登場人物
ジェルヴェ 男性
誰にでも優しくどんな種族に対しても分け隔てなく接する
親しみやすい人柄であり責任感が強い
役割:店長
種族:ヒューマン
セヴラン 男性
基本的に物静かでクールな性格
言葉の節々に棘がある言い方をする
本人は優しさで言ってるが勘違いをされやすい
役割:料理長
種族:ヒューマン
リュカ 男性
ムードメーカー
誰とでも明るく接する
重く暗い雰囲気が苦手
役割:バイトリーダー
種族:ハーフエルフ
アニエス 女性
店の看板娘として大人気
明るい性格だがたまに突拍子もないことを言う
店長に対して店員とも思えぬことをして困らせたりしている
役割:ウェイトレス
種族:ハーフドワーフ
依頼人 男性/女性
エクシヴに依頼をしにきた子供
配役表
ジェルヴェ:
セヴラン:
リュカ:
アニエス:
依頼人:
ジェルヴェ
「他の客に迷惑だ。悪いが、お前さんが何を言ってるのか理解できねぇなぁ。仕事の邪魔だ。帰ってくれ」
- 国運営ギルド フロンティアギルドにて -
依頼人
「待って、お願い!お金はなんとかするから、依頼を受けてください!お願いします!
お願いします。助けてください。お願いだから、助けて……」
- オルトニアの町中 -
依頼人M
「ここオルトニアには、国が独自で運営するフロンティアギルドが存在する。
モンスター討伐や採取など様々な依頼を受けてくれる場所だ。
依頼を受けてくれる、なんてただの体のいい言葉に過ぎない。
僕の依頼は断られた。報酬金が払えないからという理由で。
なけなしのお金を握りしめて、喪失感に打ちひしがれながら歩いていた。
その時、僕に希望の光を差してくれる言葉が聞こえた。
依頼を受けてくれる場所がギルド以外にある、と。
僕は最後の希望を胸にその場所に向かった」
‐料理屋 エクシヴ-
ジェルヴェ
「いらっしゃいませー!」
アニエス
「いらっしゃいませー!あれ、お客さん初めて見る顔だねー」
依頼人
「あ、あの!」
アニエス
「ん?何かなー?」
依頼人
「い、依頼を受けてくれる場所って、ここですか?」
アニエス
「……ん?」
ジェルヴェ
「……」
依頼人
「このお店で、依頼を受けてくれるって聞いたんです!お願いします、依頼を!」
アニエス
「待って待って!えっと、君がなんのこと言ってるのか分からないんだけど、ここは料理屋だよ?」
依頼人
「え、でも、確かにここって!」
ジェルヴェ
「悪いねぇ、お客さん。ここはただの料理屋だ。そういう依頼なら国のフロンティアギルドに依頼しな」
依頼人
「依頼しても受けてくれなかったんだ!だからここに!」
ジェルヴェ
「他の客に迷惑だ。悪いが、お前さんが何を言ってるのか理解ができねぇ。仕事の邪魔だ。帰ってくれ」
‐エクシヴ前-
依頼人
「どうして……もう、どこに頼めばいいのか、分からないよ」
リュカ
「ちょっと待ちな」
依頼人
「え?」
リュカ
「あぁ、ここの店員だよ。ちょっと個人的に気になってな。どうしてあんなこと言ったんだ?」
依頼人
「……フロンティアギルドに、依頼したんです」
リュカ
「受けてくれなかったって言ってたな?国のギルドが依頼を断るとは思えないんだが」
依頼人
「報酬金が、足りないと言われたんです」
リュカ
「……」
依頼人
「依頼なら受けるとか、体のいい言葉ですよね。
所詮お金なんですよ。出すもの出せない貧困な人間の依頼は受けるに値しないんだ。
ここなら、依頼を受けてくれるって、町にいた人が話してるの聞いて……
けど、所詮噂話ですよね。それなのにあんなこと言って、ごめんなさい。
さっきの人にも、謝っておいてください。もう、帰ります」
リュカ
「あー、待った。謝るなら、自分の口で言えよ。店長に時間作ってもらえるよう言ってくるからさ」
依頼人
「え、でも、お店……」
リュカ
「他に店員いるから大丈夫だよ。ちょっと待ってろよー?
