登場人物
小暮 澪（こぐれ みお） 女性
２０代後半。洋服デザイナー。東京都出身。
高槻 蓮（たかつき れん） 男性
２０代後半。エンジニア。大阪府出身。
配役表
小暮 澪：
高槻 蓮：
監修者様（敬称略）：匿名希望
高槻
「小暮……？」
小暮
「……高槻？」
小暮Ｍ
「大学時代のサークル同窓会。
私はそこで、当時気になっていた人と再会をした」
高槻
「なぁ、二人で抜け出さない？」
小暮
「え？」
小暮Ｍ
「私にだけしか聞こえないように呟かれた言葉に、ドキッとした。
頷き返すと、高槻は幹事の一人に声を掛けそのまま二人で同窓会を抜け出した。
高槻オススメの個室居酒屋で、私達二人だけの同窓会が始まる」
-個室居酒屋-
高槻
「乾杯」
小暮
「乾杯！」
-グラスのぶつかる音-
高槻
「（飲み）はあ、久々のお酒だぁ」
小暮
「（飲み）んー、美味しい。あ、地元の言葉で話してもいいよ」
高槻
「いいのか？」
小暮
「いいよ」
高槻
「じゃあ、遠慮なく。（ここから最後まで方言で）あー、けどほんま、標準語って、何でこんな堅っ苦しいんやろなぁ」
小暮
「方言抜けたのかと勘違いしちゃった」
高槻
「んな訳ないやん。職場やと困るから、気ぃつこて直してんて」
小暮
「伝わらない言葉もあるもんね」
高槻
「ほんませやって。あーでもやっぱり、地元の言葉で喋ってる方が気ぃ楽でええわー」
小暮
「そっか」
小暮Ｍ
「高槻は大阪府出身。
当時は何言ってるのか分からなくて苦労したのを覚えてる。
素直にどういう意味？って聞き返せば、標準語で答えてくれていた。
地元の言葉が方言だったって気づいた時の高槻の顔、面白かったなぁ」
小暮
「にしても、再会できるなんて思わなかった」
高槻
「あー、俺も、俺も」
小暮
「二人で抜け出さない？って言われるとも思わなかったよ」
高槻
「ん？そうなん？なんで？」
小暮
「仲良い人いたじゃん。門倉（かどくら）くんとか、山本くんとか……話さなくて良かったの？」
高槻
「あー、門倉と山本は今でも連絡取ってるし、別に大学以来久しぶりに会うーとかちゃうから全然えぇねんって」
小暮
「そうなんだ」
高槻
「せやて。それに先週も、門倉と山本にはおうてるしな」
小暮
「ええ！？」
高槻
「あははっ！めっちゃええ反応するやん」
小暮
「驚くよ」
高槻
「えー、そんな驚くことかー？
で？小暮の方は？最近どんな感じなん？仕事とか」
小暮
「んー、順調、かな？」
高槻
「へー。あっ、そういえば仕事何してんの？」
小暮
「デザイナーだよ」
高槻
「デザイナー？あっ、もしかして洋服？」
小暮
「うん」
高槻
「……へー。夢、叶えたんやな」
小暮
「覚えててくれたんだ」
高槻
「そら、もちろん覚えてるに決まってるやん。……けど、そっかぁ。夢叶えるとか凄いなー。んで？どんな服デザインしたん？」
小暮
「メルシアって洋服ブランド知ってる？そこから販売される洋服をデザインしてるよ。
最近販売された物だと、夏に出たワンピースかな」
高槻
「ん？えっ、その服って、女優の鹿島めぐるとコラボとかしてへんかった？」
小暮
「そうだよ。知ってたんだ」
高槻
「知ってるも何も、テレビを見てたら普通に流れてるやつやん。
あー、それにほら！ネットでも色んなインフルエンサーとかが評価しとったし、ユーザー人気も凄かったから覚えてんねんて」
小暮
「そうなんだ。私ネットとかやってないから評判とか分からないんだよね」
高槻
「それに、姉貴もメルシアの服は好きでよう買おてるしな」
小暮
「え、ほんと？わぁ、嬉しい。お姉さん元気？」
高槻
「手ぇ付けられへんくらいに元気にしてるわ。はよ結婚相手見つけて落ち着いて欲しいねんけどなぁ」
小暮
「あはは、お姉さんらしい。そっかぁ、お姉さん元気そうで良かった。高槻の方は仕事どうなの？」
高槻
「俺？順調って言えたらええけど、まぁ、ぼちぼちかなぁ。エンジニアしてるから、納期に追われてばっかで大変やし」
小暮
「エンジニア！？ぇ、かっこいいね」
高槻
「えー、かっこいいか？地味な仕事やろ」
小暮
