AMATA
「ったく、いつ来ても陰気な店だぜ」
キルコの言葉通り、店内は陰鬱な灰色に包まれていた。窓はなく、埃まみれのランプが、曖昧に光と影の境目を引いていた。
店の奥で、白髪の女性がゆっくりと振り返る。
「キミが入ってくるまではもっと陽気だったんだがな」
「そいつは悪かったな。詫び代わりに窓のプレゼントはいるか? 蜂の巣状の」
そう言ってキルコは銃に手を掛ける。
「やめておけ。そうすると、キミの夕飯が毎日ブリッジの端まで知れ渡ることになる」
「けっ、おまえの冗談は冗談にならなそうだ」
両手を挙げるキルコを見て、女性はクスクスと忍び笑いを漏らす。
「久しぶりだな、キルコ。と言っても、キミの情報は常々聞こえてくるから、あまり久しぶりという感じがしないよ」
「相変わらず良い趣味してやがる」
キルコは顔をしかめるが、口調はどこか楽しそうだった。
そして、思い出したかのようにヒバナへと向き直る。
「こいつはアマタ。ネット随一の覗き魔だ」
アマタはニコリと笑って――それは、不思議な笑いだった。笑っているけど、笑っていないような――手を差し出した。
「こんにちは、ヒバナ」
「ほらな」
キルコは嫌そうに顔をしかめた。
たしかにまだ、ヒバナは名乗っていない。
「あなたは、なんでも知ってるの?」
「ああ、そうだ。なんでも知ってる」
アマタは即答する。しかし、次の瞬間、わざとらしいため息をついた。
「……はずだったよ。ついさっきまでは」
「あ? おまえ、それ、どういう意味だ」
「どうもこうもない、営業妨害もいいところだ。生憎だが、私の情報網をもってしても、ヒバナ、キミがこれからしようとしている質問には答えられない」
「つまり?」
ヒバナは、静かに言葉の先を促す。
「つまり、こういうことだ――キミはいったい、何者だ?」