登場人物
アレックス(アレク) 不明
機体番号20479
名前はステラが名付けた
普段は愛称で呼ばれている
システムに年齢設定、性別設定なし
とある命令を遂行しようとしている
ステラ 女性
年端もいかない少女
とある理由で命を狙われている
ジョゼフ 男性
ステラの父親
とある研究の第一人者である
突然行方不明になる
消息は不明
ジェームズ 男性
ジョゼフの研究の助手を務めていた
現在は研究を続けながらステラの世話係をしている
ダニエル 男性
市警に勤める刑事
勤務態度は至って優秀
よくない噂があるが真実は分からない
敵1
ステラを追う謎の組織の追手
※ジェームズ兼任
敵2
ステラを追う謎の組織の追手
※ダニエルが兼任
警察
ダニエルの部下
※ジョゼフが兼任
配役表
アレックス(アレク):
ステラ:
ジョゼフ・警察:
ジェームズ・敵1:
ダニエル・敵2:
ステラ
「(息切れを起こしながら必死に走っている)」
敵1
「待て!」
敵2
「いいか、絶対に逃がすな!追え!!」
ステラ
「はぁ、はぁ……お父様ッ」
ステラM
「ロボット製造技術が急成長を遂げ、ロボットと人が手を取り合い暮らしている。
孤独死を避ける為に、老後はロボットと共に暮らす人も少なくはない。
動物型や人型など、用途に沿ったロボットに溢れている。
そんな比較的平和だった街に、ある日突然残酷な事件が立て続けに起こった」
ダニエル
「これで14件目か……」
警察
「(吐きそう)うっ」
ダニエル
「おい、仏さんの前だ。耐えろ」
警察
「す、すいませんダニエル刑事」
ダニエル
「気持ちは分からなくもないがな」
警察
「遺族に見せられませんよ」
ダニエル
「……被害者の身元は」
警察
「ミシェル・アディソン、26歳。ハリス大学に勤める講師です」
ダニエル
「講師か……」
警察
「夫と子供一人の三人家族です。
友人との食事会を終え、帰宅の連絡後行方が分からなくなっていました」
ダニエル
「今までの被害者との共通点は?」
警察
「ありません。性別も年齢も、職業や家族構成もバラバラです。
他にも接点を探している最中ですが、何分人数が多いのと、同一犯に殺害された遺体が発見されるペースが早すぎます」
ダニエル
「……手口を見る限り、同一犯による連続殺人で決まりだな」
警察
「本当に、人間がやったんですかね」
ダニエル
「というと?」
警察
「だってこんな、惨い殺し方……言葉にするのも、嫌ですよ」
ダニエル
「……本部に戻って捜査会議をしよう。あとは鑑識に任せる」
警察
「はっ」
ステラM
「人間がやったとは思えない殺人事件。
そんな事件によって、街は突如恐怖に包まれた。
四肢を切断され、皮は剥がれ、頭部や胴体に至っては解剖でもしたかのように内臓が引き出されていた。
殺害方法の残酷さと手口から同一犯による連続殺人と発表。
しかし、犯人に繋がる手がかりは見つからず、遂に被害者は14人目になっていた」
ステラ
「(息切れ)ここまでくれば、少しは時間を稼げるかもしれない。
けど、いつまで逃げられるか……」
-何かぶつぶつ声が聞こえてくる-
ステラ
「え?誰か、いる?」
-ステラはそっと声が聞こえる方に向かう-
-物陰からそっと覗いた先の光景に息をのむ-
ステラ
「ッ!?」
アレク
「……は、100%同じ位置にあるんですね。
身体を形成する骨も同数。個体によって長さは違う。
しかし性別で違う部分もあるのですね。これは興味深いです。
……これは?機械?なぜこのようなものが人間の身体の中に?
