MAKA

「まったく、品性の欠片もないわね。時間の無駄」

 クラウズのとある邸宅の一室。モニターに映る映像をまえに、マカは綺麗な顔を歪ませた。

 ネザーで話題の違法チャンネルは、見るからにオツムの足りない小娘がただひたすらに爆発を繰り返すだけの退屈な代物だった。低俗な連中の刹那的な娯楽としては、ちょうどいいのかもしれないが。

「もっとも、思わぬ収獲もあったけれど」

 湧き上がる歓喜を味わうかのように、薄い唇に舌を這わせる。

 小娘の背後で従者のように付き従う少女は、見覚えがあった。たしか、クラウズの夜会だったはず。名は、なんといっただろう。寡黙で、特段に着飾るわけでもないにも関わらず、衆目を集めていた女狐だ。まさか、ネザーに堕ちていたとは。いい気味だ、腹の底から可笑しさが込み上げてくる。

「でも、気に喰わないわ」

 マカの視線は、ふたりの手元へと吸い寄せられる。翅を休める蝶のように伏せられた睫毛のあいだから覗く瞳は、あたかも獲物を狙う爬虫類のようだった。

 適用外の銃。

 溝鼠の玩具としては過ぎたるものだ。


 適材適所という言葉が好きだった。

 あるべきものは、あるべき場所に収まるべきだ。

 換言すれば、収まっている場所こそが、そのもの自体の価値を示している。

 劣ったものは地を這い泥水を啜って毒混じりの大気のなか死んでいくべきだ。

 優れたものは天に座し甘露に舌鼓を打ち澄んだ大気のなか生きていくべきだ。

 そしてそれは、適用外の銃とて同じこと。


「行きましょう」

 マカは立ち上がり、壁際に立つ“彼”へと声を掛けた。

 近づいてきた“彼”の手へと、マカは指を絡ませる。求愛を示す白い蛇のように。

 無骨なその手に、彼女らの適用外の銃はきっと似合うことだろう。

 否、似合うはずであり――似合うべきなのだ。