登場人物
小暮 澪（こぐれ みお） 女性
２０代後半。洋服デザイナー。東京都出身。
高槻 蓮（たかつき れん） 男性
２０代後半。エンジニア。三重県出身。
配役表
小暮 澪：
高槻 蓮：
監修者様（敬称略）：あんず
X（旧Twitter）リンク：x.com/rikka3dayo
高槻
「小暮……？」
小暮
「……高槻？」
小暮Ｍ
「大学時代のサークル同窓会。
私はそこで、当時気になっていた人と再会をした」
高槻
「なぁ、二人で抜け出さない？」
小暮
「え？」
小暮Ｍ
「私にだけしか聞こえないように呟かれた言葉に、ドキッとした。
頷き返すと、高槻は幹事の一人に声を掛けそのまま二人で同窓会を抜け出した。
高槻オススメの個室居酒屋で、私達二人だけの同窓会が始まる」
-個室居酒屋-
高槻
「乾杯」
小暮
「乾杯！」
高槻
「（飲み）はあ、久々のお酒だぁ」
小暮
「（飲み）んー、美味しい。あ、地元の言葉で話してもいいよ」
高槻
「いいのか？」
小暮
「いいよ」
高槻
「じゃあ、遠慮なく。（ここから最後まで方言で）標準語、堅苦しかったんよ〜」
小暮
「方言抜けたのかと勘違いしちゃった」
高槻
「そんな訳ないやろ。職場やと困るから直したんやって」
小暮
「伝わらない言葉もあるもんね」
高槻
「そうなんさなぁ。やっぱ地元の言葉で話しとる方が落ち着くわ」
小暮
「そっか」
小暮Ｍ
「高槻は三重県出身。
当時は何言ってるのか分からなくて苦労したのを覚えてる。
素直にどういう意味？って聞き返せば、標準語で答えてくれていた。
地元の言葉が方言だったって気づいた時の高槻の顔、面白かったなぁ」
小暮
「にしても、再会できるなんて思わなかった」
高槻
「俺も」
小暮
「二人で抜け出さない？って言われるとも思わなかったよ」
高槻
「そう？」
小暮
「仲良い人いたじゃん。門倉（かどくら）くんとか、山本くんとか……話さなくて良かったの？」
高槻
「門倉と山本は今でも連絡取り合っとるし、別に大学以来久しぶりに会うとかちゃうから大丈夫やよ」
小暮
「そうなんだ」
高槻
「つい先週も門倉と山本には会うたしなぁ（おうたしなぁ）」
小暮
「ええ！？」
高槻
「ははっ、ええ反応するなぁ」
小暮
「驚くよ」
高槻
「それもそうか。
小暮の方は最近どんな感じなん？仕事とか」
小暮
「んー、順調、かな？」
高槻
「仕事、何しとんの？」
小暮
「デザイナーだよ」
高槻
「デザイナー？ひょっとして洋服の？」
小暮
「うん」
高槻
「……夢、叶えたんやな」
小暮
「覚えててくれたんだ」
高槻
「覚えとるよ。……そうか。夢叶えるなんてすごいやん。どんな服デザインしたん？」
小暮
「メルシアって洋服ブランド知ってる？そこから販売される洋服をデザインしてるよ。
最近販売された物だと、夏に出たワンピースかな」
高槻
「それ、女優の鹿島めぐるとコラボしたやつちゃうん？」
小暮
「そうだよ。知ってたんだ」
高槻
「知っとるも何も、テレビ見るたび流れとったでな。
それに、ネットでも色んなインフルエンサーが評価しとったし、ユーザー人気もすごかったで覚えとるよ」
小暮
「そうなんだ。私ネットとかやってないから評判とか分からないんだよね」
高槻
「それに、姉貴もメルシアの服は好きでよー買っとんで」
小暮
「え、ほんと？わぁ、嬉しい。お姉さん元気？」
高槻
「手ぇ付けられへんくらい元気やで。はよ結婚相手見つけて落ち着いてほしいくらいには」
小暮
「あはは、お姉さんらしい。そっかぁ、お姉さん元気そうで良かった。高槻の方は仕事どうなの？」
高槻
「俺？順調って言えたらええけど、まぁ、ぼちぼちちゃう？エンジニアしとるで、納期に追われてえらいことやわ」
小暮
「エンジニア！？ぇ、かっこいいね」
高槻