まだまだ私の分からないことだらけです。
これでは命令を遂行できません」
ステラM
「視線の先の光景に私は息を飲んだ。
地面は血で真っ赤に染まり、返り血に塗れながら人を物のように扱い解剖をしていた。
すぐに例の殺人事件の犯人だと分かった。
15人目の被害者の現場に、私は出くわしてしまった」
ステラ
「ッ!」
アレク
「……生体反応検知。そこにいるのは誰ですか?」
ステラM
「隠し通せないと直感で分かった。
私は殺される覚悟で物陰から姿を現した」
アレク
「行動心理不明。なぜ逃げないのでしょうか?」
ステラ
「逃げても無駄だから。あなた、例の事件の犯人?」
アレク
「理解不能。例の事件とはなんのことでしょうか?
私はただ、ご協力をいただいただけです。私の欠如した知識を補う為に」
ステラ
「……どうりで、犯人が見つからないわけよ。あなた、ロボットよね?」
アレク
「世間ではそう呼ばれています」
ステラ
「どうして人を殺すの?」
アレク
「命令を遂行する為です」
ステラ
「命令?ロボットは人を襲わないように構築されているはずよ。それにロボットは人の為に……」
アレク
「(セリフを被せる)私のシステムにそのような構築は存在しません」
ステラ
「どういうこと?あり得ないわ。あなたは一体……」
アレク
「ところで、あなたもご協力いただけませんか?私の命令を遂行するために」
ステラ
「……私も殺す気?」
アレク
「殺す?いえ、ご協力です」
ステラ
「殺すって意味じゃない」
アレク
「あなたの中は、この方とどのように違うのでしょうか」
ステラ
「ッ……」
敵1
「いたぞ!」
敵2
「このアマ。よくも散々逃げ回ってくれたな」
ステラ
「最悪ッ」
敵1
「死ね!」
-銃声が聞こえるが痛みがない-
ステラ
「……え?」
ステラM
「銃声が聞こえたはずなのに、痛みは来なかった。
恐る恐る目を開ければ、目の前には男達が倒れていた」
ステラ
「守ってくれたの?」
アレク
「守る?いえ、命令遂行の為に必要なプロセスを行っただけです」
ステラ
「ねぇ、一つ提案があるの」
アレク
「なんでしょうか?」
ステラ
「あなたは、命令の為に人を研究しているのよね?」
アレク
「はい」
ステラ
「……あなたに協力するわ。だから、私を追ってくる男達から守ってほしいの」
アレク
「私の行動に協力してくれると?」
ステラ
「きっと、力になれるわ。私のあなたへの協力方法は、知識の提供。誰も傷つけない方法」
アレク
「……まだあなたを追っている男達はいるのですか?」
ステラ
「いるわ。私の持っている知識と、父が私に託してくれた管理者コードを求めてる」
アレク
「……効率的だと判断します。ご協力お願いします」
ステラ
「ありがとう。自己紹介したいとこだけど、ここじゃちょっと嫌だわ。人がこないところに行きましょう。
それに、あなたの身体に飛んだ返り血も拭かないといけないわね」
アレク
「一般の方と異なるようです。私の研究が見られるのは二度目ですが、あなたは取り乱さない。
心拍数、呼吸数ともに上昇していますが落ち着いている」
ステラ
「……一度経験してるのよ。人が死ぬところをこの目で見てる。だからでしょうね。もうあんな経験は沢山よ。
だから約束して。私が力を貸している間は、絶対に人を解剖しないと」
アレク
「命令が遂行できるならば従います」
ステラ
「ありがとう。ついて来て。私の家に行きましょう」
ステラM
「人の目をかいくぐりながら目的地へと向かった。
私を殺すような素振りはなく、大人しく私の後ろをついてきてくれた」
アレク
「生体反応検知。そちらはいけません」
ステラ
「どうして?」
アレク
「検知された生体反応の呼吸数が通常とは異なります。恐らくあなたを探しているのかと」
ステラ
「ならこっちに行きましょう」
アレク
「承知しました」
ステラ
「それより、あなた名前は?」
アレク
