後追いGiRLPOP ディスクガイド

谷村有美『PRISM』

泣きたい時に泣く、笑いたい時に笑う、心のプリズムはいつも正直

1990/5/12 45m ソニー

  1. BLUEじゃいられない

  2. 6月の雨

  3. ようこそ愛する気持ち

  4. 友達でいい

  5. 黄昏のシルエット

  6. シンデレラの勇気

  7. ラッシュ・アワーのアダムとイヴ

  8. 眠れぬ夜の恋人達

  9. つばめに逢える頃に

  10. ひとつぶの涙

  • ソフィスティケイテッドな楽曲クオリティ、社会へ進出し力強く生きる女性としてのイメージ、 ブックオフ280円コーナーでの遭遇率……いずれも取ってもGiRLPOPを代表する存在といえる谷村有美が、90年に発表した4thアルバム。

  • 編曲は全曲で西脇辰弥が担当。密度は高いが空間的な余裕も感じさせる、きめ細やかに要所を突くアレンジは文句なし。打ち込みとバンドサウンドの比率も丁度よく、⑧ではプログレなシンセソロも。ドラムの土屋敏寛をはじめ、バックのプレイも心なしか生き生きとしている。

  • 作曲は谷村と西脇が5曲ずつ担当。戸沢暢美の作詞も素晴らしい③・ノリの良い①⑥⑦で西脇曲がアルバムを牽引すれば、対する谷村も名曲②・どこか影のある④⑧・壮大な⑩で対抗。谷村の詩との相乗効果もあり、各楽曲のクオリティは高い。また②の全音2回上転調や⑥のハイトーンなど、谷村のクリスタルボイスをよく味わえる作品でもある。

種ともこ『オ・ハ・ヨ』

1989/3/1 45m ソニー

  1. The Morning Dew

  2. オ・ハ・ヨ

  3. ゲンキ力爆弾

  4. 時間延長のシンデレラ

  5. Triangle On The Pavement

  6. Had Enough

  7. INITIALISE

  8. 光合成・アフリカ

  9. 謹賀新年

  10. 戦争気分でPicnic

  11. KI・REI

  • デビュー以来続いた武部聡志とのタッグを解消し、プロデュース・編曲を自ら担当した転機の4thアルバム。ジャケットへ掲げた「All Songs Performed by Tomoko Tane」に偽りなく、詩・曲・アレンジの有機的な組み合わせが堪能できる1枚。

  • 各曲のキャッチーさ・展開の良さもさることながら、それらの曲を頭から通して聴いた際の、アルバムとしての繋がりが特筆モノ。1曲目からラストまで、ついつい聞き続けてしまうし、引き込まれてしまう。アフリカを歌う⑧・日本の正月を歌う⑨という一見驚く曲の並びも、特に違和感なくすんなり聴けてしまうのが象徴的である。

  • 個性豊かな楽曲が並ぶ一方で、各曲に一貫した「種ともこ”らしさ”」が見て取れるのも素晴らしい。「曲の個性」と「作曲家の個性」は別モノであり、両者のバランスをとるのは意外と難しいのだが、本作はその難題を見事にクリアしている。

長山洋子『F-1』

ビッグアーティストたちがナガヤマに書いた‼ 超強力な10のオリジナル・トラック!

1988/9/21 44m ビクター

うたうように / NO ESCAPE / 雨にうたれて / あたらしいYesterday / ラハイナの風 / CAR WASH / あきらかに愛になってた / バナナフィッシュの日 / Be-Song / 屋上へゆこうよ

  • 現在は演歌歌手として活躍する長山洋子がアイドル歌手時代の88年に発表した5thアルバム。それまで洋楽の日本語カバーを歌うことの多かった彼女が、種ともこ・中原めいこ・鈴木雅之・松尾清憲・安部恭弘という5名の日本人作家によるオリジナル曲のみで勝負した1枚。

  • 種ともこ節の効いた佳曲①から、鈴木雅之のコーラスが存在感アリアリな③、 松尾清憲が流石のメロディを聴かせる④、これぞ安部恭弘!な⑦⑧などを収録。各作家陣の個性はバラバラのはずなのだが、全曲を編曲した鷺巣詩郎の尽力によってアルバムとしての統一感は髙い。

熊谷幸子『ART OF DREAMS』

1992/9/23 43m EMI

  1. 天の川の岸辺へ

  2. みんな雨の中

  3. 恋の色

  4. 風をきって

  5. 何かが夜をやって来る

  6. シャボン玉と片想い

  7. レインダンス

  8. 恋人たちのMorning Moon

  9. 未来はきみのもの

  10. 遠い日をきこう

  • 松任谷正隆が校長を務める音楽スクール「マイカミュージックラボラトリー」へ通学中に才能を見出され、29歳でデビューした熊谷幸子の1stアルバム。松任谷がアレンジ・プロデュースを手がける他、作詞もマイカ在学生によるチーム「マイカプロジェクト」が手がけるなど、オール・マイカで作成された1枚。

  • サビの瑞々しさに心を打たれる①、「熊谷節」と言いたくなる独特のソングライティングが炸裂する②④⑦、疾走感にあふれた大名曲⑨などを収録。つい彼女には「天才」という形容詞を使いたくなるが、その実際は綿密に練られたコード進行とメロディによる努力の結晶といえよう。

  • (もともと作曲家志望ということもあり)熊谷の歌唱は個性的というよりはプレーンな風味だが、逆にそれ故にコード進行・メロディの良さが添加物なしで耳へ届く。もしも別のシンガーが歌っていたら、ここまでの感動はなかったのかもしれない。

松本伊代『MARIAGE〜もう若くないから〜』

1991/1/21 44m ビクター

きっと忘れるから / 恋は最初が肝心 / マリアージュ〜幸せになって / la Primeur / 魅惑の扉 / 予期せぬ出来事 / 交通渋滞 / 手遅れの告白 / カーマイン・ローション

  • 80年代後半から脱アイドル化し、同年代女性へターゲットをシフトした松本伊代が91年に発表したキャリア最終作。彼女自ら執筆した同名小説とのタイアップ作品だが、企画盤ではなくオリジナル・アルバムと呼ぶに相応しい1枚。

  • デビュー前の熊谷幸子が前半4曲の作曲を手がけており、中でも①③は瑞々しい熊谷メロディに溢れた名曲。また他の作家陣としてMAYUMI・崎谷健次郎・小西康陽が参加しており、特に小西のペンによるピチカート・マナーな⑦⑨は良曲である。松本の歌唱も耳に馴染む丁寧な仕上がりで、90年代OL歌謡の一つのメルクマールといえる。

和田加奈子『DESSERTに星くずのゼリーを』

1990/9/27 43m EMI

  1. 月のHOTEL

  2. Good Luck Factory

  3. Convenience Boy

  4. Baby ClassのGrandmother

  5. 風の丘

  6. HEARTでふりむいて

  7. 涙のPuddle

  8. 想いのかけら

  9. '90 1/8JUNの旅

  • 「きまぐれオレンジ☆ロード」関連楽曲でも知られるシンガー、和田加奈子の90年作6thアルバム(フルアルバムとしては最終作)。OLや同世代女性を意識した前作『Dear』を汲みつつも、よりパーソナルに開けた1枚。和田は芸大出身であり、本作発売時には同タイトルの個展も開かれた。

  • 全曲の作詞を和田が担当。詞の世界観に合わせた言葉選びのセンスに非凡なものがあり、詩情あるものから俗っぽいものまで巧みに操っている。特に④は書けそうでなかなか書けない名曲。TSUKASA・上田知華・沢田久美子ら作曲家陣にも勢いがあり、特に沢田の②⑦は注目に値する。

  • 編曲は当時『マルサの女』等の劇伴や自身のグループ「RADIO CLUB」で活躍していた本多俊之がメインで担当。倍音豊かなアコギのアルペジオが印象的な①、メリハリが効いた③など文句のない仕事ぶり。その他は⑥が編曲:鳥山雄司、作曲:林哲司による佳曲である。

高橋洋子『9月の卒業』

友達、恋人、家族。あなたとあなたの一番大切な人の為に。

1993/8/25 54m キティ

  1. 3人ハッピーエンド

  2. Family

  3. 眠れない夜はため息が踊る

  4. 羽根枕

  5. 例え全てを失くしても

  6. ゆらめいて

  7. 祈夜

  8. ブルーの翼

  9. Little Bird

  10. 9月の卒業

  11. みんなおやすみ

  • 今ではすっかり「エヴァンゲリオンの人」になってしまった高橋洋子だが、そんな彼女の初期を代表する93年リリースの2ndアルバム。全曲を彼女自身が作曲(作詞は田久保真見との共作)した、後にも先にも唯一の作品である。

  • ハイトーンボイスで歌い上げる⑤⑧⑩、無国籍調のメロディで言葉を畳み掛ける③⑥、トラディショナルな音楽を上手く吸収した⑦⑪など……振り幅の大きい楽曲が収録されていながら、1枚のアルバムとして違和感がなく、かつどの曲もクオリティが高い。後に「YO!キタロー」としてコンビを組む中村キタローと柿崎洋一郎を中心に、ライオン・メリィや安西史考ら編曲陣の活躍も目立つ。

  • 楽曲の緩急に応じた高橋洋子の歌い分けも素晴らしい。ハイトーンで声を張る際の上手さは言わずもがなだが、声を張らない歌い方の時にこそ彼女の上手さが際立つように感じる。

MINNIE『想い出じゃ眠れない』

25時、貴方の部屋で聞いてほしい

1991/11/21 48m ソニー

  1. 背中にしたキス

  2. たーいへん

  3. 目が眩むほど

  4. あの夏 猫を拾った

  5. 満月イン・ザ・ムード

  6. 太平洋高気圧〜ジャム

  7. やっかいばかり

  8. わたしのゴスペル

  9. トランペットが聴こえる

  10. お・は・よ・う

  11. 20世紀のララバイ

  • それまでブラコン寄りの打ち込み路線をとってきたMINNIEが一変、腕利きのバックバンドを携えてたっぷり空間をとり、良質のポップスを展開した1991年発表の4枚目。彼女のキャリアにおけるラスト作でもある。

  • サウンド・プロデュースをバンド全員の連名としたのが象徴するように、本作では各メンバーが楽器でお互いを牽制し合うかのような、緊張感あふれるバトルが展開されている。それでも最終的に出力されるのは、ふくよかでぬくもりのある音場なのが素晴らしい。MINNIE本人の作曲による美メロ①⑧を筆頭に、柿崎洋一郎の③、Mother's Rhythm(中村キタロー ・秋山浩一)の②⑨、羽田一郎の④⑦⑩と各楽曲のクオリティも高い。彼女のハスキーな歌唱が松井五郎の詩と意外にマッチしているのもポイント。

  • もう一つ本作を特徴づけているのが録音の良さ。採用されているETS(エクストラ・トーン・システム)の賜物かは不明だが、非常にクリアで臨場感のある音となっている。

坪倉唯子『Loving You』

都会のリゾートの中で…。

1990/3/21 44m ビクター

Sunshine Blue / Shooting Star / 365の夜と昼 / Heaven In My Heart / Taxi-Driver / 刹那 / Let Your Love Grow / Blue Moonにまにあえば / Like A CINEMA

  • 85年のレコードデビュー後、様々なミュージシャンのバックコーラスでも活躍していた坪倉唯子が、同年にB.B.クイーンズのボーカリストとして「おどるポンポコリン」を大ヒットさせる直前に発表した2ndアルバム。

  • シンセベースの連打が気持ち良い明石昌夫編曲の②、坪倉のバックボーンである洋楽嗜好が強く出た本人作曲の④などを収録。また⑤は亜蘭知子が85年に、⑦は土方降行が80年に発表した楽曲のカバーである。 編曲名義の多くはM-Project(ビーイング関連の頻出クレジット)だが、青山純や伊藤広規が参加するなど楽曲の強度は総じて高い。

今井美樹『MOCHA under a full moon』

1989/6/21 46m フォーライフ

  1. TOKYO 8月 サングラス

  2. 横顔から I LOVE YOU

  3. Boogie-Woogie Lonesome High-Heel

  4. Anytime Manytimes

  5. 飽きたら言って

  6. 明るくなるまで

  7. ありふれたlove scene

  8. 泳ぐ

  9. 地上に降りるまでの夜

  • 86年の歌手デビュー以降、コンスタントに作品をリリースしその地位を確立していった今井美樹が、89年に発表した4thアルバム。前作の名盤『Bewith』と並んで「夏」をテーマとし、聴く者を(たとえその時代を生きていなかったとしても)80年代末の夏にタイムスリップさせる1枚。

  • 前作から岩里祐穂・上田知華・柿原朱美・MAYUMI等、初期今井作品を語る上で欠かせない女性作家陣が参加。今作もその流れを引き継ぎ、脂の乗った上田知華作曲の③⑦、MAYUMIによる転調サビが印象的な④等を収録している。

  • 編曲はこちらも初期今井作品ではおなじみの佐藤準・武部聡志が担当。とはいえ他のゆったりとしたアルバム群とは毛色が異なり、前半はダンス・ポップ成分が強めのアレンジとなっている。それでも今井美樹が歌えば、全て今井美樹の空気になるのは流石の一言。

森下恵理『嘆きのプリマドンナ』

よりポップになったERIのオリジナル・ニューアルバム

1988/3/21 51m BMG

Purple Train / Blue Eyesを抱きしめたい / Away of Escape / テーブルクロス / Blind Date〜真夜中の恋人 / MAMAはナーバス / High Time To LOVE / 聴かせてWorry / 無邪気になりたい / アイスキャンディー・ベイビー / Good Day, My Time / 嘆きのプリマドンナ

  • 85年にアイドル歌手としてデビュー。結婚を機に引退するも、後にシンガーソングライター「Eri」として再デビューする森下恵理が、88年に発表した2ndアルバム。

  • 4曲で森下自らが作曲を担当。彼女がアイドルのなんちゃって作曲でないマジのソングライターなのは、名曲②を聴けば明らかである。また本作は作詞:岩里祐穂・作曲:上田知華の楽曲を4曲収録。オープニングの①や名曲⑥など、後に今井美樹作品等で有名になるコンビの萌芽を見ることができる。編曲面では杉山TOMの硬質ながら練られたアレンジを中心に、崎谷健次郎・中村哲・林有三が脇を固める。

山下久美子『Joy for U』

1991/4/19 59m EMI

  1. 恋の数だけ流した涙

  2. REF・RAIN

  3. 君がいれば

  4. I'M LONELY

  5. 友達でいようよ

  6. SEASON

  7. Let me go!

  8. ファンタジア

  9. ロマンス

  10. Joy for U

  11. 微笑をもう一度

  12. Tonight〜星の降る夜に

  13. 春に降る雪

  • 1980年にデビューし「赤道小町ドキッ」のヒット等で知られた山下久美子が、2年間の活動休止から復帰・レコード会社を移籍して発表した91年作13thオリジナル・アルバム。 活休前のロック路線とは異なる、ポップに開けた1枚

  • 当時の夫であった布袋寅泰がプロデュースと全作編曲を担当。ヒット曲である⑫をはじめ、溢れんばかりのポップセンスが全編に発揮されている。布袋が「ギターの人」なのは周知の事実だが、本作を聴くと彼が「コーラス・ワークの人」でもあることがよく分かる。

  • いかにも「布袋」印なビートポップの①⑤⑥から、ファンクとは異なる”ファンキー”な②⑦、無駄に壮大な⑧、じっくり聴かせる⑨〜⑪ など、統一感はありつつも幅広い楽曲を収録。いずれの曲にも隠し味的なスパイスが効いており、聴き手を飽きさせない。対する山下の作詞とハスキーな歌声も、流石の息の合い方で本作の成功に一役買っている。

白井貴子『BOB』

1990/9/25 49m ポリスター

DREAMIN'(夢見る想い) / Naughty Boy / キッスで仲良し / 恋のup+down / 野生のマーガレット / Lovely Drive / 輝きは草原の中に / BOB大作戦 / 1人ぼっちのRadio Star / ガラスの天井

  • 日本における女性ロッカー先駆者の1人:白井貴子が活動休止・渡英を経て、復帰し3年ぶりに発表したオリジナル・アルバム。よい意味で力が抜けつつも、確かな手応え・息吹を感じさせるウェルメイドなポップ・ロックの佳作。

  • 白井の伸びやかで気持ちが良い、腹から声が出たボーカルは健在。ソングライターとしても名曲⑤をはじめ、今作を象徴する⑧など、歌詞と曲が有機的に組み合わさっている。編曲には白井本人と、後に結婚する本田清巳、奈良部匠平の3者がクレジット。派手さこそ控えめだが、丁寧かつ要所を押さえたアレンジには好感が持てる。

浜田麻里『COLORS』

1990 MARI HAMADA ── すなおな実存主義。

1990/9/21 49m ビクター

Is This Justice? / Innocent Colors / Heaven Knows / Plastic Conversation / Nostalgia / Empty Room / There's No Limit / Take It Easy On Yourself / Be Wild / Material World / Monologize

  • 83年に「麻里ちゃんは、ヘビーメタル。」の惹句でデビューし、現在も精力的な活動を続ける浜田麻里の90年作10thアルバム。前々作から続くGreg EdwardプロデュースのL.A.録音で、ハードロックに留まらない美メロ路線を更に推し進めた1枚。作詞はいつも通り本人が全て担当している。

  • 後にライブ定番曲となる増崎孝司作曲の⑤をはじめ、メインソングライター大槻啓之による③④などノリとパワーのある楽曲が並ぶ。サウンド面では過剰とも言えるコーラス・リバーブの洪水がミソで、音を浴びるような埋没感の中で浜田のハイトーン・ボイスを堪能することができる。

大塚純子『HURTS』

心のキズに良く効きます。

1990/7/21 43m ソニー

  1. HURTS

  2. Be With You

  3. So Sorry

  4. Dreamers' Shuffle

  5. 星降る夜に

  6. シューズ・ショップで聴いた歌

  7. はだかの窓

  8. オフィス街のクライマー

  9. Money, Money

  10. 金網ごしのBlue Sky

  • かの「大"橋"純子」と一文字違いなので勘違いしそうだが、こちらは後に伊秩弘将と組んだThe Gardensの活動でも知られる「大"塚"純子」が90年に発表した1stアルバム。

  • 本作の良さは曲のクオリティの高さに尽きる……と言いたくなるほどに、伊秩弘将・西脇辰弥・上田知華ら作家陣の書く曲には力が入っている。大塚の歌声は良い意味でクセがなく、その楽曲本来の良さをストレートに引き出している。また作詞は大塚本人が6曲を担当。マーケットを狙ってか彼女の素か、青春をテーマにした内容が続き食傷気味になるが、曲への歌詞の乗せ方という点では評価できる。

