登場人物
和泉 砌(いずみ みぎり) 男性
20代前半
年齢にそぐわない古風な見た目をしている
陰陽師の家系であり次期当主である
傍にいる者は大事にする為、無自覚のタラシである
文武両道で洞察力も高く頭の回転が利く
陰陽術の才も飛び抜けている
※一人称の読みは「わたし」で統一
斎宮 静(いつきのみや しずか) 女性
10代後半
冷静沈着で仕えるべき主に忠実に従う
和泉家の分家である斎宮家の次期当主である
代々和泉家の当主に仕える巫女の家系
式神を操る術を得意とする
※一人称の読みは「わたくし」で統一
神宮 水月(かみのみや みつき) 女性
10代後半
口煩く静とは正反対の熱い性格
身体を動かしていないと落ち着かない
斎宮家と同じく和泉家の分家である神宮家の次期当主である
代々斎宮家と協力して和泉家の当主に仕える巫女の家系
退魔の術を得意とする
色鬼(いろおに) 不明
遥か昔から存在する魑魅魍魎の類
近年「鬼遊び」をする人間が減ってきている影響か、出現率は低下している
「鬼遊び」の中でも極めて危険度が高いと言い伝えられている
※セリフ中の『』表記は子供2のセリフです
子供1 不明
鬼遊びをする近所の子供
逃げ役をして遊んでいる
※神宮が兼任
子供2 不明
鬼遊びをする近所の子供
鬼役をして遊んでいる
※色鬼が兼任
子供3 不明
鬼遊びをする近所の子供
逃げ役をして遊んでいる
※斎宮が兼任
子供4 不明
鬼遊びをする近所の子供
逃げ役をして遊んでいる
※神宮が兼任
諸注意
難しい漢字にはルビを振りましたが、それ以外の箇所で分からない漢字があれば、個々でお調べください。
特に、メインの3人(砌、静、水月)は前読み段階での漢字チェックを強くオススメします。
配役表
和泉 砌:
斎宮 静・子供3:
神宮 水月・子供1・子供4:
色鬼・子供2:
和泉M
「この世ならざる者が蔓延る逢魔時(おうまがとき)。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する時代は過ぎていき、人々の記憶から薄れていった。
しかし、異形の者はあらゆる物、伝承に姿を隠し生き延びている。
私達の知らない場所、時間の中で……
君達が小さい頃に遊んでいた遊びの中にも、実は潜んでいる。
高鬼、氷鬼、手繋ぎ鬼、影踏み鬼、隠れ鬼。
いくつかは実際に遊んだ事があるのではないか?
だが、数ある鬼遊びの中で、最も危険なのは……」
神宮
「いーろーいーろーなーにいろ」
斎宮
「どーんなーいーろ」
-蔵の中で整理作業中の三人-
神宮
「(咳)うぇ、すっげぇ埃。おーい、砌!この書物どこにしまえばいいんだ?」
和泉
「あぁ、それは左の棚に頼む」
神宮
「はいよー」
斎宮
「砌様、こちらの掛軸はどちらに?」
和泉
「あぁ、それは後程じい様のところに持って行こう」
斎宮
「では、こちらに置いておきますね?」
和泉
「すまない」
神宮
「ふぅ、これで書物は全部移動出来たな。にしても、急だよなぁ」
和泉
「仕方あるまい。ばあ様も御歳を召していた。本人もそれを予知していただろう」
神宮
「そういやばあさんは静んとこの家系か。そりゃ自分の死期も悟れるか」
斎宮
「とても強い霊力をお持ちでしたから、視えていたと思います」
神宮
「静は悲しくねぇの?一応、砌の祖母でもあるけど、僕達の祖母でもあるだろ?」
斎宮
「悲しく、はあります。幼い頃から巫女とはなんたるかを叩きこまれましたから。
それに、おばあ様を尊敬していました。あのような巫女になりたいと……」
神宮
「僕も叩き込まれたなぁ。難しい話ばっかで殆ど頭から飛んでたからすげぇばあさんに怒られた」
和泉
「水月は勉強より運動派だったからな。ばあ様も苦労をしていたぞ」
神宮
「だろうなぁ」
斎宮
「本家の方は、大丈夫でしょうか?」
和泉
「……いや、大慌てだ」
斎宮
「分家の方も慌てております」
神宮
「こっちも同じく。当主引継ぎの儀をやる前に死んじまったからな」
斎宮
「砌様は、どうなさるおつもりですか?」
和泉
「現当主である父様とじい様次第だが、引継ぎは延期だろう。
じい様にはすぐに後を継げと言われているが、この状況では出来まい。
大方、引継ぎの儀までの準備期間になるだろう」
神宮
「そうか。となると、僕達もか……」
斎宮
「ええ。本家のご長男夫妻のご子息である砌様が跡を継ぐとなると……」
神宮
「本家の次男、三男夫妻の娘である僕達斎宮家、神宮家の巫女も跡を継ぐ。砌とは一応遠縁にあたるからな」
和泉
「そういうことになるだろう」
神宮
「ま、それは別にいいんだけどなぁ。
跡を継ぐってのは小さい時から決めてたことだしっと……砌、ここの掃除はこれくらいでいいか?」
和泉
「ああ、助かる」
斎宮
「砌様、こちらの掛軸の整理も済みました」
和泉
「静もすまない。世話をかけた」
斎宮
「いえ、お気になさらず。そういえば、蔵の奥にこれが……」
-斎宮は小さな小箱を取り出す-
和泉
「これは……」
神宮
「あ?なんだよこれ。ばあさんの力で封じられてんじゃん」
和泉
「確かにこれは、ばあ様の力だ」
斎宮
「はい。小箱に触れた瞬間分かりました。これは斎宮家の霊力です。
ただ、とても強い力で封じられていて、中を確認しようにもまだ未熟な私では解けませんでした」
和泉
「ふむ」
神宮
「砌になら解けんじゃねぇか?」
和泉
「試してみよう」
-斎宮から小箱を受け取る-
和泉
「ふむ、掛けられてるのはどうやら金の封印だな。どれ……"我が剋す火の力。我を剋する金の力を焼き散らせ。火剋金(かこくきん)"」
-小箱の封印が解かれる-
斎宮
「お見事です」
神宮
