登場人物
浅倉 美夜(あさくら みよ) 女性
20代前半の大学生
心優しく真っすぐな芯を持っている
高橋 直(たかはし なお) 男性
20代前半の専門学生
しっかり者でムードメーカー
いつも笑顔を絶やさない
池田 実佳(いけだ みか) 女性
20代前半の専門学生
少し男勝りだが空気を読むことに関しては人一倍
松原 和哉(まつばら かずや) 男性
20代前半の専門学生
空気の読めないところがあるが、オンオフは切り替えられる
樋口 涼(ひぐち りょう)
美夜の勤める会社の新入社員
※直と兼任
医者
直の主治医
※和哉と兼任
配役表
浅倉 美夜:
高橋 直・樋口 涼:
池田 実佳:
松原 和哉・医者:
-駅前の雑踏-
美夜
「あっ」
直
「ぁ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
美夜
「ぁ、はい。大丈夫ですよ」
直
「ん?あれ、もしかして……」
美夜
「え、もしかして……な、直?」
直
「美夜」
美夜
「わぁ!久しぶりだね!」
直
「ほんとだな。元気だったか?」
美夜
「うん、元気だよ!直は今何してるの?」
直
「大学に通いながら一人暮らししてる。美夜は?」
美夜
「私も同じだよ」
直
「へぇ、意外だなぁ。てっきりお前の事だから高校卒業したら就職すると思ってた」
美夜
「そうするつもりだったんだけど、やりたい事ができたから大学進学に決めたんだ」
直
「なるほどなぁ。美夜らしいな」
美夜
「ふふん、でしょー?」
直
「そういや、なんか用事あったんじゃないのか?」
美夜
「あ、友達と待ち合わせしてるんだった!」
直
「やっぱりな。引き止めて悪かった。あのさ、明日空いてるかな?
美夜がよかったらでいいんだけど、会えないかな?」
美夜
「明日?何も用事ないからいいよ」
直
「ほんと?じゃあ、明日の一時に駅前でいいかな?」
美夜
「うん、いいよ。じゃあ明日ね!」
直
「おう、じゃあな!」
-翌日の駅前-
美夜
「(息を切らせて)直!遅れてごめん!」
直
「俺達もついさっき来たから大丈夫だよ。」
和哉
「何々、直の彼女?」
直
「はっ!?ち、ちげぇよ!」
実佳
「照れない照れない」
直
「照れてない!」
美夜
「えっと、直。この人達は?」
直
「あぁ、俺の大学の友達」
実佳
「私は池田実佳。よろしくね」
和哉
「俺は松原和哉」
美夜
「ぁ、浅倉美夜です。よろしくお願いします」
直
「悪いな。俺一人で来ようと思ったんだけど、この二人が付いてくるって聞かなくて」
美夜
「ううん、驚いたけど大丈夫だよ!」
和哉
「さて、自己紹介も終わった事だしどこ行く?」
実佳
「目的なく適当に歩くのはどう?ふらっと立ち寄ったお店が意外に穴場とかあるわよ?」
美夜
「いいですね!色々なお店見るの私好きです!」
直
「ただ見るだけでも楽しいだろうしな。欲しい物あったら買ってもいいよ」
実佳
「……あ、私洋服欲しいんだった!ちょっと和哉、付き合いなさい!」
和哉
「え、なんで俺が!?お、おい、引っ張んなよ!」
実佳
「(小声)少しはあんた空気読みなさいよ!あの感じ見て分かんないの?」
和哉
「(小声)え、あ、あぁ。そうだったな。悪い」
-実佳に腕を引っ張られ連れて行かれる和哉-
-それを二人は唖然と見ている-
直
「行っちゃったな」
美夜
「そ、そうだね」
直
「……どっか見に行くか?」
美夜
「じゃあ、ネックレスが見たいなぁ」
直
「アクセサリーだったら、確かあっちにいい店があったな。休日だし混んでるかもしれないからはぐれるなよ?」
美夜
「うん!」
-雑踏の中を掻い潜りながら、目的のアクセサリーショップに入る-
美夜
「わぁ、綺麗!あ、これ欲しかったネックレスだ。
んー、でもこれも気になるし……どうしよう。迷うなぁ」
直
「(軽く笑みを零す)」
美夜
「え、な、なにかおかしいかな?私変なこと言った?」
直
「いや、大学生にもなってそんなはしゃいでる美夜を見てるとなんかおかしくてな。
お前、中学の時大人しかっただろ?だからなんか意外なんだよ」
美夜
「わ、私だっておしゃれするよ?それより直、こっちとこっちならどっちが似合う?」
直
「んー、俺なら……こっちかな。美夜によく似合う」
美夜
「ほんと?」
直
「うん。そっちも似合うけど、俺はこれがいい。これ付けてる美夜、見たいな」