  • 編曲は5曲を受け持つ西本明を主軸に、佐橋佳幸・西脇辰弥が担当。大雑把に括ってしまえば「青春ポップ・ロック」なアレンジだが、それ以上の何かを聴く者に感じさせる力がある。

草地章江『NOT ALONE』

「ひとりじゃない。いつもいっしょにいるよ。」草地章江デビュー‼

1989/2/21 44m ハミングバード

DANCIN' DYNAMITE / Sailing Alone/ 今夜だけ I Love You/ いっしょにいたい/ Clap Your Hands/ Gimme Gimme Everything/ Girls On The Road/ IN THE RAIN/ Sympathy/ BEST FRIEND

  • 後に声優として知られる草地章江が、89年に歌手として芸能界デビューした際に発表した1stアルバム。所属事務所・レコード会社が共に同じだった中村あゆみの妹分的な存在として、鎌田ジョージがプロデュースを手がけた1枚。

  • 編曲は鎌田を中心に井上鑑・富田素弘が参画。サウンドは分かりやすい「青春ポップ・ロック」だが、要所要所の作り込みが丁寧であり大味感はない。楽曲では「テミヤン」こと宮手健雄の手がけた③⑥⑨⑩がいずれも良曲。 岩里祐穂・神沢礼江の手がけた歌詞も発注通りの青臭さでノリが良く、鎌田作曲の名曲④など詞・曲の相乗効果がある。

川村かおり『ZOO』

1988/11/21 37m ポニキャン

  1. Sweet Little Boy

  2. ZOO

  3. からっぽのフィルム

  4. Russian Blue

  5. 365日の戦争

  6. Paradise City Blues

  7. Winter Mute

  8. Kids

  9. You've Got A Friend

  10. 真っ白な月 (Moon On The Destiny)

  • ロシア・日本のハーフでモスクワ出身、当時17歳だった川村かおりが88年に発表したデビュー作。思わず「和製スザンヌ・ヴェガ」と形容したくなるような、内省的な世界観を巧みに表現した好盤。

  • 作曲・編曲は(当時はまだ「ECHOESの」だった)辻仁成が全曲で担当。後に多数のカバーが生まれた名曲②の存在は大きいが、それ以外の楽曲でも辻の力を抜かないプロデュース・ワークが光っている。①③⑥など少ない音数のシンプルな曲、⑦のようなバンド・サウンドの両方にセンスの良さが伺える。

  • 37分というトータルタイムからも分かるように、1曲1曲が無駄に風呂敷を広げずコンパクトな点にも好感がもてる。作詞は川村と辻が半分ずつを担当しているが、共に見えている世界観が似ているのか、アルバムとしてのまとまりは強い。若干青臭い歌詞も、サウンドの方向性と上手くマッチしているため違和感がない。

淺井ひろみ『オリジン』

1988/2/25 46m BGM

  1. SLEEPING IN THE MOON

  2. 悲しみのWhy

  3. XPoint

  4. くちびるが読めない

  5. When I Fall In Love Again

  6. Stranger

  7. YOU BAD

  8. HOW MANY

  9. 方舟にはぐれて〜星が生まれた日〜

  10. マインド・ピクニック

  11. 眠りを泳ぐ夢

  • 現在は「HIROMI」名義で活動するシンガー:淺井ひろみが88年に発表したデビュー作。海外作家の楽曲提供および洋楽カバーで構成された、作曲クレジットが全て英字の1枚。

  • 強い洋楽指向を感じるが、今作は単なる「洋楽指向のアルバム」ではない。村上啓介・椎名和夫(ex-はちみつぱい)・栗原正巳(現・栗コーダーカルテット)の3名が編曲を担当しており、当時の洋楽メロディと邦楽アレンジが絶妙に絡みあっている。また歌詞も只野菜摘をはじめとする作詞家によって、ほぼ全曲に日本語詩が当てられている。この和洋折衷が独特なオリジナリティを生み、本作を名盤にしていると言えるだろう。

  • 淺井の歌唱も力の入った素晴らしいもので、本作のリリース後にチャゲ(CHAGE & ASKA)が彼女を村上啓介と共にMULTI MAXへ誘ったのも頷けるところである。

伊東真由美『美人声』

私のお部屋へ遊びにおいでよ

1992/4/22 41m テイチク

  1. ドラキュラ感覚

  2. 美人声

  3. 1-23-9 マンション・パラノイア

  4. 無言の告白

  5. この街の夜は‥

  6. 抱きしめて

  7. Dear Friend

  8. 月の小舟

  9. 電車の中に咲く花

  • 女子高生シンセ・ジャズバンド「白雪姫バンド」のボーカリストとしてデビューし、その後ソロで活動した伊東真由美が92年4月に発表した3rdアルバム。彼女のキャリアにおける最終作でもある。

  • 今作は何と言っても、住友紀人による編曲が素晴らしいアルバムである。後に多数の劇伴を手掛け人気作家となる彼だが、この時期の作品クレジットで名前を見ることは少なく、キャリア初期の貴重な仕事の1つとも言える。特に冒頭の3曲と欧米のSophist-Popを好解釈した⑦は秀逸。その他の曲も各所の音使いには光るものがある。

  • 前2作とは異なり、今作は全曲で伊東真由美が作詞(共作含む)を担当。「美人声」「ドラキュラ感覚」など、その独特の言語センスが楽曲の雰囲気に大きな影響を与えている。前作までのダンス・ポップ路線とは明らかに毛色が異なっており、異色作として受けとめられるべき1枚。

福島祐子『時の記憶』

永遠に、記憶される、音楽の魔法。

1991/10/21 54m ヴァージン

  1. 桜舞い

  2. Sensitive Heart

  3. ひめた想い

  4. 平安栄華

  5. 逢いたい

  6. MIKO

  7. 天球の音楽

  8. Army Grief

  9. 夏のよるの夢

  • 多数の劇伴を手がけ、CHICABOOMへの参加などキューバ音楽にも関わりの深い作編曲家、福島祐子が1991年に発表した全曲歌モノの1stアルバム。New Age的なミステリアスの空気感を維持しつつも、雰囲気だけで終わらせない彼女の実力・センスが随所にほとばしる1枚。

  • ウィスパーボイスの繊細さと、デジタルサウンドの大胆さ。たおやかで整合性の取れた部分と、ノイジーで緊張感のある部分……相反する要素がうまく共存した良盤である。全曲を聴き終えた後の「不思議な酩酊感(ブックレットのライナーより引用)」は緩急の美によるものか。

  • また本作は単なる「和テイスト」とも異なる「古都」感……1000年前の日本的イメージのシミュレートを散りばめることで、ミステリアスを獲得している点が秀逸である。彼女の作詞にもある種の「和歌」感があり、音の一つ一つに丁寧に言葉が置かれている。

NADJA『月日星』

地図をずっと南へ。

ニース、アルジェ、ダカール─ジャマイカを経て三光のアジアへ。ナジャの幻想はいま密かに始まる。

1989/10/25 37m ポリスター

  1. LA CLARTE

  2. WAC-WACK

  3. 頬に紅い恋

  4. 夢のとりこ

  5. 真珠のように

  6. VELVET RAIN

  7. PARADISE CATCHER ~サンスプラッシュの悪夢~

  8. PRIVATE TRIPPER

  9. 地図をずっと南へ

  10. 風の女

  • 現在は「日向さやか」としてジャズ・カリビアン等のDJで活動する彼女が、NADJA(ナジャ)のアーティスト名で89年に発表した2ndアルバム(タイトルは「チイチョホイ」と読む)。太くシルキーでエキゾな歌声と、ジャケットも含めたミステリアスなイメージがマッチした不思議な1枚。

  • トータルプロデュースを牧村憲一が担当し、アルバムを3サイドに分割。アルバムの顔は清水靖晃によるオリエンタルな「月」side②〜⑤で、指の間をすり抜けていく砂のような気持ちよさ。楽曲単位では吉田美奈子・井上鑑コンビによる、ムーディな「星」side⑥⑧がピカイチ。「日」sideは仙波清彦による強烈な⑩を筆頭に、福原まりから小沢健二までがクレジットされ、異種格闘技戦の様相である。

  • これを「ゴージャス」と取るか「ごった煮」と取るかは人それぞれだが、固有名詞の羅列だけでは表現しきれない魅力を持ったアルバムなのは確かであろう。

清水三恵子『貝の道』

倫敦・東京・世界音楽 ──

1990/8/21 38m テイチク

  1. 星の流れに

  2. 夢の夢

  3. Indian Afternoon

  4. River House

  5. God Bless'The Child

  6. 青の人

  7. 風吹く頃

  8. 渚の二人

  • 清水靖晃の実妹であり、「Apache 61」名義の活動でも知られるロンドン在住コンポーザーの2ndアルバム。1stはUKリリースだったが、今作はテイチクからの国内リリースとなっている(録音はロンドン)。

  • アレンジは彼女のキーボードとプログラミングを中心に、要所で現地のミュージシャンを起用。Ed Pooleのフレットレス・ベースが唸る①②を筆頭にバックのクオリティは高く、スリリングな音像からは音の津波が押し寄せるような感覚すら覚える。

  • 作曲面では、まずイントロの気持ちよさがあり、その勢いのままAメロ・サビへ突進していく……という、ワンモードの快楽を追求している点がポイント。④⑥などに顕著だが、1つのパターンの強度にこだわることで生まれる没入感が、彼女の歌声やコーラス・ワークと相まって本作の世界観を決定づけている。

濱田理恵『無造作に愛しなさい。』

1989/11/10 47m メロトロン

  1. ごっこ遊びをいたしましょ

  2. 二月生まれ

  3. 地上の恋人達

  4. アーシャ

  5. 春の夜の夢

  6. Bye Bye Black Bird

  7. アネモネ

  8. 汚れた夏

  9. 無造作に愛しなさい

  10. 灰にもなれず 塵にもなれず

  11. 靴をぬいで

  • NHK教育「いないいないばぁ!」内の音楽でも知られ、現在はDarieのアーティスト名で活動する濱田理恵が89年に発表した1stアルバム。プロデュースは鈴木博文で、リリースも氏が主催するメロトロン・レコードから。

  • 作詞・作曲・編曲の全てを本人が担当(①②は共同編曲)。ムーンライダーズの系譜として連綿と続く「オルタナティブなポップ」を純粋培養させ、これでもかと惜しむこと無く練り込んだ名盤。冒頭3曲の展開は複雑だが、こねくり回したというよりは、自然にポロッと出たものを採用した結果だと分かるのが良い。濱田のメロディメーカーとしての才能は紛うことなきもので、その手の音楽を好む人にはたまらないフレーズのオンパレードである。

  • 参加ミュージシャンは鈴木博文の他、棚谷祐一・坂東次郎(Carnation)、安部王子、保刈久明、吉良知彦など。当時の湾岸スタジオ周辺の雰囲気が伝わる1枚。

斉藤美和子『タイム・ミシン』

1989/12/21 49m 徳間ジャパン

WINTER WINK / サヨナラの景色 / NEGATIVE HEART / ハイヒール / KISS! / Brother / 恋人はいつでも / 12のガーネット / ロンリー・スターダスト・ダンス / 恋のダイヤル6700

  • タンゴ・ヨーロッパの「ニャンコ」としてデビュー。86年からソロ活動を開始。その後作詞家として「さいとうみわこ」「さいとういんこ」等の名義で活動する彼女が、メジャーデビュー後の89年にインディーズ期の楽曲をコンパイルした2ndアルバム。

  • 録音・ミックス等はインディーズゆえに甘い部分もあるが、それが「味」と思えるのは楽曲のクオリティが高いから。特に元FILMS:赤城忠治の手がけた③④⑦は名曲で、メジャーのお膳立てが無いが故のキラメキがある。また⑨は1stアルバムにも収録の名曲だが、本作は作曲者である沖山優司が編曲も努めたオリジナル版が収録されている。

酒井法子『マンモス』

椰子の木かげで極楽歌謡 聴けば原色トロピカル

1992/7/22 41m ビクター

  1. 渚のピテカントロプス(マンモス・バージョン)

  2. TUESDAY TIKI

  3. ビンボ・ナンボ・マンボ

  4. おじいちゃん is watching TV

  5. 好きだよ

  6. やさしくしてあげたい

  7. 平気!平気!

  8. 今夜もニュース・ホリック

  9. 神のみぞ知るハートのゆくえ

  10. REAL

  • 87年の歌手デビューから早いペースで作品をリリースしていた酒井法子が、初となる1年のインターバルを挟んで91年に発表した10thアルバム。のりピー語の代表的な副詞である”マンモス"をタイトルに掲げた、うれピ〜!な1枚。

  • 本作でまず特筆したいのが、半数の曲で作詞を手掛けた"さいとうみわこ"の活躍ぶりである。強烈な④⑧に代表されるキャッチー・シニカル・ユーモラスな歌詞は、ソロ活動を含めた彼女のキャリアにおいても異色の出来栄え。一方で小森田実作曲の⑩ではメロディに合わせてストレートな歌詞を書く二面性もあり、作詞家としての充実が見える。

  • 他の作家陣では羽田一郎の作編曲によるザ・トロピカル歌謡の①、遠藤京子作曲による緩急が効いたリゾート・ナンバーの②、井上ヨシマサ作曲によるロックな⑦などを収録。アートワークの派手ハデしさとは裏腹に、どこか懐かしさを感じる楽曲が並んでいる。

中野麻衣子『Bay Side Story』

潮風が、心地よいばかりじゃないことを教えてくれた…よこはま

1991/6/28 46m EMI

Moonlight Bay Bridge / Imitation Blue / チャイナ・タウン / 週末のLovelorn Girl / 夜明けなんかこなくていい / Twilight / カリブの熱い砂 / Dear My Memories / 頬づえなんてつまらない / 遠い日曜日

  • 現在は横浜にてライブバー「Rick's Cafe」のママをしている(らしい)シンガー:中野麻衣子が91年に発表した唯一のアルバム。古き良き昭和ヨコハマ歌謡曲的フレーバーを、後追いだからこその高純度で散りばめた1枚。

  • 佐藤健作曲の佳曲②、京田誠一編曲の「まさに!」な③⑦などを収録。詩・曲・編で総勢13名の作家が参加しているが、コンセプトがハッキリしているためかアルバムには良い統一感がある。テンポを上げれば谷村有美になりそうな西脇辰弥作編曲の④も、中野麻衣子が歌うと変に浮かないから不思議である。

水沢瑤子『あなたがいるから』

もし本気なら、あなたの恋をあきらめないで。

1992/9/23 48m トーラス

ワインカラーのせつなさ / 最愁夜 / グラデュエーション / 恋の足音 / フォーエヴァー・フレンド / 最後の笑顔 / 永遠を追いかけて / タンバリン / あなたがいるから / あの凪ぎ風にさよなら

  • 現在は本名の「波多江美鈴」として横浜の老舗バンド「スクラッチ」のボーカルを務める彼女が、「水沢瑶子」の芸名で92年に発表した1stアルバム。これぞトーラス・レコード!と言いたくなるような、ド歌謡ポップを聴かせる1枚。

  • 全曲で作詞を大津あきら、編曲を岩本正樹が担当。①からリスナーをムーディーな世界に引き込み、そのまま覚まさせない構成となっている。対する水沢の歌唱力も抜群であり、楽曲のもつポテンシャルを120%引き出す歌いぶり。亀井登志夫作曲の佳曲③を筆頭に、TSUKASAの⑥、芹沢和則の⑦、Haward Killyの⑨などを十分に歌い上げている。

松岡真由美『パティオでSlow Dance』

1990/5/25 41m WEA JAPAN

金曜日のAzul - Salsa / パティオでSlow Dance - Disco / それなりの事情 - Latin Pops / 私本気よ、からかわないで - Soca / Pablo - Cha Cha Cha / 猫の名前も忘れたくせに - Bossanova / Goodbye BOY Sorry - Rock / Dancing Blue - Merengue / 恋はシャバシャバ - Rumba / ある日鳥のように - Lambada

  • 日本におけるラテン・フュージョンの第一人者である松岡直也の令嬢、松岡真由美が90年に発表した唯一のアルバム。作曲:松岡真由美、編曲:松岡直也という親子コンビで全曲を構成(⑤では作曲も共作)した1枚。

  • 各曲にクレジットされた通り、多様な風味のラテン音楽を展開。素材となる松岡真由美の書く曲があまりラテン的ではない(どちらかと言えば歌謡曲的)故に、それを料理するアレンジャー:松岡直也の力量がより際立つ。Soca風味の④、Merengue風味の⑧、Lambada風味の⑩が佳曲。アルバム全編で連打されるパーカッションが心地よい。

渡辺真知子『TAHIBALI 〜タヒバリ〜』

平成泰平(ラテン)音楽

1990/3/1 42m ソニー

  1. TAHIBALI

  2. GOSTE DE SAMBA

  3. コハウ・ロンゴロンゴ -ものいう樹-

  4. Overseas Call

  5. Seagull

  6. BETTERFLY FISH

  7. VAMOS CANTER

  8. LOVEBIRD

  9. 夢をわたる鳥たち

  10. いつものように

  • 1977年にデビューし、ニューミュージック・シーンの中で数々のヒット曲をとばしたシンガーソングライター:渡辺真知子が、活動休止・米国留学を経て2年半ぶりに発表した12thアルバム。ド派手なジャケが物語るように、 従来の作風とは一線を画すラテンアメリカ趣味が全開となった1枚。

  • 全編曲を笹路正徳が担当。フュージョン畑のミュージシャンを多く起用し、理想郷としてのラテン・アメリカを音楽的に上手く落とし込んでいる。現地の本物のラテンとは異なるものだが、日本でしか成立しえない和製疑似ラテンとしては高い完成度。Francis Silvaのコーラスにも味がある。

  • 渡辺の作曲は従来からの歌謡曲センスを活かしつつ、ラテン的な意匠を取り入れることで 鮮度をキープ。大山潤子による作詞も素晴らしい名曲②をはじめ、①③⑨での展開など聴き所は多い。また⑥⑦は神保彰が作曲を担当しており、アルバムのカラーにおあつらえ向きな好曲である。

樹原涼子『ギリシャ神話のように』

未来から、樹原涼子 経由、あなたへ。

これは 愛の唄である 神様がくれた ラブソングである

1993/5/21 48m MIDI

  1. Open Your Heart

  2. 美しい時間

  3. ギリシャ神話のように

  4. 朝まだ来

  5. Round And Round

  6. 子供達へのバラード

  7. For You

  8. きりん きりん

  9. 永遠より今が

  10. 酔わせてヘブン

  • 91年から出版されたシリーズ累計180万部の教則本『ピアノランド』の著者としてピアノ教育界で活動するだけでなく、桝田省治作品のゲーム音楽を手がけるなど幅広い活動を行う樹原涼子が、93年に発表した歌ものソロアルバム。