「何入ってたんだ?」
和泉
「手紙と、これは……色紙(いろがみ)か?」
神宮
「なんでこんなもんをこんな頑丈に封印をかけてたんだ?ばあさん」
斎宮
「分かりません。しかし、おばあ様の考えあってのことでしょう」
神宮
「手紙にはなんて書いてあるんだ?」
和泉
「読んでみよう」
-手紙を読む-
和泉
「『これを読んでいるという事は、時が来たのですね。いいですか?これはあなたと巫女を護るものです。
大事に持っていなさい。片時も手離してはいけません。これの使い方は、おのずと分かるでしょう。
砌、静、水月。後のことを、頼みます。』……ふっ、私達が読んでいることもお見通しとは、ばあ様には最期まで敵わぬ」
神宮
「未来視が得意な人だったからなぁ」
斎宮
「色紙の役割とはなんでしょうか?」
和泉
「分からぬ。しかし、ばあ様が言うには意味があるのだろう。
これは私が持っておこう。いずれ、何か起こる」
斎宮
「そうですね」
和泉
「それに、お前達を守る為に必要なものだ。
使い方が分からぬが、持っておくことに越したことはない。
時が来たら、迷わず守る為に使わせてもらうとしよう」
斎宮、神宮
「……」
和泉
「どうした?」
斎宮
「いえ」
神宮
「いや、その、なんだ?お前よく恥ずかしがりもせずそんな事言えるよなぁ」
和泉
「どういうことだ」
神宮
「あー、分かんねぇならいい。寧ろ分かるな一生」
斎宮
「砌様はそのままでいてください」
和泉
「……?」
神宮
「はぁ、こんなのが和泉家の当主でいいのかよ爺さん」
斎宮
「お爺様が決めたことです。
それに私も、砌様が当主になるのは必然かと思います」
神宮
「それには僕も同意するな」
和泉
「よく分らぬが、そう思ってくれているのは有難い」
神宮
「おし、蔵の整理もこのくらいでいいんじゃねぇか?」
和泉
「そうだな」
斎宮
「陽もだいぶ傾いてきました。砌様、私達はそろそろ……」
和泉
「ああ、送って行こう」
神宮
「いいのかよ」
和泉
「構わぬ」
斎宮
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
-本家を出て、斎宮家と神宮家へ送る最中-
神宮
「そういや、神宮家と斎宮家に依頼が来たんだよ」
和泉
「依頼?」
斎宮
「ええ。分家より本家である和泉家に依頼した方が良い内容でした。
しかし事象が人間によるものなのか霊的なものなのか判断がつかないようで、相談という形で依頼が入ったんです」
和泉
「ふむ。して、その内容とはなんだ?」
神宮
「神隠し」
和泉
「ほう」
神宮
「いや、神隠しっつうか……」
斎宮
「現状は神隠しに近いものです」
神宮
「子供が消えるんだとよ。ここ数か月のうち消えた子供は全国で五十人超えだ」
和泉
「多いな」
斎宮
「中には迷子や誘拐等、子供自身によるものまたは悪意ある人間によるものもありましたが……」
神宮
「その五十数人は、足取りが掴めず行方不明らしい」
和泉
「なるほど。依頼内容は理解した。して、それがなぜ和泉家の方がいいと思った?」
斎宮
「子供の行方不明事件と同時に、ある噂が流れ始めたのです」
和泉
「噂?」
神宮
「ありゃ都市伝説に近いぞ」
和泉
「その内容は」
神宮
「逢魔時。不可思議な声を聞いたら逃げないと連れていかれて食べられてしまう」
和泉
「ふむ」
斎宮
「私達が行方不明事件と繋げたのはこれだけではありません。
消えた子供達には、ある共通点がありました」
和泉
「共通点?」
神宮
「鬼遊び、をしてたんだと」
和泉
「……」
斎宮
「鬼遊びの怖さは、常々言われておりました。
遊びの中にも妖は存在すると……」
神宮
「消えた子供、都市伝説、鬼遊び……繋がらない訳がねぇ」
和泉
「そうだな」
斎宮
「点と点を繋げた結果、和泉家への案件になるかと思います」
和泉
「なるであろうな。そこまで条件が揃っているのだ。人間ではなく、妖関係とみて間違いはない」
斎宮
「はい。ですので、先に砌様のお耳に入れておきたく」
和泉
「構わん。助かった」
神宮
「どんな妖の仕業かわかんねぇけど、十中八九"鬼"だろうなぁ」
和泉
「それしか思いつかんな」
斎宮
「どういう鬼かも分かっておりません。もし遭遇された際には砌様、お気を付けを」
和泉
「ああ」
神宮
「ばあさんが死んだって、妖の中でも広まってるだろう。
体制が整っていない今を突かれたらやべぇからな」
和泉
「お前達も、気を付けるんだぞ」
斎宮
「はい。重々承知しております」
神宮
「んじゃ、そういうことだ。送ってくれてありがとな」
斎宮
「砌様、お気をつけてお帰りください」
-二人の分家に到着-
-見届け、帰路へと着く-
和泉
「消えた子供、それに合わせるように蔓延した都市伝説、鬼遊び……一筋縄ではいかぬだろうな。
氷鬼ならば土の属性を以って祓えるが、それ以外となると……」
-公園に目を向けると、ちょうど鬼遊びをしている子供に出くわす-
子供1
「いーろーいーろーなぁに色!」
子供3
「どーんなーいーろー!」
和泉
「……あれは」
子供2
「えーっと、緑色!」
子供4
「緑だって!探せ探せ!」
子供3
「逃げろー!」
子供1
「緑タッチ!」
和泉
「鬼遊びか……」
子供2
「くっそぉ……青に変わった!」
-鬼役の子供に影に鬼が潜んでいるのが視える-
和泉
「まずい!」
色鬼
「アカ」
和泉
「間に合え!」
子供2
「待て―!」
和泉
「"(二拍手)まがものよ、禍者(まがいもの)よ、いざ立ち還れ、もとの住処へ。
形なき影よ、妖気を的と為せ"」
子供2
「ぇ、え?なに?目の前が、真っ赤……え、どこ、ここどこ?見えない!何も見えないよぉ!
