登場人物
氷雨(ひさめ) 不問
年齢、性別共に不明
冷静沈着
いつも鎌縛に振り回されている
鎌縛(れんは) 不問
年齢、性別共に不明
氷雨の相棒
上から目線でお喋りな上うるさい
鎌(大小自由、持ち手の先に鎖がある)に姿を変えることが出来る
夢病(むびょう) 不問
年齢、性別、姿形共に不明
患者の夢に巣食う異形の存在
ナレーション 不問
ニュースキャスター
以下"N"と表記
※兼役
子供 不問
夢病に侵された患者
※兼役
配役表
氷雨:
鎌縛:
夢病:
N・子供:
-プロローグ-
氷雨
「鎌縛」
N
「臨時ニュースです」
鎌縛
「ああ?」
N
「世間を騒がせていた"夢病"を患っていた患者が、突然目を覚ましたとの事です」
氷雨
「"喰らえ"」
N
「"夢病"とは、西暦3400年から突如流行した病です。
発病した患者は何の前触れもなく眠り続けます。
初めて発症したのは10歳の女の子でした。
数多の医師が診察をしましたが原因不明、感染経路不明と診断しました。
診察に携わった医師達は不治の病"夢病"を病名とし、学会に報告しました」
鎌縛
「他愛もねぇなぁ?もう少し楽しませてくれよ」
氷雨
「鎌縛、帰るよ」
鎌縛
「おう」
N
「この夢病ですが、発症した患者は不思議な事に眠り続けるだけで他にはなんの異常も見受けられないとの事です。
健康状態も良好で、何も飲まず食わずなのに検査の結果はどれも正常値だということでした」
鎌縛
「いい腕してるなぁ?」
氷雨
「……」
N
「目覚めた患者は3402年に発症し眠り続けていた15歳の男の子です。
発症した当時のまま、記憶もそのままに目を覚ましたようです」
氷雨
「……いつまでやればいい」
鎌縛
「いつまででも?」
N
「長い間医師が"治療不可"としていた夢病患者が、なぜ西暦3425年の今突如目を覚ましたのでしょうか。
夢病を研究している機関の担当者は"原因不明"と答えております」
氷雨
「……戻るぞ」
鎌縛
「忘れんなよ?」
氷雨
「……分かってる」
N
「目覚めた患者によると、何か眩い光が暗闇を切り裂いた、とはっきりと答えたそうです。
夢を見ていただけだろうと、医師は見解しております」
鎌縛
「まだまだいるぜ?」
氷雨
「……狩ればいいんだろう?全部」
鎌縛
「ああ。それが、俺様が選んだ"夢掃士(むそうし)"であるお前の仕事だ」
N
「患者の両親は、とにかく目覚めてくれて嬉しい、とインタビューに応えたそうです。
長年苦しめられていた夢病ですが、これをきっかけに、何かの手掛かりが見つかる事を我々も願っております」
氷雨
「……永い眠りから、解放してやる」
鎌縛
「くくっ、さぁ……」
氷雨
「……起きろ」
-とある部屋の一室-
鎌縛
「おい氷雨ぇ、ちゃんと丁寧にやれよー?」
氷雨
「自分でやれよ」
鎌縛
「嫌だね」
氷雨
「……髪の手入れくらい」
鎌縛
「艶々な方が見栄えいいだろぉ?」
氷雨
「お前が言うか。ほら、これでいいだろう」
鎌縛
「おー!いいじゃねぇか!この滑らかな髪質!いいねぇ!」
氷雨
「はぁ、そう見ると女だよなぁ」
鎌縛
「あん?女じゃねぇよ」
氷雨
「男か?」
鎌縛
