生姜は、血行促進作用や殺菌作用などの効果が期待できる食材として, 古くから知られていて, 様々な料理に用いられている. 生姜には辛味成分である「Gingerol, ジンゲロール」が含まれていて, 抗菌・殺菌の効果や血糖値の上昇を抑える効果があると言われている. また, 香りの成分である「Shogaol, ショウガオール」には脂肪燃焼効果があるとされ, 身体を温める効果を期待することができる. マウスを使った動物実験において脂肪細胞の分化を促進し, インスリン刺激によるグルコースの取り込みを促進するとの報告がある.
ジンゲロールは, 調理の際の加熱でショウガオールへ変化すると言われている. 化学的には単なる脱水反応であり, 生成物はカルボニル基と共役安定化するため, 加熱によりショーガオールが豊富に生成すると思っていたが, 通常の加熱調理温度における変化量は少量であるとの論文に遭遇した. 以下紹介したい.
赤枠内のメチレン数 (n) が4個の場合,(6)-Gingerolのように(6)-が付く.n=6の場合,(8)-Gingerol,n=8の場合.(10)-Gingerolである.
投稿論文は以下の論文である. 要約を引用させてもらった.
日本調理科学会誌 Vol. 48,No. 6,398~404(2015)〔ノート〕 ショウガ中の 6-ジンゲロールの加熱調理による変化, 吉田真 美, 平林佐央理
(1)ショウガ中の辛味主成分である 6-ジンゲロールが, 通常の食生活で想定される 5 種類の加熱調理(茹で,蒸 し,炒り,焼き,電子レンジ)により,6-ショウガオールに変化する程度について HPLC で検討した。
100℃,60 分間の茹でおよび蒸し加熱で,6-ショウガ オールは生ショウガのそれぞれ 3.3 倍,3.6 倍に有意に 増加した。しかし,生ショウガ中の 6-ジンゲロールと 6-ショウガオールの濃度割合は 98:2 であったのに対し て,加熱後ではそれぞれ 93:7(茹で)と 92:8(蒸し) となり,大半の 6-ジンゲロールは残存していた。変化の程度は 5~6%であった。
炒り加熱では,調理限界の 180℃,6 分後に,僅かで はあるが 6-ショウガオールの有意な増加が認められた (97:3)。焼き加熱(180℃,5 分)と電子レンジ加熱 (600 W,20 秒)では,調理可能時間が短く,変化を確認できなかった。
(2)ショウガの生と 3 通りの茹で時間試料のラジカル捕捉 能を DPPH 法で検討した。その結果,加熱後も抗酸化 能は同様に維持されていた。
(3)ショウガの生と 60 分茹で加熱後の辛味を官能評価法 で評価したが,両試料の辛味の差は認識されなかった。
生の生姜中の 6-ジンゲロールと 6-ショウガオールの割合は 98:2 であったが, 60 分間の「茹で, 蒸し」による加熱により, 6-ショ ウガオールはそれぞれ 3 倍以上有意に増加(93:7 茹で), (92:8 蒸し)したものの, 大半の 6-ジンゲロールは残存していたことを明らかにしている. 炒り加熱. 焼き加熱, 電子レンジ加熱の場合は調理時間が短いため, 変化を確認できなかったと報告している. 結論として, ショウガオールを豊富に含む料理は簡単には摂ることはできないということになるが, 逆に言えば, その程度で身体を温める効果があるということになり, 益々興味がそそられる化合物である. ショウガオールに関しては, その富化方法が研究や特許申請の対象になっている.
平面構造式からは,類似構造を想起させるが, 立体構造においては大きな変化が認められる. Gingerolはσ-π相互作用で安定化しているようである. 比較のため, 唐辛子の辛味成分であるCapsaicinの構造予測を行なった. コショウやサンショウの辛味成分の構造については文末に付記した.
Gingerol
Shogaol
capsaicin(唐辛子)
入力に用いた構造はMarvinSketchで描いた上記の平面構造式そのものである. 力場計算で得られた構造を入力データとした. 平面構造では類似した構造であるが, 分子計算ではそれぞれ大幅に変化した. 辛味成分の三次元構造を比較すれば, それなりの情報が得られるのではないかと思ったが, そう簡単ではないらしい. その理由は唐辛子とその他の辛味成分を有する植物では辛味を感じる機序が異なるからである. 脱水反応が起こりにくい原因は基底状態における安定化が寄与しているものと思われる.
参考資料
漢方薬では, ヒネショウガの根茎を乾燥させたものがショウキョウとして用いられる. 体を温める作用, 発汗作用があり. 風邪のひき始めなどに利用される. 吐き気や嘔吐にも効果的である. 漢方的には発汗、健胃、鎮吐などの効能があり、感冒(かぜ)、嘔吐、食欲不振などに用いられています。
吉田真美、平林佐央理、「ショウガ中の6-ジンゲロールの加熱調理による変化」『日本調理科学会誌』 48巻 6号 2015年 p.398-404, doi:10.11402/cookeryscience.48.398
alpha-Sanshool
サンショウ
piperine
コショウ
(2020.12.18)