粉体塗装の変遷
塗料と聞いてイメージするのは、鉄部に塗る「ペンキ」や、プラモデルに塗る、缶スプレーなどの「ラッカー」などが思い浮かびます。これらの塗料は液体です。絵の具と同じで「塗料(色)=液体」が一般的なのですが、世の中には液体塗料以外の塗料があります。それは粉体塗料という塗料で、字のごとく「粉の塗料」です。
粉体塗装(パウダーコーティング)とは、有機溶剤や水などの溶媒を使わない100%固形分の粉末状(固体)の粉体塗料を使用して、主に静電粉体塗装法(吹き付け塗装)、もしくは流動浸漬塗装法(浸漬塗装)の2方法にて行われる工業塗装法です。被塗装物の素材は金属類が主体であり、工業塗装方法として多用途に利用されています。
その使用目的は、従来の液状塗料と同様に美装用として(外観、色調など)、また保護用として(防錆、強度、耐薬品など)、工業用塗料の用途に広範囲に利用することができます。
塗料中に有機溶剤や水等の触媒を用いず、塗膜形成成分のみにて配合されている固体で、合成樹脂、顔料を中心として必要に応じて硬化剤、添加剤、フィラーなどを配合し、均一に加熱混練された分散体を冷却後、所定の粒度に微粉砕、そして分級された粉末の塗料です。
使用方法(塗装方法)は従来の液状塗料とは大きく異なり、粉体塗料独特の方法として、塗料の供給、搬送、及び塗装の手段として空気(加圧空気)を利用し、靜電粉体塗装法及び流動浸漬法を中心とした塗装が行われています。
粉体塗装は有機溶剤を使用しないため、大気汚染の原因になり難い塗料です。また、産業廃棄物も激減するため、環境に優しい塗装方法でもあります。 粉体塗料は顔料、樹脂、硬化剤、添加剤を含む有機ポリマーを細かく粉砕した粉状の塗料で有機溶剤を全く含まない塗料です。
粉体塗装が高性能なのは当初より認知されていましたが、最近の技術進歩は外観の美しさと常備色の増加、薄膜から厚膜まで自由な作業性等を達成し、塗膜の高性能に加え、多形体、多数品の受注等、幅広いニーズに答えることが出来ます。
粉末状プラスチックを被塗物表面で溶融し成膜させる粉末塗装法は古くから考えられていましたが、1952年流動浸漬法が発明されたことを契機に実用化が本格化し、1962年、フランスのサメス社が静電塗装用のスプレーガンを発表してからこれに適した粉体塗料及び塗装機の開発研究が進められ、 1965年頃から本格的に工業的使用が始まりました。
粉体塗装とは一般の塗料が液体の形であるのに対し、粉の状態の塗料です。この粉を静電気を利用し塗装する物に付着させます。そのままでは、この粉はすぐに脱落してしまいますが、次の工程で焼き付け炉に入れ溶融させ造膜させる方式です。
日本で初めて工業的な静電粉体塗装ラインが稼動したのは、昭和43年ごろといわれています。当時は公害規制が年々厳しくなっていったころで、溶剤をまったく含まない粉体塗装は、時代の要求にマッチした塗装法として急速に広まっていきました。その後,粉体塗装は省資源型の塗装方法として業界の注目を集め、しかもその塗膜性能が優れていることから、建材、家電、自動車などの分野に次々と採用されました。
粉体塗装(パウダーコーティング)は、環境規制の強かったヨーロッパでは、古くから採用されている塗装方法で、その塗装品質から1990年代、粉体塗装の本場ドイツでは、高級車であるBMWとベンツの粉体塗装ラインが稼動されてきました。高級外車の美しいボディを表現するために、粉体塗装はなくてはならない存在です
今日、塗料及び塗装に対する要求として、有機溶剤による大気汚染の防止、塗装の省力化、合理化などが大きくクローズアップされ、これらの要求に対して粉体塗料が注目を集めています。
近年、粉体塗装が注目されているのは
①有機溶剤を含んでいないため環境にやさしい
②樹脂による優れた塗膜性能
③1回の塗装で厚塗りが容易
④塗装作業性が優れる
これらの粉体塗料の特徴が、求められる環境性能に合致するためです。
粉体塗装の特徴
粉体塗装が可能な被塗物の条件
■耐熱性
粉体塗装は最終工程で150~250℃の高温焼き付け処理を行います。そのため被塗物の素材がこの高温に耐えること。被塗物の素材としては主に金属類となるでしょう。
しかし、特殊な塗装方法の利用により、陶器やガラスなどの無機物や高温耐熱性のあるプラスチックなどにも粉体塗装は可能です。
■通電性 金属であること
粉体塗装には、主として静電粉体塗装法と流動浸漬法の2種類があります。静電粉体塗装法を行う場合には、被塗物の素材に通電性があること。つまり金属類であれば塗装できます。流動浸漬法の場合は問題ありません。
■大きさ