あ、店の前だと入ってくるお客さんの邪魔になるかもしれねぇから、こっちで待っててくれるか?」
依頼人
「は、はい。あの、ありがとうございます」
リュカ
「いいっていいって。んじゃちょっと行ってくるわ」
‐しばらく待っていると裏口と思わしき場所が開く‐
リュカ
「お待たせ。ほら、入れよ」
依頼人
「は、はい」
リュカ
「いやぁ、悪いな。こっからじゃないと目立っちまうから。表立って目立つのはちょっと困るんだよ」
依頼人
「え?」
リュカ
「店長ー、連れてきましたよー」
ジェルヴェ
「おー、助かったぜー。いやぁ、さっきは悪かったなぁ」
アニエス
「ごめんねぇ。あんなこと言っちゃってー!」
セヴラン
「なぁ、店長。ここの存在があんな風に漏れているのは危なくないか?」
ジェルヴェ
「あー、店の客にはうまいこと言っておいたから大丈夫だろう」
アニエス
「そうだよー?このアニエスちゃんのおかげだね!」
リュカ
「……店長、なにと引き換えにしました?」
ジェルヴェ
「(乾いた笑い)いやぁ、全ドリンクメニュー半額はいてぇぜ」
セヴラン
「最初は全メニュー半額と言い出した」
アニエス
「注文がっぽがっぽ!」
セヴラン
「だが、アニエスのおかげで客の意識が反らせたのも事実だ」
リュカ
「赤字ですね、今月」
ジェルヴェ
「ま、いいってことよ!それより、さっきから固まってるお前さん」
依頼人
「は、はい!」
ジェルヴェ
「フロンティアギルドに、断られたんだって?」
依頼人
「えっと、はい。けど、風の噂を信じていきなりあんなことを言ってしまってごめんなさい」
ジェルヴェ
「ははは!まぁ確かにあれは驚いた!肝が冷えたなぁ。ま、間違ってはいねぇから気にするな」
依頼人
「え?」
ジェルヴェ
「お前さんの言う通り、依頼は受けている。
ただし、ここの存在はギルドには秘密なんだ。バレたら首が飛んじまうぜ。
秘密だからこそ、決まった依頼の仕方があるんだよ。
今回はその依頼の仕方とは違ったから断るしかなかったんだ。すまなかったな」
依頼人
「い、いえ!こっちこそ事情を知らなくてごめんなさい!」
セヴラン
「店長、依頼の仕方教えてやったらどうだ?
ここまで招き入れたんなら、教えるべきだと思うぞ。
それに、またあんな風に突撃されてはこちらとしても困る」
アニエス
「セヴラン言い方きつーい」
セヴラン
「俺は今後のことを考えてだなぁ」
アニエス
「知ってるー!もうちょっと言い方優しくしようねー!セヴラーン!」
セヴラン
「いつも言っているが、煽るような言い方をやめろアニエス」
ジェルヴェ
「落ち着けお前ら。
いいかー?次から依頼をしたい場合は、今から教える手順で依頼してくれ」
依頼人
「はい、分かりました」
ジェルヴェ
「店に入ったら俺でもこいつら店員でもいい、注文する時にこう言ってくれ。
"リガーツのテールスープ、メーヌ海風"
けどこれは店には存在しないメニューだ。
それに対してこちらが"そんなメニューは存在しない"と答える。
次が重要だぞ。忘れるな?
"ハイダウェイにオススメされてきた"と言えば、ここに通される」
依頼人
「ハイダウェイに、オススメされてきた……」
ジェルヴェ
「そうだ。覚えたか?」
依頼人
「はい、覚えました」
ジェルヴェ
「ただし、メニューの名前は月ごとに変わる」
依頼人
「え、そうなんですか?」
ジェルヴェ
「ああ。次の月になったらメニューの名前は変わるが、店の外にアンケート用紙が置いてある」
依頼人
「アンケート用紙、ですか?」
ジェルヴェ
「ああ、そのアンケート用紙に書いてあるマークとメニュー表を照らし合わせれば合言葉が分かるようになってる」
アニエス
「メニュー表とアンケート用紙は私が作ってるんだ!分かりやすく書いてあるから、分かると思うよ!」
依頼人
「分かりました」
ジェルヴェ
「よし、それじゃお前さんの依頼、俺達が預かるぜ」
依頼人
「本当、ですか?」
リュカ
「嘘はつかないよ。それに、ここに通した時点で……いや、君がここに来た時点で受けないって選択肢はなかったから」
アニエス
「あんなギルドみたいに、助けを求めてる人を拒絶したりはしないよ」
セヴラン
「……頼まれたら最後まで面倒はみる」
依頼人
「ッ、ありがとうございます!でも、お金これしかなくて……」
ジェルヴェ
「いらねぇよ」
依頼人
「え?」
ジェルヴェ
「ここのことを外で話さないって約束してくれるだけでいい」
依頼人
「はい、約束します!」
ジェルヴェ