「脱いでやろうか?」
氷雨
「いい。どっちも付いてるの知ってるから」
鎌縛
「くくっ、ならそんな野暮な事訊くんじゃねぇよ。
俺様を性別なんて括りに入れるな」
氷雨
「それ言ったら僕だって同じじゃん」
鎌縛
「お前は、見る奴が決める。お前は男にもなれるし女にもなれる。
向こうが男と思えば男。女だと思えば女。便利だな?」
氷雨
「……もう本当の性別すら忘れた」
鎌縛
「だろうなぁ?ま、そんなことは俺様にとっちゃどうでもいい。
さぁ!次だ氷雨!俺様の服を選べ!」
氷雨
「(嫌そうに)えー」
鎌縛
「次どれ着てく!」
氷雨
「いつものでいい」
鎌縛
「見栄えよくするのに大事だろ」
氷雨
「今更服とかどうでもいいんだけど」
鎌縛
「いいからほら!選べ!俺様の為に!」
氷雨
「……ほんと面倒だよなお前」
鎌縛
「あん?俺からしたらお前も充分面倒……」
-キーンと耳鳴りのような音が鳴り響く-
鎌縛
「……氷雨」
氷雨
「分かってる。……"夢門(むもん)よ開け"」
鎌縛
「"夢道(むどう)よ魅せろ"」
氷雨
「"夢病に繋げ"」
-耳鳴りが一層強くなる-
-目の前に門が現れ、開き、暗闇へ伸びる道が現れる-
氷雨
「(殺気を向けられたじろぐ)くっ」
鎌縛
「へぇ?扉を開けられた事に気づくとはな」
氷雨
「……久しぶりだな」
鎌縛
「普通は扉を開けられた事になんて気づかねぇぞ」
氷雨
「狩れるのか?」
鎌縛
「ああ?"狩れるのか"、じゃねぇんだよ。
お前は、"狩る"しかないんだ」
氷雨
「……」
鎌縛
「しくじんなよ?久しぶりの大物だぞ」
氷雨
「お前もな」
鎌縛
「はっ、上等だ。
んじゃ、魅せてもらおうか。お前の戦いぶりを」
氷雨
「……行くぞ」
-扉の中に入る-
氷雨M
「"夢病"とは、夢を喰らう者。
幸せな夢を見ている者に入り込み、その夢を喰らい尽くしていく。
入り込まれる者は共通して、現実世界で苦しい想いをしている者に限られる。
夢病に喰われた影響下は凄まじく、入り込まれた者は眠り続けてしまう。
"夢掃士"
それは、夢を喰われた者の中に巣食う夢病を一掃する者を指す。
僕の合図で夢を繋ぎ門を開く。鎌縛の力で道を出現させ、最後に夢病へと繋ぐ。
夢同士を繋ぎ、渡り、狩る。それが僕の役目だ」
-何もない暗闇の中を歩き続ける-
氷雨
「……おかしい。静かすぎる」
鎌縛
「いつもなら夢を見てるガキの声も聞こえるはずだが……なるほど。こりゃ大物だ!くぅう、腕が鳴るなぁ氷雨!」
氷雨
「……空気が違う」
鎌縛
「さぁて、獲物はどこだー?」
氷雨
「……お前よく平気だな」
鎌縛
「あん?」
氷雨
「この空間、刺さるように痛い」
鎌縛
「そりゃなぁ?こんだけ殺気浴びてりゃ普通の人間の身体は悲鳴をあげるだろうな」
氷雨
「さっさと終わらせるぞ。長居はしたくない場所だ」
鎌縛
「つってもなぁ、夢門も開いた。夢道も魅せれてる。
夢病に繋がったのは確かなんだが……夢に辿り着いた気がしない」
氷雨
「夢道は夢病に繋がっているんだろう?」
鎌縛
「ああ。俺様の道に間違いはない」
氷雨
「ならこのまま真っすぐ進めば着くだろう。まだ道は続いてる」
鎌縛
「……そうだなぁ」
