登場人物
小暮 澪(こぐれ みお) 女性
20代後半。洋服デザイナー。
高槻 蓮(たかつき れん) 男性
20代後半。エンジニア。
配役表
小暮 澪:
高槻 蓮:
高槻
「小暮……?」
小暮
「……高槻?」
小暮M
「大学時代のサークル同窓会。
私はそこで、当時気になっていた人と再会をした」
高槻
「なぁ、二人で抜け出さない?」
小暮
「え?」
小暮M
「私にだけしか聞こえないように呟かれた言葉に、ドキッとした。
頷き返すと、高槻は幹事の一人に声を掛けそのまま二人で同窓会を抜け出した。
高槻オススメの個室居酒屋で、私達二人だけの同窓会が始まる」
-個室居酒屋-
高槻
「乾杯」
小暮
「乾杯!」
-グラスのぶつかる音-
小暮
「にしても、再会できるなんて思わなかった」
高槻
「俺も」
小暮
「二人で抜け出さない?って言われるとも思わなかったよ」
高槻
「そう?」
小暮
「仲良い人いたじゃん。門倉(かどくら)くんとか、山本くんとか……話さなくて良かったの?」
高槻
「門倉と山本は今でも連絡取り合ってるし、別に大学以来久しぶりに会うとかじゃないから大丈夫だよ」
小暮
「そうなんだ」
高槻
「つい先週、門倉と山本に会ってるしな」
小暮
「ええ!?」
高槻
「ははっ、いい反応するなぁ」
小暮
「驚くよ」
高槻
「それもそうか。
小暮の方は最近どんな感じなんだ?仕事とか」
小暮
「んー、順調、かな?」
高槻
「仕事何してんの?」
小暮
「デザイナーだよ」
高槻
「デザイナー?もしかして洋服か?」
小暮
「うん」
高槻
「……夢、叶えたんだな」
小暮
「覚えててくれたんだ」
高槻
「覚えてるよ。……そっか。夢叶えるなんて凄いな。どんな服デザインしたんだ?」
小暮
「メルシアって洋服ブランド知ってる?そこから販売される洋服をデザインしてるよ。
最近販売された物だと、夏に出たワンピースかな」
高槻
「それって、女優の鹿島めぐるとコラボした服か?」
小暮
「そうだよ。知ってたんだ」
高槻
「知ってるも何も、テレビを見るたびに流れてたからな。
それにネットでも色んなインフルエンサーが評価してたし、ユーザー人気も凄かったから覚えてるよ」
小暮
「そうなんだ。私ネットとかやってないから評判とか分からないんだよね」
高槻
「それに、姉貴もメルシアの服は好きで買ってるしな」
小暮
「え、ほんと?わぁ、嬉しい。お姉さん元気?」
高槻
「手が付けられないくらいに元気だよ。早く結婚相手見つけて落ち着いてほしいくらいには」
小暮
「あはは、お姉さんらしい。そっかぁ、お姉さん元気そうで良かった。高槻の方は仕事どうなの?」
高槻
「俺?順調って言えたらいいけど、まぁ、程々かな。エンジニアしてるから、納期に追われて大変だよ」
小暮
「エンジニア!?ぇ、かっこいいね」
高槻
「かっこいいか?地味な仕事だって俺は思うけどね」
小暮
「エンジニアってどんな仕事なの?」
高槻
「エンジニアにも色々あるけど、俺がしてるのはアプリシステムを作る仕事かな」
小暮
「ええ、凄いじゃん高槻!」
高槻
「大袈裟。守秘義務が多い仕事だから、あんまり外では言えないけどな」
小暮
「仕方ないよ」
高槻
「終わった仕事で言えるとしたら、先月にリリースした三島屋デパートのポイントアプリあるだろ?」
小暮
「ぁ、よく使ってる」
高槻
「あれ作ったの、俺」