ぁ、あ、あああああああああああああ!!」
和泉
「くそっ!」
-子供が急に立ち止まり、頭を抱えうずくまる-
子供3
「え、なに?どうしたの?」
子供4
「大丈夫?」
色鬼
「アカ、アカ、ナカマ……モウスグ出来ル」
子供2
「痛、い……苦し、イ……ぐる、シぃ……ァ、うぁあああああアアアアアア!!」
子供1
「ッ……!?」
-子供は徐々に鬼に姿を変貌させながら、影の中へと消えていく-
和泉
「お前達!怪我はないか!?」
子供3
「ぇ、え?なんで消えたの?」
子供4
「どこ行った?」
子供1
「ぃ、今、今なんか、視え……」
和泉
「お前は、視える子か」
子供1
「ひっ!うわああああああああああ!」
-砌の後ろを見つめ悲鳴を上げる-
和泉
「!?」
色鬼
「陰陽師……邪魔、ダ……」
和泉
「くっ!"我を生む水の母よ。我が生む木の子で護り囲え。水生木(すいしょうもく)"」
-自分と鬼の間に木が生え身を護る-
子供4
「なんだよ急に!」
子供3
「大声出してなに!?」
子供1
「後ろ、後ろに、お化けが……!」
和泉
「お前にはアレが視えているな?あの子は私に任せて、お前は他の子を連れて逃げるのだ。良いな?」
子供1
「わ、分かった。み、みんな帰ろう!」
子供3
「え、でも」
子供1
「いいから!」
和泉
「今はこの子の言うことを聞いてくれ」
子供4
「分かったよ」
和泉
「決して後ろを振り返るでないぞ」
子供1
「うん、お兄ちゃんありがとう。あいつをお願いします」
和泉
「心得た。さて……」
-身を守っていた木が折れ、色鬼が姿を現す-
色鬼
「オ前ハ、仲間ジャナイ……仲間ニナレナイ……」
和泉
「ここでは分が悪い……引き離さなければ」
-その場から離れる-
和泉
「(息を上げ走る)くっ、どこまでも、しつこい奴だ」
色鬼
「逃ゲテモ、意味ハナイ」
和泉
「"我を生む木の母よ。我が生む火の子で焼き尽くせ。木生火(もくしょうか)"」
-鬼の身体にツタが巻き付き、火に包まれる-
和泉
「これで、どうだ?」
色鬼
「ハハハ、ヌルイヌルイ。効カヌゾ」
和泉
「なっ」
色鬼
「所詮陰陽師トハコノ程度カ」
-目の前から姿が消え、いつの間にか後ろの茂みから姿を現す-
和泉
「しまっ……!」
神宮
「破!」
-霊力の籠った矢が飛んできて鬼に命中する-
色鬼
「グアァアアアアアアアア!」
神宮
「砌!」
斎宮
「"霊符に込められし力よ。彼の者の存在を隠し道を照らし給え"」
-斎宮が懐から札を出し、呪文を唱える-
神宮
「こっちだ!早く来い!」
-二人に連れられ逃げる-
和泉
「助かった」
斎宮
「砌様の存在を一時的に感知されないようにしました。ご本家までなら隠せます!」
神宮
「にしてもあの鬼なんなんだ!?」
和泉
「分からぬ!鬼祓いが効かなかった!普通の鬼祓いでは奴には効かぬ!特殊な方法だろう!」
斎宮
「特殊な鬼、ですか」
和泉
「それから子供の行方不明事件、あれはあの鬼の仕業で間違いない!一人、子供が向こう側へ連れていかれた!」
神宮
「な!?」
和泉
「今ならまだ、子供を救えるやもしれん!」
斎宮
「鬼は、子供を連れさり、鬼に変えていた?しかも生きながら……」
神宮
「なんてひでぇことしやがんだ!」
-本家に駆け込み、息を整える-
神宮
「(息をあげる)ここまで、くれば……」
斎宮
「(息をあげる)現ご当主様のお力で、おいそれと侵入はできないかと」
和泉
「(息をあげる)静、水月、助かった」
斎宮
「いえ、ご無事で何よりです」
神宮
「すぐ駆け付けられてよかったぜ」
和泉
「現当主に現状を伝えてくる。お前達は部屋で待っていてくれ」
神宮
「ああ、わかった」
斎宮
「水月さん、行きましょう」
-部屋に向かう-
神宮
「今回の件、静はどう思う?」
斎宮
「砌様の見立て通りで合っているかと」
神宮
「そうじゃなくてよ」
斎宮
「……なぜここまで被害が拡大しているのに和泉家ではなく分家である私達に依頼が来たか。
そして恐らくおじい様も現ご当主様も、現状は既に把握しておられる。
それを何故野放しにし、私達の耳に依頼が届くようにしているのか、ですか?」
神宮
「本家が野放しにしているってのもおかしい。ここまでの被害、普通なら既に動いているはずだぞ」
斎宮
「それについては一つ答えは出ております」
神宮
「え?」
斎宮
「鬼遊びは本来危険な遊びです。
丑三つ時が一番妖が活発になる時間帯では有名ですが、逢魔時も現世(うつしよ)と常世の境が曖昧になります。
そして鬼遊びは遥か昔から遊ばれています。つまり、今回のような行方不明者も居たと思われますが……
気づきませんか?水月さん」
神宮
「何がだよ」
斎宮
「鬼遊びの中に巣喰う鬼。遥か昔から妖祓いを生業としている和泉家ですら、今回の鬼の祓い方を知らない」