粉体塗装は塗装工程、焼付工程とも被塗物の大きさにあった塗装ブース、乾燥機が必要です。また、大型の鋼構造物や屋外タンクなど大型の被塗物の場合には粉体塗装が出来ない場合があります。
■形状
一般塗装と同様袋物の内面や、パイプの内側を塗装するのは困難です。これを塗装するには、フレキシブルガンや長柄ガンという特殊なガンが必要です。
■注意点
粉体塗装は「高品質」、「低公害性」、「省資源」、「作業性」、等の利点がありますが、現場施工はできません。また、塗装装置の色替えには時間がかかることには注意が必要です。
二つの静電塗装法
①静電塗装法(外部荷電方式)コロナ式
静電塗装法に適した粉体塗料は1962年にヨーロッパで供給されるようになりました。粉体塗料による静電塗装法の原理は高圧静電発生機で得られる直流高電圧により粉体を帯電させ、アースされた被塗物に静電気の正(+)と負(-)の力を利用して被塗物に法静電引力により付着させます。被塗物に塗着した塗料は焼付炉で加熱溶融、硬化させて連続皮膜を形成させます。オーバースプレーされた粉体塗料は回収し、フルイでゴミ等異物を除去した後、再使用されます。
静電塗装は静電ガンから吹き付けされます。ガンの先端内部を粉体塗料が通過する際に、放電ピン(バイクのスパークプラグの先端みたいな物)のコロナ放電により粉体塗料が帯電され、被塗物の表面に付着し、塗膜を形成します。これが粉体塗装の原理です。この後、焼付乾燥炉で過熱することにより、粉体塗料は表面で流動化し、硬化して塗装膜になります。
粉体塗料は塗料供給槽より、空気によってスプレーガンに送られます。高圧静電発生機により得られた高電圧(通常-40KV~-90KV)が、スプレーガン先端周辺の空気を、イオン化します。粉体塗料はガン先端を通過する時、およびイオン化された空気中を通過する際、それぞれ接触することによって、負の荷電を得ます。一方被塗物はアースされており、塗装機のガン先端と被塗物の間に電界が形成されます。 ガン先端より吐出された粉体塗料は、静電引力によって被塗物表面に付着されます。この際負に帯電した粉体粒子は、電位の高い部分に強く働いて被塗物上に展開し粉体粒子が厚く付着するにつれて、塗膜に負の電荷が堆積し、一定以上の厚さになると、静電反発を生じて粒子が厚く付着するにつれて、塗膜に負の電荷が堆積し、静電反発を生じて、ある程度の厚さで均一な塗膜が得られます。
【長所】
・比較的薄膜で均一な塗膜が得られる。
・予熱が不要である。
・被塗物の大きさに関わらず塗装できる。
【短所】
・厚塗りする場合は予熱が必要である。
・深い凹みやシャープな凹みを持つ被塗物は電界の影響により塗装が難しい。
②静電塗装法(摩擦帯電方式)トリボ式
塗料が、ガンのノズルの内壁にぶつかった時に、摩擦で帯電する方式で塗料自体が荷電するため、凹凸の多い部品の凹み部分にも塗料がちゃんと入り込み、被塗物が複雑な形状でも比較的、均一に塗装できます。また塗料自体が荷電する事で逆電離現象が生じない為、美粧塗装ができます。
【長所】
塗装時に空気中のゴミまで荷電させないのでゴミが被塗物に付着しにくいのが特徴です。高電圧発生装置、ケーブルが不要なので高電圧機器を原因とする着火の危険性が少なくなります。
【短所】
ガン内部で、塗料を帯電させるため、塗料によっては十分に帯電できないものがあります。 そのため、(摩擦帯電方式)トリボ式用の粉体塗料があります。
摩擦荷電は、湿度の影響を受けやすく、夏場の高温多湿時に、帯電量が低下してしまいます。
粉体塗料の種類
現在、流通している粉体塗料は、熱可塑性粉体塗料と熱硬化性粉体塗料の以下の2種類です。
●熱可塑性粉体塗料
熱可塑性粉体塗料は主に塩化ビニル系、ポリエステル系、ナイロン系樹脂が使用します。熱可塑性塗料は、熱を加えることにより軟化して形状が変化し、冷えると安定するという特徴がありますが、再び熱を加えると軟化します。熱後処理は塗面の平滑性を上げる目的であり、熱硬化性塗料の様な焼成のための工程では有りません。主に流動浸漬塗装法に使用されます。
●熱硬化性粉体塗料
熱硬化性塗料は、熱を加えることにより架橋反応を起り、物理的に強い塗膜になります。一般的に後加熱を必要とします。使用されるベース樹脂は、外装用としてポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又、内装用としてエポキシ樹脂、ハイブリッド(エポキシ/ポリエステル)樹脂です。粉体塗装の主流で静電スプレー法によって塗装されます。
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