小暮
「ええ!」
高槻
「ははっ、いい顔」
小暮
「本当に凄いよ高槻」
高槻
「ありがとう。こんなに褒められるとは思わなかった」
小暮
「アプリを一から作ってるんでしょ?色んな人に褒められるんじゃないの?」
高槻
「誰かに言うことなんてないし、会社の人間は出きて当たり前って思ってるからな。
それに納期とかで追われるからそんな言葉言われたことないよ。強いて言うならお疲れ様くらいかな」
小暮
「そっか」
高槻
「小暮が褒めてくれたから、今までの苦労や努力が報われた。ありがとう」
小暮
「そんな、私なんて……」
高槻
「……学生の時から変わってないよな。そうやって自分を謙遜するところ。まぁ、それが小暮のいいところなんだろうけど」
小暮
「自分じゃ分からないよ」
高槻
「誰かのやってきたこと、努力したところを見つけて褒めてくれるところ」
小暮
「その人が苦労して努力して、成功させてきたんだから普通は褒めない?」
高槻
「普通じゃないよ。みんな自分のことで精一杯なんだ。他人のそういう部分に目を向けて褒める余裕なんてない。
学生の頃ならあったかもしれないけど、ない人が殆どだったし……社会人になったらそう考える余裕すらないしな」
小暮
「そういうものなんだ」
高槻
「小暮のいいところ。もっと自信持っていいよ。俺が保証する」
小暮
「ありがとう。……高槻も、変わってない」
高槻
「ん?」
小暮
「自分じゃ気づかない部分に気づかせてくれるところ」
高槻
「なるほど」
小暮
「大学時代、高槻に助けられた」
高槻
「そうなのか?」
小暮
「私、夢を諦めようって思ってた時があったでしょう?」
高槻
「……あー、あったな?」
小暮
「その時、私の描くデザインが好きって言ってくれたじゃない?」
高槻
「言ったな。小暮の描くデザイン、俺は好きだよ」
小暮
「その言葉に、救われた。何度も書き直してデザイン画破いてるところも見られたしね!」
高槻
「あったなぁ。諦めたい奴はあんな顔して何回も書き直さないよ。
"これも違う"、なんて言葉を呟きながらな」
小暮
「そんなこと言ってたんだ」
高槻
「すごい顔しながらな」
小暮
「いやぁ、忘れてぇ」
高槻
「(笑いながら)嫌だ。絶対忘れてやらない」
小暮
「もう、最悪」
-グラスが空になったのに気づく-
高槻
「酒、まだ頼む?」
小暮
「んー、もう一杯だけ頼もうかな」
高槻
「なに飲む?」
小暮
「レモンサワー」
高槻
「つまみは?」
小暮
「んー、焼き鳥がいいなぁ」
高槻
「もも?」
小暮
「あー、焼き鳥セット」
高槻
「これか。分かった。すいませーん」
-店員を呼ぶ-
高槻
「レモンサワーと、ビールを一つずつ。
あと、この焼き鳥セットを二つお願いします」
-注文を受けた店員が戻る-
小暮
「学生の頃の話ついでに言うけどさぁ。高槻に隠してたことあるんだよね」
高槻
「ん?なに?」
小暮
「高槻のこと、気になってた」
高槻
「……」
小暮
「いきなり言われて驚くよね!ごめんね!」
高槻
「いや……」
小暮
「もう六年も経ってるし時効かなって!」
高槻
「……今は?」
小暮
「え?」
高槻
「今は、もう気になってないの?」
小暮
「えっと……」
-店員がメニューを持ってくる-
小暮
「(必死に話の流れを切ろうとする)ぁ、ほら!お酒と料理来たよ!冷めないうちに食べちゃおうよ!
