登場人物
美鶴(みつる) 女性
20後半。仕事一筋のOL。
恋愛なにそれ美味しいの?思考の持ち主。
彼氏いない歴=年齢。
翔(しょう) 男性
30代前半。仕事(美容師)も恋愛も程々。
オネエであるが、恋愛対象は女性。
オネエ口調はファッションである。
配役表
美鶴:
翔:
美鶴
「マジでうちの上司使えなくてさ。
仕事も出来ないのにあれやれ、これやれ。
この資料もっと分かりやすくした方がいいんじゃない?とか。
ろくに仕事も出来ないのに口だけは挟んでくるの」
翔
「そう」
美鶴
「上司じゃなかったら素直に言うこと聞いてないんだけど」
翔
「それで?」
美鶴
「文句言うんだったら自分でやれって話じゃない?
あんたら上司はいちゃもん付けるのが仕事なのかって思うわ」
翔
「……ねぇ、アタシはあんたの愚痴を聞くためにわざわざ飲みに呼び出されたのかしら?」
美鶴
「そのつもりで誘った」
翔
「聞いてないわよ」
美鶴
「言わなかったっけ?」
翔
「言ってないわよ!あんたから来た連絡をよく見なさい!ほら!」
-携帯画面を見せる-
美鶴
「ん-?」
翔
「"しょうちゃん助けて。今すぐ駅前の榎屋(えのきや)に来て"」
美鶴
「あれー?」
翔
「こんな連絡を仕事終わりに見てみなさい!?何があったのかって心配になるじゃない!
来てみたら既に出来上がってるあんたがいるし!最初から愚痴飲みの相手されるなんて分かってたら来なかったわよ!」
美鶴
「えー?か弱い女の子一人飲みで泥酔させるなんて薄情だなー」
翔
「……その言い方は卑怯じゃない?」
美鶴
「それにー、こんな愚痴聞いてくれるの翔ちゃんくらいしかいないじゃん?」
翔
「……」
美鶴
「付き合ってくれないならいいよー?私まだ飲みたいもーん。店員さーん!おかわりー!」
翔
「分かった!分かったわよ!こんな状態のあんた放り出して帰るほど薄情じゃないわよ!」
美鶴
「へへへー、翔ちゃん分かってるぅ」
翔
「それに、何も注文せずに帰るなんてここのお店の方に悪いわ」
美鶴
「わー、真面目ちゃんだぁ」
翔
「うるさいわよ酔っぱらい。
(呼ばれて来た店員に)ハイボールを一つ。それと枝豆とたこわさを一つずつ。
あとはこの子に、ウーロンハイを一つ」
美鶴
「やだー!割りは飲まなーい!」
翔
「ちょっと」
美鶴
「私は日本酒と、刺身盛り合わせと唐揚げ一つずつ!」
翔
「あんたねぇ」
美鶴
「じゃ店員さん、お願いしまーす!」
-注文を受けた店員が去っていく-
翔
「飲みすぎよ」
美鶴
「飲み足りなーい!ここは私が奢るから翔ちゃんもいっぱい飲んで!」
翔
「明日も仕事なんだからそんなに飲めるわけないでしょ!?」
美鶴
「あはは!付き合い悪いぞー!」
翔
「(溜息)ほんと、呼び出されたのがアタシで良かったわ」
美鶴
「んー?」
翔
「それで?愚痴はもう終わりかしら?」
美鶴
「まだあるー」
翔
「なぁに?」
美鶴
「プロジェクトが一段落ついてやっと纏まった休みが取れそうなんだけどさ?」
翔
「それで?」
美鶴
「昨日同期が結婚するって話を持ってきたの」
翔
「あら。それはおめでたい話ね?」
美鶴
「うん。とてもおめでたい話だよ。出席してほしいって言われたから出席する予定」
翔
「これのどこが愚痴なのかしら?」
美鶴
「この後、話が聞こえたのか課長が近寄ってきて、"君は結婚の予定はないのか?"とか聞いてきたの!