氷雨
「どうした?」
鎌縛
「……いや、なんでもない」
氷雨
「……?」
-ただ道が続いてる暗闇を歩き続ける-
氷雨
「なぁ」
鎌縛
「んー?夢の扉がねぇなぁ」
氷雨
「いつもならとっくに見つけてるだろ」
鎌縛
「まさかとは思うが……」
氷雨
「鎌縛?」
鎌縛
「進むぞ。俺様の仮説が正しければ……」
氷雨
「ぁ、おい!」
-突き進む鎌縛を追いかける-
-道は複雑なカーブを描き、やがて入って来たはずの夢門の前に着く-
氷雨
「戻って、きた?」
鎌縛
「……やっぱりな。どうりで夢病患者が視てる夢に着かない訳だ」
氷雨
「どういう事だ」
鎌縛
「気ぃ引き締めろよ氷雨。こいつは、今までの奴とは違う」
氷雨
「おい、分かるように説明しろ」
鎌縛
「今まで喰ってきた奴らが可愛く感じるレベルだ」
氷雨
「は?」
鎌縛
「いいか。この患者は既に夢を喰い尽くされかけてる」
氷雨
「なっ」
鎌縛
「普通は患者が視てる夢の元に繋がる扉があるはずだ。それは氷雨も分かってんだろ?」
氷雨
「ああ」
鎌縛
「だが、夢道は複雑なカーブを繰り返し夢門に戻された」
氷雨
「じゃあ、もうこの患者は……」
鎌縛
「いや?夢病患者は死なない。死なずに、永遠の時を眠り生きる。
物理的にはな。だが、そうなったら死んだも同然だ。
俺様達がいるのは夢の世界。人間でいう所の精神世界だ。
恐らくあと一歩俺様達が入るのが遅れてたら、この患者は精神的に死んでいた。
そうなったら例え夢病を狩ったとしても、起きるかわからねぇ。
奇跡的に起きたとしても、記憶を全て失ってるだろうなぁ?」
氷雨
「生きてるのか?」
鎌縛
「ギリギリな。夢を喰い尽くされていたら、夢門は開かねぇし夢道も魅せれねぇ。夢病にも繋げないだろう」
氷雨
「……そうか」
鎌縛
「俺様も初めてだがなぁ。夢を喰い尽くされかけてる世界は。
もうちょっとで喰い尽くせたのに、氷雨が入ってきた事で喰えなくなった。
追い返そうと必死な訳さ。だから夢の扉を見つけられないように隠してる」
氷雨
「なら、奴はどこに……」
鎌縛
「気づかねえのかよ。夢道は、夢病に繋がってる」
氷雨
「ま、さか……ッ―――!」
-殺気を感じ振り返るが誰もいない-
鎌縛
「おうおう、殺る気出しやがったなぁ」
氷雨
「鎌、縛……身体がっ……」
鎌縛
「……そりゃ動けなくなるよなぁ。そんだけ一点集中で殺気を受けたら。
だがなぁ?視えるんだよ俺様には」
氷雨
「くっ」
鎌縛
「そんなに夢病に雁字搦めにされてれば、動けねぇわな」
氷雨
「夢病は、この空間自体か!」
鎌縛
「……夢を喰い尽くされると、夢病に世界を支配される。
俺様達は入った時から、こいつの中ってわけさ」
氷雨
「だから道が夢病に繋がらず、あんなに複雑になっていたのか」
鎌縛
「繋がってはいたさ。繋ぎきれなかっただけだ」
氷雨
「鎌縛!」
鎌縛
「だが、目を付ける相手が違ったなぁ?」
氷雨
「"切り裂けぇ"!」
鎌縛
「俺様を自由にさせてる時点で、てめぇの負けだ」
-鎌縛の姿が大鎌へと変わっていく-
-大鎌が氷雨を縛っているナニかを切り裂く-
夢病
「アァアアアアアアアア!!」
氷雨