  • 高校在学中の76年に3人組グループ「ぎりしゃーず」として一度デビューした経歴からもギリシャへの思い入れが伝わるが、今作で展開されているのは肩肘張らない無国籍風ポップス。桝田省治が作詞を手がけた④を除いて全曲を自ら作詞作曲しており、壮大な①③からカラッとした②④、童謡的な⑧、唐突なジャズ⑩まで楽曲は多様である。

  • 編曲はほぼ全曲で外山和彦が担当。1曲の中でシーンがガラッと変わるアレンジで、⑤を筆頭にメリハリが効いている。また全体を通して録音にダイナミクスがあり、コンプレッションされた音楽に慣れた耳には新鮮な場面も。

林まきえ『三日月の深呼吸』

1992/2/26 44m ポリドール

  1. Soleil

  2. Mon Amour Mon Amour

  3. 真夏の潮騒

  4. Watashでいたい

  5. ある…つゆの日に思ったコト

  6. 三日月の深呼吸

  7. オレンジ色の月

  8. Spicy Nite

  9. Good Night

  10. I Love You

  • 2017年には初の著書を出版するなど、ボイストレーナーとしても活動するJazz Vocalist:林まきえが、92年に発表した唯一のソロアルバム。全曲がオリジナルの歌モノで構成された、ジャズ・ジャスコ・ポップスの名盤。

  • まず特筆すべきは、全アレンジを手がけた謎の人物?「ウィング」の仕事ぶりである。「GM音源ジャズ」とでも言いたくなるベッタベタな打ち込みだが、それがここまで刺激的に聴こえるのは基礎的な素養がちゃんとしているからだろう。各楽曲も小松洋一作曲の名曲⑥をはじめ、福岡ユタカ作曲の①、芹沢和則作曲の一癖ある③④、本間芳實作曲のハジける⑧など……ジャズを念頭に置きながら、ポップスとしても成立する良曲が並ぶ。

  • それらを歌い上げる林も声量豊かなボーカルで、楽曲の個性に埋もれない流石の説得力がある。曲・編・歌の三拍子が揃うとは正にこのことか。

川島郁子『MY TURN?』

こころを染めるパステルヴォイス

1992/3/25 43m キングレコード

MUNASAWAGI / More Than Yesterday / タンタラスの丘 / Going My Way / 虹と太陽 / Empty Castle / Flower Kitchen / 回転ドアのこちら側 / Sleepy Jack / Club Comedy

  • 伊藤隆博と組んだユニット:Aquaでも知られ、現在はラジオDJ・ヴォーカル講師として活動する川島郁子が92年に発表したデビュー作。ジャズの要素を持ったポップス……と簡単には片付け辛い、捉え所のないオーパーツ感がある1枚。

  • 川島は全曲の作詞と4曲の作曲を担当。コード進行と大サビの絶唱が印象的な名曲③をはじめ、一筋縄ではいかないコンポーズが耳に引っかかる。その他の作曲と編曲は加藤寛之が担当し、ノリの良い④⑦⑨などがアルバムにポップな色彩を与えている。⑩のみN.Y.レコーディングで、ピアノに大御所ローランド・ハナを迎えたジャズナンバー。

橋本一子『ロマンティックな雨』

光と風ときらめく雨…やさしさと柔らかさに満ち溢れたPOPSの小宇宙。

1992/5/25 45m ワーナー

  1. ロマンティックな雨

  2. 愛する……

  3. はるかな想い

  4. もっとはやく

  5. Season

  6. 自分を抱きしめるように

  7. モ・ノ・ガ・タ・リ

  8. 4月の神秘

  9. ほんとの生命

  10. すこしときどき

  11. 生まれつづけるために

  12. 練習しましょ

  • 80年代からYMOのサポートや谷山浩子等のアレンジ、 ジャズシーンでの活躍、サントラ仕事から小説の執筆・アニメ声優まで……活動の枚挙に暇がないノンジャンル音楽家:橋本一子が92年に発表した9thソロアルバム。ポリドールから移籍して制作した、ワーナー時代唯一の作品である。

  • 本作は橋本一子のキャリアにおいてはかなり異質と言える、意識的なポップ・ソング集である。躍動感に溢れたタイトルトラックの名曲①を筆頭に、ピチカート・ファイヴすら彷彿とさせる⑤、小芝居も挟む⑦、夫である藤本敦夫と共作した作詞が素晴らしい⑩などを収録している。

  • 自編曲が当然な彼女には珍しく、米光亮へアレンジを委ねた④⑥⑨では同時代GiRLPOPとの親和性を感じる場面も。一方で①⑧などの小気味よいジャズ・ポップスは、彼女だからこその楽曲といえる。特に最後を飾る⑫は、このアルバムの橋本一子だからこそのラブソング名曲である。

赤池晴子『当世ロマン歌集』

頭にパソコン 心にロマン ハイカラ乙女の自作自演は、とっても大正テクノロジィ

1992/11/5 38m テイチク

銀河系純情詩集 / 東京ハムレット / メガネ有り〼 / Dr. Unknown / 輕業愉快 / 流星夜曲 / 嗚呼 宝くじ / ふたばと三日月 / 日の丸軒 / 野球小僧はいつまでも

  • 当時『サウンド&レコーディング・マガジン』の編集部員だった赤池晴子が、サウンドプロデューサーに白井良明、マニピュレーターに松武秀樹を迎えて制作したアルバム。学生時代から寺田創一等と自主盤をリリースするなどしていた彼女の、長年温めたであろう楽曲を味わえる1枚。

  • モチーフは大正浪漫ながら「再現」ではなく「要素」として吸収されており、根底にあるのは現代的なソングラインティングと打ち込みアレンジ。キラーチューンの①、詩情に溢れた力作⑧、こぶしの効いたメロディがツールとして活きる③④、茶目っ気のある⑦⑩などを収録している。

斉藤由貴『MOON』

1990/7/11 49m ポニキャン

  1. 永遠 (OPENING)

  2. 大正イカレポンチ娘

  3. 少女が春の縁側で

  4. 回転木馬

  5. プラハリアン~子供部屋の地球~

  6. 迷宮

  7. 予言

  8. Walkin' through your life

  9. MA HI RU (瞬間)

  10. ENDING~Hello Dolly~

  11. 岡本さんの毎朝

  • 初めて自らプロデュースを担当し、全曲の作詞も手掛けた90年発表の9作目。楽曲とナレーションを交互に配置する大胆な手法で、架空の世界への迷い込みを見事に表現したコンセプト・アルバム。

  • 11曲中6曲の編曲を担当したのは、チャクラ・Killing Time・各種の劇伴等で知られる板倉文。斉藤由貴が目指した御伽の世界を表現するには正にうってつけの人材であり、ナレーションから楽曲への移行させ方、楽器・音色選びの巧みさなどは流石と言えよう。また笠置シヅ子マナーを完遂した崎谷健次郎の②、川島裕二(BaNaNa)の編曲が光る⑧、岡本朗の半分ソロとも言える⑪など、他の作家陣の活躍も引けを取らない。

  • そして何よりも本作の肝は、斉藤由貴の描く世界観にある。アイドルとして確固たる地位を築いた人の中に、こんなイマジネーションが渦巻いていたとは……もちろんNew Ageブームなど同時代背景の影響は若干あるだろうが、それでもここまで大胆にやるのは勇気のいることである。

喜納友子『楽しき朝』

1991/8/30 40m 東芝EMI

Mi・So・La / なれよし古里 / タイ・アイランド(結びの島) / INK / アッチャメ / 永良部ユリの花 / コロナ / 想い / 思い花

  • 「喜納昌吉&チャンプルーズ」の元メンバーで、名曲「花」のオリジナル歌唱者としても知られる喜納友子が91年に発表した唯一のソロアルバム。プロデュースとアレンジを板倉文と清水靖晃が担当し、程よいアヴァンギャルドと琉球 音楽の妙がクロスオーバーした1枚。

  • 特筆は7曲を手がけた板倉の活躍で、彼らしい作曲の①、やりたい放題でチャクラの再来といえる③、琉球民謡に巻上公一が詞をつけた⑤などが白眉。対する清水も深遠な④、無国籍ポップな⑦で対抗する。そんな彼らのリクエストを難なくこなす喜納友子の超歌唱には圧巻の一言。

小川美潮『ウレシイノモト』

「感動」に値する「うた」です。聴かない人は損。

1992/4/22 53m EPIC

  1. ウレシイの素

  2. きもちのたまご

  3. LINK

  4. MARBLE

  5. 走れ自転車

  6. Charming

  7. PICNIC

  8. ひとりごと

  9. 人と星の間

  10. 遠い夏

  • 80年にチャクラのボーカリストとしてデビュー、はにわ・Wha-ha-ha等のユニット参加や、各種CMソングの歌唱でも知られる小川美潮が、92年に発表したソロ3rdアルバム。 彼女のEPIC3部作は何れも名盤で甲乙つけ難いが、その中でも特にポップかつバラエティに富んだ1枚。

  • プロデュースは他の2作と異なり(チャクラからの盟友:板倉文ではなく)近藤達郎・青山純がクレジット。特に近藤は③⑤を筆頭に独特なポップセンスを爆発させており、板倉が手がけた⑥と良い対照になっている。 他の参加メンバーも①のMa*To、⑧の川島裕二など馴染みの顔から、楠均・成田忍・ゴンザレス三上といった新参まで幅広い。

  • 作詞は引き続き工藤順子・井上妙・小川美潮の3者が担当しているが、小川の自作詩が6曲と前作から倍増している。⑨や⑩などの包み込むような愛を感じる詩作に、「平和とは小川美潮である」との感想を抱くのは間違いだろうか。

遊佐未森『ハルモニオデオン』

樹々の言葉を聴くために

1989/10/8 52m EPIC

  1. 暮れてゆく空は

  2. ふたりの記憶

  3. ハルモニオデオン〔機械〕

  4. 時の駅

  5. 僕の森

  6. M氏の幸福

  7. 街角

  8. 山行きバス〔道草ノススメ〕

  9. ウォーター

  10. 空色の帽子

  11. 0の丘∞の空〔version Ⅱ〕

  12. ハルモニオデオン〔言葉〕

  • 声楽を素養に持つシンガー兼ソングライター:遊佐未森が89年に発表した3rdアルバム。2nd『空耳の丘』から4th『HOPE』に至る、いわゆる「空耳三部作」でも特にクオリティの高い代表作(と同時に、遊佐未森のパブリックイメージを良い意味でも悪い意味でも決定づけた1枚)。

  • 低音から高温までを一筆書きしたかのような外間隆史のソングライティング、そのメロディの良さを崩さずに個性的・幻想的な世界観を描き出す工藤順子の歌詞、そしてその世界観を見事に表現する遊佐未森の歌唱……三位一体で制作された、神がかり的アルバムである。アートワークも含めたトータルプロデュースとして、ここまで良くできたアルバムもなかなか無い。時代を超える元型を捉えている。

  • 編曲は外間と中原信雄の元FILMSコンビが担当。幻想的な世界観とは裏腹にサウンドは輪郭がハッキリしており、ポップスの枠を外れていない点がポイント。

さねよしいさ子『うてな』

見晴らしのいい音楽。

1993/2/19 53m フォーライフ

  1. 2人で描こう夜空いっぱいのハート

  2. 哲学少年

  3. いとことふたりで

  4. ガールズ ビート ハート

  5. いたずら書き<1>

  6. マルコじいさん

  7. パパとアンチョビ

  8. いたずら書き<2>

  9. オーシャンゼリゼ

  10. つめたい水

  11. あじさいの花の真ん中で

  12. 子供の十字軍

  13. うてなのありか

  • リリースしたアルバムの全てが名盤……といって過言ではないさねよしいさ子だが、そんな彼女の作品の中でも特に楽曲のバラエティ・バランス・クオリティの三拍子が揃った93年発表の4作目。フォーライフ期のラスト作でもある。

  • ストレートな①・お茶目な⑥⑦・カバーの⑨・壮大な⑫……どの切り口でも楽曲が「さねよし節」になるのは、相変わらず流石の一言。加えて本作はアブストラクトなスケッチ(⑤⑧⑩⑪)を他作より多めに収録しており、彼女のボーカリスト・コンポーザーとしての引き出しをより堪能できる1枚になっている。編曲はデビュー時から引き続き栗原正己を中心とした「さねよしバンド」がメインで担当。息ピッタリの仕事ぶりで、③の急展開など聴きどころも多い。

  • それにしても彼女の他の追随を許さない、個性的なボーカルスタイルには圧倒させられる。歌の崩し方や、崩したところからの戻し方がドンピシャである。本当に歌が上手くなければこんな歌い方はできない。

鈴木祥子『水の冠』

1989/4/21 38m EPIC

  1. Swallow

  2. サンデーバザール

  3. 水の冠

  4. 電波塔

  5. Get Back

  6. 最後のファーストキッス

  7. 月の足音

  8. Sweet Basil

  9. ムーンダンスダイナーで

  • シンガーソングライター、鈴木祥子が89年に発表した2ndアルバム。作詞:川村真澄、作曲:鈴木祥子、編曲:佐橋佳幸・西平彰という、キャリア初期の布陣における代表作。元々はドラマー・パーカッショニストとして活動を開始しており、本作でも大半のドラムを自身で叩いている。

  • 本作を形容するならば、まさに「瑞々しい」の一言であろう。特に彼女の歌声の瑞々しさは、川村真澄の書く詩とも相まって、本作の大きなポイントとなっている(後のストレートな自作詩を武器に、スタイルを変遷させていった彼女とはまた違う良さがある)。

  • 鈴木のソングライティング能力の高さは当時から折り紙つきで、特に⑤⑥は初期の彼女において一二を争う名曲。佐橋によるアコースティックギターを活かした編曲も素晴らしく、楽曲に大きなスケール感を与える好仕事である。

花岡幸代『金のりぼん』

風のような歌

心の引き出しの奥に、使われぬまま忘れられた大切な宝物を彼女から金のリボンをかけられて今、手渡される。

1991/5/21 40m キングレコード

  1. 夢のしっぽ

  2. 銀色のバイク

  3. 夜のブローチ

  4. 子供達へ送るメッセージ

  5. 風景

  6. 止まった時計

  7. すみれ

  8. 心配しないで

  9. 別れた人へ

  • アニメ『クッキングパパ』の後期ED「HANDS」でも知られるシンガーソングライター:花岡幸代が91年に発表した1stアルバム。 デビュー以前にパーソナリティを担当していたラジオ番組で毎週新曲を発表するなど、叩き上げられたソングライティング能力がストレートに発揮された1枚。

  • 同時代の女性シンガーには珍しく、全編で基調となっているのはフォーク。時代の忙しなさとは無縁の、染み入る楽曲が耳に心地よい。編曲もアコースティック中心だが、プロデュースを手がけた岡田徹(MOONRIDERS)による細やかなアレンジで退屈感は無い。

  • 凛とした声に説得力がある②、明と暗を行き来するコード進行が巧みな④、綺羅びやかなサウンドが視界を切り開く⑥、小品ながら引き締まった⑩などを収録。 ほぼ全曲が花岡による作詞作曲だが、③のみ(なんとあの)キャロル・キング(!)が楽曲を提供している。

大城光恵『空を見ようよ』

悲しくはない でも…なんかせつない

1993/9/3 49m キングレコード

  1. 空を見ようよ

  2. 以心伝心しよう

  3. 猫になる日

  4. 夕なぎ

  5. Kissまで待てない

  6. アイドルには勝ってやる

  7. 19才(おとしごろ)

  8. ひまわり

  9. バラリンボンの唄

  10. 娘たちよ大志を抱け

  • 近年、地元宮崎にて活動を再開させたシンガーソングライター:大城光恵が93年に発表した1stアルバム。ジャケットを見ると当時量産された大自然系GiRLPOPかと誤解するが、その実は(17歳でポプコンのグランプリを受賞した経歴が物語るように)センスに満ち溢れた”ど"ポップの1枚 。

  • 彼女が人の心に響く旋律を書けるメロディメーカーであることは、歌い出しから突き抜けるタイトルチューンの①、「みんなのうた」にも採用された②、サビが印象的な⑧などを聴けば一聴瞭然だろう。しかしそれに留まらず、彼女は⑥⑦⑨のようなキャッチーでコミカルな詩を書けるストーリーテラーでもある。その両方の側面が生かされた「大志を抱けシリーズ」の⑩は紛うことなき名曲。

  • アレンジは夢野龍介・磯谷建・佐藤栄介の三者がメインで担当。大城のセールスポイントをマスキングすることなく、ダイレクトにリスナーへ届ける仕事ぶりである。

近藤名奈『7/360』

泣いた日も、熱い日も、駆けた日も大切に記して……今、地球の上に僕たちがいる

1993/7/7 53m ファンハウス

  1. 無限大

  2. 歩いてみよう

  3. 地球を蹴ってさか上がりして

  4. 夏の始まりに探したもの

  5. Moderato

  6. アンコールがとまらない

  7. 明日のドア

  8. 願い

  9. 10年たっても

  10. こんな日は早起きしてあなたに会いたい

  11. 水平線のキス

  • 青空のジャケットが物語るように、スカッっと心が晴れる93年発表のデビュー作。後にボイストレーナーとして活躍する彼女の、伸びとハリのある声を堪能できる1枚。秀逸なアルバムタイトルは360(地球・大地)分の7(名奈)の意で、発売日も7月7日にする力の入れよう。

  • 本作を語る上で欠かせないのが、全曲の作詞および4曲の作曲を担当した田辺智沙の存在である。特に名曲③⑩での作詞は素晴らしく、自然派系GiRLPOPにおける一つの到達点と言える。原一博ら作曲家陣の活躍も大きく、近藤の音域の広さを活かしたメロディアスな楽曲が並んでいる。

  • 岩崎文紀による編曲もオーソドックスながら、楽曲本来の良さを削ぐことなく、要所を抑えた無駄のない仕事ぶり。1曲1曲は「ありがちなJ-POP」なのだが、アルバムとしてまとめると不思議なことに名作となる。

奥井亜紀『Wind Climbing』

1995/3/25 55m ワーナー

  1. Speed of Love

  2. 泣くもんか

  3. Win Win Wind

  4. 夏予報

  5. 風になりたい

  6. あしかになってしまいたい

  7. フィーヨルディー(北の港に住む精霊)

  8. Wind Climbing~風にあそばれて~

  9. 愛はかける

  10. 三日月夜

  11. 夕映えにゴスペル

  • 「魔法陣グルグル」をはじめとするアニメ関連の主題歌でも知られるシンガーソングライター、奥井亜紀が95年に発表した2ndアルバム。

  • 今作ではデビュー時からのトレードマークであったファルセットに加え、過剰に息を吐くことで迫力を出す新技法を習得。その成果と言えるアップテンポな①③、そして彼女の代表曲といえる⑧は正に「奥井亜紀」印な楽曲である。ただそれ以外にも④⑪といった丁寧な弾き語り系から、⑥⑦のような一癖ある曲まで、詩も含めバランスよく書けるあたりにソングライターとしての充実がある。