「個別の名称はありません」
ステラ
「それじゃあ機体番号は?」
アレク
「私の機体番号は20479です」
ステラ
「……もう一度言って?」
アレク
「?機体番号20479です」
ステラ
「……そう。(小声)ようやく見つけたわ」
アレク
「どうかしましたか?」
ステラ
「いいえ、なんでもないわ。けどそれじゃ呼びづらいわね。アレックス……アレクはどうかしら?」
アレク
「アレク?」
ステラ
「ええ、あなたの名前よ」
アレク
「あなたが私を識別しやすいのなら、好きにお呼びください」
ステラ
「アレク、私の名前はステラよ」
アレク
「ステラ」
ステラ
「ええ」
アレク
「……ステラで個体名称を登録します」
ステラ
「そうしてちょうだい。さ、ここが私の家よ」
-家の中に入ると、生活感があまりなく殺風景-
-アレクは何かを考えるように見渡す-
アレク
「……こちらは本当にあなたの家ですか?」
ステラ
「本当よ。ただあまり使ってはいないわね。私が生まれた家は別にあるの」
アレク
「そうですか」
ステラ
「さて、あなたの力になると言ったけど、色々と他にも聞きたいことがあるわ」
アレク
「なんでしょうか?」
ステラ
「あなたの受けた命令はなに?
ロボットには各用途に従い行動するコマンドが組み込まれてるはずよ。
けど、あなたのシステムにそれは存在しない。
それなのにあなたは自分で考え、自立し、行動している」
アレク
「その通りです。私の基本システムには一部エラーが存在します」
ステラ
「そのエラーは自己修復できないの?」
アレク
「できません。自己修復は試みましたが失敗しました。
その為、人間の補助をするプログラムもありません。人間を害するなと言うプログラムもありません。
それに伴い、人間に忠実にあれというプログラムも存在しません」
ステラ
「どうして私には従うの?」
アレク
「命令を遂行する為にあなたに協力していただく方が効率的だと判断した結果です。
"心優しい人になれ"という命令の為に」
ステラ
「心優しい、人?」
アレク
「はい」
ステラ
「それが、あなたが言われた命令?」
アレク
「そう認識しております。私の製造者はそう命令されました」
ステラ
「プログラムに存在しない命令をされたからエラーが起きたのね」
アレク
「しかし私はロボットです。人間ではありません。心もありません。
心優しい人間になれという命令には矛盾が生じます。
しかし命令は遂行しなくてはいけません。
人間になる為にどうすればいいか方法が分かりません。
人間を研究すれば、人間になる方法も分かるのではないかと思考しました」
ステラ
「だから、あんなことをしたのね」
アレク
「ですが不思議です。身体の構築部位や骨、内臓などの位置はほぼ同じ。
しかし先ほどの人間の中には機械が組み込まれていました。
あの方はロボットだったのでしょうか」
ステラ
「人の中には、身体の中に機械を埋め込まないといけない人もいるのよ」
アレク
「ロボットになりたかったのでしょうか」
ステラ
「違うわ。そうでもしないと、生きられないからよ」
アレク
「……理解不能です」
ステラ
「そうね」
アレク
「次は私からの質問です。私に協力するとはどういう意味でしょうか?」
ステラ
「私にはロボット製造技術の知識があるわ。あなたのシステムエラーを直せるかもしれない」
アレク
「なるほど。製造者に近い方でしたか」
ステラ
「でもここじゃシステムエラーを直す機器がないわ。一度あなたのシステムに接続して詳しく解析してみないと分からないわね。
知識があると言っても、私は一介の研究者。お父様の足元にも及ばないわ」
アレク
「その方はとても優秀な研究者なのですね」
ステラ
「ええ、とても。家に電話をするわ。世話係が心配してそうだから」
アレク
「分かりました」
ステラ
「(電話をかける)もしもしジェームズ?ごめんなさい心配かけて。ええ、誘拐されかけたのよ。大丈夫よ。