「よし、動ける」
-大鎌が氷雨の手に収まる-
夢病
「よくもよくもよくも!」
鎌縛
「視えるかぁ?」
氷雨
「……視えた」
鎌縛
「しっかり捉えてろよ。ここはあいつの世界だ」
氷雨
「分かってる」
夢病
「貴様らが、夢掃士か」
氷雨
「お前が夢病だな?」
夢病
「もう少しで、喰い尽くせたところを……私の至高の時を邪魔するな」
氷雨
「邪魔して悪かったな。狩らせてもらうぞ」
夢病
「だが、飛んで火にいる夏の虫と言ったところか。ついでだ。貴様らの夢も喰い尽くしてやろう」
鎌縛
「訳分かんねぇこと言ってるがどうすんだ氷雨ぇ」
氷雨
「はっ。夢、か……どうぞ?喰えるならな」
夢病
「シャアアアアアアアアアアアアア!」
氷雨
「(攻撃を避け)なるほど、蛇か……ん?いや」
-襲い掛かってきた姿は蛇のような見た目-
-だが、所々に人間の手や紐状の物が伸びている-
氷雨
「夢病は患者の一番恐れていることの形状や性質を取る。あんたは人間の手や紐が怖いんだな」
鎌縛
「気を付けろ」
氷雨
「ああ」
夢病
「ちょこまかと、動くな!」
氷雨
「っ、がっ!」
鎌縛
「氷雨!」
-尻尾に絡め取られ、締め上げられる-
氷雨
「くっ……」
夢病
「貴様の夢はどれほど美味なんだろうなぁ」
氷雨
「はっ、うまくねぇと思うぞ」
夢病
「喰ってみれば分かることだ(食べようとする)」
氷雨
「鎌縛、"戻れ"」
鎌縛
「よっと、俺様を無視すんじゃねぇよ!顔面がら空きだ、ぞ!」
夢病
「ぐあ!」
-人の姿に戻った鎌縛に蹴り飛ばされる-
鎌縛
「おーい、大丈夫かー」
氷雨
「(軽く咳込む)大丈夫だ」
鎌縛
「遊んでねぇでさっさと狩れ」
氷雨
「だったら力を貸せ」
鎌縛
「それは俺様の気分次第だ」
氷雨
「チッ」
夢病
「ひひっ、夢掃士ってのはおかしな武器を使うんだなぁ」
鎌縛
「ああ?」
夢病
「貴様の夢も喰ってやろう」
鎌縛
「(夢病の言葉にカチンとくる)んだと?低級。俺様とてめぇを一緒にすんじゃねぇ」
氷雨
「鎌縛」
鎌縛
「さっさとやんぞ。もう限界だ」
氷雨
「……分かってる」
鎌縛
「俺様にとっちゃ低級だが、氷雨にとっちゃ大物だなぁ?せいぜい喰われないように足掻け」
氷雨
「……とりあえず、先に隠されてる扉を探す」
鎌縛
「おう。そうしろ」
夢病
「そう簡単に見つかるかな?ここは既に私の世界だ」
氷雨
「"最大出力、鎌縛の刃で切り尽くせ"」
鎌縛
「ははっ!いいぜぇ!久しぶりの最大パワー、喰らいやがれ!」
-大鎌に形態を変え、夢病の作り出した暗闇を切り裂く-
夢病
「私の世界が、切り裂かれるだと」
氷雨
「"夢道よ繋げ、我に繋げ、我に魅せよ"」
-空間が歪み、破裂する-
-先程まで無かったはずの扉が暗闇の中に現れる-
氷雨
「やっと見つけた。あれか。患者の夢の扉は」
鎌縛
「だいぶ壊れかけてるがな。
扉が壊れたら、患者ごと夢を喰われて終わりだぞ」
氷雨
「……ああ」
夢病
「扉を見つけたところでどうする。私に貴様らも喰われて終わりだ。縛り付けてじっくり喰らってやろう」
氷雨
「ああ?二度も同じ手に引っかかるかよ」
夢病
「貴様らに自由など与えぬ」
氷雨