  • 編曲陣には前作から引き続き、小野寺明敏・大村雅朗・鶴来正基らが参加。特に①の作曲も担当した小野寺の活躍は目覚ましく、本作のテーマである「風」を音楽的にどう表現するか……という課題を見事にクリアしている。

篠原美也子『海になりたい青』

海より深い言葉がある。

1993/5/21 56m テイチク

心のゆくえ / ひとり / 夢を見ていた / Time is ripe / 同じ様に朝が / Everything / Keeping my step / 愛している / Passing / 青

  • 現在も自主レーベルで息の長い活動を続けるシンガーソングライター、篠原美也子が93年に発表した原点とも言える1stアルバム。情念の入った声と鋭い詩作で、存在の根源を震わす歌を紡ぐ1枚。

  • デビューシングルで代表曲である②、篠原節の真髄といえる佳曲⑩等を収録。詩を詰め込むが故の長尺化と、ある意味で金太郎飴な楽曲展開は好き嫌いが分かれる所だが、一度ハマってしまえば逆にご褒美か。彼女を「中島みゆき系」と括るのは簡単だが、一貫したスタイルの潔さにはそれ以上の感慨を覚える。

橘いずみ『太陽が見てるから』

「少しの背伸びで自分の未来が見えたらいいのに」

1994/1/12 47m ソニー

  1. 1982年の缶コーラ

  2. 可愛い女

  3. ピストル

  4. ゼッケン5

  5. 太陽

  6. バニラ

  7. ハムレット

  8. ひとでなし

  9. サルの歌

  10. 空になりたい

  • 現在も「榊いずみ」として精力的に活動するシンガーソングライターが、94年に発表した3rdアルバム。前年に衝撃のシングル「失格」でブレイクした勢いを失速させることなく、ビルドアップして完成させた1枚。 次作『こぼれおちるもの』とは陰陽関係にあり、実質的な2枚組である。

  • どうしても彼女は自虐的でエッジの立った詩作、情念の籠もった歌に注目が集まりやすいが、本作はソングライティングの面でも秀逸な楽曲が多い。シングルである⑥⑨はさることながら、転調・展開の美がある①②、ドラマチックな⑤など、ただ単調に言葉をぶつけるだけでは飽きてしまうリスナーも引き止める力がある。

  • 演奏面では(様々なミュージシャンが参加していた前作と異なり)プロデューサーの須藤晃と橘が2人で「All Played」した最初のアルバムとなっている。

吉田真里子『匿名希望』

裸になるより恥ずかしい………匿名希望でお願いします。

1994/12/1 50m インディーズ

匿名希望 / tempest / ガラスの小びん / 悲しみよ こんにちは / prayer / 悲しみに染まる場所 / 無意識 / 雨音 / 夏の午後 / ラララ…

  • 88年にアイドルとしてデビューし活動していた吉田真里子が一転、インディーズで自らレーベルを設立し発表した94年発表の6thアルバム。全曲を自ら作詞作曲し、アートワークも含めそれまでのイメージを大きく覆した怪作。

  • ソングライターとしては怪しげで捻れた旋律を得意とし、詩が素晴らしいタイトル曲①をはじめ、④⑤⑦など暗めの楽曲に光るものがある。一方で⑨のような瑞々しいメロディを持つ佳曲も有り。編曲は全曲で多田光裕が担当し、アコースティック・ベースの音色を効果的に使うなど、オルタナティブな楽曲の雰囲気作りを大事にしている。

森高千里『見て』

1988/11/17 42m ワーナー

  1. おもしろい(森高コネクション)

  2. 別れた女

  3. 私が変?

  4. ALONE(アルバム・ヴァージョン)

  5. ストレス

  6. 出たがり

  7. 戻れない夏

  8. 見て

  9. LET ME GO

  • ほとんどの作詞を本人が担当するようになり、一気に才能が爆発した傑作3rd。「自分流がおもしろい」という①の歌詞が象徴的だが、以降の彼女のキャリアを貫く所謂「森高らしさ」を確立した1枚だと言える。全9曲、42分というトータルタイムもグッド。

  • 今作から「森高コネクション」がシリーズ化。その中でも1番のデキと言える7分超えの①から始まり、安田信二が作曲した名バラード④やノリの良い⑨など、バラエティとクオリティのある曲が並ぶ。

  • 森高が作詞をしたことで最も恩恵を受けた人物……それは恐らく斉藤英夫だろう。斉藤は分かりやすい曲を書くが故に、上に乗る歌詞に楽曲のクオリティを左右されがちであり、前作における伊秩弘将とのコンビは必ずしも成功とは言えない感があった。しかし今作以降は森高という素晴らしい作詞家を獲得したことで、楽曲が以前にも増してイキイキとしている。後にシングルカットされた⑤はその最たるものだろう。

中野理絵『ボーダーレス』

1990/9/1 42m ソニー

  1. TEL

  2. おっさえきれない

  3. わかんなかったの!?

  4. 天使のカウントダウン(ボーダーレス ヴァージョン)

  5. 女学生の友

  6. 宇宙は二人のために

  7. Baby&Lover

  8. Sorry

  9. おやすみ

  10. もっともっともっと

  • 当時17歳だったアイドル、中野理絵のデビュー作にして唯一のアルバム。音楽プロデュースを安田信二が手がけ、棚谷祐一・直枝政広のカーネーション・コンビによる楽曲も収録……と、明らかに同時期の「森高」を意識した1枚。

  • しかし彼女は単なる森高フォロワーに収まらない。当時のCDジャーナルの「この人は、人並ハズレた歌唱センスがあるのか、もう全然ないのか、どっちかだと思う。破壊的なヴォーカルを聴いているとそう思う」というレビューが全てを物語っている。ポップでもロックでもパンクでもなく「デストロイ」である。ここまで上手に仕上げる気持がない、綺麗にまとめるつもりがないと、逆にスカッとする。

  • 歌のバックに目を向けると、②③④⑦⑧など安田信二のポップセンスの優秀さを感じさせる楽曲が多い。また間瀬憲治のペンによる⑥も佳作。全体的なクオリティは高いはずなのだが、どうしても彼女の歌に全てが引きずられて……。

深津絵里『SOURIRE』

なんだかうれしい なんだか楽しい こんなSourireを君にわけてあげる。

1992/3/21 46m ビクター

  1. ひとりずつのふたり

  2. SOURIRE

  3. 長い髪の女の子なら

  4. 彼女のダンスを見にいこう

  5. 神様お願い

  6. 愛はすてき・愛は花束

  7. かがやき

  8. あなたは分かってる

  9. 北風のキャンプ

  10. サヨナラの夕方

  11. 花嫁

  • 有名女優のアイドル歌手時代の作品……と片付けるにはもったいないほど、GiRLPOPとしてのクオリティが高い92年発表の2ndアルバム。深津絵里の歌声は今井美樹ばりの澄み声で、楽曲を邪魔せず聴く人の心にスッと入ってくる。

  • メインの編曲は元BARBEE BOYSで、PSY・Sのライブバンド等で知られる「安部王子」こと安部隆雄が担当。派手な訳ではないが、ポップスとしての要所を押さえたアレンジが素晴らしい。またゲスト編曲陣としてBuffalo Daughterの前身バンドとしても知られるハバナ・エキゾチカ、電気グルーヴに在籍していたCMJK、⑧の作曲でも良い仕事をした伏島和雄率いるFLYING KIDSが1曲ずつを担当している。

  • そして何と言っても!大名曲④の存在なしに本作を語ることは不可能だろう。イントロのドラム、コード進行とメロディ、ストリングスアレンジ、歌詞の内容の全てがマッチしたGiRLPOP屈指の名曲である。

野沢直子『はなぢ』

1988/5/21 39m ビクター

  1. おーわだばく

  2. なんてったってお笑い

  3. 13日の金曜日

  4. マイケル富岡の夜は更けて

  5. トモ子と呼ばないで

  6. スプラッター

  7. 恋のもうこはん

  8. アルプスの少女ハイジ

  9. 先生はミイラ

  10. えっち

  11. おーわだばく(オリジナル・カラオケ)

  • 前年に『笑っていいとも』レギュラー、同年に『夢で逢えたら』がスタートするなど、芸人として売り出し中だった彼女が88年にリリースした1stアルバム。

  • 全曲の作詞を野沢本人が担当。実在の芸能人の固有名詞がバンバン出る前半、ナンセンスな歌詞が炸裂する後半と、彼女の詩のキャッチーさには目を見張るものがある。また実在のキャクターを出す時も(今風に言うところの)Disではなく、テレビを見ていてパッと頭に浮かんだこと・関連して身の回りに起こったことをそのまま歌詞にしているのが面白い。野沢の歌唱もいわゆるヘタウマの良さがあり、楽曲のキャッチーさを損ねずにリスナーへ伝えている。

  • 編曲は元スペクトラムの新田一郎が全曲を担当。ぶっ飛んでいる野沢の歌詞とは対象的に、堅実かつキッチリとした演奏で歌を支えている。この真面目と不真面目のバランスの良さこそ、本作を単なるお笑い芸人のアルバムで終わらせていないポイントと言える。

八反田理子『たわ言〜所詮、ヘのカッパ。』

くせになる音楽 合言葉は「うそつき、ゲンマン!」

1992/6/21 33m ソニー

形から入ろう / moon night / 尊敬されたい / Just A Moment / KAMAKURA / ラッキィで憂鬱 / ぐるぐるアース / 間違い2≒正解 / OVER THE RAIN

  • 人気振付師でボサノババンドCorcovadoのボーカル・フルート担当、ばちかぶりの元メンバーで宮藤官九郎の妻……こと八反田理子(現:八反田リコ)が92年に発表した唯一のソロアルバム。全曲を八反田が自ら作詞作曲した1枚。

  • ユーモラスな歌詞、曲間に入る田口トモロヲ・松尾スズキ参加の寸劇もありコミック的な質感は強いが、八反田のソングラインティングは意外なほどに良くできている。キャッチーな①③から、書けそうでなかなか書けない⑥⑦のような曲まで聴きどころは多い。大木雄司・大庭良治を中心とした編曲は力があり、参加ミュージシャンも謎に豪華。

つみきみほ『つみきみほ』

話題のコ”つみきみほ”のファーストアルバム

1988/8/21 40m ポニキャン

  1. おまじない

  2. 少年

  3. 星の人

  4. サヨナラのあくる日

  5. 楽園

  6. 森へ帰ろう

  7. エンジェルの苺わいん

  8. #

  9. CASTLE ON A CLOUD

  10. 時代よ変われ

  • 15歳で女優としてデビューし、並行して歌手としても活動した"つみきみほ"唯一のオリジナル・アルバム。凛々しさと清涼さを兼ね備えた歌声で、単なる「アイドル歌謡」とは異なる独特の存在感を放つ過渡期の名盤。

  • 松本隆-細野晴臣の黄金コンビが手掛けた名曲④⑩を筆頭に、井上ヨシマサによる力作⑤⑦、山口美央子が絶妙な落とし所をみせる①⑥、突き抜けた八田雅弘の②など……ほぼ捨て曲なしと言える構成で、アルバムとしての流れも素晴らしい。つみきの歌声にも説得力があり、特に高音ファルセット・裏声の響きには特筆するものがある。

  • 編曲は清水信之が4曲・松本晃彦が6曲を担当。文句の付け所のない仕事ぶりで、フックのきかせ方も流石の一言。松本の引き出しの多さには拍手を送りたくなり、清水による②大サビのアレンジには思わずガッツポーズしたくなる。

木村恵子『AMBIVA』

1989/4/8 45m コロムビア

  1. 夏のアンテナ

  2. Bye Bye Visconti

  3. N.Y.からモーニングコール

  4. モノクロームの太陽

  5. 甘い復讐

  6. 体重計とアンブレラ(Long Version)

  7. 水曜日の贅沢

  8. バナナフィッシュにうってつけの日

  9. サイドシートの彼

  10. ある微笑

  • 窪田晴男と組んだボサノバユニット「ケルカン」や、文筆家・バービー人形収集家としての活動でも知られる木村恵子(現:柴野恵子)が89年に発表した2ndアルバム。ジャケットだけでなく歌詞にも車が頻出するドライブな1枚。

  • 前作『STYLE』ではシンガーに徹していた木村だが、今作からは大半の作曲を自ら務めるようになりソングライターとしての才能が開花。詩・曲が有機的に結びついたドライブ・ミュージックの傑作①をはじめ、ポップな②③⑤、流れるようなメロディが印象的なボッサ⑧など仕上がっている。提供曲もブレイク前のKANによる佳曲⑥、幻のポプコン・グランプリ:小野香代子の"おフランス"な⑦を収録。

  • 編曲には清水信之と松本晃彦が参加。特に松本の硬質なビート・お手本とも言えるシンセブラス使いは印象的で、サンプリングのアコースティック・ベースが暴力的に響く③など素晴らしい。清水担当曲はスローナンバーが多くゆったりアレンジだが、①での雰囲気作りは流石の一言。

詩子『be natural』

1990/9/26 46m ハミングバード

  1. 悲しみのHeavyRain

  2. Paradice in your eyes

  3. ホット・ライン

  4. グランドホテル

  5. I will be your voice

  6. Everything for you

  7. Moment

  8. Happy Birthday Broken Heart

  9. あなたを待つ時間

  10. Memory is love

  • 現在は彫刻家「木田詩子」として活動している彼女が、90年に発表した1stアルバム。抜群の歌の上手さとクオリティの高い楽曲が堪能できる、90年代AOR風ポップスの名盤。

  • 作曲陣は後にユニット「largo」を組む内藤慎也をはじめ、熊谷幸子・安岡孝章・時乗浩一郎など総勢7組が参加。こうした作家を寄せ集めたアルバムは得てして捨て曲が多くなりがちだが、本作は総じて楽曲の質が高い。冨田恵一の④⑧は言わずもがなだが、その他にも詩子の伸びやかな歌声が映える楽曲がズラリと並ぶ。

  • そうした楽曲の魅力を更に引き上げているのが、メリハリの効いた編曲の素晴らしさである。松本晃彦・鷺巣詩郎・冨田恵一が3曲ずつと、村松邦男が1曲で担当。各人の個性が活かされつつも、打ち込みポップスとしての目指すゴールが近似しているためか、全体的にまとまった仕上がりとなっている。

Candee『CANDEE』

Hello! じゃぱにーずソウル。キャンディひとつください。

1988/12/25 47m トーラス

FOR YOU / あなたがいるから ~Your Love Keeps Gettin' Better~ (日本語ヴァージョン) / BABY TONIGHT / BREAK OUT / JUST LOVIN' YOU / HEAVEN'S WHERE WE ARE / HERE FOR YOU / I'M GLAD / WATER FRONT EXPRESS / FAMILY / あなたがいるから ~Your Love Keeps Gettin' Better~ (英語ヴァージョン)

  • 山下達郎等のコーラスワークでも知られ、林田健司と結婚後の98年に病気のため急逝した高尾のぞみが、Candee名義で88年に発表した唯一のソロアルバム。抜群の歌唱力とクオリティの高いアレンジで、メロウながらも力強い1枚。

  • 彼女の歌のポイントは強弱の巧みさにあり、特に張り上げた声の存在感は流石。野呂一生が作編曲した①⑤、作詞:岩里祐穂・作編曲:崎谷健次郎による名曲④、北野誠作曲のサビが印象的な⑨などでその声を堪能できる。とはいえ基調はメロウにあり、雰囲気抜群な楠木勇有行作曲のデュエット・ソング⑥をはじめ、Robert John②、Tom Snow⑦といった海外AORライターの楽曲も収録している。

早坂好恵『ぎゃふん』

1991/3/21 42m ポニキャン

  1. 絶対!Part2

  2. 恋はあはは

  3. 神様ほしい

  4. オカドチガイ

  5. 黄昏にようこそ

  6. 底抜け脱線ガール

  7. ぎゃふん

  8. 発恋

  9. 早坂好恵劇場 "好恵の「てんこもりだよ人生は」"

  10. 絶対!

  • 15歳でデビューし、アイドル・バラドルとして活躍した早坂好恵の91年作1stアルバム。全曲を「作詞:及川眠子、作曲:松本俊明、編曲:鷺巣詩郎」のトリオが担当し、早坂の若さを逆手に取った「小娘パワー」がこれでもかと繰り出される1枚。

  • 特に鷺巣の「やりすぎ編曲」とも言える仕事ぶりは素晴らしく、様々な要素をミックスしながらアイドル・ポップスとしてまとめていく手腕は流石の一言。力入れまくりな①②③⑩のような楽曲から、おちゃらけた④⑥⑦、アイドル的叙情に溢れた⑤⑧まで幅広くこなしている。

  • 及川・松本ペアの書く曲も「若々しさ」というテーマに手堅く応え、アイドルポップスの押さえるべきところをしっかりと押さえている。早坂のハツラツとしたボーカルも作家陣の仕事を不意にしない、期待通りの仕上がりである。

我妻佳代『OH! CHAPPY』

淋しがり屋の少年少女に贈る'元気の出し方バイブル' AGATSUMA通信創刊号

1988/4/21 41m ソニー

アイツはハリケーン / リモコンボーイ / なないろ / 夢だけ100% / チェイス! / シルク紀行 / ナチュラル通信 / ひとさし指のワイパー / 夏への星座 / プライベートはデンジャラス

  • おニャン子クラブ解散後、ソロデビューした我妻佳代が88年に発表した1stアルバム。 10曲中7曲の編曲を鷺巣詩郎が担当した、メリハリあるアイドル・ポップスの1枚。

  • マッドなテクノ歌謡②から異国情緒に溢れた⑥まで、シンセブラスを核としながらも多彩なアレンジを展開。次作『Merry! Go Round』も含め、この時期の鷺巣が編曲すればどの曲も良く聴こえるのでは?と思わせる勢いがある( 谷穂ちろるのキャピキャピした作詞との相性も良い)。非鷺巣曲も後藤次利の⑦、中村哲編曲の⑧、武部聡志編曲の⑩と安定した仕上がりである。

真璃子『21世紀の子供たちへ」

1988/10/19 42m ポニキャン

今 生まれたよ(OPENING VERSION) / はだかの王様 / わんぱく時代 / ひなたぼっこ / 地球はお腹すかないのかな / 愛ってなぁーに? / 勇気を下さい / 涙は笑顔にかくして / ONLY YOU / 今 生まれたよ(ENDING VERSION)

  • レコード会社を移籍し、アイドル歌手から新たな路線へ踏み込んだ88年作の3rdアルバム。ほぼ全曲で真璃子本人が作詞を担当し、「正しく童謡的」と言いたくなる奥深い作風を披露。よくある女性歌手の「なんちゃって作詞」とは一線を画した1枚。

  • メインの作曲・編曲は水谷公生・福田裕彦の師弟コンビが担当。一筋縄ではいかないフックのある曲作りと、シンプルな音数ながら味のある編曲が魅力的である。特に⑤は真璃子・福田の非凡なセンスが発揮された、チャイルド・ポップの大名曲。

宍戸留美『ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・シ・シ・ド・ル・ミ』

あれれ? るみちゃんどしたの? だいじょうぶ?