「よし、依頼成立だ。その約束の言葉が報酬でいいぜ」
アニエス
「よーし、久々の依頼だー!」
セヴラン
「リュカ、またついでに食材調達でも頼む」
リュカ
「うえ、また体力使う討伐はやめろよなー?セヴラン」
セヴラン
「うるさい。馬車馬の如く働け」
リュカ
「うわひでぇ。向かう場所にもよるだろう。程ほどにしてくれよなー」
ジェルヴェ
「それじゃ依頼内容を聞こうか」
依頼人
「はい。依頼内容は……」
‐数日後‐
セヴラン
「いい食材が調達できたな」
リュカ
「(息絶え絶え)依頼より、食材調達の方がしんどいんだが?」
アニエス
「リュカ大活躍だったねぇ」
リュカ
「いくらハーフエルフだからって、魔力が枯渇するくらい使わせんな」
ジェルヴェ
「お手柄だったぜ、リュカ。と、お前さんの依頼、無事に終了だ」
依頼人
「ありがとうございます!本当に、なんてお礼をしたらいいか」
ジェルヴェ
「礼なんていいんだよ」
アニエス
「そうそう!君が笑顔になってくれただけで嬉しいよ!」
セヴラン
「そんなに礼をしたいと言うなら、いつか俺の料理を食べにきてくれ」
リュカ
「こいつの料理、すげぇうまいんだぜ」
アニエス
「ほっぺた落ちちゃうかもよー?」
依頼人
「そんなに美味しいんですか?」
セヴラン
「店に出すんだ。当たり前だろう」
依頼人
「お金貯めて、絶対またきます!今度は、お客さんとして!」
ジェルヴェ
「おう、待ってるぜ」
依頼人
「はい!本当に、ありがとうございました!」
‐店から依頼人を見送った後の4人‐
セヴラン
「これは毒草だが灰汁抜きをすれば香草に代わる。こっちの肉は……」
アニエス
「店長ー、セヴランがぶつぶつ言ってるよー?」
ジェルヴェ
「いいんだよ。店の料理は全部あいつに任せてんだ」
リュカ
「この店の味は、全部セヴランが決めてるからな」
アニエス
「店長の意味ー。名前だけ?」
ジェルヴェ
「痛いぜ……」
リュカ
「俺は店長のこと尊敬してますよ!」
ジェルヴェ
「はは、ありがとなぁ」
アニエス
「私も、店長のこと尊敬してますよ!」
ジェルヴェ
「手の平返しが凄まじいがありがとなぁアニエス」
アニエス
「いえいえ!それじゃあ今日は帰りますー!また明日、お願いします!」
ジェルヴェ
「おう、よろしくな」
リュカ
「明日のシフトは……あぁ、レティシアとか……」
ジェルヴェ
「まだぎこちないか?」
リュカ
「最初出会った時よりかは、話してくれるようにはなってますけどまだ打ち解けてはくれてないみたいで……」
ジェルヴェ
「そうか」
リュカ
「……店長、先ほどはでしゃばったことをしてすいませんでした」
ジェルヴェ
「いいってことよ。あんな依頼の仕方は普通ならお断りだったんだがな」
リュカ
「すいません」
ジェルヴェ
「依頼人に同情しすぎもよくない。
あの依頼人、お前と同じハーフだったな。昔のことでも思い出したか?」
リュカ
「まぁ、はい。そうですね。
僕と同じハーフだから気になったのもあります」
ジェルヴェ
「ま、俺もあのまま放っておくことはしなかったと思うがな。
今回は助かった。リュカが引き留めておいてくれたおかげだ」
リュカ
「いえ、ギルドに断られてここにきたのなら、僕たちが追い返す必要はありませんから。
それに、嫌なことも思い出してしまいましたし……」
ジェルヴェ
「そうだな」
リュカ
「僕もそろそろ上がりますね」
ジェルヴェ
「おう、お疲れさん」
‐リュカを見送り、厨房に入る‐
ジェルヴェ
「セヴラン、そろそろ店閉めるぞ。仕込みの方はどうだ?」
セヴラン
「とりあえず、下処理はした。腐ることはない」
ジェルヴェ
「そうか。お前の腕もだいぶ上がったな。俺はもう追いつけそうにねぇぜ」
セヴラン
「そんなことはない。俺にとっての最高の料理は、店長の作ってくれた料理に変わりはない」
ジェルヴェ
「……そうか、ありがとな。よし、店じまいするぞ」
セヴラン
「わかった」
ジェルヴェM
「オルトニアに店を構える料理屋エクスクリューシヴ。通称エクシヴ。しかし、それはあくまで表向きの姿。
国が運営するフロンティアギルドに依頼を断られた人が一縷(いちる)の望みを持ってやってくる最後の砦。
そういう依頼を、俺達は秘密裏に受けている。これは、ギルドに見放された依頼を代わりに請け負う物語。
俺達が、エクシヴに集まるに至った物語。本当に困った時はこの店にくるといい。
その時俺達はきっとこう言うだろう……」
ジェルヴェ
「ようこそ。エクスクリューシヴへ」
幕