美夜
「直が言うなら、こっちにしようかな。えへへっ、ありがとう直」
直
「どういたしまして。てか、再会した記念に俺が買うよ」
美夜
「え、いいよ!」
直
「いいって。俺が払いたいんだよ」
美夜
「うっ、じゃあ、お言葉に甘えて……お願いします?」
直
「ははっ、なんで疑問形なんだよ。すぐ買ってくるから店の外で待ってて。ここ混むからさ……」
美夜
「うん、分かった」
-店の外で待っている-
直
「お待たせ」
美夜
「そんな待ってないから大丈夫だよ。買ってくれてありがとう!」
直
「どういたしまして。……ネックレス、つけてやろか?」
美夜
「え?は、恥ずかしいからいいよ」
直
「遠慮すんな。ほら、後ろ向け」
美夜
「う、うん」
直
「っと、付いたぞ。
……うん、やっぱ似合う」
美夜
「あ、ありがとう。なんか、こういうの初めてされたから、恥ずかしいね。
って、直?凄い顔色悪いけど、大丈夫なの?もしかして人混みで酔っちゃった?どこかで休んだりした方が……」
直
「ぇ、あぁ、大丈夫だよ。気にすんな」
美夜
「ならいいんだけど……辛かったら言ってね」
直
「あぁ、ありがとな。それより、ネックレス気に入ったか?」
美夜
「うん、気に入った。だって、初めて直が買ってくれたものだもん」
直
「ははっ、大袈裟だよ」
-別行動をしていた美佳と和哉が戻ってくる-
実佳
「二人ともラブラブねー!」
和哉
「お前らそのまま付き合っちまえよ!」
直
「は、はぁ?な、なんでいきなりそんな事言うんだよ」
実佳
「いいじゃないいいじゃない。あ、そうだ。今度4人で休み合わせて旅行行かない?」
和哉
「お、それいいな!行こうぜ!」
美夜
「わぁ、楽しそう!」
直
「いいな、それ。どっか、いい温泉の旅館にでも止まって……あ、れ?」
美夜
「直!?」
直
「ッ……」
-ぐらっと直の身体が揺れ、倒れる-
美夜
「直!直!?大丈夫!?ッ、凄い熱…直、起きて!目開けて!」
実佳
「か、和哉!救急車!救急車呼んで!」
和哉
「今呼んでる!繋がった!ぁ、も、もしもし!すぐに救急車をお願いします!場所は……」
-病院-
美夜
「先生!あの、直は……」
医師
「軽い貧血ですね。少し休めばよくなると思いますよ」
美夜
「ぁ、そういえばずっと息切れして……」
医師
「ただ、熱も出ていますし目眩の症状が見受けられますので、念の為検査入院を致しましょう」
美夜
「はい。ありがとうございます」
和哉
「たく、ビックリさせやがって……」
直
「ごめん。いや、まさかあそこで倒れるとは……ごめんな美夜、心配かけて」
美夜
「大丈夫ならいいけど、もう無理しないでよね」
直
「悪い悪い」
実佳
「じゃあ、そろそろ私達は帰りましょうか。直も疲れたでしょ?美夜ちゃん、駅前まで送るわ」
美夜
「は、はい。直、ちゃんと休んでるんだよ?」
直
「分かってる。実佳、美夜の事頼んだぞ」
実佳
「はいはい、わかってるわよ」
和哉
「俺はもう少しここにいる。直の親御さんが来るだろうし、事情説明しないといけないからな」
美夜
「はい。和哉さん、直の事お願いします」
和哉
「はいよ。実佳、ちゃんと送り届けろよ?」
美佳
「わかってるわよ。それじゃあ行きましょうか」
-病室を出て行く-
実佳
「ふふ、そのネックレス直に買ってもらったのかしら?」
美夜
「はい。再会の記念にって」
実佳
「よかったわね、美夜ちゃん」
美夜
「はい!……でも、直大丈夫かなぁ」
実佳
「和哉が見てるから大丈夫よ。それに、大学でも直が倒れるのはよくあるのよ。
貧血持ちだから仕方ないんだろうけど……今日はビックリしたでしょ?」
美夜
「……中学の時は凄い元気に走り回ってたから、驚きました」
実佳
「直ってそんな子だったの?ビックリだなぁ、大学じゃ大人しいのよ?」
美夜
「そうなんですか?意外だなぁ……ぁ、直に連絡先聞いてない。実佳さん、先に駅に行っててください!」
実佳
「あ、美夜ちゃん待って!」
-直の病室の前に着くと、ふいに和哉の怒鳴り声が聞こえる-
和哉
「直、お前はそれでいいのかよ!」
美夜
「……和哉さん?」
-病室内-
和哉
「あの子に話さなくていいのか?」
直
「……美夜の為だ。知らない方がいい」
和哉
「は?なんでだよ」
直
「言ったら、あいつ絶対泣くだろ」
和哉
「優しすぎるだろ、お前。でも、いつまでも隠しきれないだろ?