でもとってもカワイイね!

るみちゃんのファースト・アルバム

1990/10/21 49m ソニー

  1. コズミック・ランデヴー~地球の危機

  2. コンビニ天国

  3. 好き

  4. ロックの神様

  5. ピンクのラフレシア

  6. るみちゃんの危機

  7. 二人は映画みたいにいかないね

  8. Panic in my room

  9. 宇宙の危機

  10. 君はちっともさえないけど

  11. るみちゃんのお風邪

  12. 秘密よDIET

  13. ハートにリンス

  14. るみちゃんのおやすみ

  • アイドル、宍戸留美が90年に発表した伝説の1stアルバム。性を問わず誰の心にもある「少女像」を過激に増幅させたような作風で、大胆なフェイクのはずなのに実にリアル……という、不思議な感覚をリスナーにもたらす名盤。

  • ほぼ全ての作曲・編曲を、ユニット「生福」等のマルチな活動で知られる福田裕彦が担当。正統派ポップスのデビュー作を押しのけて「地球の危機」がフェードインしてくる①にして、凡百のアイドル作品から一線を画している。乾いたタイトな音色からパンキッシュなバンドサウンドまで、禁じ手なしのサウンドメイキングが耳を楽しませる。

  • 福田曲の作詞はパパイヤ・パラノイアの石嶋由美子が担当(石嶋がFAXで送ってきた歌詞に福田が曲をつける形で制作は進んだらしい)。②④⑥⑧⑫のようなブッ飛んだ歌詞から、⑦⑩⑬といったセンチメンタルものまで、その振り幅には感服させられる。そしてその歌詞に「歌わさせられる」ことなく、自らの歌として歌唱しきっている宍戸留美のボーカルセンスも素晴らしい。

石嶋由美子『BABUHAJAH』

BE HAPPY OR DIE

1989/10/21 26m トランジスタ

YELLOW / NOCTURNE T.V. / SO HARD / AKAI RIBON / MONKEY MONEY / WAR3

  • 1983年に結成された女性パンクバンド『パパイヤ・パラノイア』の中心人物:石嶋由美子が、バンドの一時活動休止中に発表したソロアルバム。プロデュースは四人囃子のドラマーである岡井大二が担当し、アレンジには後に宍戸留美の諸作でコンビを組む福田裕彦が参加している。

  • 全曲の作詞作曲は石嶋が担当。言葉のリフレインを効果的に使った、激情とキュートを一瞬で往来するソングライティングが◎。キャッチーな②⑤、憂鬱を音楽的に上手く表現した④、狂気に振り切った⑥など佳曲が揃う。福田・岡井による肉体的かつ雰囲気のあるアレンジも良い。

おおたか静流『NOSTALGIA』

言葉を遺言したい。言葉が重たければ歌を残そう。

1994/10/21 45m キング

  1. GAIA~はなむけのうた

  2. ほしのこどもたち

  3. まいにちがパーティ

  4. 初潮

  5. Born To Love

  6. スキニナリマシタ

  7. まつり

  8. Dear Kids

  9. こもりうた

  • カバーシリーズ『Repeat Performance』等で知られるボイスアーティスト、おおたか静流がテイチクからキングレコードへ移籍し発表した94年作オリジナル・アルバム。

  • 以前から彼女の楽曲へ参画してきた福田裕彦が、本作では満を持してほぼ全曲の編曲・半数の作曲を担当。彼なりの遊び心が活きた②④のような曲と、おおたか静流の声の良さを引き出す⑥⑦のような曲、その両方をピュアかつ高い水準で提供できるのが素晴らしい。編曲も得意のテクノから童謡的ポップス、無国籍モノまで幅広い。

  • 対するおおたか静流の自作曲も負けず劣らず、友部正人が作詞・歌唱で客演した③、壮大なサビが印象的な⑨など力が入っている。作詞も半・コンセプトアルバムと言える作りで、「懐かしくエキセントリック」というCDジャーナル評がしっくり来る1枚。

宝達奈巳『宝達奈巳』

今、 日本にもオルタネーティブの時代が始まる。

1994/10/6 40m GreenEnergy

  1. 月の夢

  2. へび

  3. 干瀬節

  4. うつろひゆくは

  5. かの人は

  6. Fossils of Childhood

  7. 成山

  8. 雲の影

  9. To Lappland

  • クラシックの素養を持ち、音大でケルトや琉球の音楽を学んだというシンガーソングライター、宝達奈巳が94年に発表した2ndアルバム。細野晴臣から「シャーマンが住んでいる」と称された歌声を軸に、一筋縄ではいかない摩訶不思議な世界観を構築した1枚。

  • 宝達は自ら編曲もこなすマルチアーティストだが、本作では半数の楽曲で(明和電機等での活動でも知られる)ヲノサトルをアレンジャーに起用。そのためか全体的にテクノ風味が強いアルバムとなっている。

  • 神がかり的なシャーマン・テクノである①、独特の歌詞とブレイクが気持ち良い②と、冒頭2曲だけで十分に心を持っていかれる。壮大な⑨もアルバムのラストを飾るに相応しい佳曲。③は琉球古典、⑦は宮古民謡をそれぞれテクノに仕上げたカバー作。

GiRLPOPと企画盤

渡辺典子『サラダ記念日』

1988/4/1 49m ソニー

  • 前年の大ヒット作『サラダ記念日』をはじめとする俵万智の短歌を、角川三人娘の一角:渡部典子が歌った企画盤。元がメロディに乗せ辛い七五調の言い切りという、苦行といえる詞先に三枝成章・溝口肇・山木康世の三人が挑んだ1枚。三枝作の①は短歌のリズムへ強引に曲を寄せた結果プログレ化した佳曲。

西岡千恵子『とっても画王な物語』

1992/11/21 32m ビクター

  • Panasonicのテレビ「画王」のCMソング3曲およびremix・カラオケをまとめた企画盤。光GENJIや高橋由美子への楽曲提供でも知られるソングライター、西岡千恵子が歌唱・作曲・編曲を担当(作詞は垂水佐敏)。CMソングならではの禁じ手なし、悪ふざけとも言えるプロダクションが痛快な1枚。

荻野目洋子 with ウゴウゴ・ルーガ『DE-LUXE』

1993/7/21 26m ビクター

  • 子供向けバラエティ「ウゴウゴルーガ」に声優として出演していた荻野目洋子による企画盤。荻野目の自作曲を寺田創一がハウスに仕上げた①、林田健司・CHOKKAKUコンビによる⑦などを収録。曲間にはウゴウゴくんとルーガちゃんのトークが挟まれ、純真無垢で元気いっぱいな様子が聴いていて微笑ましい。

今津真美『Silhouette ‘90』

1990/2/21 43m プラッツ

  1. Mami・夢・Memories

  2. Urban Bedouin

  3. ポアントでルフラン

  4. Water Dream

  5. My Eyes Only

  6. Purple Sky

  7. Etude In A Goldfish Basin

  8. Sailin' Masquerade

  9. Passage Of Silence

  • ジュニア時代からヤマハ主催コンサートで特別優秀賞を獲得していた、実力派ピアニスト・エレクトーン奏者:今津真美が90年に発表した2ndアルバム。前年の1stアルバム『Mascara』で提示した「歌ものニューエイジ・フュージョン」路線を推し進め、よりファンキーに開けた1枚。

  • 前作に引き続き全曲を今津が作編曲し、作詞は冬杜花代子が担当。気合の入った演奏と脱力する歌詞が良い塩梅で融合した①を筆頭に、つんのめる7拍子ポップスの名曲③ 、ニューエイジなインスト曲の④、とびきりGiRLPOPな⑥、コミカルなピアノ曲の⑦などを収録している。

  • 演奏面では時折の速弾き等の技術もさることながら、キーボードの音色選定を含めた質感のバランスが素晴らしい。美久月千晴・青山純によるリズム隊の尽力もあり、ニューエイジながら編曲は力強い。本来歌手ではない今津の歌唱は純朴だが、それすらも楽曲の味となるマジックがある。

エレクトーンプレイヤー in GiRLPOP

野田ユカ『カリブの夢』

1989/8/21 46m コロムビア

  • 現在はピアニスト・鍵盤ハーモニカ奏者として活動する野田ユカが、ヤマハ音楽振興会のエレクトーンプレイヤーだった89年に発表したソロアルバム。副題の「ライト・フュージョン・ファンタジー」に偽り無く、ジャケットの陽気をそのまま音にしたような、あまりに能天気なサウンドが逆に新鮮な1枚。

松本玲子『ミュージック・ミュージアム』

1995/3/15 45m ビクター

  • 80年代からエレクトーン奏者・指導者として活躍していた松本玲子が、95年に発表したソロアルバム。古代ギリシャや明朝中国の古楽譜、各国民謡等からインスピレーションを受けたオリジナル曲を収録している。エレクトーンらしい緩急ある演奏と「世界の笛」を担当する上杉紅童の名演で「聴ける」1枚。

加藤いづみ『テグジュペリ』

小説のように生きていますか

1991/5/20 44m ポニキャン

  1. ウサギの住む街

  2. Zero

  3. 屋根の上で

  4. ナイチンゲイル

  5. Moon River

  6. 雨が降る靴

  7. もう少しお金持ちなら

  8. All I Want Is You

  9. アビニョン橋を渡って

  10. 空飛ぶカウボーイ

  11. ウサギの住む街(Reprise)

  • GiRLPOPの代表的存在であり、近年はももクロをはじめ多数のコーラスサポートを務める加藤いづみが91年に発表したデビュー・アルバム。それまで青春ロック系の女性歌手をプロデュースすることが多かった高橋研が一転、封印を解くかの如くポップに傾きセンスを全開にした1枚。

  • (彼のプロデュース作は大抵そうだが)ほぼ全ての楽曲で高橋が作詞・作曲・編曲を担当。アコースティックな音色を主軸に据えたアレンジで、ストリートに潜むメルヘン・ファンタジックを切り取っている。歌詞・メロディ・演奏の全てが揃った大名曲②を筆頭に、④⑦⑧など加藤の純朴な歌声が活きた楽曲が並ぶ。

  • また高橋の十八番である、サビの印象的なフレーズで楽曲をまとめる手法は本作でも健在。ほぼ全ての曲でタイトル名がそのままサビになるのが面白い。

川村かおり『CAMPFIRE』

時には嘘を真実として許せるような、そんな愛すべき人達へ。

1989/10/21 40m ポニキャン

Haircut Blues / メリーゴーラウンドに乗ってる君のことが好きだよ / キャンプファイヤー・ソング / 月曜の朝,汽車に乗って / 愛をあげたい / カリーニン広場へおいでよ / The Storm / うそつきのロッカー / 神様が降りて来る夜 / (gonna be a)Hard Rain~激しい雨が降る~ / Mother

  • 川村かおりが89年に発表した2ndアルバム。高橋研がプロデュースと全曲の作編曲を担当。前作における辻仁成の仕事を引き継ぎながらも、高橋研らしいポップセンスと開放感で、よりカラッと晴れた川村を演出した1枚。

  • 疾走感のある名曲②をはじめ、三拍子の牧歌的な③、歌詞が印象的な⑨など、川村かおりの声質の良い部分を引き出す楽曲が並ぶ。アレンジはバンドサウンドが中心だが、小気味よいアコースティックギターのカッティングがアクセントになっている。またほぼ全曲のサビでコーラスが効果的に使われており、耳馴染みの良さに一役買っている。

高橋研ワークス

太田貴子『Here, There and Nowhere』

1988/4/25 46m 徳間ジャパン

  • 「クリィーミーマミ」の声優としても知られる太田貴子が、アイドルからロックへ路線を転向していた88年に発表した8thアルバム。『WANT』『TRUTH』と続いた、高橋研とのタッグ3部作の最終作。基本は青春ロックながら、アコースティックとエレクトリックの使い分け、急に登場する可変拍子などに高橋の技が見える。⑦はネオアコ的な佳曲。

金子美香『Flowerbeat』

1989/3/21 45m ビクター

  • シライシ紗トリと組んだ「PARADISE LOST」や、レディースバンド「Betty Blue」でも活動していた女性シンガー:金子美香の4thアルバム。前作『KICK』から引き続き高橋研がプロデュースを担当。金子の歌い方を含め様式美とも言える青春ロックサウンドだが、楽曲構成には意表を突枯れる部分も。③はZIGGYの森重樹一が楽曲を提供している。

宮沢りえ『Chepop』

1990/10/21 46m ソニー

  1. I SAY HI

  2. GAME

  3. MOON SHOOTER

  4. BODY CHECK

  5. L.A.BLUE

  6. DON'T CALL ME BABY

  7. TRY ME

  8. CHANNEL"M"

  9. あなたのひざで

  • プロデュースと編曲を(Rufus with Chaka Khanやチキンシャックのベーシストとしても知られる)Bobby Watsonが担当した2ndアルバム。タイトルは「チポップ」と読む。

  • David Bowie「Fame」の替え歌カバーである②を筆頭に、緻密なサウンドプロダクションと時折の効果的な空間処理が素晴らしい。Cat Greyをはじめとした名うてのミュージシャンによる行き届いた演奏も、名ばかりのL.A.録音ではないバブルの潤沢な予算を感じる。⑦はSuzi Kimが同年にリリースした和製グランドビートのカバー。

  • 前作『MU』も名盤だが、そちらがある種のキラキラ感を武器にしていたのと比較すると、本作は非常に渋く"大人"なアルバムである。本作リリース時まだ17歳だった宮沢りえだが、ボーカルは頑張ってアダルト感を出そうとしていて、その愛らしさがまた良い。

岩崎良美『月夜にGOOD LUCK』

1989/9/21 51m ソニー

夏の扉 / Made in the Moon Light / 月夜にGood Luck / With You / Blue Line / 言い訳 ―A Good Excuse― / 君の傍らの月 / 静かの海 / 硝子のカーニバル / Night Wind / Prologue

  • 1980年に18歳でデビュー、85年のヒット曲「タッチ」でも知られる岩崎良美が、古巣のキャニオンから移籍して発表した89年作14枚目。ソニー期で唯一のアルバムである。

  • 当時チキンシャックのベーシストだったBobby Watsonと、マイケル・ジャクソン『Bad』への参加で知られるシンクラビア奏者:Christopher Currellを作編曲家として招集。 共に4曲を手がけており、良い意味で岩崎良美らしからぬアーバンなサウンドが展開されている。比較的ジメッとした重めの楽曲が続く中で、八神純子作曲の⑦⑪は一服の清涼剤か。

岩崎宏美『FULL CIRCLE』

1995/11/22 63m ビクター

  1. FULL CIRCLE

  2. BIRTH

  3. 時間の早さに

  4. ロマンス

  5. NEVER BE THE SAME

  6. 朝が来るまで

  7. DREAM ON

  8. 潮風がつぶやいて

  9. 想い出の樹の下で

  10. EXTRAORDINARY

  11. BACK TOGETHER AGAIN

  12. ONE DAY,SOME WAY

  13. FULL CIRCLE

  • 1975年に16歳でデビュー、88年に結婚し益田宏美名義で家族愛をテーマとしたフルオーケストラ3部作をリリース後、離婚を経て名義を元に戻し発表した23thアルバム。プロデュースに13Cats(Cat Gray・沼澤尚・Karl Perazzo)を迎え、重厚な世界観を構築したLA録音の名作。

  • やり過ぎとも言える1音1音への力の籠もり方で、楽曲構成・編曲共に高い水準を誇る「流石」な1枚。ソングライターとして佐藤竹善・藤田千章コンビのほかJane Child・塩谷哲が参加しており、当時13CatsがプロデュースしていたSing Like Talking関連作とは姉弟関係にある。

  • Jane Childによる深遠な⑤から、シングル・カットされた佐藤・藤田コンビの⑥、Cat Gray作曲のハジけた⑦への流れは今作のハイライト。他の楽曲もCatの唸るシンベ・沼澤の乾いたスネアが冴え渡り、10代の頃のシングル④⑨をInterludeにできる程の密度がある。⑪はRoberta Flack feat. Donny Hathawayのカバー。

ANNA BANANA『大きな絵』

1991/2/25 60m シックスティ

  1. ○♧×♡△※□(ヒパタサンキサィヤレ)

  2. BAMBOULA

  3. MAP(自分で書け!ちゅうの)- medley:LET THE RIVER RUN & MAP -

  4. HERE N' NOW

  5. BIG PICTURE

  6. SIR DUKE

  7. FOLLOW ME

  8. NEPTUNE

  9. 男の子 女の子

  10. GARDEN OF LOVE

  • そのアルバムタイトルに恥じない、大きな音楽を感じさせるアンナ・バナナの3rdアルバム。6分超えの曲が4つありトータルタイムは1時間の大作だが、充実した内容で最後まであっさりと聴けてしまう名盤である。

  • 井上ヨシマサと久保幹一郎によるユニット「ATOM」が作曲・編曲・プロデュースからエンジニアリング・ミックスまで幅広く担当。中山美穂の諸作でも活躍した彼らだが、本作ではやりたい放題のサウンドプロダクションが炸裂。当時の最新機材であったAKAI DD1000とYAMAHA DMR-8を駆使し、いち女性歌手のアルバムとは思えない意気込みが伝わる内容となっている。

  • アンナ・バナナのソングライティングもますます向上し、名曲③をはじめ楽曲のクオリティは高い。井上ヨシマサの作曲による①も、アルバムのオープニングを飾るにふさわしい出来栄えである。④⑦⑩のある意味で「ふざけた」カバー曲群も、その他のオリジナル楽曲に自信があればこそのものだろう。

川崎真理子『GIRL'S TALK』

男の子には言えないことってあるよね

1993/10/25 49m WEA

失恋はつかれる / 知るときがきたから / Tea Potラヴソング / ティースブラッシング / コンビニエンスヘヴン / 教えてあげられない / ティッシュの箱 / 電話ベイビー / 大好きチャーリー / 行かないでね

  • バンド「UNISEX」のボーカルとしてデビュー後、ソロ活動に転じた川崎真理子(現:マリコスミス)が93年に発表した1stアルバム。全曲を自ら作詞作曲し、 独特な歌声が活きるガールズな楽曲で固められた1枚。

  • 槇原敬之が「木下鉄丸」名義で編曲を手がけた大名曲①の存在は大きいが、他の楽曲も小滝みつるの小気味よい編曲と、川崎の迷いのないフレッシュなメロディが楽しめる。歯磨きソングの④をはじめ、ティーポット・コンビニ・ティッシュ・電話など、日常的なパーツをモチーフに小さな男女間の世界を描く詞作には好感が持てる。

井上貴代美『すっぴんの私』

あなたはきっと好きになる!! CLEAR WATER VOICE

1992/5/2 43m ソニー

  1. お父さん

  2. コンプレックスもってるかい?