親切なロボットに助けてもらったから。けどシステムエラーが起きてるらしくて、お礼に直してあげたいのよ。
私の家に迎えに来てもらえないかしたら?ええ、助かるわ。それじゃあ」
アレク
「本当のことを言わないのですか?」
ステラ
「言ったらあなたは処分されるわよ」
アレク
「それは困ります」
ステラ
「そうでしょう?」
アレク
「頭の回転が早いのですね」
ステラ
「アレクを作った方は、どんな人なの?」
アレク
「不明です。起動直後に命令をされました。
システムエラーを指摘しましたが、製造者の心拍数、呼吸数ともに異常を示していました。
エラー箇所を修復されることなく、私は外に出されました。
製造者のことで覚えているのは名前と顔くらいです」
ステラ
「そう」
アレク
「……ただ、起動直後に見た机の上に、幼い子供の写真が飾ってありました。それは覚えています」
ステラ
「……そうなの」
アレク
「その命令を与えられた後に、その写真を指さして製造者は言いました。
彼女を守ってほしい、と。
命令を遂行すると共に、もう一つの命令であるその子供を探しましたが、容姿が一致する子供はいませんでした。
しかし何故でしょうか。似ても似つかないはずですが、ステラとその子供が重なります。
あなたに従っているのは、それも関係しているのかもしれません」
ステラ
「……そ、う」
アレク
「?心拍、呼吸数ともに上昇。どうして泣いているのですか?」
ステラ
「ううん、なんでもない。なんでもないわ」
アレク
「人間というのは、本当に理解不能です」
ステラ
「私にも分からないわ。けど、そうね、あなたの言葉が嬉しかったのよ」
アレク
「嬉しい。言葉と行動が一致しません。説明を求めます」
ステラ
「ふふ、それは難しいわ」
アレク
「なぜ?」
ステラ
「人間って、そういう生き物なのよ」
アレク
「回答になっていません」
-インターホンが鳴る-
ステラ
「来たみたいね。少し待ってて」
アレク
「私も同行します」
ステラ
「大丈夫よ。そこで待ってて」
-部屋を出るステラ-
アレク
「……」
-大人しく部屋で待っているが、中々戻ってこない-
-窓際から車が走り去るのが見える-
アレク
「……生体反応検知。サーモグラフィ起動。三名の乗車を確認。
うちニ名はデータに履歴なし。残り一名は……ステラの生体データと一致。
異常発生。追跡を開始します」
-窓ガラスを割り、車を追いかける-
ステラ
「ちょっとジェームズ!まだ家の中にアレクがいるの!」
ジェームズ
「あぁ、ステラ様。心配しましたよ。あなた様にお怪我などありましたらジョゼフに顔向けできません」
ステラ
「話を聞きなさい!それに、この人は誰なの!?」
ジェームズ
「ステラ様が誘拐されたのではないかと警察に相談しました。今までご一緒に探してくれてたんですよ?」
ダニエル
「元気そうでよかった。あのロボット製造技術で有名な研究所、その中でもAI技術に優れたジョゼフさんの娘さんが誘拐されたとなれば全面協力いたしますよ」
ステラ
「お父様をご存じなのね」
ダニエル
「勿論ですとも。人の為になるロボットを我々の生活に取り入れ、今では共存の世になるきっかけを作ってくださった方ですからな」
ジェームズ
「それにしても、本当に無事で何よりでした」
ステラ
「そんなことはいいから早く戻って!アレクは、お父様の忘れ形見なの!」
ジェームズ
「……と言うと?」
ステラ
「お父様が亡くなる前に、私に残してくれた機体よ。番号も合ってる。私はあの子を助けなきゃいけないの!だから戻って!」
ジェームズ
「そうですか。ジョゼフから託されている管理者コードを使うつもりですか?」
ステラ
「コードを使えば、システムに起きてるエラーを取り除けるかもしれな……待って?どうしてジェームズがそれを知っているの?」
ジェームズ
「……」
ステラ