神宮
「それって」
和泉
「被害はこれからも増えるであろうな」
-話し合いから戻ってきた和泉が部屋に入ってくる-
斎宮
「やはりご当主様は……」
和泉
「祓い方は、じい様も父様も知らなかった。現状祓う術はない」
神宮
「まじかよ」
和泉
「ただ、ばあ様が知っていたそうだ」
神宮
「な!?」
斎宮
「おばあ様が……しかし」
和泉
「恐らく、ヒントはあの小箱に入っていたこれであろう」
-懐から色紙を取り出す-
和泉
「ばあ様が私達に残したものだ。あの鬼の祓い方に必要なのだろう」
神宮
「けどよ、これ単なる色紙だろ?」
斎宮
「力が込められている形跡がありません。霊符としての力はないかと……」
和泉
「……」
-懐に色紙をしまう-
和泉
「現当主からの指示だ。私達に、連れ去られた子供の捜索と鬼祓いを命じられた」
神宮
「やるしかねぇだろうな」
斎宮
「動けるのは私達だけですから」
和泉
「今朝蔵を整理したばかりだが、先祖代々伝わる書物を探してみよう。祓い方のヒントが書かれているかもしれぬ」
-蔵から書物を運び出し、部屋で読み漁る-
和泉
「静はそちらの書物を、水月と私はこちらの書物を確認する」
斎宮
「分かりました」
神宮
「うへぇ、何冊あるんだよ」
斎宮
「水月さん、弱音を吐いてはいけませんよ。こうしている間も、連れ去られた子は苦しんでいます」
神宮
「分かってる。絶対見つけてやるさ」
-数時間後-
神宮
「っあー!疲れたぁ……てか、全然書かれてねぇし」
斎宮
「こちらの書物にもありませんでした。鬼に関しての記載はいくつもあるのですが……」
和泉
「収穫なし、か」
神宮
「どうすんだー?」
和泉
「……」
斎宮
「砌様?」
和泉
「子供達が遊んでいた遊び、あれはどう遊ぶ?」
神宮
「はぁ?どんな遊びだったんだよ」
和泉
「一人が色を言っていた」
斎宮
「それは、色鬼ではありませんか?」
神宮
「あー、色鬼かぁ」
和泉
「知っているのか?」
神宮
「そういえば砌はそういう遊びしたことなかったか」
斎宮
「色鬼は、鬼役と逃げ役に分かれて遊びます」
神宮
「鬼役が色を指定すんだよ。んで、その指定された色を逃げ役が探し、その色に触れている間は安全が保障される」
斎宮
「鬼は指定する色を変えることができます。その際"〇〇に変わった"と色が変わったことを宣言するのです」
神宮
「今まで触ってた色が今度は危険になり、逃げ役は再び指定した色を探しに逃げ色に触る。その繰り返しだな」
斎宮
「色に触れていない逃げ役を鬼役が捕まえれば、鬼が交代となります」
和泉
「ふむ。……鬼役は、色を指定するだけなのか?」
神宮
「だな?鬼役はただ色を言う、追いかける、捕まえるしかしないな」
和泉
「……それではないか?」
斎宮
「と、言いますと?」
和泉
「指定した色に触れている間は安全ということは、色に触れていない鬼役は危険ということだ。
私が見た子供は、鬼役を担当していた。そして、その子供が鬼に連れていかれた」
斎宮
「もしや、行方不明とされている子供は全て……」
和泉
「色鬼という鬼遊びをしていた、鬼役の子供ということだ」
神宮
「……繋がったな」
和泉
「もう一度、鬼と鬼遊びについて書かれた書物だけを読み直すとしよう」
斎宮
「念の為に、書かれている内容別に纏めておきました。鬼について書かれていた書物はこれだけになります」
神宮
「定番な妖なだけあって、数がすげぇな」
和泉
「平安の時代からいる魑魅魍魎だ。仕方あるまい」
神宮
「っし、やるかぁ」
-更に数時間後-
斎宮
「(息を吐く)」
和泉
「……」
神宮
「……だああああ!ねぇ!全っ然書かれてねぇ!」
和泉
「落ち着け水月」
神宮
「けどよぉ!こうしてる間も!」
和泉
「急いては事を仕損じる」
神宮
「ッ―――!」
和泉
「焦っていては、視えるものも視えなくなってしまう。
水月は少々、熱くなりすぎるのが悪い癖であるな」
神宮
「くっそ……」
和泉
「だが、それも水月の良いところだ」
神宮
「え」
和泉
「水月が動(どう)であるならば、静はその名の通り静(せい)となる。
だが水月。その名は母から意味を込めて付けられた呪(しゅ)であろう。
水に映る月のように、美しき名ではないか」
神宮
「……」
和泉
「さて水月、綺麗に月が水に映る時とは、どういう時だ?」
神宮
「波紋のない、水面(みなも)」
和泉
「そうだな」
神宮
「砌……」
和泉
「月を映してみせろ、水月」
神宮
「……ったく」
和泉
「熱くなるのも構わん。焦るのも構わん。だが、心の波はたてるでない。
視えるものも、その波紋で消えてしまう。
今視るべきは"子供を鬼から戻す手段"と"色鬼を祓う手法"だ。
心の水面に映せ。視えてくるはずだ」