  3. 周辺戦争

  4. 僕の愛し方

  5. おさな心に

  6. 無人島の日々

  7. 夜のお散歩

  8. 最後のプレゼント

  9. おじさん

  10. すっぴんの私

  • 1992年にリリースされた、井上貴代美にとって唯一のアルバム。全曲の作詞を本人が担当し、その独特なセンスが遺憾なく発揮された1枚。斜に構えたひねくれポップ感と、不意に出るナチュラル感覚が見事に交錯・融合している。

  • メインの作編曲は当時ハミングスのキーボーディストだった上田禎が担当。バラエティと遊び心に富み、ガマンや"しがらみ"を感じさせない自由な仕事ぶりが素晴らしい。後に多数の劇伴・プロデュースを手がけ、オリラブからアジカンまでサポートする彼の姿を予言するかのようである。

  • 演奏陣には知久寿焼(たま)や古市コータロー(コレクターズ)、小川浩正(THE BOOM)らが参加。各人の個性を活かしたメリハリのある演奏で、楽曲ごとの緩急・落差をつけるのに一役買っている。

宮部ひかり『ときどき私がわからない』

宮部ワールドさらに健在のセカンドアルバム

1992/6/1 45m EPIC

CHOUP!CHOUP![チュッ!チュッ!] / 卒業ツアーpack / ときどき私がわからない / 君は可憐 / ジョーキョー / 混線コントロール / 早起きは3分で得 / You gotta be nice / 異変記念日 / 一枚の宝物

  • 92年発表の2ndアルバム。自らの造語による四字熟語や慣用句を用いるなど、彼女の独特の言語感覚(というかダジャレ)による作詞が光る1枚。

  • メインの作曲は実兄である宮部智夫が担当。作詞:妹、作曲:兄というツーカーの関係性が、適度に力が抜けウィットあるトンチ・ポップスを生みだしている。そこへ参画する「赤の他人」として、新川博が編曲を担当。バランスの良い仕事ぶりで、アルバムを耳馴染みの良いものに仕上げている。

みらのりこ『Sweet Drugs』

1992/3/21 46m NECアベニュー

CHI-GAW / Baby Talk / No,No,No, / 山猫 / Day Dreamer / Paradise / 誘ってピーター / Nervous Angel / Only You / Maria

  • 92年発表のデビュー作にして、唯一のオリジナルアルバム。当時の「上等神奇的オーガズム」という、掴めそうで掴めないキャッチコピーが逆にフィットする1枚。

  • 半数の作曲をソロデビュー前のQumiko Fucci(福士久美子)が担当するなど、オルタナティブな浮遊感ポップでアルバム全体が統一されている。編曲も当時トーリ・エイモスをプロデュースしていたEric Rosseをはじめ、海外作家で固めており(新人のデビュー作としては)挑戦的な作風といえる。④は山口美央子、⑥は福士久美子のペンによる無国籍バラードの佳曲。

miyuki『CUTEでいこう』

1993/11/25 21m インディーズ

  1. ふってもいいよ

  2. 本当の嘘つき

  3. CUTEでいこう

  4. 美人じゃなくても

  5. こんにちは おやすみなさい

  • コスモ石油のCMソング「ココロも満タンに」を手掛けたことでも知られるシンガーソング・ベビィフェイス:miyukiが、国立音大ピアノ科の学生だったインディーズ時代に発表した2ndミニアルバム(後に契約したEPICから「メジャープレデビューアルバム」として再発されている)。

  • まず何よりも特筆すべきは、彼女の声である。胸キュン青春ポップを歌うために生まれたのでは……と思うほどにピッタリな歌声であり、この声があればそれだけで楽曲が成立する。加えてソングライターとしての力量も確かなものであり、②をはじめ粒ぞろいの楽曲が並んでいる。

  • 作詞は雄鹿美子との共作であり、アンビバレントな乙女心を歌った女子大生ポップの模範とも言える内容。編曲は全編で岩崎琢が担当し、④のラテン風味などソツのない仕事ぶりである。

原みゆき『ひなたぼっこしよう』

そこだけいつも、あたたかい。

1991/3/21 41m フォーライフ

フランス人形 / 目白物語 / ヨロシク振り出し / 秋のため息 キンモクセイ / 言葉にならない悲しみ / 裏切りという花言葉-サルビア- / ふたりのふたり / 可愛いマリアンヌ / 永遠の少年少女 / 青い鳥探して

  • シンガーソングライター、原みゆきが91年に発表した4thアルバム。編曲を中原信雄・鈴木智文のポータブル・ロック陣と中西俊博が担当し、アコースティックの暖かさでサウンドを固めたキャリア最終作。

  • 原の「歌い上げる」つもりのない……自覚ない口ずさみを隠し録りしたような、ゼロ声量のボーカルは逆に耳に心地よい。歌詞も半径5メートルを越えない世界観で、ほっこりする人懐っこさがある。基本は大きく展開しないフォーク・ソングなのだが、アレンジが丁寧なのでダレる感じもない。暑すぎず寒すぎず、春の日向の暖かさを保つ1枚。

今野登茂子『24hours』

1994/4/1 48m ソニー

  1. 今年の彼氏

  2. SAY

  3. ヴィーナスの裏側

  4. 天気雨

  5. ゆらり

  6. 犬と駆ける

  7. 銀竜草

  8. 日曜日は別れの時

  9. 24hours

  10. あなたに言いたい

  • PRINCESS PRINCESSのキーボーディスト、今野登茂子がバンドの活動後期に発表した1stソロ・アルバム。プリプリでは寡作(作曲はアルバム1枚に1曲程度)だった彼女だが、本作では全曲を自身で作曲している。

  • コミカルな歌詞で展開豊かな①に始まり、重厚な③からのコントラストで泣かせる④、工藤順子の詩が情感をより一層かきたてる⑥、古き良き歌謡POPSを彷彿とさせる⑦、小西康陽の作詞によるセンチメンタルな⑧などを収録。1曲ごとに曲調が変わる(同じ曲調が続かない)アルバムだが、雑多な印象はなくクリアな仕上がりである(曲間の調整やイントロの導入が上手いからだろうか?)。

  • 編曲は西脇達也と長岡成貢が5曲ずつを担当。各曲のキャラクターに合った適切な仕事ぶりを見せている。

岩城由美『愛情の天才』

1994/11/21 50m コロムビア

空中戦 / トリップ・リップ・タラップ・ホップ / 愛情の天才 / ここまでおいで / 雨行きのバス / ハオ! / 朝 / チェリーのお酒 / ELIZA / 7Days Hat / 私のきもち

  • 現在はJ-POP・アニソンにおける作詞活動が目立つシンガーソングライター、岩城由美が94年に発表した1stアルバム。アレンジャーに元プラチナKitの金津ヒロシを迎え、自然体・ファニー・叙情・ポップが上手く混ざりあった1枚。

  • ミディアム・スロー(主に曲順が奇数曲)とノリの良いポップ(主に偶数曲)が交互に流れる構成となっており、バランスの良いアルバムに仕上がっている。前者は染み入るアコースティックな⑦、日本人好みといえるメロディの⑪が名曲。後者はシングルカットされた②、グルーヴィーな④、金津作曲の無国籍感漂う⑥等が佳曲である。

宇井かおり『JUST SIGHS』

第一回ミュージッククエスト日本大会金賞受賞。シンガーソングライター宇井かおりデビューアルバム

1994/3/24 51m ファンハウス

  1. Prologue

  2. 木枯しの便り

  3. Just Sighs

  4. MORE THAN WORDS

  5. Last Dinner

  6. これほどにせつない夜があるなんて

  7. 写真

  8. それだけの夜

  9. 約束の月

  10. 二人の行方

  11. Just You and I

  • シンガーソングライター、宇井かおりが94年に発表した1stアルバム。朝の澄んだ空気が伝わる雪山のジャケットを、そのまま音像化してパッケージングしたかのような1枚。

  • いわゆるGiRLPOPにありがちな、無理に盛り上げようとする派手なタイプの曲は本作にない。基本的にはしっとりとした楽曲群だが、かといって歌謡曲にありがちなベタでダレる感じもない。非常に良い温度感・清涼感を保ちながら楽曲は進行し、アルバム1枚で一つの風景を作り出す。聴いている内にジャケットの中の静寂の世界に入り込んだ気持になる。

  • 新人のデビュー作としてはある意味で非常に勇気のいる作り方だが、本作に迷いはない。それを可能にしたのは宇井かおりのシルキーな歌声を活かしたソングライティング、そして岡本洋(ex.NOVELA)と安部潤(ex.FIELD OF VIEW)のキーボディストコンビによる編曲の妙だろう。

Tamao『Talking Marimba』

こんなに楽しくて、気持ち良くて、風通しのいい音楽が、いままであったでしょうか……。

1995/1/1 19m バイオスフィア

小さな幸せ / 上の空 / ネコと休日 / 秘密の楽園パパウビーチ / 夏が終わる

  • The BOOM・ZELDA・ZABADAK・原マスミ等をサポートし、近年ではBank Bandにも参加していた女性パーカッショニスト:藤井珠緒が「Tamao」名義で95年に発表した歌ものミニアルバム。自身のルーツであるマリンバを主軸に、小さな日常から遥かなリゾートまでを表現した1枚。

  • 全体的に脱力系の歌声・サウンドながら、楽曲の展開が豊かなため聴き応えがある。特にマリンバが持つ緩急・自由・ダイナミクスといった特性を咀嚼し、楽曲に落とし込んだ原マスミ作詞の②が白眉。またリゾートポップスの④、宮沢和史の作詞が素晴らしい⑤ も佳曲である。

NORA NORA『Electric Lady』

1996/8/21 48m ビクター

  1. Loco Por Mi

  2. Como Sera?

  3. De Ti Nada Mas

  4. A Donde Iras?

  5. Me Enamore De Ti

  6. Contestame

  7. No Me Pidas

  8. Quererte

  9. Nora Sola

  10. Me Enamore De Ti〜愛してるから

  • 日本を代表するサルサバンド、オルケスタ・デ・ラ・ルスのボーカリストであるNORAが96年に発表した初のソロアルバム。全編曲を米サルサ界の大物プロデューサーであるSergio Georgeが担当した、N.Y.録音の1枚。歌詞は全編スペイン語であり、USA盤もリリースされている。

  • 圧倒的なリズムに狂喜乱舞する、これがグルーヴでなければ何がグルーヴかと問いただしたくなる名盤。特に序盤の①〜③は、私のようなサルサのサの字も分からない人間さえ、いとも簡単に打ち負かすだけのパワーがある。②③⑧はカバーだが、本家とも全く別のアレンジとなっている。

  • Sergio Georgeの作曲による、タイトルにNoraを冠した⑨も名曲。⑤はNora本人作曲の美メロナンバーで、⑩はその日本語詞バージョンとなっている。以外なところでは⑥の作曲を玉置浩二が手がけており面白い。

相田翔子『JOIA』

1996/5/25 46m ポリスター

  1. Do-sol

  2. JOIA

  3. サヨナラしかあげない

  4. i Julia

  5. AFRICA

  6. Vellrina-真珠-

  7. CORACAN-コラソン-

  8. 魚になりたい

  9. i Julia -inst ver.

  10. Blue Lagoon

  • Wink活動停止後に発表された、96年作のソロ1stフルアルバム。全曲を自身で作曲し、元アイドルとは思えないアーティスティックな音楽性をみせた名作。

  • なんとあの「マシュ・ケ・ナダ」で著名なSergio Mendesが4曲で編曲を担当。そのことからも分かる通り、本作は全体を通してボサノバを基調としたワールドミュージック的な作風になっている。残りの6曲を担当したBen Wittmanもニューヨークを拠点とする人気ドラマー・プロデューサーであり、⑤⑦等そつがない仕事ぶりを聴かせてくれる。

  • しかし豪華編曲陣を起用しても、肝心の楽曲が良くなければ単なる「ボサノバのまねごと」で終わってしまう。本作がそこに留まらないのは、相田翔子の非凡なソングライティング・センスのおかげである。派手なことはしていないのだが、②に代表されるメロディの飛ばし方やフックの作り方には特筆すべき点がある。楽曲をただ単調な、つまらないものにはしたくない!という思いが伝わってくる。

島田歌穂『MALACCA』

アジア、ブラジル、地中海の風をたっぷりと。20世紀最後のディーヴァ誕生。

1997/11/12 51m 東芝EMI

  1. Theme of MALACCA

  2. 心の海

  3. うたかたの恋~Ultima Batucada

  4. 抱いて/Sinaran

  5. Malay Drum

  6. Indian Summer/Jeritan Batinku

  7. 月夜/Denpaser Moon

  8. Ringgit

  9. MALACCA

  10. 叫び

  11. 涙の浜辺

  12. 今日もいい天気

  13. Theme of MALACCA

  14. 心の海 reprise

  15. Wanita Dan Seruling

  16. うたかたの恋~Ultima Batucada

  • ミュージカル女優としての活動でも知られる彼女が、古巣のキングレコードから東芝EMIへ移籍して発表した97年作9thオリジナル・アルバム。プロデュースを初タッグとなる久保田麻琴が担当した、無国籍ポップスの名盤。

  • 名曲③やタイトルトラックの⑨、宮沢和史のペンによる⑪など、まず単純にポップスとして良曲である。その上で東西交通の要所マラッカ=マレーシア+インドネシアをテーマに、様々な文化の要素をミックスしていく久保田の手腕は流石の一言。随所に飛び出すドラムンベースに時代を感じる部分はあるが、それもワールド・ミュージック的なパーカッション連打のアナロジーとして位置しているため違和感はない。

  • ④⑥⑦⑫は現地ポップスの替詩カバーだが、ほぼほぼ別曲と言える程にハイセンスなアレンジであり、他の楽曲と並べた際の違和感もない。また⑤⑧など、時おり挿まれる久保田作のインタールードがアルバム全体を引き締めており、ダレることなく最後まで聴き通すことができる。

レジェンド in GiRLPOP

MIKA『Jaran Jaran』

1994/11/18 50m フォーライフ

  • 元サディスティック・ミカ・バンドのボーカルによる18年ぶりカムバック作。全曲を自ら作詞作曲し、マレー語で「散歩」を意味するタイトルのごとく、無軌道な移り気のボーカルが炸裂する1枚。編曲は浅田祐介と嶋田陽一が半々で担当。インパクト大の①をはじめ、屈折したポップとして成立している。

金子マリ『River of Life』

1995/10/1 45m ソニー

  • 70年代から活動を続ける「下北のジャニス」が、有賀啓雄をプロデューサーに迎えたソロ3枚目。円熟とも言える金子の歌唱と、有賀の「分かってる」作編曲で、渋い高品質ポップを聴かせる1枚。片寄明人の③、鈴木祥子の⑧、得能律郎-石井竜也の米米CLUBコンビによる⑨など作家陣のセンスも○。

河井英里『青に捧げる』

1997/11/21 21m インディーズ

  1. キストゥリナ

  2. にわか雨

  3. 青に捧げる

  4. 川下り

  5. Moon ~静かの海~

  • アニメ『ARIA』シリーズの楽曲等で知られ、2008年に43歳の若さで亡くなった彼女が、97年にインディーズから発表した5曲入り1stミニ・アルバム。後の2002年に復刻盤が、逝去した2008年には未発表曲を追加した追悼盤『風の道へ』がリリースされている。

  • 造語によるアカペラ多重録音①から始まり、一筋縄でいかないAメロと伸びやかなサビの対比が良い②、タイトルトラックで文句なしの名曲である③と、この流れだけで高得点をあげたくなる。たおやかで幽玄な④も、彼女の高音が抜けた、澄みながら力強い歌声が活きる1曲。

  • 作詞の工藤順子や編曲の大島ミチル等、彼女をサポートする各人の仕事ぶりにも蛇足がない。このクオリティでフルアルバムならば……と贅沢ながらつい思ってしまう1枚。

川村万梨阿『CANARY』

1989/7/21 55m テイチク

  1. 宇宙(そら)・旅立つ人”DON'T YOU FORGET MARGINAL”

  2. 愛は月と星~新しい愛~

  3. アリーズ~伝説の星から

  4. 二人の神話

  5. 海浜物語

  6. Tear drop~愛の涙~

  7. Sweet Morning

  8. ラストシーン

  9. ひとりぼっちのヴィーナス

  10. Forever

  11. Panic in my heart

  12. アスファルトDREAM

  • 声優:川村万梨阿が89年に発表した1stアルバム。前半①〜⑥は各種イメージ・アルバムから川村が歌唱した楽曲のセレクションで、後半⑦〜⑫が新曲という構成の1枚。

  • 初っ端から福澤もろ作曲の①②で持っていかれ、吉川洋一郎の③〜⑤を経て、長岡成貢が作編曲した名曲⑥で打ち上がる(当時のイメージ・アルバム文化の豊穣さ!)。後半の新曲群も名曲⑫を筆頭に、加藤ひさし(ザ・コレクターズ)が作曲した⑨など、雰囲気を大事にしたプロダクションでアルバムとしての統一感がある。

  • 本業の声優では高飛車なお嬢様・女王様キャラを得意とする川村だが、歌手としては雑味のない、包み込むような柔らかい声質が持ち味となっている。この後のソロキャリアは細野晴臣も参加した2nd『春の夢』、吉川洋一郎の趣味が強い3rd『月と桜貝』と先鋭化するが、耳馴染みの良さでは本作に軍配が上がるだろう。

田中真弓『ラターニャの鏡』

1993/4/21 58m ビクター

  1. The mirror of the truth

  2. ラターニャの鏡〜プロローグ

  3. 心の中に

  4. ラターニャの鏡〜ザズーがやってきた

  5. 僕のサムデイ

  6. ラターニャの鏡〜旅へ

  7. 魔法使いザズー

  8. ラターニャの鏡〜真の勇者

  9. 夢へ行く船

  10. ラターニャの鏡〜エピローグ

  11. 瞳をこらせば

  • パズー・クリリン・ルフィ等、代表作は枚挙にいとまがない声優:田中真弓が93年に発表した2ndアルバム。田中が一人八役をこなすオリジナル・ストーリーと、ストーリーの流れをくむ楽曲が交互に流れる構成を取った1枚。

  • まず何といっても、本作は田中真弓の歌が素晴らしい。しっかりと腹から声が出た豊かな声量は、彼女が80年代から常に声優界の第一線で活躍していることを納得させる。リスナーを作品の世界観にグッと引きつける①、突き抜けるハイトーンが気持良い⑤など佳曲である。