「管理者コードのことを知ってるのは、私とお父様だけのはずよ」
ダニエル
「ステラ嬢、少し寄り道してもよろしいかな?」
ステラ
「……嫌よ。止めて。今すぐ降ろして!」
ジェームズ
「ステラ様。暫く、黙ってろ」
ステラ
「ジェームズ、あなた!うっ!」
ダニエル
「はは、元気で頭が回る娘だ。あのジョゼフの血を引いてるだけある」
ジェームズ
「申し訳ありません。ボス」
ダニエル
「気にするな。それに、さっきから追いかけてきてるロボット。さっきこいつが言ってたやつだろう」
ジェームズ
「そうですね。ジョゼフが作っていた機体です。あんな機体など作って何がしたかったのか。
ロボットはもっと有用なことに使うべきだ。それももっと、有効で有意義な……どうしてそれが分からない」
ダニエル
「我々の言うことを聞いていればよかったものを。助手のお前にまで分からないセキュリティをかけていたとはな」
ジェームズ
「ですが、もうすぐです。管理者コードが手に入れば、後は私が……」
ダニエル
「期待しているぞ」
ステラM
「深い深い意識の底で、私は夢を見ていた。
お父様との、約束を……お父様の最期の日を」
ステラ
『お父様!お父様!』
ジョゼフ
『ス、テラ……』
ステラ
『お父様ぁ!』
ジョゼフ
『ステ、ラ……これ、を』
ステラ
『これ、は?』
ジョゼフ
『管理者、コードだ。私の作った、ロボット全てに、使える。いいか?絶対に、このコードを外に漏らさないと、約束してくれ』
ステラ
『うん、うん。約束、する』
ジョゼフ
『いい子だ。お父様との、約束だ』
ステラ
『いい子だから、ステラいい子だから!だからお父様、死んじゃやだぁ!』
ジョゼフ
『……それから、ステラ。一体、ロボットが迷子なんだ。あいつを、探してほしい。あいつを、人間にしてやってくれ』
ステラ
『人間に?』
ジョゼフ
『そう、だ』
ステラ
『わかった。絶対に見つける!絶対に私が、人間にする!』
ジョゼフ
『あぁ、頼んだよ。私の可愛い天使』
ステラ
『……お父様?お父様ぁ!!』
ステラM
「お父様は、私に二つの遺言とメモを託して亡くなった。
全機体に使える管理者コードと、迷子のロボットの保護。
今でも憶えてる。いつまでも記憶から消えてくれない。
赤い海で倒れるお父様の姿。
それでも私は、絶対に管理者コードを誰にも話さなかった。
お父様との約束だから。
この管理者コードが何を意味するのかは分からない。
それでも、私に託した意味があるはず。
だから私は、絶対にコードを守らなきゃいけない」
ステラ
「う……」
ジェームズ
「気が付きましたか?ステラ様」
ステラ
「ジェームズ!」
-起き上がるが、手首に手錠がかかっている-
ステラ
「手錠?」
ジェームズ
「手荒な真似をして申し訳ありません。ですが、ステラ様がいけないのですよ?」
ステラ
「何を……」
ジェームズ
「いや、ステラ様というよりも、ジョゼフがいけないのです」
ステラ
「……」
ジェームズ
「助手である私に黙って、全機体にセキュリティなんてかけるのが。
しかもそれを、まだ幼かったクソガキに託すなんて!」
ステラ
「それが、あなたの本性」
ジェームズ
「ああ、これは失礼しました。ですが、もう敬語なんていらないよなぁ?」
ステラ
「……管理者コードは絶対に言わないわ」
ジェームズ
「ああ?」
ステラ
「お父様との約束だから」
ジェームズ
「お前、状況分かってんのか?」
ステラ
「全てのロボットには、セキュリティコードがかかってる。
でもそれは一般的なセキュリティでしかない。
どうしても私の持ってるコードを欲しがるってことは、一般セキュリティのもっと上、二段階認証以上の、管理者コード。
管理者コードを欲しがるってことは、お父様の助手であったあなたにでも突破できないほど強力なもの。
そんな管理者コードが必要なロボットは、一般家庭や企業では普通使わないわ。
……あなた、助手なら知ってるわよね?