「それがお前の本質か。忌まわしい記憶の産物から成り立つ夢病らしい」
夢病
「私の獲物だぁあああああ!」
氷雨
「扉まで一気に行く。"薙ぎ払え"!」
鎌縛
「いいねいいねぇ!久しぶりに大暴れだ!俺様の鎌から逃げられると思うんじゃねぇぞぉ!」
-襲い来る夢病の攻撃を受け流し、扉まで走る-
氷雨
「着いた。鎌縛、夢病を抑えておいてくれ」
鎌縛
「はぁ?チッ、仕方ねぇなぁ。
おーい、ガキ!扉の前にいるんだろぉ?」
-背中越しの扉に声を掛ける-
子供
「……誰?」
氷雨
「いた」
鎌縛
「喋れるってことはまだ大丈夫そうだな」
氷雨
「後ろは任せた」
鎌縛
「おう」
夢病
「私のご馳走だぁあああ!邪魔をするな!」
鎌縛
「うるせぇ!てめぇは狩られる側なんだよ!ちったぁ黙ってろ低級がぁ!」
子供
「ひっ、なに……怖い、怖いよぉ」
氷雨
「大丈夫。あいつは少しうるさいだけだよ」
子供
「だ、れ?お姉ちゃん?お兄ちゃん?」
氷雨
「どっちでもいい。あんたを起こしにきた」
子供
「起こし、に?」
氷雨
「ああ」
子供
「……無理、だよ。起きても、結局一人なんだ」
氷雨
「起きたくないのか?」
子供
「起きても、何も楽しいことなんてないよ。起きてもどうせ、部屋に閉じ込められる」
氷雨
「……あんた、人間の手や紐が怖いんだよな」
子供
「どうして……」
氷雨
「こいつらは、人間の闇が大好物だ。そういう人間の夢は、自分がこうしたかった夢を見る。
大抵、楽しい夢や幸せな夢。それが、夢病の一番の餌になる。
あんたは、家に閉じ込められてたな?実の親に」
子供
「……ちゃんと、お母さんの言うこと聞いてなかったからいけないんだ。
ちゃんと勉強しなかったから、お父さんとお母さん、いつも喧嘩してたんだ。
僕がいい子じゃないのがいけないんだよ」
氷雨
「それは……」
夢病
「ひひっ、うまかったなぁ?こいつの夢は。話を聞いてくれる優しい両親。頭を撫でて褒めてくれる両親。
怒られも、閉じ込められもしない幸せな夢。
そんな夢を喰らって絶望に染まる顔を見るのは最高だ」
-夢病を抑えていた鎌縛が氷雨の近くに戻る-
鎌縛
「おい氷雨ぇ。こいつそろそろ黙らせろ。
ガキもガキだ!てめぇの夢だてめぇでどうにかしやがれ!
喰われたら一生起きれねぇぞ?それでもいいって言うなら好きにしろ」
子供
「で、でも……」
氷雨
「……子供は、自由な方がいいんだよ」
子供
「……自由ってなに?」
氷雨
「あんたがやりたいこと、したいこと、なんでも好きに出来ることだ」
子供
「好き、に……?」
氷雨
「友達と遊んだり、ゲームしたり、好きな物をいっぱい食べたり……ないのか?あんたには」
子供
「……分からない。分からないけど、今言ったこと、とっても楽しそうだね。僕が、ずっと望んでたことだと思う」
-扉から微弱な光が溢れ出す-
鎌縛
「お?」
夢病
「しぶとい子供だ。まだ夢を見たがるか……夢も残らぬよう、全て喰らい尽くしてくれる!!」
鎌縛
「氷雨!」
-ガキンと大きな音が鳴る-
夢病
「が、がっ……」
氷雨
「喰わせるかよ」
鎌縛
「いってぇなあああああ!うげッ、気持ちわりぃいいいいい!
