったな。小暮の描くデザイン、俺は好きばい」
小暮
「その言葉に、救われた。何度も書き直してデザイン画破いてるところも見られたしね！」
高槻
「あったなぁ。諦めたい奴はあんな顔して何回も書き直さんよ。"これも違う"、なんて言葉をはきながら」
小暮
「そんなこと言ってたんだ」
高槻
「ぎゃんな顔しながら」
小暮
「いやぁ、忘れてぇ」
高槻
「（笑いながら）嫌だ。絶対忘れてやらん」
小暮
「もう、最悪」
-グラスが空になったのに気づく-
高槻
「酒、まだ頼む？」
小暮
「んー、もう一杯だけ頼もうかな」
高槻
「なん飲む？」
小暮
「レモンサワー」
高槻
「つまみは？」
小暮
「んー、焼き鳥がいいなぁ」
高槻
「もも？」
小暮
「あー、焼き鳥セット」
高槻
「これか。分かった。すいませーん」
-店員を呼ぶ-
高槻
「レモンサワーと、ビールを一つずつ。
あと、この焼き鳥セットを二つお願いします」
-注文を受けた店員が戻る-
小暮
「学生の頃の話ついでに言うけどさぁ。高槻に隠してたことあるんだよね」
高槻
「ん？なに？」
小暮
「高槻のこと、気になってた」
高槻
「……」
小暮
「いきなり言われて驚くよね！ごめんね！」
高槻
「いや……」
小暮
「もう六年も経ってるし時効かなって！」
高槻
「……今は？」
小暮
「え？」
高槻
「今は、もう気になってなかと？」
小暮
「えっと……」
-店員がメニューを持ってくる-
小暮
「（必死に話の流れを切ろうとする）ぁ、ほら！お酒と料理来たよ！冷めないうちに食べちゃおうよ！
ここのお店いいね！和風の個室居酒屋なんて初めて来たよ！お料理も美味しいし、店員さんもみんな優しくて居心地いいね！」
高槻
「（小暮のセリフを遮って言っても構いません）俺も、気になってたとばい」
小暮
「……え」
高槻
「小暮のこと。学生の時から、ずっと」
小暮
「……」
高槻
「今日の同窓会も、小暮がおるかなって思ってきたとばい。他の同級生なんてどうでもよかったと。ただ、小暮に会いたかっただけやったけん」
小暮
「……うん」
高槻
「会えんかったら諦めようと思ってた。でも、会えた。会ったら、告白しようと決めたんよ。やけん抜け出そうって誘った」
小暮
「……」
高槻
「下心、あったよ？俺」
小暮
「そ、れは……」
高槻
「小暮さ、今って彼氏おると？」
小暮
「……いない」
高槻
「好きな奴は？」
小暮
「……いない」
高槻
「じゃあ……」
小暮
「いない、けど……好きだった人は、いるよ」
高槻
「……誰？」
小暮
「……私の夢を、応援してくれた人」
高槻
「そいつのこと、今は好きじゃなかと？」
小暮
「……好き、かもしれない」
高槻
「（軽く笑う）なんだよ。かもしれないって」
小暮
「（恥ずかしがる）好き、だよ」
高槻
「（嬉しそうに）そっか」
小暮
「高槻のことが、学生の時から好きだった」
高槻
「うん。俺も好きやった」
小暮
「今も、高槻のことが好き。彼女がいないなら、付き合ってほしい」
高槻
「喜んで」
小暮
「（泣きそうになる）夢みたい」
高槻
「なぁ、名前、呼んでもよか？」
小暮
「？うん、いいよ」
高槻
「澪」
小暮
「そ、そっち？待って、恥ずかしい。顔熱い。見ないで。てか名前覚えてたの！？ずるい。なにそれ」
高槻
「好きな奴のフルネームくらい覚えるたい。俺の名前は？呼んでくれんと？」
小暮
「……蓮」
高槻
「覚えてくれとうやん」
小暮
「うぅ、待って。本当に恥ずかしい。身体熱いんだけど、もう」
高槻
「もじょかね。あー、やばい。今すぐ抱きしめたか。よか？」
小暮
「……いい、よ？」
-立ち上がり、小暮の隣に移動する-
高槻
「（抱きしめる）はは、ほんとや。身体熱か」
小暮
「高槻のせいだぁ」
高槻
「そうやね。俺のせいたい。はぁ、もじょか。澪、好き。大好きたい」
小暮
「ちょっ、耳元で言わないでよ」
高槻
「澪」
小暮
「（名前を呼ばれ、顔を上げる）ん。なに？」
高槻
「（キスをする）」
小暮
「んっ……ま、待って高槻！ここ居酒屋！店！」
高槻
「個室やけん、注文せんかぎり誰も来んよ」
小暮
「恥ずかしいからここじゃやだ！ダメ！無理！」
高槻
「ここじゃなかったらよかと？」
小暮
「そ、そういう意味じゃ！」
高槻
「俺の家、くる？」
小暮
「た、高槻の家？」
高槻
「そう。俺の家」
小暮
「（恥ずかしがる）ぇ、あ、うぅ」
高槻
「嫌じゃなかとやったらやけど」
小暮
「……行きたい、です」
高槻
「（笑う）なして敬語なん」
小暮
「だ、だってぇ！」
高槻
「はぁ、ほんと、もじょか」
小暮
「うぅ、せっかく会えたんだから、もうちょっと一緒にいたい」
高槻
「うん、俺も、一緒におりたか。ばってん今は、もう少しこのままで……（キスをする）」
小暮
「んっ……」
小暮Ｍ
「ガヤガヤする店内の音を遠くに聞きながら、お互いの唇から漏れる吐息と声だけを聞いていた。
お酒のせいなのか分からないけど、お互いの身体の熱を感じながら抱き合う。
六年分の想いを分かち合うように、求め合うように……。
ただただ今はこのままで、そのままで……」
高槻
「好きたい」
小暮Ｍ
「あぁ。昔のまま。今のまま……そのままの君でいて」
-幕-
2023/12/25 「そのままの君でいて-熊本県-」 公開