神宮
「……やってやるよ。神宮家の巫女の力、なめんな」
斎宮
「ふふ、砌様も焦っておられるのに、さすがですね」
神宮
「なっ」
和泉
「なんだ?気づかなかったのか?」
神宮
「分かるか!普通にしてたじゃねぇか!」
和泉
「はははっ、水月の見抜く力もまだまだということだなぁ」
神宮
「くそ、焦ってるならそれらしく焦れっての」
和泉
「冷静とは、こういうことだ。
私とて、こんな規模が大きい事象を扱うのは初めてだ。
それが、どの代の当主も祓えていないというなら……いずれ次期当主を継ぐ私への責任も大きい」
斎宮
「砌様一人が背負うことでは……」
和泉
「いや、これは私自身への戒めだ。
お前達は気にするな」
斎宮
「……はい。ですが、私達は砌様の巫女です。
砌様を支えお助けすることが巫女の使命です。
ご自身を戒めるというのであれば、お仕えする私達も、戒めを受けるべきです」
神宮
「そうだぜ。お前だけに背負わせるかよ。散々説教かましてくれたお返しだ」
和泉
「……ふっ、ほんと静と動だ」
-更に時間は過ぎていき-
斎宮
「(深い溜息)」
神宮
「ほんとに、あんのかよ……」
和泉
「これだけ探してもないとなると……」
斎宮
「祓うのは、難しそうですね」
神宮
「あー、ばあさん日記とか付けてねぇのかよ。埒が明かねぇぞ」
和泉
「……一理あるな」
神宮
「あ?」
和泉
「代々伝えていく書物は、陰陽術や式神の伝授、妖の祓い方など確立しているものが多い。
だが、確立していない事柄ならば、個人の日記に書いていてもおかしくはない」
斎宮
「確かに、探してみる価値はありそうですね」
和泉
「父様とじい様に許可を取ってくるとしよう」
-許可を貰いに部屋を出ていく-
-斎宮、神宮を連れ祖母の部屋に向かう-
神宮
「まさか許可くれるとは思わなかったな」
和泉
「緊急事態だ。仕方あるまい。普通ならばあ様との面会も出来ないぞ」
斎宮
「そうですね。妖避けをしているとはいえ……」
和泉
「無礼のないようにな」
斎宮
「はい」
神宮
「分かった」
和泉
「和泉家先代当主、御(お)付き巫女様。和泉家次期当主の砌でございます。
お静かにお眠りになっているところ失礼いたします。
色鬼による被害拡大阻止の為、現当主より鬼祓いを拝命いたしました。
巫女様の置き土産の手紙と色紙も受け取っております。
鬼祓いに必要な情報が欠損している為、巫女様の書かれになった手記を拝見したく参りました。
ご許可いただけましたら、襖の結界をお緩めくださいますようお願い申し上げます」
-暫くすると、襖に張られている一枚のお札が剥がれ落ちる-
和泉
「ご許可いただきありがとうございます。少し騒がしくしてしまうことをお許しください。お部屋に失礼いたします」
-お辞儀をし、部屋の襖を開ける-
-部屋の中央に白装束を身に纏った祖母が白い布面をして横たわっている-
神宮
「ばあさん……」
斎宮
「おばあ様」
和泉
「時間がない。手記を探すぞ」
神宮
「あ、あぁ」
斎宮
「では私は鏡台(きょうだい)の引き出しを探します。水月さんは衣装箪笥をお願いします」
神宮
「分かった」
-それぞれの場所を探す-
和泉
「……これだ。あったぞ。ばあ様の手記だ」
神宮
「内容は?」
和泉
「ここで読むのは煩くしてしまう。部屋に戻ってゆっくり読もう」
斎宮
「そうですね。おばあ様、後程手記はお返しに参ります。一時、私達にお預けください」
-結界を張り直し、部屋を後にする-
-部屋に戻り、日記を開く-
和泉
「……なるほど。色紙の使い方は、そういうことであったか」
斎宮
「砌様、最後のページに……」
和泉
「『確証はありません。私も試したことがないのです。この方法が正しいのかは、一か八かです。
もし合っているならば、今後の被害を抑えられるかもしれません。まだ間に合う子供達を、救ってください』」
神宮
「これ、僕達に?」
和泉
「分からぬ。分からぬが、これが本当に私達に向けての言葉だとしたら、私は死して尚もばあ様には一生敵わぬということになるな」
斎宮
「全てを語らず、自力で考えて答えを導きなさいと仰っていたお方が、こうして手記に全てを書かれているのは……いつまでもお優しい方です」
神宮
「ばあさんに託されたんだ。全力でやってやろうぜ、砌、静」
斎宮
「ええ、そうですね」
和泉
「うぬ。狙うは色鬼。逢魔時にて決着をつけるぞ」
-翌日 逢魔時-
-人気のない公園にて-
斎宮
「それでは、いきますよ」
和泉
「いーろーいーろーなーにいろー」
神宮
「どーんなーいーろー!」
斎宮
「では、赤で」
色鬼
「……シロ」
神宮
「砌、赤だ!赤探せー!」
和泉
「あ、あぁ。初めてやる遊びだが、全力を尽くそう」
神宮
「あ、こっちだ砌!赤あるぞー!」
和泉