やめろぉおおおお!俺様の美肌に汚い唾液垂らすんじゃねぇええええ!」
氷雨
「鎌を口にハメただけだろ。うるさい」
鎌縛
「それが嫌だっていってんだろおおおおお!?」
氷雨
「いいから黙れ気が散る」
鎌縛
「チッ、後で掃除しろよ」
夢病
「が、あが……」
氷雨
「ああ、悪い。喋れないな。喋らなくていい」
夢病
「がが……」
-扉に呼びかける-
氷雨
「いいかー?扉の向こうにいるのが坊ちゃんなのか嬢ちゃんなのか分かんねぇけど、そのままでいろ。
絶対にドア開けんじゃねぇぞ。そのまま自由な夢を見続けてろ。喰わせるんじゃねぇ。
誰にも縛られず、自由な世界を、夢の中だけでもいいから、見続けろ。その先は後々考えろ。
あんたは自由でいい。縛られなくていい。
友達にも、家族にも、誰にも……嫌と言えずに、溜め込んで……だからこんな小汚い薄汚れた夢病に感染するんだ」
子供
「夢を見ていいの?自由になっていいの?」
氷雨
「夢の中で出来たんだ。現実世界でも出来る。
そんなちっぽけな狭い所にいないで、飛び出せ。
子供は子供らしく、素直に自分の気持ちを口に出せ。
泣き叫んだっていい。泣き喚いたっていい。
大人みたいに、言いたい事を溜め込むな。
……起こしてやる。だからそれまで、自分が望むままの夢を広げろ。
やりたいこと、たのしいこと、なんでもいい。ちからをかせ。
作り出せ。こいつが喰いきれない程の夢を。
あんたなら出来る。押し返せ!こいつを!」
子供
「僕は、お父さんとお母さんに仲良くいてほしかった。
もっと僕を見てほしかった!褒めてほしかった!
友達と話したかった!一緒に遊びたかった!
習い事ばかりじゃなくて!みんなと同じように、自由でいたかった!
僕はもっと、友達と外で遊びたかった!」
氷雨
「いいぞ。もっとだ。もっと叫べ」
子供
「起きたい。起きて、ちゃんと言いたい。
習い事ばっかり嫌だって、勉強ばっかり嫌だって。
お父さんとお母さんの喧嘩を見るの嫌だって!
だから、僕を起こして!」
氷雨
「(軽く笑う)やれば出来んじゃん」
-暗闇が徐々に晴れ、夢が広がり始める-
氷雨
「いい夢だなぁ。起きたら、ちゃんと言えよ。
いいじゃねぇか。家族で旅行。家族で笑顔の食事。
起こしてやるから、ちゃんと叶えろよ」
鎌縛
「おーい、氷雨。もういいだろ。早く喰わせろ」
氷雨
「"戻れ"」
-鎌が氷雨の手元に戻り、姿が戻る-
鎌縛
「うぇ、ベタベタじゃねぇか。せっかく整えた髪も台無しだ」
氷雨
「はっ、お似合いだ」
鎌縛
「ああ?」
夢病
「もう少しで喰えたところを!夢を見させたところで、私に喰われて終わりだと言うのに。
私の邪魔をした貴様らから先に喰らい尽くしてやる!」
鎌縛
「はっ、おもしれぇ。喰えるもんなら喰ってみろ!」
氷雨
「おい」
夢病
「シャアアア!(鎌縛と氷雨ごと飲み込む)
ひひっ、これで貴様らの夢も私の力に……なんだ?これは。なぜ、こいつは……」
氷雨
「"切り開け"」
夢病
「がっ!!」
-夢病の身体が真っ二つに切り裂かれる-
氷雨
「夢病の中ってああなってんだな」
鎌縛
「いい経験になっただろ?」
氷雨
「二度とすんな」
鎌縛
「俺様もごめんだ」
夢病
「なん、なんだ貴様は、なぜ貴様には夢がない!」
氷雨
「……」
鎌縛
「言いたいことはそれだけか?」
夢病
「貴様もだ!貴様も、夢がないどころか、なぜ、何故人間と共闘している!」
鎌縛
「はっ、やっと俺様の正体に気づきやがったか。
こいつの夢は、俺様のもんなんだよ。
端(はな)からてめぇに喰わせる訳ねぇだろうが」
夢病
「なっ」
鎌縛
「同類同士、仲良くしようや」
夢病
「お前はっ!」
鎌縛
