赤青緑の3色の半導体レーザーから出た光をスクリーンにぶつけて、白を含む様々な色を生成している実験の様子iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/ab7bc8
濱口研では、赤、青、緑の3色を、一つの半導体から出射する新しいタイプのレーザーの研究を行っています。近年、AR/VRなどと呼ばれ、新しいタイプのディスプレイが広まってきていることは皆さんご存知のとおりです。これらの画像の生成には、赤、青、緑の3色の光源が必要でした[DOI 10.35848/1882-0786/ab7bc8]。しかしながら、これら3つの色のレーザーを同時に出射する半導体レーザーは、まだ誰も実現できていません。濱口研では、特殊な半導体共振器の設計ならびに製造技術と、学外の材料研究者らとの協力により、これらの素子を世界で初めて実現すべく、研究を進めています。また、この素子には分子や原子を掴む、「光ピンセット」としての能力が有ることも知られています。本研究は、量子コンピューティングや次世代のバイオ技術を切り開く鍵となることが期待されています。
皆さんのスマートフォンで地図アプリを使うとき、自分の位置がどうやって確認されているかご存知ですか?それは、GPSという技術によるものです。GPSは、人工衛星に積んだ原子時計と呼ばれる超高性能の時計から発せられる時刻を電波に載せて、スマートフォンで受信し、衛星からスマホに到達するまでにかかった時間から衛星までの距離を知ることで、位置を特定しているのです。ここで大事になるのがスマホの時計の性能です。スマホの時計は、精度の悪い水晶時計が使われています。そのせいで、1~3m程度の位置の誤差が産まれてしまいます。そこで登場が望まれているのが、超小型の高性能時計、すなわちチップサイズ原子時計です。これを実現する鍵が、半導体レーザーであると言われています。濱口研ではそれを実現すべく、何年経っても波長が一切替わることが無い、無限に時を刻むためのレーザーのアイディアを提案し、すでに特許を出願しました。
アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が開発したチップサイズの原子時計
研究しているレーザーのイメージ図。地球で光らせたレーザーで月を真っ二つにすることも。。。。
半導体レーザーの出力は、せいぜい数ワット程度だと言われています。しかし、ものを切ったり焼いたりといった加工をするにはその何桁も上ものエネルギーが必要になるため、半導体レーザーはまだ加工には広く使われていません。また、半導体レーザーは多数を並べることで、その光の質がどんどん悪化するということが知られています。つまり、レーザーらしく一方光に進むのではなく、電球の光のように四方八方に散り散りになってしまうのです。そこで、濱口研究室では、多数のレーザーを並べても、レーザーとしての性能を悪化させない技術の開発を進めています。この手法は位相同期またはコヒーレントビームコンバイニングと呼ばれ、半導体以外のレーザーでは研究が進んでいるものです。我々は、独自の半導体レーザーの設計と作製技術を用いて、これを微細な半導体レーザーの内部で行うための研究を行っています。本研究は、すでにその原理の一端が論文などで報告[https://doi.org/10.1038/s41598-022-26257-0]されつつあり、濱口研究室では独自の構造の特許を出願しています。この手法を発展させれば、船や飛行など様々な移動体に超高出力のレーザーを積んで、ガソリンの給油なしにエネルギーを供給したり、はたまた小型スマートフォンの中にとても明るいプロジェクターを搭載したり、さらには、人類のゆめとも言えるレーザー核融合を可能にすることが期待されます。
九州大学総合理工学研究院には、クラス1000に対応した200平米規模のクリーンルームが複数整備されており、半導体レーザーの形成に必要な微細加工プロセスを学内で完結できる環境が整っています。
また、作製した素子の性能を評価するための光学測定環境も充実しており、スペクトル測定や光出力・しきい値電流の特性評価、高速変調応答など、目的に応じた多様な測定が可能です。これらの設備は、学部生・大学院生を問わず、研究活動の一環として活用することが奨励されており、実践的なスキルを習得する場としても最適です。
濱口研究室では、こうした環境を活かし、次世代の高性能・高機能な半導体レーザーの開発に取り組んでいます。デバイス物理からプロセス技術、評価解析まで一貫して経験できるため、将来的に産業界・アカデミアのいずれに進むにしても強みとなるスキルを身につけることができます。
濱口研究室では、実験と並んで理論的な解析も非常に重視しています。半導体レーザーの特性を高精度で予測・最適化するためには、理論に基づいた設計が不可欠です。当研究室では、光共振器設計やモードシミュレーション、熱・電流・光の多物理場シミュレーションに対応した専用ソフトウェアを多数導入しており、これらを高性能な計算環境で駆動させることができます。
たとえば、FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法やBeam Propagation Method(BPM)、拡散方程式に基づくキャリア・熱シミュレーションなどを駆使し、デバイスの設計段階から性能予測を行うことで、試作に先立つ設計精度の向上と開発効率の最適化を図っています。
このように、濱口研究室では「理論と実験の融合」を重視し、両者が相互に補完し合うことで、高度な研究成果へとつなげています。理論に強い学生はその力を活かしてデバイス設計に貢献でき、実験志向の学生もシミュレーションの結果を踏まえた合理的なアプローチで実験に取り組むことが可能です。理論と実験はまさに研究の両輪であり、どちらか一方に偏ることなく、バランスよく取り組むことが質の高い研究につながると考えています。
九州大学総合理工学院は、博多駅から電車で約10分の大野城駅から徒歩1分、福岡空港からも車で10〜20分という、交通アクセスに恵まれた立地にあります。キャンパス周辺には生活環境も整っており、研究と日常生活の両面で快適な環境が整っています。
濱口研究室は、半導体レーザーを始めとした様々な分野を専門とする近隣研究室と研究空間を共有しており、学生同士の交流や研究ディスカッションが自然と生まれる活発な雰囲気があります。装置やノウハウの共有も進んでおり、異なる研究テーマをもつ学生とも相互に刺激し合いながら学べる環境が特徴です。研究だけでなく、共同セミナーや勉強会、技術的な相談の場なども頻繁に行われており、研究室の垣根を越えたつながりの中で、充実した学生生活を送ることができます。