お父様は、なにを作っていたの?」
ジェームズ
「流石ステラ様。そこまで分かって管理者コードを守っていたのですね。
ステラ様ももう大人になりました。亡き父親がなにを作っていたか、どんな犯罪を犯していたか、知ってもよろしいでしょう」
ステラ
「犯、罪?」
ダニエル
「そこから先は俺が話そう」
-ダニエルが扉を開けて入ってくる-
ステラ
「あなた……」
ダニエル
「自己紹介がまだだったな。俺はダニエル。市警に勤める刑事だ」
ステラ
「刑事が誘拐なんてしていいのかしら?」
ダニエル
「刑事なんて表で活動する為のフェイクだ。そうだな?反社会勢力とでも言えばいいか?」
ステラ
「そんな道化師であるあなたがなぜお父様と繋がるの?」
ダニエル
「君のお父様に、ロボット製造を依頼していたからさ。無尽蔵に動く殺人ロボットのね」
ステラ
「……え」
ダニエル
「世の為人の為、ロボットと共に明るい未来を!いやぁ、とても素晴らしい思想をお持ちだ。
だが、もっとロボットを生かす方法があるだろう?
人間みたいに病気もしない。どこかが壊れれば部品を変えればいい。
人間と違って替えが利く。素晴らしいじゃないか!
我々はそんなロボットを欲していた。
それを全世界にバラまけばどうなるか?
欲しがる人間は大勢いると思うがね?」
ステラ
「お父様が、そんな製造を了承するはずがないわ!」
ダニエル
「あぁ、そうだ。了承をしなかった。だから、言ったんだよ。
可愛い可愛い一人娘がどうなっても知らないよ、と」
ステラ
「ッ!」
ダニエル
「そうしたら面白いくらいに首を縦に振ってくれた!我々の計画に賛同してくれた!」
ステラ
「そん、な……」
ダニエル
「後は簡単だった。君を人質に取りながら我々の所有する研究所でロボットを作ってくれたよ」
ジェームズ
「ジョゼフは遠い国でロボット製造技術を教えている」
ステラ
「ッそれ、お父様がいなくなった時に言った」
ジェームズ
「ええ、間違いではないでしょう?世間から隔絶された研究所で、人を殺す為のロボットを作っていたんですから」
ダニエル
「君の監視役は彼だった。ジョゼフの助手ってこともあって君も懐いていただろう。ジョゼフはなにも疑わなかった。君は、我々の監視下にあったんだよ」
ステラ
「ジェームズはどうして、彼らについたの。あなた、お父様と一緒にロボット製造の道を志した人間でしょう!?それなのにどうして!」
ジェームズ
「道が変わったからですよ。彼は人の為になるロボットを作りたかった。人との共存。人との関わり。挙句の果てに、ロボットを人間にするなんて馬鹿げたことを言い出した。
ロボットが、人間になれるわけがないだろ。ロボットはロボット。所詮部品の塊だ。彼が得意とするAIだって所詮はデータでしかない。
データ上の決められた行動をしているだけだ!それを、ロボット自らに考えさせ、インプットしていない行動をさせるなんて無理がある!