ここは病院だから対処はできるけど、でもまた今日みたいな事があれば……」
直
「そこはどうにかする。だから、美夜にだけは……頼む」
和哉
「(声のトーンを下げて)ふざけんなよ」
直
「ふざけてなんかない。これで、これでいいんだ」
和哉
「本当にいいって思ってんのか?一番辛いのは何も知らない美夜ちゃんだろ!
このまま言わずにいたら、後悔するのは目に見えてんだよ。言ってやれよ、お前が……白血病だって……」
美夜
「え……」
和哉
「お前だってずっとこのままとか無理だろ!」
直
「だけど俺は!……俺は、美夜にだけは泣いてほしくない。あいつには、笑っていてほしい」
和哉
「直、お前いい加減にしろよ」
直
「俺の、最期の我儘だと思って聞いてくれ。和哉、頼む」
和哉
「(負けたように)……はぁ、分かったよ。我儘なんて滅多に言わねぇからな。協力してやる」
直
「さんきゅ。やっぱ和哉に頼んで正解だ」
和哉
「なんだよそれ。でも、これ一回きりだからな」
直
「分かってる」
-美夜、意を決しドアをノックする-
和哉
「……誰?」
美夜
「……あの、私です」
直
「……美夜?」
-病室に入ってきた美夜の表情で、二人は今までの話が聞かれていたのだと察する-
和哉
「美夜ちゃん、今の聞いてた?」
美夜
「……はい」
和哉
「……どうすんだ?」
直
「……」
美夜
「……今の話、全部本当なの?」
直
「それは……」
和哉
「……直、いい加減腹くくれ」
直
「……本当、だよ」
美夜
「なんで、言ってくれなかったの?」
直
「ごめん。美夜にだけは、知られたくなかった。だからずっと黙ってたんだ。
でも、もう隠しきれないよな。そうだよ、俺は白血病なんだ」
和哉
「……直が白血病だって気づいたのは、大学入学してすぐだったな。高校の時から予兆はあったらしい。
薬で進行を遅らせる事は出来るけど、ドナーが見つからない以上治らない」
直
「まさか美夜に出会うなんて、思ってもみなかった。美夜にだけは知られずに、残り少ない時間をこいつらと過ごそうと思ってた」
和哉
「美夜ちゃん。直と再会した時、こいつ久しぶりに体調良くて一時的に外出が許可されてたんだ。
本当は入院しなきゃいけないくらいの容態なんだぜ?なのに、美夜ちゃんと遊ぶ約束なんて勝手にしてきやがってよ」
直
「美夜と会えないと思ってたから、つい口が滑ったんだ。美夜、今まで隠しててごめんな」
美夜
「……なんで、もっと早く言ってくれなかったの?そうすれば私だって……でも、話してくれてありがとう」
直
「美夜」
美夜
「話してくれただけで、嬉しい。そのまま隠されてたら、きっと私後悔してた。
だから、これから直がやりたい事、一緒に沢山やろう!」
直
「……ありがとう」
和哉
「な?美夜ちゃんは言っても大丈夫な子だろ?受け入れてくれるって言っただろ。
なんで初めて会った俺が、美夜ちゃんの事理解してんだよ。バーカ」
直
「悪い」
和哉
「いいって。それより、美夜ちゃんはどうしてここに?」
美夜
「あ、直の連絡先聞きたくて……大丈夫?」
直
「あぁ、いいよ。交換しよう?入院中暇だし、相手してくれると助かるかな。外出禁止だろうから」
美夜
「うん」
和哉
「じゃあ俺とも交換しようぜ?」
美夜
「はい!」
直
「実佳のも教えてやる」
美夜
「え、でも……」
和哉
「いいんだよ。あいつらなら別に気にしねぇって!」
-連絡先を交換し病室を出て行く-
美夜M
「無理に身体を酷使したせいか、直の体調が悪くなるばかりだった。
回復する兆しは一向に無く、日に日に弱っていくばかり。
学校で授業を受けていても、私の頭の中は直の事でいっぱいで。授業の内容はまったく入ってこない。
頭に過るのはベットに横たわり窓の外の景色を眺める直の姿。目に見えて弱っていく直を見るのが辛かった。