嫌味か!?結婚する予定どころか彼氏もいないですって答えたら憐れんだような目を向けてきてムカつく!」
翔
「あらあら」
美鶴
「"作らないのか?"まで言ってきて!セクハラで訴えられたいのか!」
翔
「あんた、仕事一筋の真人間よねぇ。恋に興味はないのかしら?」
美鶴
「恋愛?なにそれ?美味しいの?」
翔
「アタシはあんたが心配よ」
-注文したメニューが運ばれてくる-
美鶴
「ぁ、きたきたぁ!それじゃあ、乾杯!」
翔
「乾杯」
-乾杯-
翔
「(飲む)」
美鶴
「(飲む)ぷはぁ!てかさぁ?恋愛とかしなくても別に一人で生きていけるし、困らないんだよね」
翔
「大手会社に勤めるキャリアウーマンだもんね、あんたは。
同僚とかどんどん結婚してるんじゃないの?焦ったりしないのかしら?」
美鶴
「別にー?結婚してもしなくてもその人には変わらないし、結婚して既婚者になるだけでステータスになるかって言われたら違うでしょ?
結婚してるかしてないか、そこだけ見るのは失礼だと思う」
翔
「真面目ちゃんねぇ」
美鶴
「逆に聞くけど、翔は彼女作らないの?」
翔
「そうねー……まだいいわ」
美鶴
「ふぅん。いたことはないの?」
翔
「過去に何人かはいたわねぇ。けど片手で数えられるくらいよ?」
美鶴
「へぇ。どうだった?」
翔
「楽しかったけど、しっくりこなかったわね」
美鶴
「しっくり?」
翔
「ええ。けど、"しっくりこなかった"っていうのは失礼でしょう?だから自分の中で妥協点を見つけて納得させてたんだけど……女の子って凄いわね。
見抜かれてたのか、"好きじゃないのに付き合ってほしくない"ってフラれちゃったわ」
美鶴
「好きじゃなかったの?」
翔
「好きじゃなかったら付き合ってないわ。
好き、と思ってたけど、きっと女の子の好きとアタシの好きは少し違ってたのかもしれないわね」
美鶴
「ふぅん。恋って難しいね」
翔
「そうねぇ」
美鶴
「気になってたんだけど、翔ちゃんって学生の時からその口調だったの?」
翔
「いいえ?学生の時は男口調だったわね」
美鶴
「えー、意外」
翔
「恋愛に疲れちゃって面倒になっちゃったのよ。
今は恋愛に興味ないって言っても、告白されることは多々あったからね」
美鶴
「まぁ、翔ちゃん顔良いからねぇ」
翔
「あらぁ、あんたにそう言われると悪い気しないわぁ」
美鶴
「あっそー」
翔
「告白されることも面倒になっちゃってねぇ。
だったら女の子が寄ってこないようにしようって思ったの。
オネエ口調をファッションにすることにしたのよ。
専門学校に入学してからこの口調にしたんだけど、染みついちゃったわ。
今は逆にこの口調がお客さんにうけて指名貰えてるから万々歳よ」
美鶴
「そっかー。翔ちゃん指名率ナンバーワンの美容師だしね」
翔
「予約待ちすっごいのよ」
美鶴
「(飲み干す)店員さーん!おかわりー!」
翔
「ちょっと、流石に飲みすぎよ」
美鶴
「いいじゃん、いいじゃん!」
-店員がくる-
美鶴
「生ビールと、きゅうりのピリ辛漬け!翔ちゃんは?」
翔
「(呆れ)あんた、まだ飲むのね。(溜息)分かったわ。最後まで付き合いわよ。
ワインと、カプレーゼ。後は生ハムとチーズをお願い」
-注文を受けた店員が去っていく-
美鶴
「彼女作らないの?って聞いたけどさぁ?
私は恋とかよく分からないけど、恋人って"作る"もんじゃなくない?」
翔
「どういうこと?」
美鶴
「恋人って、自然と隣にいるもんじゃない?」
翔
「……」
美鶴
「ま、彼氏いない歴=年齢の私が言えたもんじゃないけど!