  • 全曲の作詞およびドラマ部分の脚本は佐藤ありすが担当。ドラマ部分は分かりやすくシンプルなストーリーながら、構成が巧みであり聴き手を飽きさせない。田中の演技も流石の安定感と素晴らしさがあり、老若男女が楽しめるエンターテイメントとして高い完成度を誇っている。

吉田古奈美『Merveille』

1997/11/15 56m バイオスフィア

Merveille / 心の扉 / way to the way / 黒の運命 / 見つめただけのTrue love / Season of love / Reverie〜夢想〜 / Dream Away / あたしの不思議な冒険 / KO・MO・RI・U・TA

  • 『魔法騎士レイアース』『魔法陣グルグル』『ぼのぼの』等、90年代中盤の人気アニメでメインキャラクターを演じていた声優:吉田古奈美が 97年に発表したソロアルバム。

  • 有限会社CUBEにてゲーム音楽を手がけていた藤岡央が5曲の編曲を担当。戦闘BGMに歌を付けたような③、無国籍にベースが唸る⑦など、楽曲には良い意味での「クサさ」がある。一人二役でデュエットする②や、ドラマCD的世界観とプログレ的楽曲展開が融合した⑨など、吉田の歌唱も声優のソロアルバムならでは。他の作家陣には松尾早人のほか、吉田自らも①⑦⑩で作詞作曲を手がけている。

平松晶子『PAIN』

1995/5/25 50m コーエー

Babulero Rap(I'm grand BANEKAJI kid's) / Big Love / Dear friend(I believe in the miracle in your pocket) / Only one thing that I can do for you / 愛のフロッピー / 憂鬱が降る / 田中 / Party class / きっともう会わない / 夢の続き / Is love and joy / 街角でKissしよう / あふれる想い / Final Rain / Big Love(Minimum Mix)

  • 『SLAM DUNK』赤木晴子役や『逮捕しちゃうぞ』小早川美幸役等で知られる声優:平松晶子が、95年に発表したキャリア唯一のソロ・フルアルバム。当時ゲーム会社のコーエーが設立した新レーベルの第1弾リリース作品である。

  • 作家陣は浮羽ひろみ・岡田正浩・楯直己など90年代声優作品では御馴染みの顔ぶれながら、同時代の渋谷系等の意匠も取り入れるなど、やっつけ仕事ではない意気込みが感じられる1枚。真壁久弥の編曲による佳曲⑤をはじめ、スチャダラな①、無国籍メロディの⑥などを収録。⑦は謎の人物:田中武雄が手がけた異色のパンクロック小品。

小桜エツ子『それでいいのだ』

キミは正しい。

1996/7/24 41m パイオニア

  1. 不器用じゃなきゃ恋はできない(Marvelous Arrange)

  2. わたしの彼はすし職人

  3. 99人の敵

  4. からくち恋愛指南

  5. おもちゃの看護婦

  6. だれも好きにならずにいよう

  7. ガマンは毒

  8. シンデレラの手口

  9. BOYS BE FREE!

  10. かえろうよ

  • 近年では『妖怪ウォッチ』でジバニャン役を担当するなど、活躍を続ける小桜エツ子(現:小桜エツコ)が96年に発表した1stアルバム。90年代パイオニアLDCの声優・アニメ関連楽曲といえば枯堂夏子だが、そんな彼女のプロデュース・作詞ワークスの中でもピカイチの輝きを誇る名盤。

  • 枯堂流の人間讃歌と言える③⑦、キャチーながら深みのある⑤⑧など……ブックレットの文章も含めて「モノ言う作詞家」枯堂の才気には思わず感動してしまう。サウンド面についても「歌はもっと豊かだったはずだ」をテーマに、キダ・タローによるスウィング・ジャズ②、B.B.ワヤンによるハワイアン⑤、黄丹儀による香港メロディ⑥など多種多様な楽曲を収録している。

  • 声優としても幼い子供・動物役が多い小桜だが、その歌声は純粋ゆえに聴き手の心へストレートに届く。昨今の高品質なアニソンに慣れた耳では野暮ったく聴こえる部分もあるが、それも含めてダイヤモンドの原石である。

枯堂夏子ワークス

横山智佐『恋愛の才能』

1994/5/25 49m パイオニア

  • サクラ大戦・天地無用など多数の作品でメインキャラを務める声優、横山智佐の2ndアルバム。枯堂夏子が全曲の作詞を担当し、楽曲ごとに様々なキャラクターを登場させるストーリーテリングが功を奏した1枚。④はマルクス兄弟による映画『我輩はカモである』が歌詞に登場する佳曲。

折笠愛『Room Service』

1996/12/21 46m パイオニア

  • 少年役や姉御役に定評ある声優、折笠愛の3rdアルバム。根岸貴幸によるラグジュアリーな編曲をバックに、キャラクターとしての「大人の女性」らしさを枯堂夏子がプロデュースした1枚。今井優子が楽曲を提供した①、岸村正実のペンによる不可思議ポップスの佳曲⑥などを収録。

神崎ゆう子『Cresc.』

1995/8/2 32m ファンハウス

  1. 元気の魔法

  2. どんな色がすき

  3. あしたのあしたのまたあした

  4. ネェ知りたいの

  5. 僕の贈りもの

  6. 誰もいないX'mas

  7. 家族のロンド

  8. はじめてのこもりうた

  • 1987年から93年までNHK『おかあさんといっしょ』で"うたのおねえさん"を務めた神崎ゆう子が、番組卒業後の95年に発表した2ndアルバム。万人の心に染み入る伸びやかな歌声を武器に、童謡とポップスの境界線を越えていく1枚。

  • 既存曲カバーとオリジナル楽曲を半分ずつ収録しており、前者は"うたのおにいさん"として共演した坂田おさむの②⑦、渋谷毅の③、オフコースの⑤を取り上げている。後者は細野晴臣・忌野清志郎コンビによる⑥が白眉。また櫻井哲夫が作曲した①もアルバムの顔と言える良曲である。その他に④を財津和夫、⑧を神崎本人が作曲している。

  • 本作を聴くと童謡とは「子供向けに作られた音楽」ではなく、子供に聴かれても恥ずかしくないよう、大人達が全力で取り組んだ結晶なのだと思わされる。前作『ぽこ・あ・ぽこ』も本作と甲乙付け難い名作でありオススメしたい。

小泉今日子『オトコのコ オンナのコ』

1996/11/21 54m ビクター

  1. 赤い金魚

  2. サボテン

  3. Dream Recorder

  4. For My Life

  5. 部屋に帰ろう ~When I die

  6. オトコのコ オンナのコ (ちょっとオイシイ Edit)

  7. ポマード

  8. 壊れたギター

  9. インタビュー

  10. 僕の部屋の窓

  11. 大事な気持ち

  12. 深い緑のベルベット

  • フックアップの女王、キョンキョンがGiRLPOP期の最後に目をつけたのは菅野よう子。サントラを除く歌モノでは編曲家としての仕事が多かった菅野にとって、本作は作曲・編曲の両方を全編的に担当した(恐らく)初のアルバムである(坂本真綾の1stアルバムが発売されるのは翌年)。

  • 菅野節が炸裂する大名曲④の存在は大きいが、それと同等に特筆すべきなのがアルバムの脇を固める"小品"のデキの良さ。決して盛り上がる曲ではないが、③⑦⑪などで見られる菅野のセンスの良さには素晴らしいものがある。

  • 同じような曲調が続く前作『TRAVEL ROCK』と比較すると、本作は多種多様な曲調の作品が収録されており、リスナーを飽きさせない。また小泉の歌詞も楽曲との相乗効果なのか、非常にイキイキとしている。全体的にストーリーテラー的な要素が強く出ており、④に代表される物語調の詩が楽曲に良くフィットしている。

佐藤聖子『SATELLITE☆S』

恋のベクトルは、素敵な星たちをめざしてる。

1995/6/21 59m フォーライフ

  1. 降っても晴れても

  2. スピード

  3. VOICE (Album Mix)

  4. さよならがおしえてくれる

  5. シール

  6. 星よ流れて

  7. Sends, stare & tears

  8. 一緒にいよう

  9. Heartbeats Groove

  10. 恋をするなら (Album Mix)

  11. 空にキスをするように

  • GiRLPOPムーブメントを象徴する存在であり、今もなお少なくない人々の心の柔らかい場所をしめつけ続けるシンガー:佐藤聖子の最高傑作である4thフルアルバム。

  • 彼女の声に宿る不思議な魅力を説明するのは難しい。スポーツ的な歌唱力があるわけではない。逆に言えばスポーツ的な歌手には絶対に出せない大事なものが彼女の歌には内包されており、 今作はそんな彼女の歌が活きる楽曲・歌詞が詰め込まれた1枚である。本人作曲の①②③を筆頭に、初参加となる朝本浩文の⑥、メジャーデビュー前の馬場俊英による⑨などグルーヴィーな名曲が並ぶ。またデビュー時から続く「西脇唯-間瀬憲治-水島康貴」ラインも④⑧⑪が収録され、アルバムに良いメリハリを与えている。

  • 個人的な話ですが、筆者がGiRLPOPにハマったキッカケの作品であり、何から聴けば良いか判らない人にまず勧めたい1枚です。これを書いてる時も④の大サビで泣きました。

五島良子『PIERCED』

1996/10/25 43m ポリスター

  1. Pasture

  2. Magma

  3. Higher

  4. 揺らめくランチ

  5. 届かない手紙

  6. 女の子はやめた

  7. Kamish

  8. Love Kong

  9. あなたが遠くなる

  10. 名もないピアス

  • 1990年のデビューから可愛らしいポップスを志向していたシンガーソングライター:五島良子が一変、ポリスター移籍と共に髪型をアフロに変え、音楽性を急転換させた96年発表の6thアルバム。ポップからオルタナへ転換していく時代を捉えた、後期GiRLPOPの記念碑的な1枚。

  • 歪んだサウンドで過去との断絶を決定づける①、精巧な楽曲構築と突き抜けるホイッスルボイスにヤラれる②、鈴木祥子による作詞も素晴らしい⑥、本作を象徴する1曲である⑩と名曲揃い。女の情念が乗った歌詞と、振り絞るような歌声に魂を揺さぶられる。

  • 編曲面では松本晃彦が ①⑦⑧、塩谷哲が②、五島本人が③⑤⑨、青山陽一が④を担当。それぞれの個性は有りつつも、楽曲の雰囲気には不思議な統一感がある、また音楽業界を引退していた森田光司が⑥⑩の編曲で復活し、以降の五島作品における重要な共同作業者となっている。

濱田マリ『フツーの人』

1995/11/22 46m キューン

  1. 夜明けの背中

  2. シンデレラ

  3. 人の息子(フツー編)

  4. 透き夜

  5. フツーで行こう

  6. わたしいのしし

  7. 愛されますよ

  8. 祝歌

  9. ひとひと

  10. 私の歌

  11. 天国を仰ぐ島

  • モダンチョキチョキズの活動後期にリリースされたソロ1stアルバム。モダチョキのユーモア精神を継続しつつも、1人の女性歌手として自立した濱田マリを堪能できる1枚。

  • 作曲陣には奥田民生、かの香織、遠藤京子、庄野賢一、森岡賢、水銀ヒステリアの西村睦美、ECDら。編曲陣には翌年に結婚する藤井麻輝、菊地成孔、ヒックスヴィル、ゴスペラーズら……ジャンルも音楽性も滅茶苦茶な人選であり、実際に楽曲もヴァラエティに富みすぎている。それでも本作が「アルバム」としてまとまるのは、やはり濱田マリの歌・キャラクターのなせる技だろう。

  • そして楽曲が単にヴァラエティに富むだけでなく、クオリティも高いのが素晴らしい。当時SMAPのシングル曲で勢いに乗っていた庄野賢一による⑦、遠藤京子のソングライティングが光る⑤⑩、かの香織の②や奥田民生の③などなど……。濱田マリ自身も8曲の作詞に関わり、マリちゃん節ともいえる切れ味鋭い作詞を見せている。

安達祐実『Viva! AMERICA』

ちょっと来ちゃったアメリカよ〜!!

豪華な作家陣×ミュージシャン×初の海外レコーディングによる安達祐実・中学生最後の3rdALBUM

1996/12/18 42m ビクター

  1. Introduction~The Star-Spangled Banner

  2. ちょっと来ちゃったアメリカよ!

  3. VANILLAのリップ

  4. 魔法を信じるかい?

  5. 空に手をかざしたら

  6. Interlude --success--

  7. サクセス

  8. さよならコスモス

  9. 雨の日も嵐の日もハリケーンの日も

  10. 恋のマラソン・ボーイ 〜Better Place〜

  11. ホームタウン

  • 『家なき子』出演以前から歌手としても活動していた天才子役:安達祐実が15歳で発表した3rdアルバム。デビュー時から多様かつ豪華な作家陣の楽曲提供を受けてきた彼女の作品の中でも、特にゴチャゴチャ感の強い1枚。

  • 大槻ケンヂの作詞が素晴らしい朝本浩文作編曲の②、作曲:直枝政広・編曲:菊地成孔という異色コンビによる③、嘉門達夫の大振りな詩が活きる本間勇輔作編曲の⑦、Nick Heywardの佳曲を河野伸の編曲で大胆に日本語カバーした⑩の4曲が秀逸。他の参加者も広瀬香美、三木拓次(RAZZ MA TAZZ)、冨田恵一、かの香織、かまやつひろし、サニーデイ・サービスなど枚挙に暇がない。全コラボが成功かは微妙だが、作品としてのインパクトは強い。

  • 安達の歌唱も前作までのコドモ路線とは異なり、良い意味でマセガキな、大人ぶりながら少しずつ成長していく少女の感がある。ブックレット写真のエバーグリーンな可愛さが、聴き手にそう思わさせているだけかもしれないが……。

市井由理『JOYHOLIC』

楽しいことはたくさんあって 手あたりしだいでこんがらがって そんな今どきの、ミス・ジョイホリック

1996/8/21 59m EPIC

ピクニック・ラブ / 恋がしたかった / サイダーピーチは柑橘系 / タイムマシン・ブレイカー / さよならの秘密 / レインボー・スキップ(joyholic mix) / そして甘いキッス -Then He Kissed Me- / 双子の恋人 / 素敵なベイビー / 雲のように / 優しいトーン / 眠れない夜に / 恋がしたかった (BOOM BAP 1200 REMIX) / さよならの秘密 (wild west dub)

  • 東京パフォーマンスドールを脱退後、EAST END×YURIとして「DA.YO.NE」をヒットさせた市井由理が、96年に発表した2ndソロ・アルバム。⑤⑥が93年、①④⑧⑫が94年、その他が96年と、足掛け3年かけて録音された1枚。

  • ASA-CHANG・ヒックスヴィル・朝本浩文の3組がプロデュースを担当。名曲⑥を筆頭に、Jake H.Concepcionのホーン・アレンジも印象的な②、河合代介編曲のオルガン・ジャズ⑧、バグルスを大胆にサンプリングした⑪など……楽曲の振り幅は広く、各参加者の個性が強く出ている。またASA-CHANG楽曲では菊地成孔、朝本楽曲では小泉今日子が作詞を担当。特に菊地の④は「いかにも!」な仕上がり。

笹野みちる『イノセンス』

自由は せつなく、恋は しかたない。

1996/8/21 54m ビクター

  1. 愛に迷っている人へ

  2. SEXY GAME

  3. スイッチ

  4. 君が好き

  5. さかなのように眠りたい

  6. わっせわっせ幸せ

  7. おりておいでよ

  8. Out of Love

  9. イノセンス

  10. 何もなかったように

  11. おしゃべりタイム

  12. たまには会おうよ

  • 元・東京少年の笹野みちるが、96年に発表したソロ4作目。前年にレズビアンであることを公言し、著書『Coming OUT!』やアルバム『GIRL MEETS GIRL』を発表するなど精力的な活動を行った彼女だが、本作では一旦そうした活動に距離を置いて笹野流のポップを追求している。

  • 作家陣にはソロデビュー時から笹野を支える出雲麻紀子に加え、新たに片桐麻美と種ともこという強力な二者が参加。これまでのアルバムでは笹野が全曲を作詞していたが、提供陣にSSWが増えたこともあり、本作は一部が笹野以外の作詞になっている。片桐麻美の作詞曲による④、種ともこ作詞曲の⑫など、他者作品を歌うシンガー:笹野の優秀さを感じさせる楽曲も多い。

  • そして何より嬉しいのが、笹野自身の作詞・作曲に(初期の東京少年を彷彿とさせる)勢いがある点である。⑥の楽曲展開や⑧の作詞などは、まさに笹野の本領発揮という感がある。

鶴田加奈子『Cosmic Cherry』

1996/12/21 38m キングレコード

Q・P ロック / できることもできないこともやってみなきゃわからない / 恋するチェリーパイ / 君はニャーニャーニャー / Baby, good night / すみれ畑 Smile / 僕だけのMoon Rabbit / Go-Go. Drivin' Go / バンキャルトのテーマ / Miracle Power

  • ドラムを叩きながら歌うライブスタイルで、現在は沢田茅乃とのツインボーカル・バンド「#01.A.1948」で活動する鶴田加奈子が96年に発表した唯一のソロアルバム。ロックといっても「ロック風味」のものが多いGiRLPOP界において、珍しく「ちゃんとロック」している1枚。

  • 編曲は最多の6曲を担当した西脇辰弥を中心に、山内薫・西川進などが参加。ギターロックを主軸としつつも、展開のメリハリがある点に好感を覚える。作曲面では「Yoshi Mihara」名義でも知られるジャズ・ギタリスト:三原淑治による③⑦⑩が良ポップで安定感○。

古内東子『Hourglass』

どうしてこんなに心に響くのだろう?