でも、見届けるって、傍にいて支えるって約束したんだから、私がしっかりしないと、直に余計な心配をかけちゃうね。
最後の希望を持ってドナーバンクからの連絡を待ち続けた。でも、直に適合する人は中々現れない。
私は学校が終わると、すぐに病院に向かい直の病室に駆け込む。すると直はいつも笑ってこう言うんだ」
直
「また走ってきたのか?」
美夜M
「でもね、私知ってるよ?その笑顔が無理に作られてるって。
本当は痛くて苦しいのに、私にバレないように必死に隠してくれてる。
気づいてるけど、私は気づかない振りをする。直が私の為につく、優しい嘘。
そこから私は、面会終了時間まで病室で過ごす日々を送る。
直にはいつも、大学で起こった話をするの。そうすれば直は笑ってくれるから。
そこに和哉さんと美佳さんが来て話す時間が、私達の一番幸せな時間になっていた。
命のタイムリミットが迫ってるのは分かってる。命の灯火が後少ししかないのも気づいてる。
それでも私達は、その日起きた事を話すんだ。せめて、季節が一つ過ぎる頃まで生きてほしい。
だけど神様は、そんな私達の願いを簡単に裏切っていくの……」
-講義中、実佳から電話が入る-
-教室を抜け出して通話に出る-
美夜
「はい、もしもし。実佳さん、どうしました?」
実佳
「美夜ちゃん!直の容態が!」
美夜
「……え?」
-慌てて病院に向かう-
-病室には直の両親、美佳、和哉、医師がいた-
和哉
「美夜ちゃん!よかった、間に合って」
実佳
「美夜ちゃん」
美夜
「……な、お?」
-ベットに近寄る-
直
「み、よ……」
医師
「喋らないで!鎮痛剤用意!それからっ……!」
美夜
「直!」
-伸ばされた腕を取る美夜-
和哉
「直!まだやりたいことあるだろ!?」
実佳
「直、死んだら許さないからね!まだ直に言いたい事あるんだよ!?文句だって沢山あるんだからね!」
直
「は、はっ、怖いなぁ、それ。
なぁ、美夜。最後に、言いたい、こと……」
美夜
「もういいから!もういいから、話さないで!」
直
「俺、さ……ずっと、美夜の…こ、と……」
美夜
「……なに?」
直
「……好き、だった」
美夜
「……え?」
直
「ごめっ、いきなりで……でも、この気持ちは……本当、だから……美夜の笑顔が、一番好き。
だから、そんな泣く、なよ。俺が、見たいのは……美夜の笑顔だから……」
-ぼろぼろと涙を流す美夜の涙を、優しい笑みを浮かべたまま拭う-
美夜
「……私、もね?いつの間にか、直の事ばかり見てた。気が付いたら、ずっと直の事ばかり考えてた。私も、直が好き。好きだよ?」
直
「美夜、大好き。生まれ変わったら、また、会おうな?」
和哉
「おい、んなこと言うんじゃねぇよ!生きて美夜ちゃん幸せにしろよ!」
実佳
「生きるんでしょ!?生きて、夢叶えるんでしょ!?」
直
「ごめん。みんな、俺の、分まで、生きて。俺が、この世界にいた事、忘れないで……おね、が………ぃ…」
-心電図の虚しい機械音が鳴り続ける-
和哉
「直!おい!」
実佳
「美夜ちゃんを残してどうするのよ!」
美夜
「嘘、でしょ?ねぇ、嘘って言ってよ!4人で旅行に行こうって約束したじゃない!どうすればいいの?残された私は、どうすればいいのよ。直!!」
美夜M
「直にとって、私の存在って何だったんだろう。親友?ううん、恋人だったのかな?でも、今になって分かったかもしれない。
私は、直の恋人でもあって、直をこの世に繋ぎ止めておく架け橋だった。私、一番大事な時に直の手、離しちゃったんだね」
実佳M
「直のお母さんから、亡くなる前に直が書いた手紙を渡された。
その手紙には、私達と遊んだこと、美夜ちゃんと再会した時の喜び、色々な気持ちが詰まっていた」
和哉M
「その手紙には、あいつの思い描いた将来。両親に対しての謝罪。そして最後に、俺達への謝罪が書かれていた。
俺達はこの手紙を、集まって一緒に見ようと言う事になった」
美夜