学生時代からの友達を見てると、そう思う」
-注文したメニューが運ばれてくる-
美鶴
「ぁ、きたきた」
翔
「そんな恋をしたことないあんたは、告白されたことあるのかしら?」
美鶴
「んー?(飲む)何回かは、多分ある?」
翔
「多分って何よ」
美鶴
「多分告られたんだと思うけど、私が理解してなくてことごとくフってる」
翔
「まさかあんた……」
美鶴
「だってさー?"好きです"って言われたら、"ぁ、これ告白だ"って分かるけど、"付き合って"だけ言われたらどこに?ってなるじゃん!?」
翔
「ならないわよ!」
美鶴
「ならないの!?」
翔
「あんたに勇気出して告白した純粋無垢な男の子たちが可哀想だわ!?」
美鶴
「ええ!?」
翔
「ここまであんたが鈍感で恋に興味がないなんて思わなかったわ!」
美鶴
「今じゃ付き合ってだけでも告白って分かるようになったよ!」
翔
「当たり前でしょう!?」
美鶴
「今でもたまに告白されるもん!」
翔
「あら、でも付き合ったって話は聞かないわねぇ」
美鶴
「うん。断ってるもん」
翔
「どうして?」
美鶴
「自分の好きなタイプとか分かんないし。
んー、さっきの翔ちゃんの言葉を借りるならしっくりこない。なんか違う気がする。
それに、翔ちゃんと飲んでる方が楽しい!」
翔
「……(小声)そんなこと言われたら、本気になっちゃうじゃない」
美鶴
「ん?なんか言った?」
翔
「いーえ、何も言ってないわ。(飲む)アタシも、あんたと飲むのは楽しいわよ」
美鶴
「えへへ、嬉しい」
翔
「仕事終わりにいきなり呼び出すのはやめてほしいわ」
美鶴
「えー?こんな愚痴翔ちゃんにしか言えないもん。それに翔ちゃんのツッコミ楽しいし」
翔
「そんなことの為に呼び出してるんじゃないでしょうね?」
美鶴
「違うー」
翔
「本当かしら?」
美鶴
「それに、恋人とか要らないよ。
翔ちゃんがいればよくない?愚痴聞いてくれる相手なんて、複数人いなくていいじゃん。
話しやすい人が一人いれば、それでいいと思ってる」
翔
「……あんたの無茶な頼み方の飲みに付き合えるのなんて、アタシくらいよね」
美鶴
「そうそう!」
翔
「男の頼みそうな酒とつまみばかり頼む女なんてね」
美鶴
「翔ちゃんだって逆じゃん」
翔
「アタシは相手によって変えてるわ」
美鶴
「嘘だぁ」
翔
「普段はバーよ。居酒屋なんて滅多に来ないわ。あんたと飲むときくらいよ」
美鶴
「なにそれー」
翔
「あんたじゃなきゃ飛んでこないわよ」
美鶴
「えー?さては翔ちゃん、私のことだいぶ好きだなー?」
翔
「……ええ、そうね。好きよ」
美鶴
「……へ?」
-グラスを落とす-
翔
「ちょっと大丈夫!?」
美鶴
「え、ぁ、あはは。ごめん。手の力が抜けちゃった」
-店員が来る-
翔
「(店員に)ごめんなさい。食器割れちゃって。(美鶴に)あんた、怪我してない?」
美鶴
「だ、大丈夫」
翔
「(店員に新しいものを持ってくるか聞かれる)
新しいものは大丈夫です。もう暫くしたら会計しようと思ってたので」
-割れた食器と落としたグラスを掃除し戻っていく店員-
美鶴
「ぁ、あはは。ごめん翔ちゃん」
翔
「怪我してないからいいのよ。ほんと、心臓が止まるかと思ったわ」
美鶴
「あはは、酔ってるのかなぁ。翔ちゃんが私のこと好きって言ったように聞こえた」
翔
「酔ってはいるでしょう?しかも相当よ。
……好きって言ったのは本当。ちゃんと聞こえてるじゃない」
美鶴
「だって、翔ちゃんって男が好きなんでしょう?」
翔
「はぁ?あんた今までの話聞いてたわよね!?
オネエ口調はファッション!彼女も過去にいたって言ったわよ!?アタシの恋愛対象はちゃんと女性よ!」
美鶴
「そっかぁ。ぁ、人間的な意味で好きなんだ?ライクで」
翔
「人間的にも恋愛的にも、ライクでラブで好きよ?」
美鶴
「……翔ちゃん酔ってる?」
翔
「ふふっ、そうかも」
美鶴
「あはは、やっぱりー?酔いすぎー!