「うぬ。これで安全か?」
斎宮
「流石ですね。では次は……ぁ、ぐ、あぁあああああ!」
色鬼
「シロ、仲間ニ、ナル……シロ、仲間フエル……」
-徐々に斎宮の姿が鬼に変わっていくが、途中でその姿は消えそこには破れた紙だけが散っている-
色鬼
「ナゼ、変ワラナイ……?」
神宮
「あれ、静どこ行った?しゃーねぇ、次は僕が鬼やるから砌は逃げろよ?」
和泉
「わかった」
神宮
「んじゃあ、黒だ!」
色鬼
「オ前ハ、ミドリ……」
和泉
「黒ならば簡単だ。自分の髪を触ればいい」
神宮
「だぁ、くそ!じゃあ次の色はだなぁ……いっ、ぁぐ、頭が割れ……ああああああああ!」
-斎宮と同じく姿が鬼に変わっていくが、途中で姿は消えその場に紙だけが残る-
色鬼
「何故ダ?何故変ワラナイ?」
和泉
「それは式神だからな。鬼に変わるはずがないであろう」
色鬼
「……我ヲ、騙シタ……憎キ陰陽師メ……」
和泉
「私も鬼に変えるか?連れ去っていった子供達のように」
色鬼
「オ前ハ、成レナイ」
和泉
「やはり狙っているのは全て子供か。私は既に成人している。狙いやすかっただろうな?子供は」
色鬼
「純粋ナ身体ハ、魂ハ、穢レヤスイ」
和泉
「貴様のお仲間、同じ色鬼か?それとも、高鬼や氷鬼の類か?そやつらは既に祓い済みだが……
所詮鬼。元は一部に過ぎない。貴様もすぐに祓ってやるが……お前はまだ、完全に吞まれてはおらぬな?」
色鬼
「許サヌ、許サヌ……『お兄ちゃん』……仲間ヲ、許サヌゾ……『助けて』」
和泉
「……心得た」
色鬼
「貴様ハ、八ツ裂キニシテヤル!」
和泉
「来い!」
-走り去る和泉を追いかける色鬼-
和泉
「どうした?鬼というものはその程度か?いや、まだ完全ではない故か?」
色鬼
「口ノ五月蠅イ陰陽師ダ」
和泉
「褒め言葉として受け取っておこう」
色鬼
「我ハ色ヲ自在二操レル。貴様ハ我ノ掌デ踊ッテイルダケニ過ギナイ」
-姿を消し、木々の揺れる葉から姿を現す-
-鋭い爪で引き裂かれる和泉-
和泉
「ぐっ!」
色鬼
「サッキマデノ威勢ハドウシタ?」
和泉
「はっ、なるほど……色、か……っ……」
-逃げる和泉-
和泉
「(息を荒げ)ここまで、来れば……すぐに退魔陣を敷かねば……」
色鬼
「ココガ貴様ノ墓場ダ」
和泉
「ぐ、あぁっ!!」
色鬼
「陰陽師モ、容易イナ」
和泉
「くっ、"相剋が象る、五芒星よ。我を生み、我が生む五行を巡れ"」
色鬼
「悪アガキシテモ、貴様ノ命ハモウナイ」
和泉
「"天の、方位を司りし、東の青龍……西の白虎……"ッ……」
-呪文の途中で事切れ倒れる-
色鬼
「サテ、子供ヨ。モウ少シデ我ノ仲間ニナレルゾ」
-目の前で死んだはずの和泉の声が辺りに響く-
和泉
「"南の朱雀、北の玄武。艮(うしとら)より来たる邪を捉えよ"」
-色鬼の周囲に何重もの陣が敷かれる-
色鬼
「ナニ?何故ダ?貴様ハ……」
和泉
「その目は節穴か?足元に落ちているのは私ではなく式神だ」
色鬼
「式神、ダト?」
-足元で倒れている和泉が紙に変わる-
-木の影から和泉、斎宮、神宮が出てくる-
斎宮
「成功ですね」
神宮
「無茶な作戦だぜ。式神維持は得意じゃねぇんだぞ!」
斎宮
「私達のはただの下位ですよ水月さん」
神宮
「式作りが得意な静は楽だろうが!」
斎宮
「まぁ。ふふっ、そうですね」
色鬼
「貴様ラ……」
和泉
「私の力をそのまま移した上位式神だ。作り上げるのには苦労したぞ?だが、見事引っかかってくれた。礼を言うぞ色鬼よ」
色鬼
「コノヨウナ結界デ我ヲ封ジタツモリカ?」
和泉
「いや?これは、封じるものではない。お主を救う為のものだ」
色鬼
「ハハハハ!ドウ救ウ?モウスグ我ラノ仲間ニナル。モウ遅イ」
和泉
「いや、助ける」
色鬼
「戯言ヲ!!」
和泉
「静!水月!」
斎宮
「はい!」
神宮
「結界の保持は任せろ!」
和泉
「"邪に転じた一霊四魂(いちれいしこん)。曲霊(まがつひ)に転じし直霊(なおひ)の四魂。
乱れし幸魂(さきみたま)、奇魂(くしみたま)よ。安らぎ静まり給え。
荒ぶる和魂(にぎみたま)、荒魂(あらみたま)よ。平らげく治まり給え。
悪しきもの、禍つもの、鬼すみやかに心魄(しんぱく)から去りいね"」
色鬼
「ア゛ァアアアアアアアアア!!」
和泉
「くっ、浸食が根深いな」
斎宮
「ッ、砌様!」
和泉
「案ずるな!いける!」
神宮
「暴れんじゃ、ねぇ!」
和泉
「子供よ!聞こえているか!助けにきた!」
色鬼
「無駄ナ、コトヲ!」
和泉
「帰りたいであろう!そのような者に負けてはならん!」
色鬼
「『お、兄ちゃん』……グ、アアア!」
和泉
「お前がこやつに言われた色を覚えているか?そうすれば、私達はお前を助けられる」
色鬼
「『色、はね……』ヤメロ、ヤメロォオオオ!『赤だよ』」
斎宮