1996/6/20 45m ソニー

  1. いつかきっと

  2. 誰より好きなのに (Album Remix)

  3. ルール

  4. 心を全部くれるまで

  5. かわいくなりたい

  6. おしえてよ

  7. ユラユラ

  8. 置き去りの約束

  9. あの日のふたり(Album Remix)

  10. 星空

  • 93年に現役女子大生シンガソングライターとしてデビュー後、徐々にソウル・R&B的な方向へ楽曲をシフトさせてきた古内東子が96年に発表した5thアルバム。次作『恋』と並び、90年代半ばの古内東子黄金時代を代表する1枚。

  • 全10曲中、①〜③⑨⑩の5曲が同年にオリジナル・ラブを脱退した小松秀行プロデュースによる国内録音、残り④〜⑧の5曲がモータウンの伝説的ドラマー:James Gadsonをプロデューサーに迎えたL.A.録音となっている。単に聴き流すだけでも気持ち良い偶数曲と、パンチのある奇数曲が交互に現れる構成で、アルバム全体にメリハリがある。

  • 詞・曲・編・演の4要素が満ち満ちている名曲①を筆頭に、佐野康夫・小松秀行のヘヴィなグルーヴが腹に来る③、これぞ真骨頂!な⑤⑦⑨など名曲揃い。恋という事象を語彙力豊かに拡張させ、狭い関係性から普遍的な世界へアクセスするソングライティングは流石の一言。

ギャップ系ソウル in GiRLPOP

植山遊子『Woman In Love』

1996/6/21 50m アポロン

  • LAで活動していたSSW:植山遊子が、現地のミュージシャンを起用し制作したキャリア唯一のアルバム。エモーションズがコーラスで参加するなどバックの演奏は洗練されているのだが、その上に乗る植山の日本語ボーカルが粘っこく、発声・こぶしの効かせ方も一昔前の歌謡曲チックである。「ニセ古内東子」なんてあだ名を付けたら怒られるだろうか。

MOMOSE『花になりたい細胞』

1997/9/11 53m インディーズ

  • 他アーティストへの楽曲提供・サポートも行い、現在はNYに拠点を置く女性SSW:MOMOSEが97年に発表した1stアルバム。夫である青木庸和の編曲によるスイート・メロウなサウンドに乗せて、MOMOSEの独特な(というか下世話な)詞が歌われるギャップモノの1枚。特に②はヒドいを通り越して逆に凄いゲテモノ佳作。

平子理沙『PRIMITIVE LOVE』

1997/10/1 38m トイズファクトリー

LOVE SOLDIER / 緑の住む街 / GOLDEN BOY / LET'S PARTY / HONEY BEAR / Interlude / 夏休み / SINGLE GIRL / PRIMITIVE DANCE / TRAGEDY OF LOVERS / 野性のセンス / サーファーデビュー

  • モデル:平子理沙が97年に発表した2ndアルバム。テイトウワ・森俊彦との「SP1200 Productions」で知られる小日向歩がプロデュース・全作編曲を担当したN.Y.制作の1枚。

  • 現地ミュージシャンを起用したロック色の強いアレンジながら、楽曲には程よいセンチメンタルがある。特に平子と鍋島日御子による作詞は素晴らしく、名曲⑤をはじめ②③⑦⑫など粒ぞろい。奔放・根の優しさ・無垢・感覚的……歌詞における「ガーリー」とは何かという問いに対する、優れた模範解答だろう。平子の歌唱も丁度よい温度感で、楽曲の世界観に一役買っている。

YUKIE『LOVE AFTER LOVE』

1997/6/21 45m フォーライフ

  1. どんな風なやりかたをして

  2. こんなにも落ち込んでしまうなんて (featuring Camp Lo)

  3. ふれるといつもあたたかいもの

  4. いろんなものが見つかってよかった

  5. つぶ

  6. 花火

  7. Rose

  8. いっぱい手をつないでね

  9. 女の子

  10. LOVE AFTER LOVE

  • R&B系SSW:YUKIEが坂本龍一主宰のGÜTレーベルから97年に発表した1stアルバム。ajapai名義やテイトウワ・小日向歩と組んだ「SP1200 Productions」でも知られる森俊彦が全面プロデュースを担当した、N.Y.制作の1枚。

  • 本作はまずYUKIEのソングライティングが良い。日本語のセンチメンタルを大切にした詞曲には、単なる欧米の受け売りでないR&Bの萌芽を感じる。特に長いタイトルがそのままサビのリフレインになる①〜④は象徴的で、Camp Loによるラップがfeatされた②をはじめ名曲揃いである。

  • その詞曲の良さを更に盛り立てるのが森俊彦の編曲で、スムースを基調としながらもダレないプロダクションは流石。リバーブの効いたTR-808のスネアで花火の憧憬を表現する⑥、シンプルな編成ながら味のある⑧、パワーの籠もったタイトルチューンの⑩など聴きどころは多い。

R&B in GiRLPOP

SAKURA『SAKURA』

1995/11/15 16m インディーズ

  • 後に東芝EMIからメジャーデビューするシンガーソングライター:SAKURAが、タワレコDIG UPレーベルより95年に発表した4曲入ミニアルバム。SELFISHの大坪直樹がサウンドプロデュースを担当しており、パンチの効いたR&Bアレンジが気持ち良い。SAKURAの歌唱も流石の本場仕込みでキレがある。

松倉佐織『Funny Walker』

1995/11/25 53m ファンハウス

Funnyで歩こう / チャーミング / Rainbow / 真夏のパイレーツ / 10.2. 10:00pm / 空になげた -Fly it today- / いっしょに暮らそう / わがままも嘘も 気まぐれも無理も / 相変わらずの日々に / 君は愛を持ってる / 約束しよう

  • 現在は「松倉サオリ」と改名し北海道で活動を続けるシンガーソングライターが、95年に発表した 1stアルバム。

  • 歌詞が素晴らしい大名曲②を筆頭に、ヤマハミュージッククエストで金賞を受賞しデビューのきっかけとなった⑧、捻れつつもポップな①、カラッと晴れた④など……いずれも松倉スタイルとも言える様式美が出来上がっている。全曲に均等に力が入っており、聴いているとお腹いっぱいになるが、それだけソングライターとして充実していたということなのだろう。 編曲は小西貴雄と岸村正実がメインで担当し、楽曲を立てる必要最低限な仕上がりである。

熊谷幸子『Good Morning, Funny Girl』

1995/6/21 41m EMI

おはよう、ファニーガール / そして今週の二人は… / 雨のスクリーン / そんなはずない / 冬の花火 / 白夜 / 嵐のカーニバル / LOVE… / 大人って 子供って / 月夜

  • 前年にテレビドラマ『夏子の酒』の主題歌「風と雲と私」がヒットしたこともあり、自己最多となる3枚のシングル曲を収録した95年発表の4thアルバム。作詞はデビュー時から変わらずマイカプロジェクトだが、編曲にはSeawindのLarry Williamsおよび熊谷自身が初クレジットされている。

  • 個人的にソングライターが枯れるか否かの分岐点は4作目と考えるが、ここにきて高いクオリティを維持できるのは流石の一言。 歌詞も素晴らしい①、賑やかな④、思わずグッとくる⑨などを収録。他の楽曲もメロディに対する細やかな心配りがあり、捨て曲なしと言える1枚。

YOU『カシミヤ』

1994/10/21 41m ポニキャン

  1. カシミヤ

  2. あなたに会いにゆこう

  3. 横顔と星空と嘘

  4. いつかあの場所へ

  5. 緑の罪

  6. 智恵子さんへ

  7. 初恋

  8. 愛したい

  9. 二回目のキス

  • バラエティ・タレントとしてのYOUではなく……そして、フェアチャイルドにおけるYOUでもない。ジャジーかつしっとりとした曲調に、彼女の特徴的な声質が合わさった94年発表のソロアルバム。

  • 元・Shi-Shonen・Real Fishの福原まりを中心に、藤原ヒロシ、フクシクミコ、斎藤ネコ等が編曲を担当。アルバム序中盤は心にスッと染み込み、かつゆったりとした浮遊感のある楽曲が並ぶ。力こそ抜けているが、押さえるべき所はしっかりと押さえる……という、絶妙なバランス感覚が素晴らしい。

  • 後半はリズム隊が入りポップな楽曲が増え、最後の最後に後藤次利の作編曲による名曲⑩が待ち構えている。作詞は全曲でYOU本人が担当しており、楽曲の雰囲気を壊さない着実な仕事ぶりが伺える。

森口博子『happy happy blue』

1997/9/17 52m キングレコード

happy happy blue / 両手を広げて / Someday Everyday / 0の本気 / もらったBath Salt / Gin-Marriage / Shocking Blue / GIVE / じゃあ / だからここにいるんだね / その胸の中でずっとずっと / どんなときも どんなときも

  • ガンダム関連の主題歌やバラドルとしての活動で知られる森口博子が、97年に発表した11作目。オリジナル・アルバムとしては現時点における最終作である。

  • 今作は広瀬香美 - 本間昭光 / 平松愛理 - 清水信之 / 宮島律子 - 迫田到 / 西脇唯 - 武部聡志という、タイプの違う4組の女性ソングライター・男性アレンジャーのコンビが楽曲を提供。職人的ともいえる広瀬の②⑤⑥を筆頭に、平松の③⑦や宮島の④など聴き応えのある曲が並ぶ。森口の高域にキレのあるボーカルも流石の上手さであり、各楽曲のポテンシャルをより高く引き出すことに成功している。

再生するGiRLPOP

近藤名奈『NaNa』

1995/12/1 49m ファンハウス

  • デビュー当時の自然派少女イメージを払拭し、自ら作詞作曲も担当した4thアルバム。元ORIGINAL LOVEの宮田繁男がメイン編曲を担当し、バンドサウンドが中心となった1枚。メリハリの効いた佳曲③などを収録。師と仰ぐイーグルスのティモシー・B・シュミットがゲストで参加している。

市原真紀 『Lips』

1997/4/16 49m EMI

  • 移籍を経て発表した3rdアルバム。レゲエギタリスト鹿野航史の作曲によるフレッシュな名曲①、ノリが良い小泉誠司の②、サビが印象的な谷脇仁美作曲の⑤、「Haward Killy」こと河井拓実が本領を発揮した⑩などを収録。ワーナー時代の名残も感じるものの、スタイリッシュにという意欲が見える1枚。

上原さくら『Cherish』

ファッションも、ROCKだと思う。

1996/9/1 49m ポリドール

  1. 世界の半分は女の子

  2. GIRLS THINK

  3. あなたには,わたしが必要

  4. しあわせなヒッピー

  5. 二人の瞳

  6. SHOPPING

  7. 六月になったら(SHORT TV MIX)

  8. 青空のゆくえ

  9. THAT GIRL

  10. ホワイ

  11. 六月になったら

  • 94年のホリプロスカウトキャラバン(副題「放課後の決選〜カラオケ・バトルロイヤル」)でグランプリを獲得しデビューした上原さくらが、96年に発表した1stアルバム。プロデュースを尾上文(ボーイ・ミーツ・ガール)と辻畑鉄也(ピカソ)が担当した1枚。

  • 本作でまず特筆すべきは、当時メジャーデビュー前だった"こなかりゆ"の活躍ぶりだろう。尾上文とのコンビによる作詞は彼女のソロ作品に共通するユーモアがありつつも、上原のキャラクターを踏まえて「女の子」感を増強した当て書きがバッチリはまっている。作曲面でも4曲を担当しており、特に⑥は小生意気系GiRLPOP屈指の大名曲。

  • 上原の歌唱は技巧派というよりは気迫で押すタイプであり、彼女の気の強さが歌声に強く滲み出ている(流石カラオケ大会?を制しただけはある)。他の作家陣は作曲で"かの香織"と松岡基樹、編曲で今井忍(ボーイ・ミーツ・ガール)と森英治(ピカソ)が参加している。

黒田有紀『bicycle』

1995/7/26 31m EMI

  1. 風 吹いてる

  2. 自転車で海っ。

  3. 子守唄

  4. TOY DOLL

  5. LOVED YOU

  6. cry

  7. cry -reprise-

  • デビュー作にして唯一のオリジナルアルバム。本作の後にシングルを1枚出して引退してしまったのが惜しい……自作中心で10曲程度の2ndが聞きたかった……と思わせる1枚。

  • ASKA作曲のシングル曲①⑥が名曲なのは言わずもがなだが、それと同等に特筆したいのが「krara」名義による彼女の自作曲②〜⑤。ASKA曲とは全く別物の個性・十分なクオリティがあり、彼女が優秀なソングライターだったことが分かる。デビュー前からASKAのソロアルバムでデュエットを披露するなど、ビッグアーティストとの関連による話題作りは理解できるが、彼女の個性からすると「ASKA文脈」に組み込まれたのは若干の不幸とも思える。

  • また彼女は非常に器用なシンガーでもあり、楽曲に合わせた歌いこなしがピタリとハマっている。明るくハツラツとした②④とミディアム・スローな③⑤の対比、およびアレンジ違いである⑥⑦の歌い分けが象徴的だろう。

Eri『Blue』

1996/6/21 31m トイズファクトリー

Real love / 強くなれる / Don't cry baby / In the night / 永遠の人よ / Go to Summertime (album version) / blue

  • 80年代にアイドル「森下恵理」として活動後、芸能界を引退していた彼女がシンガーソングライター「Eri」としてカムバックし発表した96年作。

  • 森下時代から非凡な作曲センスを見せていた彼女だが、本作ではその才能が開花。『Blue』というタイトルが象徴するように、どこか影を落としつつも暗くなり過ぎず、前向きさを感じさせる楽曲が並ぶ(この温度感で良い曲を書くのは結構難しい)。編曲は森達彦・竹田雅一・山岡広司からなるプロデュースユニット「U.L.T.」が担当。オルタナティブな風味を加えつつも、ポップとして必要な部分は削がずに押さえるバランス感覚が流石である。

山岡京子『夢のパズル』

1997/2/26 46m ポリドール

お元気ですか / 休日の昼下がり / 夢のパズル / 待つだけの時間 / 屋上 / 海辺 / 明日になれば◯か☓ / わからない気持 / 少しの勇気 / あなたの心になりたい

  • 現在は「山岡恭子」として他ミュージシャンのコーラス・キーボード等サポートも手がけるシンガーソングライターが、笹路正徳のプロデュースを受けて1997年に発表した1stアルバム。

  • 作風としては奇をてらうでもなく、無駄にテンションを上げるでもない……ともすると凡庸なポップスと紙一重な本作だが、細部に手の行き届いている点が全く異なる。特に山岡の歌声はストレートながら、随所でのコブシ使いや裏声の抜き方が絶妙。笹路の編曲も③をはじめ丁寧な仕事ぶりで、「気の利いたポップス」と言うのがしっくり来る1枚。

鈴木蘭々『Bottomless Witch』

1996/3/21 40m ソニー

  1. SAY HELLO!

  2. 恋するマテリアル

  3. 泣かないぞェ

  4. ハッスル・ジェット

  5. 莫大な空

  6. 渚のうわさ

  7. 花とみつばち

  8. Rock'n'Roll Far East

  9. グラマラス

  10. なんで なんで ナンデ?

  • 『ポンキッキーズ』に安室奈美恵とのコンビ「シスターラビッツ」で出演するなど、バラエティ・アイドルとして売出し中だった鈴木蘭々が20歳で発表した1stアルバム。全曲を筒美京平が作曲した「筒美京平ソングブック」な1枚。

  • 小沢健二・PIZZICATO FIVEなど、自らがリスペクト対象だった渋谷系とも積極的に関わった筒美だが、そんな同時代の渋谷系的エッセンスをうまく咀嚼した上で肩肘張らないポップスに落とし込んでいる。シングル③⑩はさることながら、 オープニングを飾る①、相田毅の作詞も良い②⑤、15人組ビッグバンド「THE THRILL」が編曲した⑧など佳曲揃い。④⑥⑦は60〜70年代筒美楽曲のカバーである。

  • 蘭々の歌唱もキレがあり、元気いっぱい小娘キャラが板についている(これが次作『One and Only』では大人R&Bに変身するから面白い)。編曲は松本晃彦・藤井丈司が3曲、田辺恵二・門倉聡・朝本浩文が1曲ずつを担当している。

渡辺満里奈『Ring-a-Bell』

1996/3/21 20m Yoo-Loo

金曜日のウソつき / ばっちりキスしましょ / ダンスが終わる前に / 約束の場所まで / あなたから遠くへ / うれしい予感(アルバム・バージョン)

  • はっぴいえんどトリビュートへの参加、ちびまる子ちゃんオープニング主題歌⑥を経て、大滝詠一のプロデュースより制作された96年発表の6曲入りミニ・アルバム。

  • 良い意味で期待を裏切る能地祐子・萩原健太の夫婦コンビによる①(ウルフルズがコーラス参加)から⑥まで、20分のトータルタイムと濃密度であっという間に聴き終わってしまう1枚。 中でも白眉は佐野元春が作詞作曲した③で、井上鑑のストリングスアレンジ含め文句なしの「ナイアガラ」な1曲。②はオールディーズ「Tonight You Belong to Me」の日本語カバー、⑤は金延幸子のカバーである。

小林清美『One Moment』

その瞬間<moment>から流れ出した、未来へと続くストーリー。

1997/7/19 28m コロムビア

  1. LOVING YOU

  2. 土曜日は待ちぼうけ

  3. 離れて初めて気がついて

  4. 加害者

  5. 秋がスキ

  6. Wish…

  • 現在は山梨で音楽教室K&Mミュージックを設立し、アイドルのプロデュースや自らセンターを務めるグループの結成など精力的に活動する小林清美が、97年に発表した2ndアルバム。本作の2ヶ月後に発表した次作『After Moment』とは実質的な姉妹作で、2枚で1つのアルバムといえる。

  • まず特筆すべきは小林の歌の上手さだろう。澄みきったクリアな声質と明瞭な発声で、彼女が歌えばどの曲も良く聴こえるのでは?と思わされる。その上で実際に集まった曲も、伊藤薫の作詞が素晴らしい①③、北里浩のメロディラインに痺れる④、思わずウルッとくる⑤など名曲揃い。次作も含めて「歌の上手い人には良い曲が集まる」という、当たり前の秩序に改めて気付かされる。

  • 編曲には萩田光雄・水島康貴・岩本正樹・岩崎文紀(加えて次作では岩崎元是)とGiRLPOP界の名士が名を連ねており、何れも期待通りの仕事ぶりである。

今井美樹『PRIDE』

1997/7/16 54m フォーライフ

  1. PRIDE (OVERTURE)

  2. LAST JUNCTION

  3. I CAN'T STOP LOVIN'U

  4. DRIVEに連れてって

  5. No1

  6. OVER THE RAINBOW

  7. 永遠のメモリー

  8. Prussian Blue

  9. Windy noon

  10. アラビアン・ナイト

  11. 私はあなたの空になりたい

  12. PRIDE

  • 上田知華・MAYUMI・柿原朱美らの常連作家を起用せず、後に夫となる布袋寅泰が初めて全曲を作曲(編曲も①を除き全て参画)した10作目のオリジナルアルバム。

  • タイトルトラックは言わずもがなの名曲だが、それを最後の12曲目に据えた構成が良い。アルバムの前半はマイナー調やグルーヴで押す曲を多めに配置し、サビの絶唱が素晴らしい⑦を一つの折り返し地点として、最後の⑫に向けた流れを作るプロデュースは流石の一言。1枚のアルバムとして、聴取者を飽きさせない54分を作り出している。

  • 個々の楽曲における作編曲のクオリティも当然のように高く、布袋が当時いかに乗りに乗っていたかが伺える。ツボを突くのがバカみたいに巧いギターワークはさることながら、彼のもう一つの特技である豊かなコーラスワークも健在。④⑤など、サビに向けてのメリハリを付けるツールとして有効的に活用している。

OPEN 2018/10/09 ver.1.2.9