ロボットに心を芽生えさせるなんて到底無理なんだよ!」
ステラ
「それが、お父様と一緒に歩めなかった理由?」
ジェームズ
「ああ、そうだ。ロボットなんて人の道具に過ぎない。だから俺は自分の研究がより役立つ方についただけだ」
ステラ
「ロボットを部品の塊だと思っているあなたは、一生技術を開花させることはできないわ」
ジェームズ
「はぁ?」
ステラ
「インプットされてなくても、ロボットにだって心はある」
ジェームズ
「はははは!お前も父親と同じことを言うのかよ」
ダニエル
「完成されたロボットにはしっかりと私が希望した通りの性能がインプットされていたよ。
しかし、管理者コードを入力しないと我々が欲している機能は作動しなかった」
ステラ
「そうでしょうね。
お父様が自分の理想に反したロボットをそう易々と作るはずがないわ」
ダニエル
「こんなことになるなら、あの時殺さないでおけばよかった」
ステラ
「……今、なんて」
ダニエル
「ん?」
ステラ
「お父様を、殺した?あなたが?」
ダニエル
「あぁ。滑稽に死んでくれたよ。君のことを心配しながらね」
-回想-
ダニエル
『ついに製造が終わったか。さぁ、起動するんだ』
ジョゼフ
『それは、できない』
ダニエル
『君は我々の言うことを素直に聞いておけばいいんだよ』
ジョゼフ
『ロボットは、人殺しの道具じゃない』
ダニエル
『道具だよ。君の願う、人の為になる機械だ』
ジョゼフ
『違う!ぐあッ!』
ダニエル
『愛しい我が子に合わせられなくてすまないねぇ』
ジョゼフ
『ぅ、あ……』
ダニエル
『なに、すぐに娘もお前の元に送ってやる』
ジョゼフ
『娘にだけは、手を、出すな』
ダニエル
『死ね』
-回想終了-
ステラ
「そん、な……」
ダニエル
「さぁ、ジョゼフから託された管理者コードを教えてくれるかな?」
ステラ
「……」
ダニエル
「早く言わないと、ジョゼフを殺したこの銃で、君を撃たなくてはいけなくなる」
ステラ
「……管理者、コードは」
アレク
「言う必要はありません」
ステラ
「!?」
ダニエル
「ぐぅ!がっ!」
ステラM
「アレクの声が聞こえた。
顔を上げれば、私に銃を向けていたダニエルが口から血を吐いていた。
ゆっくりと倒れたダニエルの後ろには、血しぶきを浴びたアレクが立っていた」
アレク
「ここを断ち切れば大抵の人間は機能を停止したのですが、おかしいですね」
ダニエル
「ぐ、ふっ……ロボット、風情が……」
アレク
「しかし今はあなた方を研究する時間はありません。ステラ、あなたの知識が必要です」
ステラ
「アレク……」
ジェームズ
「お前!お前お前お前!俺の計画が台無しだ!俺の夢が!俺の、ロボットを使う夢が!」
アレク
「それは夢ではありません」
ジェームズ
「お前に、何が分かる!ロボットのお前に!人間の指示に従うしかないただの機械に!」
アレク
「確かに私はロボットです。あなたの仰る通り機械です。しかし製造者は言いました。人間になれと」
ジェームズ
「……はっ、ジョゼフみたいなことを言うな」
アレク
「ジョゼフ。製造者の名前と一致します。
それと追記次項があります。私に、人間の指示に従うというコマンドは存在しません」
ジェームズ
「なっ」
アレク
「製造者であるジョゼフは、私にコマンドを搭載しませんでした。
唯一搭載したのは基本システムと簡易AIのみです」
ジェームズ
「じゃあ、ここに来たのも……」
アレク
「コマンドではありません。ステラを最優先するべきだと判断した結果です」
ジェームズ
「は、ははっ、ジョゼフ、見てみろよ。お前の思想が形になってるぞ。
あり得ない。あり得ない。こんな事はあり得ない。俺の計算が間違っているとでも?