翔ちゃんには私なんかより他にいい人いるよー。
私仕事人間だし恋愛とかよく分かんないから」
翔
「……そう。じゃあ、もしこの先アタシに恋人が出来たらどうするの?」
美鶴
「えー?おめでとうって言うよー?」
翔
「こうやっていきなり呼び出されても来ないわよ?」
美鶴
「いいよー。彼女大事にした方がいいよ」
翔
「……愚痴にも付き合えないわよ」
美鶴
「大丈夫、大丈夫!」
翔
「……逆に、万が一あんたに彼氏が出来たとしたら、その人に愚痴、言える?」
美鶴
「……」
翔
「なんて、大きなお世話ね。
こんなふうにお酒付き合ってくれて、愚痴を聞いてくれる人が見つかるといいわね。
会計してくるわ。あんた酔ってるんだから、ここで待ってなさい」
-席を立とうとする、小さく美鶴が言葉を漏らす-
美鶴
「(小声)……嫌だ」
翔
「ん?なぁに?」
美鶴
「……翔と会えなくなるのは、嫌だ」
翔
「……」
美鶴
「絶対にやだ」
翔
「アタシも、あんたに会えなくなるのは嫌よ」
美鶴
「彼氏が出来たとしても、きっと彼氏に愚痴は言えない。翔ちゃんを頼っちゃう」
翔
「……」
美鶴
「一人じゃいられないと思う。きっと自分は誰かに話を聞いてほしいタイプだと思うから」
翔
「そうね」
美鶴
「女らしさないし、お店で頼むのも男性が飲んでそうなお酒ばかりだし……」
翔
「好きになるのにそこは重要じゃないわ」
美鶴
「……きっと私面倒くさいよ」
翔
「いいわよ。既に面倒くさいじゃない?」
美鶴
「なにそれ。私がどんな思いで言ってるか翔ちゃんには分からないよ」
翔
「ええ、分からないわね。分からないけど、あんたが今気にしてること、アタシは全部気にしてないわよ。
あんたが気にしてること、全部見てきた上で言ってるの。分かってる?」
美鶴
「……翔ちゃんは、私でいいの?」
翔
「分かってないわねぇ。あんたが、いいの」
美鶴
「で、でも……」
翔
「でももへったくれもないわ。あんたの飲みと愚痴に付き合えるのはアタシくらいと自負するわ。
それに、アタシと会えなくなるのが嫌だと思う時点で気づきなさい?」
美鶴
「え?」
翔
「それくらい、あんたの中でアタシは大事な人間なんでしょう?それってもう、無意識にアタシのことを好きって言ってるようなものよ?」
美鶴
「そ、それは……」
翔
「……ねぇ、美鶴?」
美鶴
「ぇ、な、なに?」
翔
「返事は?ないのかしら?」
美鶴
「……わ、私、恋愛とかしたことないから、どう接すればいいか分からないよ?」
翔
「ええ」
美鶴
「恋人同士って、どういうことするのかも分からないよ?」
翔
「とりあえずキスじゃないかしら?」
美鶴
「キッ……!?」
翔
「あら。ふふっ。あんたって、本当に初心(うぶ)ねぇ」
美鶴
「か、からかわないで!私は本気で!」
翔
「誰にも渡したくなくなっちゃうじゃない」
美鶴
「私はッ……!」
翔
「美鶴。俺の彼女になって」
美鶴
「っずるいぃ……」
翔
「……」
美鶴
「なんか言ってよ!」
翔
「……美鶴。好きだよ」
美鶴
「男口調はずるい!」
翔
「(オネエ口調で)繕う必要、もうないじゃない?それに、オネエ口調のアタシも好きになってほしいけど……(男口調で)本当の俺も見てほしい」
美鶴
「……どっちの翔ちゃんも、好きだよ。バカ」
翔
「あら、嬉しいわぁ」
美鶴
「……むぅ。今日はまだ飲むぞー!」
翔
「流石にダメよ」
美鶴
「飲んで記憶飛ばしてやるんだー!」
翔
「じゃあ何回でも告白してやる」
美鶴
「ムカつくー!」
幕
2023/08/23 「オネエとの愚痴飲み会」 公開