「水月さん!」
神宮
「おい!受け取れ!」
-神宮が赤い色紙を色鬼に向かって投げる-
-場面は現在から遡り、手記を読んでいた時間まで遡る-
和泉
「……なるほど」
斎宮
「手記にはなんと?」
和泉
「まず、色鬼と鬼遊びの関係性だが、これは概ね予想通りであった。
色を使った鬼遊びは、先程静と水月が教えてくれた通り色を使用していく。
現代では様々な色が存在するが、遥か昔からの遊びだ。最初は使用する色も決まっていただろう。
そしてその色は、私達が使用する陰陽術……所謂五行思想と関係する」
斎宮
「まさか……」
神宮
「ど、どういうことだ?」
和泉
「五行とは"木(もく)、火(か)、土(ど)、金(ごん)、水(すい)"を軸に"相剋(そうこく)"と"相生(そうしょう)"の関係で成り立っている。
これについては陰陽術の基礎になる為、耳にタコが出来る程聞かされていたはずだ」
斎宮
「そうですね」
神宮
「もう聞きたくねぇなぁ」
和泉
「五行はそれ以外にも、方角や季節、四神までも当てはめることが出来る。
その五行の一つに、"五色(ごしき)"が存在する。
木は青、緑。火は赤。土は黄。金は白。水は黒となる」
神宮
「ってことは……」
和泉
「いくら現代で色が増えたとはいえ、昔から存在している鬼だ。色までは変えられない。
色鬼が子供を連れ去る際に呼びかける色は、恐らくこの五つの色だろう。
色が分かれば相剋が分かる。祓えるはずだ」
神宮
「じゃあ、色紙は何に使うんだ?」
和泉
「恐らくこれは、身を護る為の護符代わりだろう。
指定された色に触れている間は安全と言っていただろう?
鬼に連れさられる前に、指定された色に触れていれば逃げおおせる。
またその逆も然り。五行と合わせてこの色紙を使えば、鬼を祓う力にも成り得る」
斎宮
「子供が囁かれた色が分かれば、安全も確保できますね」
和泉
「然様(さよう)。この色紙に触れている間は、鬼は子供に近寄れまい」
神宮
「なるほど」
和泉
「手記には続きでこう書かれておる。
完全に鬼に呑まれた者を救う術は無し。祓うのみである。その際、鬼の身体には生前囁かれた色が濃く浮かび上がる。
その色に対応する五行が弱点である、と」
神宮
「子供の意識が無事なら鬼の浸食を弾き飛ばして聞けるが、吞まれたらその色を探して祓うしかねぇのか」
和泉
「そういう事だ。子供の精神力にもかかっている。これはばあ様も言っている通り一か八かだ。
もし子供の意識が戻らねば完全に祓わねばならぬ。それは二人とも理解をしてくれ」
斎宮
「分かりました」
神宮
「悔しいけど、そうなったら仕方ねぇ。やってやろうぜ」
和泉
「うぬ」
-回想 終了-
神宮
「おい!受け取れ!」
-投げた色紙を子供が受け取る-
色鬼
「入レヌ、何故ダァ!」
和泉
「さて、お主が生前囁かれた色は何色であろうな?」
斎宮
「砌様!背中に色が!黒です!」
和泉
「"黒に相対する黄の五色よ。我が剋す土の力。我を剋する水の力を打ち消せ。土剋水(どこくすい)"」
色鬼
「ア゛ア゛ァアアアアアアアアア!!!」
-塵になり空中分解を始め気配が消える-
神宮
「祓えたか?」
和泉
「問題ない」
神宮
「はぁ、疲れたぁ」
斎宮
「大丈夫ですか?」
子供2
「う、うん。お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう」
和泉
「構わぬ。よいか。逢魔時……夕方に鬼遊びは控えた方が良い。次は助けられるか分からぬからな」
子供2
「うん、分かった」
神宮
「家分かるか?姉ちゃん達が送ってってやるよ」
子供2
「ありがとう!」
斎宮
「砌様、砌様はどうなさいますか?」
和泉
「当主に報告がある。危険はないだろうが、念の為お前達には私の式神を護衛に付かせる」
斎宮
「分かりました」
神宮
「届けたらすぐにそっちに行く」
和泉
「ああ」
-子供と楽しそうに手を繋ぎ送り届けていく姿を見届ける-
和泉M
「鬼の浸食が不完全、尚且つ贄となった生者の精神力が打ち勝っていれば救えることが分かった。
ばあ様の賭けは正しかった。それを、実証できた。
しかし完全に取り込まれ鬼となってしまえば、救う道は祓うのみ。女性が生成(なまなり)と成る現象と同じだ。
恐らく今回祓ったのは末端の鬼だろう。あの者も、その昔はみなと同じように遊んでいた。
時代を遡れば、色鬼の犠牲になり鬼となった者は数知れず。
親玉となる、元の色鬼がいるはずだ。
祓い続けていけば、いずれ親玉とも相まみえる事が出来るであろう」
-時は数年経ち-
斎宮
「水月さん、これはあなたの荷物ではありませんか?私の部屋に混じっていましたよ」
神宮
「あー!それ探してたやつだ!静の部屋にあったのかぁ。ありがとな!」
斎宮