「エンジニアってどんな仕事なの？」
高槻
「あー、エンジニア言うても色々あるけど、俺がしてるんはアプリシステム作るっていう仕事やな」
小暮
「ええ、凄いじゃん高槻！」
高槻
「大袈裟やって。まぁ、守秘義務も多い仕事やから、あんまし外では言えへんけどな」
小暮
「仕方ないよ」
高槻
「終わった仕事で言えるやつって言うたら、先月リリースした三島屋デパートのポイントアプリあるやん？」
小暮
「ぁ、よく使ってる」
高槻
「あれ作ったの、俺やで」
小暮
「ええ！」
高槻
「ははっ！めっちゃええ顔！」
小暮
「本当に凄いよ高槻」
高槻
「おー、ありがとう。けど、そんな褒められると思てへんかったわ」
小暮
「アプリを一から作ってるんでしょ？色んな人に褒められるんじゃないの？」
高槻
「誰かに言うことなんかあらへんし、会社の人間やったら出来て当たり前ーって思てるからなぁ。
それにいっつも納期に追われるからそんな言葉言われたこともないわ。強いて言うならお疲れさん、くらいやなぁ」
小暮
「そっか」
高槻
「ま、小暮が褒めてくれたから、今までの苦労とか努力、報われたわ。ありがとな」
小暮
「そんな、私なんて……」
高槻
「……学生の時からほんま変わってへんよな。そうやって自分を謙遜するとことか。ま、それが小暮のええとこなんやけどな」
小暮
「自分じゃ分からないよ」
高槻
「そおかぁ？誰かがやってきたこととか、努力したとこ、見つけて褒めてくれるやろ」
小暮
「その人が苦労して努力して、成功させてきたんだから普通は褒めない？」
高槻
「普通ちゃうって。みんな自分のことで精一杯！他人のそういうとこに目ぇ向けて褒める余裕なんかあらへんって。
学生ん時ならあったかもしれへんけど、ないやつが殆どやったし……社会人になったらなったでそんなこと考える余裕すらあらへんしな」
小暮
「そういうものなんだ」
高槻
「うんうん。小暮のええとこやって。もっと自信持ちぃや。俺が保証したから」
小暮
「ありがとう。……高槻も、変わってない」
高槻
「ん？どこが？」
小暮
「自分じゃ気づかない部分に気づかせてくれるところ」
高槻
「えー、俺めっちゃええやつやん」
小暮
「大学時代、高槻に助けられた」
高槻
「えっ？ほんま？それいつのこと？」
小暮
「私、夢を諦めようって思ってた時があったでしょう？」
高槻
「……あー、あったなぁ」
小暮
「その時、私の描くデザインが好きって言ってくれたじゃない？」
高槻
「言うた、言うた。小暮の描くデザイン、俺は好きやーって言うたわ」
小暮
「その言葉に、救われた。何度も書き直してデザイン画破いてるところも見られたしね！」
高槻
「あー、あったなぁ。でもな、ほんまに諦めたい奴はあんな顔して何回も書き直さへんねんって。
"これも違う"、なーんて言葉、呟きながらな」
小暮
「そんなこと言ってたんだ」
高槻
「えー、覚えてへんのんか？すーっごい顔しながら言うっとったで」
小暮
「いやぁ、忘れてぇ」
高槻
「（笑いながら）誰が忘れたるかー。絶対忘れたらへんからなー」
小暮
「もう、最悪」
-グラスが空になったのに気づく-
高槻
「ん？酒、まだ頼むんか？」
小暮
「んー、もう一杯だけ頼もうかな」
高槻
「んー、次、なに飲むん？」
小暮
「レモンサワー」
高槻
「あては？」
小暮
「んー、焼き鳥がいいなぁ」
高槻
「もも？」
小暮
「あー、焼き鳥セット」
高槻
「あー、これか。分かった、分かった。すいませーん」
-店員を呼ぶ-
高槻
「（あえて標準語で）レモンサワーと、ビールを一つずつ。
あと、この焼き鳥セットを二つお願いします」
-注文を受けた店員が戻る-
小暮
「学生の頃の話ついでに言うけどさぁ。高槻に隠してたことあるんだよね」
高槻
「ん？なに、なに？」
小暮
「高槻のこと、気になってた」
高槻
「……」
小暮
「いきなり言われて驚くよね！ごめんね！」
高槻
「いや……」
小暮
「もう六年も経ってるし時効かなって！」
高槻
「……今は？」
小暮
「え？」
高槻
「今は、どうなん？もうどうも思ってへんの？」
小暮