ここのお店いいね!和風の個室居酒屋なんて初めて来たよ!お料理も美味しいし、店員さんもみんな優しくて居心地いいね!」
高槻
「(小暮のセリフを遮って言っても構いません)俺も、気になってたよ」
小暮
「……え」
高槻
「小暮のこと。学生の時から、ずっと」
小暮
「……」
高槻
「今日の同窓会も、小暮がいるかなって思って来たんだ。
他の同級生なんてどうでもよかった。ただ、小暮に会いたかっただけだから」
小暮
「……うん」
高槻
「会えなかったら諦めようって思ってた。でも、会えた。
会ったら、告白しようって決めてたんだ。だから抜け出そうって誘った」
小暮
「……」
高槻
「下心、あったよ?俺」
小暮
「そ、れは……」
高槻
「小暮さ、今って彼氏いる?」
小暮
「……いない」
高槻
「好きな奴は?」
小暮
「……いない」
高槻
「じゃあ……」
小暮
「いない、けど……好きだった人は、いるよ」
高槻
「……誰?」
小暮
「……私の夢を、応援してくれた人」
高槻
「そいつのこと、今は好きじゃないの?」
小暮
「……好き、かもしれない」
高槻
「(軽く笑う)なんだよ。かもしれないって」
小暮
「(恥ずかしがる)好き、だよ」
高槻
「(嬉しそうに)そっか」
小暮
「高槻のことが、学生の時から好きだった」
高槻
「うん。俺も好きだった」
小暮
「今も、高槻のことが好き。彼女がいないなら、付き合ってほしい」
高槻
「喜んで」
小暮
「(泣きそうになる)夢みたい」
高槻
「なぁ、名前、呼んでいい?」
小暮
「?うん、いいよ」
高槻
「澪」
小暮
「そ、そっち?待って、恥ずかしい。顔熱い。見ないで。てか名前覚えてたの!?ずるい。なにそれ」
高槻
「好きな奴のフルネームくらい覚えてるよ。俺の名前は?呼んでくれないの?」
小暮
「……蓮」
高槻
「覚えてんじゃん」
小暮
「うぅ、待って。本当に恥ずかしい。身体熱いんだけど、もう」
高槻
「可愛い。あー、やばい。今すぐ抱きしめたい。いい?」
小暮
「……いい、よ?」
-立ち上がり、小暮の隣に移動する-
高槻
「(抱きしめる)はは、ほんとだ。身体熱い」
小暮
「高槻のせいだぁ」
高槻
「そうだね。俺のせいだな。はぁ、可愛い。澪、好き。大好きだよ」
小暮
「ちょっ、耳元で言わないでよ」
高槻
「澪」
小暮
「(名前を呼ばれ、顔を上げる)ん。なに?」
高槻
「(キスをする)」
小暮
「んっ……ま、待って高槻!ここ居酒屋!店!」
高槻
「個室だから、注文しない限り誰も来ないよ」
小暮
「恥ずかしいからここじゃやだ!ダメ!無理!」
高槻
「ここじゃなかったらいいんだ?」
小暮
「そ、そういう意味じゃ!」
高槻
「俺の家、くる?」
小暮
「た、高槻の家?」
高槻
「そう。俺の家」
小暮
「(恥ずかしがる)ぇ、あ、うぅ」
高槻
「嫌じゃなかったらだけど」
小暮
「……行きたい、です」
高槻
「(笑う)なんで敬語なんだよ」
小暮
「だ、だってぇ!」
高槻
「はぁ、ほんと、可愛いなぁ」
小暮
「うぅ、せっかく会えたんだから、もうちょっと一緒にいたい」
高槻
「うん。俺も、一緒にいたい。
でも今は、もう少しだけこのままで……(キスをする)」
小暮
「んっ……」
小暮M
「ガヤガヤする店内の音を遠くに聞きながら、お互いの唇から漏れる吐息と声だけを聞いていた。
お酒のせいなのか分からないけど、お互いの身体の熱を感じながら抱き合う。
六年分の想いを分かち合うように、求め合うように……。
ただただ今はこのままで、そのままで……」
高槻
「好きだよ」
小暮M
「あぁ。昔のまま。今のまま……そのままの君でいて」
-幕-
2023/12/25 「そのままの君でいて-標準語版-」 公開