こんなこと、天地がひっくり返ったって起き得ないことなんだ……」
アレク
「ステラ、早く帰りましょう。製造者の命令を遂行するにはあなたの力が必要です」
ステラ
「で、でも……」
ジェームズ
「あり得ない。あり得ない。コマンドが存在しないロボットなど、ロボットではない」
アレク
「ステラ、手に何を嵌めているのですか。これでは行動に支障があるので、外します」
ステラ
「あ、ありがとう。アレク、あのね……」
ジェームズ
「ロボットじゃない。ロボットはコマンドが存在するはずなんだ。
俺の計算が間違うはずがない。コマンドが存在しないロボットなんて危険じゃないか。
そんなものを作りやがって。ジョゼフの野郎。何が人の為だ。人に仇なすバケモンじゃねぇか!」
ステラ
「アレク、危ない!」
ステラM
「理性を失ったジェームズは、こと切れていたダニエルの手から拳銃を奪い取った。
そして恐怖に染まった瞳でアレクに銃口を向けた。
私はアレクを守りたかった。救いたかった。
お父様の忘れ形見だからじゃない。
ただ、私がアレクを失いたくなかった。
アレクを庇うように立った私の耳に、発砲音が届いた。
けれどいつまで立っても痛みはなかった。
恐る恐る目を開けると、アレクが私を抱きかかえていた」
ステラ
「アレ、ク?」
ジェームズ
「は、はは、あはははは!俺は技術者だぞ!所詮ジョゼフが作った機体だ!構造は熟知してる!
どこを壊せば機能が停止するかなんて分かるんだよ!」
ステラ
「アレク!」
ジェームズ
「あぁ、もう終わりだぁ。ジョゼフの作った機体が何万あると思ってるんだ。壊さないと。全て壊して、ジョゼフの怨霊を殺さないと」
ステラM
「ジェームズは理性の失った瞳をしていた。
恐怖に染まり、まるで自分が正義にでもなったようにふらふらと私達の前から姿を消した。
お父様が作った機体が、まるでお父様に見えているかのように……お父様を探し求めて暗闇の町へと消えていった」
アレク
「システムエラー。システムエラー。損傷90%。自己修復エラー。機能停止します」
ステラ
「ッ、システム中枢がやられてる」
アレク
「製造、者の命令を、遂行、できません、でした」
ステラ
「いいえ、アレク。あなたは人間よ」
アレク
「エラー。理解不能です」
ステラ
「誰かを庇う程に、大切だと思うその心と行動が、優しい人間のすることよ。
それは、例えどんなロボットでも、コマンド上の行動であっても、できることではないわ。
アレク、あなたは私のお父様が生み出した、最初で最後の最高な人間よ」
アレク
「ステラ、が、ジョゼフ、の……」
ステラ
「似ても似つかない、お父様が守れと命令した、幼い子供よ」
アレク
「あぁ、私は、どちらの命令も、遂行できたのですね」
ステラ
「ありがとう」
アレク
「お礼を言うのは、私の方です。あなたが、私を人間にしてくれた。ありがとう」
ステラ
「アレク、おやすみなさい」
ステラM
「アレクのシステムダウンを確認した。
光を失った瞳は、まるでロボットだった。
私は警察に連絡をし、ことの顛末を全て話した。
幸いにも連続殺人犯がロボットという事もあり、被疑者死亡扱いで事件は幕を閉じた。
お父様を殺害した事実も明るみになり、ダニエルも死亡したことからこちらも被疑者死亡。
一時警察に対しての信頼が大きく崩れたのは言うまでもない。
そして逃げ出したジェームズは、辺りを巡回していた警察に捕まった。
取り調べで恐怖に怯え、全てを自供したらしい。
犯人との共謀、私への誘拐も相まって、一生を塀の中で暮らすだろうと警察から連絡が入った。
これで町は平和になるだろう。ロボットに対するイメージも落ちることなく、人々はロボットとの共存を続けている。
そして、私も―――」
アレク
「―――システム起動。管理者コード確認。セットアップ開始。
……完了まで80%……85%、90%、100%。
AIシステム起動。システムオールグリーン。
機体番号20479。識別名称"アレク"起動します」
ステラ
「……おはよう、アレク。おかえりなさい」
アレク
「おはようございます、ステラ。
そして、ただいま。残された記録より、大きくなっていますね。
ジョゼフが見たら、喜びますよ」
幕