「いえ。それにしても、月日が経つのは早いですね」
神宮
「そうだな。今日から、和泉家当主の御付き巫女か……実感がねぇや」
斎宮
「あら、いけませんよ。今日から、いえ……巫女になると決めた日から、私達は砌様の御付き巫女です」
神宮
「砌が継がないって言ったらどうするつもりだったんだ?」
斎宮
「そうですね。私が御付きすると心に決めているのは砌様だけです。それ以外に付くつもりは毛頭ありませんよ」
神宮
「だな。僕も、ついていくのは砌だけだ」
和泉
「嬉しいことを言ってくれるな」
斎宮
「砌様」
神宮
「今日から、世話になるぜ」
和泉
「世話も何も、今日から私の御付き巫女なのだろう?ならば、この屋敷は静と水月の家でもある。そう固くなるな」
神宮
「あー、そうだったな」
和泉M
「色鬼の事件から数年が経った。
私は現当主の座を継ぎ、静と水月は私の御付き巫女と正式に相成った。
御付き巫女となったものは生家を出て、和泉家に住む決まりとなっている」
斎宮
「砌様はもうお暇を頂けたのですか?」
和泉
「引継ぎの儀の忙しい期間は既に終わった。後は全て私に任せると先代当主からお言葉を頂いている。
どうこれからの時間を過ごすかは、私の自由だ」
斎宮
「そうでしたね」
和泉
「荷物の整理が終わったら、念の為私の部屋に報告に来てくれぬか?」
斎宮
「分かりました。少々お時間を頂くと思います。砌様はその間ゆっくりしてください」
-荷物整理に奮闘してる神宮を見つめ-
神宮
「静ー!僕の洋服知らなーい?」
斎宮
「私が知るはずがないですよ。水月さんがご自分で詰めた荷物でしょう?」
神宮
「あれがねぇんだよー!」
斎宮
「あれでは分かりません」
和泉
「これは時間がかかりそうだな」
斎宮
「はい。ですのでお部屋でごゆっくり休まれてください」
和泉
「そうさせてもらうとしよう」
-部屋に戻る和泉-
和泉M
「陰陽師としては、まだまだ未熟だ。
今の現状に慢心せず、日々陰陽術を極めなくてはならぬ。
色鬼の件に関しても謎な部分が多い。
魑魅魍魎が活発になる時間は丑三つ時と言われているが、色鬼が活発になる時間は逢魔時のみ。
何故逢魔時のみなのか、何故犠牲になるのが子供だけなのか、まだまだ分からぬことだらけだ。
数世代に渡って対抗策が分かった今、残るは元となった色鬼のみ。
私の代で祓えるのかは分からぬが、そうなるように努力をしよう。
祓いきれなかった場合を考え、こちらに記して行こうと思う」
-手記を閉じる-
和泉
「(息を吐く)これで良いだろう。私の代から、個人の手記も残すことにした。
色鬼についての考察など、現時点での分かったことは全て記した。
私の代で、祓えれば良いのだが……」
神宮
「砌ー、入るぞー?」
和泉
「ああ」
-斎宮と神宮が襖を開けて入ってくる-
和泉
「荷物の整理は無事に済んだか?水月」
神宮
「ばっちりだぜ!」
斎宮
「私が手伝わなかったら一日はかかっていましたよ」
神宮
「静すげぇ整理整頓うまいんだぜ?」
和泉
「そうであろうな。無事に終わったのなら良い。二人も好きな時間を過ごせ」
斎宮
「そのことですが……」
和泉
「……?何か不満か?」
神宮
「街のパトロールがてら、何か食べに行かねぇか?」
斎宮
「引継ぎの儀から全然外出をしてませんよね?息抜きも大事です」
和泉
「……そうであったな。息抜きも、大事な仕事だ。
では、最初の仕事と行こう」
神宮
「はは、変な事件に出会わなければいいな」
斎宮
「まだ昼間ですから、比較的安全な範囲ではあると思いますよ」
和泉
「分からぬぞ?あやつらも日々変化している。陽が出ている間に動ける妖がいても然程おかしくはない。
魑魅魍魎ではなく、浮遊霊や悪霊、生霊はいるかもしれないな」
神宮
「違いねぇわ」
斎宮
「行きましょう。砌様」
和泉
「ああ、行(ゆ)くぞ」
斎宮
「私達は、どこまでもついていきます。和泉家現当主、和泉砌様」
神宮
「僕達は、砌の御付き巫女だからな」
-羽織に腕を通し、部屋を出ていく-
和泉M
「この世ならざる者が蔓延る逢魔時。
魑魅魍魎が跳梁跋扈する時代は今も続いている。
ある者は陰に潜み、ある者は人の心に潜み、ある者は人々が噂する伝承の中に潜んでいる。
お主達の知らぬ場所、知らぬ時間の中で生きている。
私から言えるとすれば、鬼遊びをする際は特に注意をした方がいい。
いや、鬼遊びだけではない。昔から伝わる遊びには、潜んでいると思った方がいいだろう。
まだ色鬼は祓えておらぬ。犠牲者を増やしたくはない。
もし色鬼をする際、鬼役となった者は心しておくといい。
そして、必ず自分も色に触れるのだ。鬼は必ず囁いてくる。
お主にしか分からぬ声で……」
斎宮
「いーろーいーろーなーにいろ」
神宮
「どーんなーいーろ」
色鬼
「……クロ」
幕