副実像とは

宇土高生が発見した光学現象

5月22日,文科省ホームページに「インテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF)参加生徒等の成績について」を掲載した.これをうけて,ニコニコニュースに以下の記事が掲載されている.

「科学自由研究の国際大会で日本の高校生が過去最多の受賞」

高校生のための世界最大の科学コンテスト「インテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF)2018」が5月13日から18日に,米国ペンシルベニア州ピッツバーグで開催された.この大会は,1950年から毎年開催されている権威ある科学研究コンテストで,81の国と地域から約1,800人の高校生が参加した.今年は,日本から12組23名が参加し,過去最多となる8組15名が受賞した.

Intel ISEFでは,物理,化学,生物,地学,工学,情報,数学のほか,医療分野や社会科学など多岐にわたる22のカテゴリーに分かれて審査される.審査は,豊富な経験を持つ研究者によって行われ,上位25%に「優秀賞(1~4等)」が授与されるほか,55以上の企業・団体から300以上の奨学金やインターンシップを含む「特別賞」が用意されている.

今年は,環境中に含まれるカスミサンショウウオ由来のDNAを効果的に検出する方法と地理情報システム(GIS)を組み合わせることで,その新規生息地を発見した岐阜県立岐阜高等学校の土田康太さん,坂井雄祐さん,都竹優花さんの研究が,動物科学部門で優秀賞2等に輝くなど,8作品が受賞し,日本代表にとって過去最多の受賞数となった.

トップの賞となるゴードン・ムーア賞には,ビルの窓を自動で清掃する装置を開発したオーストラリア代表Oliver Nichollsさんが選ばれ,賞金75,000ドルが贈られました.ドローンに似たこの清掃装置は25万円程度で作製できる装置にも関わらず,強風に耐え,1回100万円以上かかっていた清掃コストや危険性を伴う高所での作業という問題点を解決したという(一部省略).

優秀賞(1~4等)のなかに,物理・天文学部門の優秀賞4等に熊本県立宇土高等学校が入っていた.研究は「副実像」に関するものである.

発表者: 成松紀佳、小佐井彩花、高田晶帆(3年)

研究タイトル: “副実像”の写像公式化の研究 ~定式化のための行列の特定と可視化~

英文タイトル: Whether Insects See Anomalous Images Located Near a Lens or Not? Verification of Lens Equations for Anomalous Images and Application of the Simple Eye of an Insect

学校名: 熊本県立宇土高等学校

受賞内容: 物理・天文学部門 優秀賞4等

「凸レンズの副実像」は,熊本県立宇土高校の科学部が発見し,その研究内容が高校の教科書に掲載されたほか,物理学会の科学展でも最優秀賞を受けた.今回,国際的な評価を受けたということを知り,副実像が如何なるものか体験してみた.

次図は高校の教科書に掲載されている凸レンズの結像を説明した図である.a, b は,それぞれ光源ーレンズ,実像ーレンズ間の距離,f は焦点距離である.二つの距離と焦点距離の間に 1/a + 1/b = 1/f の公式が成り立つ.

なお,光源が焦点距離の中に存在する場合は物体が大きく見える虚像である(拡大鏡).

実像

● は焦点の位置

虚像

副実像

副実像は上図の倒立実像(茶色)とは別に,レンズの前後に出現する小さな2個の像である.次図で示すように光がレンズを通過する際,すべての光が100%通過することはなく,一部はレンズ面で反射する.反射した光は一部はレンズを通過するが,一部は二度目の反射を起こした後,レンズを通過して副実像をつくる.副実像を造る反射光の量は全体の数%であり,レンズの前後のごく近い位置に小さく現れる.

化学描画アプリで作図した概念図,そのため屈折等は適当である.

レンズ前方の副実像

1/a+1/b=4/f

レンズ後方の副実像

1/a+1/b=7/f


注)「前方」は光源側

レンズの両面に反射を抑えるコーティングをすると像が消えたため,レンズ内部の反射により小さい像ができることを確認し,片側だけ反射を抑えたレンズの実験から,前方の像は1回反射,後方の像は2回反射でできることをつきとめたという. 高校生が専門家も見逃していた現象を発見し,行列式を解いて公式を導き,さらにはコンピュータ上で再現することに成功している.今回の入賞はそれらのことが評価されたことによる.レンズとすりガラスがあれば容易に実験が可能である.資料3に掲載されている観察法を載せておくので,参考にしてほしい.

追記)

・心霊写真といわれてきた現象は凸レンズの副実像で説明できるらしい(資料5).

・「ここまで副実像が見落とされ てきた背景には,反射を抑えるコーティング技 術が上がり,コートレンズが普及したことなど が挙げられる」と科学部顧問は考察している(資料6).

・大学入試で実像の位置を求める問題は注意が必要とのことである.

資料

1)インテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF)参加生徒等の成績について 文部科学省

2)科学自由研究の国際大会で日本の高校生が過去最多の受賞 ニコニコニュース-2018/05/20

3)困難の末にたどり着いた! 「副実像」の位置の数式化 【物理】熊本県立宇土高等学校 科学部物理班 「みらいぶ」高校生サイト

3)6年間の研究成果が高校物理の教科書に載ることが決定! レンズが作り出す『副実像』の徹底解明【物理】熊本県立宇土高校 科学部物理班 「みらいぶ」高校生サイト

4)2017年5月21日朝刊26面「宇土高研究 教科書に」 - 日本物理学会

5)凸レンズで心霊写真~ | 1面の記事から | 朝日中高生新聞 | 朝日学生新聞 ...

6)【東書Eネット】[実践報告]ゴースト現象や心霊現象をもたらしていた“副実像” (熊本県立宇土高等学校科学部顧問 梶尾 滝宏 ほか 5 名 ).PDFファイル

7)熊本日日新聞2017年5月22日掲載記事

日本書籍発行の教科書に掲載されている図

拡大図

8)出現位置の測定方法

資料3に掲載されている測定法

(2018/05/26)