遥か遠くの森の中に 外界から隔離されたように建つ黒と白の王国
それぞれの国には守り神と称される黒き竜と白き竜がいた
だがこの二つの国の王は仲が悪く 事あるごとに戦争を起こしていた
そんな争いの絶えない国の守り神も 顔を合わせる度に睨み合う始末
だがいつしか 二匹は敵同士ながらも恋に落ち 白き竜はその身に一つの命を宿す
大切に育てていこうと誓い合うが それを見ていた一人の兵士が王へと知らせてしまう
自国の守り神が敵国の忌々しい守り神と恋に落ち 子を宿した事を知った王は激怒する
妖しい程に大きな満月が白の国を照らし出す
白き竜が眠りについた時 王は竜に剣(つるぎ)を突き立てた
なんと悲しき声なのだろう
闇夜に包まれた白の国に 悲痛な白き竜の鳴き声が木霊した
月明かりが照らす先には 赤い海に倒れる白き竜の姿があった
守り神として守ってきた白き竜にとっては 信じられない出来事だった
今目の前にいるのは守ってきた者ではなく ただ自分とお腹の子供を殺そうとしている殺意の塊を持った人間
白き竜はお腹の子を庇いながらも逃げ回る
だが 怒りに満ちた王がそれを許すはずはなかった
意識を失う前に白き竜が見たのは 王の後ろにいる怒りに満ちた愛する黒き竜の姿だった
耳をつんざく程の鳴き声が 黒の国を守る竜の耳にも届いたのだろう
自国を捨ててまでも黒き竜が白の国まで飛んできた時 目にした光景はどれほど辛かっただだろうか
真っ赤に濡れた白き鱗はその輝きを失くし 今にも灯火が消えようとしていた時だった
黒き竜は怒りに満ち 黒と白の国を燃やしていった
何をする訳でもなく ただただその怒りに任せ 暴れるしかなかったのだ
全てを燃やし尽くし 空虚に変わった感情のまま立ち尽くしている黒き竜の耳に幼き声がふと聞こえた
虚ろな目をそこに向けた時 黒き竜の目に一筋の涙が零れ落ちる
そこには白き竜が残したであろう、小さな白銀の竜がいた
まだ飛べない程の小さな羽を必死に動かし 黒き竜の元へと近づいてきた
白銀の竜は黒き竜から目を逸らさなかった
その姿は、記憶に残るあの白き竜を思わせる
黒き竜の瞳には自然と光が戻り その怒りも静まっていった
そして白銀の竜をその腕に抱いた時 白銀の竜の鳴き声と共に 懐かしい声が耳にさした
黒き竜は 白銀の竜を抱え 朝日が差してきた空へと飛び立つ
幸せな時を過ごす為に 誰の目にも止まらない地へと
黒と白の王国が滅んでから 守り神である竜の姿を見た者は誰もいなかったと言う
きっとどこか遠い地で 幸せに過ごしているのだろう