「氷雨」
氷雨
「"喰らえ"」
鎌縛
「(大口を開け、夢病を喰らう)」
氷雨
「……残念だったね」
鎌縛
「うぷ。あー、これ今まで喰った中で最高にうめぇわぁ」
氷雨
「(息を吐く)そうか。うまそうには見えないけどな」
鎌縛
「ただの人間に俺様の嗜好は理解できねぇよ」
-扉に話しかける-
氷雨
「終わったよ。あんたの夢、いいな。暖かくて良かった。
ちゃんと守ってやったから、暫くしたら自然と起きれる」
子供
「ほんと?」
氷雨
「ああ」
子供
「あの、扉開けていい?顔見たい」
氷雨
「ダメだ。これは、あんたの大事な扉だ。
また夢病が来たら簡単に壊されるくらいにボロボロなんだ。
今は夢の世界を安定させることが最優先。
それに、目が覚めたら僕との会話も忘れる。
ここでの出来事は、忘れるべきだ」
子供
「え、もう会えないの?」
氷雨
「うん、会えない。僕となんか、会わなくていいんだ」
子供
「でも!」
氷雨
「もう、喰われんじゃねぇぞ」
子供
「待って!待ってよ!」
鎌縛
「氷雨帰るぞー」
氷雨
「ああ」
-来た道を戻り、最初にいた部屋に戻る-
鎌縛
「はぁああ、最高のご馳走に出会えたなぁ」
氷雨
「そりゃよかったな。
身体べとべとなんだけど、どうしてくれんの」
鎌縛
「俺様を奴の口にハメた仕返しだ」
氷雨
「うわ、根に持ってた」
鎌縛
「当たり前だろ。ま、働きに見合う夢病を喰えたから、良しとしてやるぜ」
氷雨
「……」
鎌縛
「俺様の腹が満たされるまで付き合えよ氷雨。いや?夢病患者様?」
氷雨
「……分かってる。持ちつ持たれつ。利用し利用される。ギブアンドテイクの関係。お前との関係はそれだけでいい」
鎌縛
「頭のいいガキは嫌いじゃねぇ。お前は俺様から逃げたい。俺様はたらふく同類が喰えればそれでいい」
氷雨
「……」
鎌縛
「あはっ、お前が起きるのは何十年後になるんだろうなぁ?」
氷雨
「何十年でもお前に付き合ってやる。起きれるなら」
鎌縛
「ほう?」
氷雨
「約束は守れよ」
鎌縛
「ああ。同類を喰って俺様の腹が膨れたら、お前の夢を返して起こしてやる」
氷雨
「ほんとかよ」
鎌縛
「俺様の気が変わらなかったらなぁ!さ、次の飯喰いに行こうぜ!」
氷雨
「少し休ませろ」
鎌縛
「はっ、俺様をなんだと思ってんだよ。
夢病を喰らう夢病だぞ。お前の思い出したくもない忌まわしい記憶の産物が俺様だ。
お前が両親から受けた空腹は、こんなもんじゃ足りねぇだろ」
氷雨
「僕は……」
鎌縛
「喰いつくしてやろうぜ?今蔓延してる夢病全て、俺様に喰わせろ」
N
「速報です。昨夜未明、また一人夢病患者が目を覚ましました」
氷雨
「"……夢門よ開け"」
鎌縛
「"夢道よ魅せろ"」
氷雨
「"夢病に繋げ"」
N
「目覚めた患者は10年間眠り続けていた当時13歳の子供だという情報です。
今までの夢病患者同様、"誰かが必死に起きるように話していた"と我々のインタビューに答えております。
患者達は眠り続けていた夢の中で何を見ていたんでしょうか。
これで目覚めた夢病患者は100人になりました。
謎に包まれている夢病。果たして治療法は見つかるのでしょうか。
現在学会と研究者達は、目覚めた患者から話を聞きつつこの病の治療に全力を尽くしています。
目覚めた患者はこれから精密検査を受け、何事もなければリハビリに移行し日常生活に戻れるそうです。
では、次のニュースです」
氷雨
「"夢病を喰らえ!鎌縛!"」
鎌縛
「ははっ、いいねいいねぇ!てめぇに巣食う夢病、俺様が全部喰らってやるよ」
-喰らいつく音だけが響く-
幕
2022/12/19 「夢掃士-夢を喰う病と夢に掬われる者-」 公開