「えっと……」
-店員がメニューを持ってくる-
小暮
「（必死に話の流れを切ろうとする）ぁ、ほら！お酒と料理来たよ！冷めないうちに食べちゃおうよ！
ここのお店いいね！和風の個室居酒屋なんて初めて来たよ！お料理も美味しいし、店員さんもみんな優しくて居心地いいね！」
高槻
「（小暮のセリフを遮って言っても構いません）俺も、気になっとったで」
小暮
「……え」
高槻
「小暮のこと。学生ん時から、ずーっと。ほんまに」
小暮
「……」
高槻
「今日の同窓会も、小暮、おるかなーと思って来てん。
他の同級生のことなんかどうでもよかった。小暮に会いたかっただけやったから」
小暮
「……うん」
高槻
「会えへんかったら諦めようって思っててん。でも、会えた。
おうたら、告白しようって決めててん。せやから抜け出そうって誘った」
小暮
「……」
高槻
「下心、あってんで？誘ったん」
小暮
「そ、れは……」
高槻
「小暮はさ、今って彼氏おるん？」
小暮
「……いない」
高槻
「ほしたら、好きな奴は？」
小暮
「……いない」
高槻
「ほな……」
小暮
「いない、けど……好きだった人は、いるよ」
高槻
「……それ、誰のこと？」
小暮
「……私の夢を、応援してくれた人」
高槻
「そいつのこと、今は好きとちゃうんか？」
小暮
「……好き、かもしれない」
高槻
「（軽く笑う）なんやねん。かもしれへんって」
小暮
「（恥ずかしがる）好き、だよ」
高槻
「（嬉しそうに）そぉかー」
小暮
「高槻のことが、学生の時から好きだった」
高槻
「うん。俺も好きやった」
小暮
「今も、高槻のことが好き。彼女がいないなら、付き合ってほしい」
高槻
「喜んで」
小暮
「（泣きそうになる）夢みたい」
高槻
「なぁ、名前、呼んでもええ？」
小暮
「？うん、いいよ」
高槻
「澪」
小暮
「そ、そっち？待って、恥ずかしい。顔熱い。見ないで。てか名前覚えてたの！？ずるい。なにそれ」
高槻
「そら、好きな奴のフルネームくらい覚えてるに決まってるやん。で？俺の名前は？呼んでくれへんの？」
小暮
「……蓮」
高槻
「ふっ。なんや、覚えてるやん」
小暮
「うぅ、待って。本当に恥ずかしい。身体熱いんだけど、もう」
高槻
「可愛いなぁ。あー、やばい。今すぐ抱きしめたい。ええか？」
小暮
「……いい、よ？」
-立ち上がり、木暮の隣に移動する-
高槻
「（抱きしめる）はは、ほんまや。身体、めっちゃ熱いで？」
小暮
「高槻のせいだぁ」
高槻
「せやな。俺のせいやなぁ。はぁ、可愛い。澪、好きやで。大好きや」
小暮
「ちょっ、耳元で言わないでよ」
高槻
「澪」
小暮
「（名前を呼ばれ、顔を上げる）ん。なに？」
高槻
「（キスをする）」
小暮
「んっ……ま、待って高槻！ここ居酒屋！店！」
高槻
「個室やねんから、注文せーへん限り誰もこーへんって」
小暮
「恥ずかしいからここじゃやだ！ダメ！無理！」
高槻
「んー？ここじゃなかったらええってこと？」
小暮
「そ、そういう意味じゃ！」
高槻
「なら、俺んち、くる？」
小暮
「た、高槻の家？」
高槻
「そう。俺んち」
小暮
「（恥ずかしがる）ぇ、あ、うぅ」
高槻
「もちろん、嫌やなかったらーやけど」
小暮
「……行きたい、です」
高槻
「（笑う）なんで敬語やねん」
小暮
「だ、だってぇ！」
高槻
「はぁ、ほんま、可愛えなぁ」
小暮
「うぅ、せっかく会えたんだから、もうちょっと一緒にいたい」
高槻
「うん。俺も、一緒におりたい。
けど今は、もうちょっとだけこのままでおさせて……（キスをする）」
小暮
「んっ……」
小暮Ｍ
「ガヤガヤする店内の音を遠くに聞きながら、お互いの唇から漏れる吐息と声だけを聞いていた。
お酒のせいなのか分からないけど、お互いの身体の熱を感じながら抱き合う。
六年分の想いを分かち合うように、求め合うように……。
ただただ今はこのままで、そのままで……」
高槻
「好きやで」
小暮Ｍ
「あぁ。昔のまま。今のまま……そのままの君でいて」
-幕-
2023/12/25 「そのままの君でいて-大阪府-」 公開