「じゃあ、読みますね。
えっと……『これを読んでるって事は、俺はもうこの世にはいないんだな』」
直M
「初めて実佳と和哉に会ったのは、五年前だったな。
数学の計算で分からない所を聞いたのが友達になったきっかけだったよな。
でもさ、俺の書き取りが間違ってたんだ。問題文の計算を違う数字で書いてたんだから。
今思うと、笑い話になるか。実佳と和哉と遊んでる時は凄い楽しかった。
白血病だって発覚して数年経って、ドナーが見つかる事もなく、後は死ぬのを待つって時だった。
一時外出が許された時、幼馴染の美夜と偶然街で会ったんだ。また会えるとは思ってなくて嬉しかった。
ずっと好きだったから、でも、治るか分からない白血病を抱えている事を、美夜に打ち明ける事は出来なかった」
和哉
「あいつ、ことあるごとに美夜ちゃんの話してたんだぜ?」
実佳
「本当に美夜ちゃんのこと好きだったのよ」
美夜
「……続き、読みますね」
直M
「俺の思い描いてる将来はさ、医者になって俺みたいに苦しんでる患者を助けて、皆に信頼される名医になる事なんだ。
そんな未来を夢見てた。けど、叶わないよな」
和哉
「そういや、あいつの夢は医者になる事だったな」
実佳
「医者になって、俺みたいに苦しんでる人の病気を治してあげたいって、いつも言ってたね」
直M
「両親には悪いと思ってる。
絶対に幸せにする、不自由な暮らしはさせないって言っておいて、母さんや父さんを残して先に逝くんだから。
こんな不甲斐ない息子を、今まで育ててくれてありがとう。親孝行が出来なくて、ごめん。
俺がバイトで貯めたお金は、生活費として使って?
それから皆、こんな俺と一緒にいてくれてありがとう。
皆といる時はとても楽になれた。何故かは分からないけど、死を受け入れられた。
俺、もっと皆と一緒にいたかったな。苦しいよ。痛くて、胸が張り裂けそう。
白血病の恐ろしさを、俺は身をもって知った。
俺だけじゃないな。みんなも痛いよな?どうか、俺の死を受け入れて、生きて。
俺がお前らに頼む、本当に最期の我儘だから。高橋直」
美夜
「私、知らなかった。直が、こんなにいっぱい考えてたなんて。私、愛されてたんだね。
こんなにも、直に愛されてたんだ。ありがとう、直。伝えたいけど、もう伝わらないよ。
私の気持ち、もう一度だけ、直に伝えたいのに……!」
和哉
「そうだな。俺達、ちゃんとお前の分まで生きるからな、直」
美佳
「絶対に約束守るから!だから、ちゃんと見てなさいよ!」
-数十年後-
-駅前の雑踏-
美夜
「あっ、すいません!大丈夫ですか!?」
涼
「あぁ、大丈夫ですよ。気にしないでください。こちらこそすいません。よそ見をしてしまってて……」
-通行人とぶつかった際に荷物を落としてしまう-
涼
「荷物、拾っていただきありがとうございます」
美夜
「いえ、大丈夫で……あれ?」
涼
「……えっと、間違ってたらすいません。何処かで俺と会った事あります?」
美夜
「い、いえ。初対面、ですけど……」
涼
「ですよね?おかしいな。どこかで会った事があるような気がしたので、ごめんなさい。変な事を聞いてしまって……」
美夜
「いいんですよ、よくあることですから」
涼
「確かに、そうですね。でも、これも縁だと思います。
今度お詫びにお食事に誘いたいんですが、急いでますので名刺だけで失礼します」
美夜
「そんな、ぶつかったのはこっちですのでお詫びなんで……」
涼
「俺がしたいんですよ」
-名刺を交換する-
涼
「あ、会社、同じですね。部署違いですけど……」
美夜
「え!?」
涼
「俺、今年から入った新入社員なんですよ。だから、よろしくお願いします先輩。それじゃあ、失礼します」
-すれ違う際に、呟かれた言葉に目を見開く-
涼
「君は、生まれ変わりを信じる?」
美夜
「え?生まれ、変わり?もしかして、直?……また、会えたね」
幕