「かっこええか？地味な仕事やなぁって俺は思うけどな」
小暮
「エンジニアってどんな仕事なの？」
高槻
「エンジニアも色々あるけど、俺がしとんのはアプリシステムを作る仕事やな」
小暮
「ええ、凄いじゃん高槻！」
高槻
「大袈裟やって。守秘義務が多い仕事やで、あんまり外では言えへんけどな」
小暮
「仕方ないよ」
高槻
「終わったら仕事で言えるとしたら、先月リリースした三島屋デパートのポイントアプリあるやろ？」
小暮
「ぁ、よく使ってる」
高槻
「あれ作ったん、俺」
小暮
「ええ！」
高槻
「ははっ、ええ顔やな」
小暮
「本当に凄いよ高槻」
高槻
「ありがとう。こんな褒められるとは思わんかったわ」
小暮
「アプリを一から作ってるんでしょ？色んな人に褒められるんじゃないの？」
高槻
「誰かに言うたりはできへんし、会社のモンは出来て当たり前やって思ってるでなー。
それに納期とかで追われるからそんな言葉言われたことないよ。強いて言うならお疲れ様くらいかな」
小暮
「そっか」
高槻
「小暮が褒めてくれたから、今までの苦労やら努力が報われたわ。ありがとうな」
小暮
「そんな、私なんて……」
高槻
「……学生の時から変わってへんな。そうやって自分を謙遜するところ。まぁ、それが小暮のええとこなんやろけど」
小暮
「自分じゃ分からないよ」
高槻
「誰かのやってきたこと、努力したとこを見つけて褒めてくれるとこ」
小暮
「その人が苦労して努力して、成功させてきたんだから普通は褒めない？」
高槻
「普通っちゃうよ。みんな自分のことで精一杯なんやで。他人のそういう部分に目ぇ向けて褒める余裕なんてない。
学生の頃ならあったかもしれんけど、ない人がほとんどやったし……社会人になったらそう考える余裕すらないしな」
小暮
「そういうものなんだ」
高槻
「小暮のええとこ。もっと自信持ってええよ。俺が保証する」
小暮
「ありがとう。……高槻も、変わってない」
高槻
「ん？」
小暮
「自分じゃ気づかない部分に気づかせてくれるところ」
高槻
「なるほど」
小暮
「大学時代、高槻に助けられた」
高槻
「そうなん？」
小暮
「私、夢を諦めようって思ってた時があったでしょう？」
高槻
「……あー、あったな？」
小暮
「その時、私の描くデザインが好きって言ってくれたじゃない？」
高槻
「言うたな。小暮の描くデザイン、俺は好きやよ」
小暮
「その言葉に、救われた。何度も書き直してデザイン画破いてるところも見られたしね！」
高槻
「あったなぁ。諦めたい奴はあんな顔して何回も描きなおさへんよ。
これもちゃう、なんて言葉を呟きながらな」
小暮
「そんなこと言ってたんだ」
高槻
「すごい顔しながらな」
小暮
「いやぁ、忘れてぇ」
高槻
「（笑いながら）アカン、絶対忘れたらんでな」
小暮
「もう、最悪」
-グラスが空になったのに気づく-
高槻
「酒、まだ頼む？」
小暮
「んー、もう一杯だけ頼もうかな」
高槻
「なに飲むん？」
小暮
「レモンサワー」
高槻
「つまみは？」
小暮
「んー、焼き鳥がいいなぁ」
高槻
「もも？」
小暮
「あー、焼き鳥セット」
高槻
「これか。分かった。すいませーん」
-店員を呼ぶ-
高槻
「レモンサワーと、ビールを一つずつ。
あと、この焼き鳥セットを二つお願いします」
-注文を受けた店員が戻る-
小暮
「学生の頃の話ついでに言うけどさぁ。高槻に隠してたことあるんだよね」
高槻
「ん？なに？」
小暮
「高槻のこと、気になってた」
高槻
「……」
小暮
「いきなり言われて驚くよね！ごめんね！」
高槻
「いや……」
小暮
「もう六年も経ってるし時効かなって！」
高槻
「……今は？」
小暮
「え？」
高槻
「今は、もう気になってへんの？」
小暮
「えっと……」
-店員がメニューを持ってくる-
小暮
「（必死に話の流れを切ろうとする）ぁ、ほら！お酒と料理来たよ！冷めないうちに食べちゃおうよ！
ここのお店いいね！和風の個室居酒屋なんて初めて来たよ！お料理も美味しいし、店員さんもみんな優しくて居心地いいね！」
高槻
「（小暮のセリフを遮って言っても構いません）俺も、気になっとったよ」
小暮
「……え」
高槻
「小暮のこと。学生の時から、ずっと」
小暮
「……」
高槻
「今日の同窓会も、小暮がおるかなって思って来たんよ。
他の同級生なんてどうでもよかった。ただ、小暮に会いたかっただけやから」
小暮
「……うん」
高槻
「会えへんかったら諦めよって思っとった。でも、会えた。
会ったら、告白しようって決めとったんや。せやから抜け出そうって誘った」
小暮
「……」
高槻
「下心、あったよ？俺」
小暮
「そ、れは……」
高槻
「小暮さ、今って彼氏おる？」
小暮
「……いない」
高槻
「好きな奴は？」
小暮
「……いない」
高槻
「じゃあ……」
小暮
「いない、けど……好きだった人は、いるよ」
高槻
「……誰？」
小暮
「……私の夢を、応援してくれた人」
高槻
「そいつのこと、今は好きちゃうの？」
小暮
「……好き、かもしれない」
高槻
「（軽く笑う）なんやそれ。かもしれんって」
小暮
「（恥ずかしがる）好き、だよ」
高槻
「（嬉しそうに）そっか」
小暮
「高槻のことが、学生の時から好きだった」
高槻
「うん。俺も好きやった」
小暮
「今も、高槻のことが好き。彼女がいないなら、付き合ってほしい」
高槻
「喜んで」
小暮
「（泣きそうになる）夢みたい」
高槻
「なぁ、名前、呼んでもええか？」
小暮
「？うん、いいよ」
高槻
「澪」
小暮
「そ、そっち？待って、恥ずかしい。顔熱い。見ないで。てか名前覚えてたの！？ずるい。なにそれ」
高槻
「好きな奴のフルネームくらい覚えるやろ！俺の名前は？呼んでくれへんの？」
小暮
「……蓮」
高槻
「覚えとるやん」
小暮
「うぅ、待って。本当に恥ずかしい。身体熱いんだけど、もう」
高槻
「可愛い。あー、やば。今すぐ抱きしめたい。ええか？」
小暮
「……いい、よ？」
-立ち上がり、小暮の隣に移動する-
高槻
「（抱きしめる）はは、ホンマや、身体あっつ」
小暮
「高槻のせいだぁ」
高槻
「せやな。俺のせいやな。はぁ、可愛い。澪、好き。大好きやで」
小暮
「ちょっ、耳元で言わないでよ」
高槻
「澪」
小暮
「（名前を呼ばれ、顔を上げる）ん。なに？」
高槻
「（キスをする）」
小暮
「んっ……ま、待って高槻！ここ居酒屋！店！」
高槻
「個室やで、注文せん限り誰もこーへんよ」
小暮
「恥ずかしいからここじゃやだ！ダメ！無理！」
高槻
「ここじゃなかったらええんや？」
小暮
「そ、そういう意味じゃ！」
高槻
「俺の家、くる？」
小暮
「た、高槻の家？」
高槻
「そう。俺の家」
小暮
「（恥ずかしがる）ぇ、あ、うぅ」
高槻
「嫌と違ったらやけど」
小暮
「……行きたい、です」
高槻
「（笑う）なんで敬語なん」
小暮
「だ、だってぇ！」
高槻
「はぁ、ほんまに可愛ええなぁ」
小暮
「うぅ、せっかく会えたんだから、もうちょっと一緒にいたい」
高槻
「うん、俺も、一緒におりたい。
でも今は、もう少しだけこのままで……（キスをする）」
小暮
「んっ……」
小暮Ｍ
「ガヤガヤする店内の音を遠くに聞きながら、お互いの唇から漏れる吐息と声だけを聞いていた。
お酒のせいなのか分からないけど、お互いの身体の熱を感じながら抱き合う。
六年分の想いを分かち合うように、求め合うように……。
ただただ今はこのままで、そのままで……」
高槻
「好きやよ」
小暮Ｍ
「あぁ。昔のまま。今のまま……そのままの君でいて」
-幕-