田園、地域環境、都市環境を潤す水循環のより正確な理解
多雪地帯の南限に位置している北陸地方は、温暖化に対して脆弱と考えられています。積雪・融雪に関する研究はこれまでに数多く行われていますが、森林の中における雪の動態、白山の山頂といった高標高帯における積雪・融雪課程などは観測の難しさなどから現象が十分に解明されているとは言えず、低地の観測結果を外挿しているに過ぎません。そこで、石川県農林総合研究センター、石川県白山自然保護センターなどとも協力して、多雪地帯における積雪観測、森林内における積雪融雪観測、白山の雪渓調査などを行い、これまではあまり観測が行われてこなかった場所における積雪・融雪のプロセスを調べています。また、降水が雨か雪かを安価に判別するために、音響を利用した新たな観測手法の開発も試みています。
これらの研究により、将来の気候変動時における積雪融雪や水循環のシミュレーションをより高精度に行えることが期待されます。
開発途上国における水環境、灌漑効率の改善への貢献
メガデルタは、最も地球環境の変化を受けやすい脆弱な地域のひとつとして指摘されています。ベトナム・メコンデルタでは、近年、河川水位の上昇が見られ、主要都市・カントーの冠水は年々深刻になっていますが要因は不明なままでした。そこで、海面上昇、地盤沈下、洪水の巨大化、氾濫原の減少に着目し、これらの要因が水位上昇とどの程度関係があるのかを調べています。また、カンボジア・トンレサップ湖も対象に入れて、氾濫水域の消長とともに水温・水質の変動特性をリモートセンシングを活用して解析しています。さらに、アフリカ・スーダンを対象にして、洪水灌漑の実態を調査して改善策を提示する研究も開始しました。
里山・里地・里海における環境変化ー水循環の相互作用の理解
石川県立大学周辺にも様々な環境変化が生じており、以下のようなテーマにも積極的に取り組んでいます。
・放棄竹林の拡大が流域水循環に及ぼす影響評価:放棄竹林が拡大することによって、森林の有する洪水緩和機能、渇水緩和機能にどの様な影響が現れるのかを調べています。石川県は森林環境税を導入しており、森林管理と水資源との関係を明らかにする非常に重要なテーマです。
・絶滅危惧種イカリモンハンミョウの生態環境調査:イカリモンハンミョウは、九州と石川県の一部のみに分布しており、近年、その個体数が減少傾向にあり絶滅危惧種I類に指定されています。イカリモンハンミョウの生態環境をより詳しく調べるためにUAVを活用しています。
・土砂崩壊に伴う高濃度濁水が手取川扇状地の地下水循環に及ぼした影響:2014年冬期に手取川で発生した大規模土砂崩壊によって超高濃度の濁水が継続的に発生しました。この高濃度濁水が扇状地の水循環に及ぼした影響について調べています。
受入研究課題
北陸地域の活性化に関する研究助成事業(R6):代表、巨大地震による農地・農業用施設への被害解析と復興戦略の検討
地域貢献プロジェクト(能登復興支援プロジェクト)(R6):分担、農地・農業用施設の復旧復興プロジェクト
河川基金助成(R6):代表、豪雪流域における過去100年間の出水タイプの変化分析
基盤研究(B)(R4~R7):代表、突発的な高濃度濁水の発生が扇状地の地下水環境に与えた影響の全容解明
基盤研究(B)(R4~R7):分担、研究代表者(伊藤優子)北陸特有の融雪パターンと越境大気汚染が森林流域の水・物質動態に及ぼす影響の解明
基盤研究(C)(R4~R7):分担、研究代表者(一恩英二)管水路オリフィス型水田魚道の開発
過去の受入研究課題
地域貢献プロジェクト(R5):代表、白山にある唯一の万年雪「千蛇ヶ池雪渓」の長期トレンド解析
基盤研究(C)(R2~R4):分担、研究代表者(高瀬恵次)森林管理による融雪遅延機能強化は温暖化による積雪減少に対する適応策となるか?
統合的気候モデル高度化研究プログラム(H30~R4):分担、統合的ハザード予測、2018-2022. 21世紀末までのシームレスなハザード予測
北陸地域の活性化に関する研究助成事業(R3~R4):代表、データ同化手法+地下水モデルによる地下水涵養量の時系列推定手法の確立-石川県・手取川扇状地を対象として-
地域貢献プロジェクト(R4):分担、研究代表者(塚口直史)「スマートな農業」実現に向けた農家技術のドローン画像解析手法への取り込みの試み
クリタ水・環境科学振興財団(R2~R3):代表、衛星データのみで浸水氾濫域の水位と流動を推定できる新規手法の開発:カンボジア国・トンレサップ湖とその周辺の氾濫域を対象として
国土地理協会(R1~R2):代表、突発的な高濃度濁水が扇状地の地下水環境および砂浜海岸に与えた影響:手取川流域を事例として
農林水産政策科学研究委託事業(H30~R2):分担、研究代表者(中嶋晋作)日本農業の生産性革命、イノベーション推進を可能にする農業ICTの社会実装と農地集積の市場デザインに関する実証的研究
基盤研究(B)(H28~H31):分担、研究代表者(田中丸治哉)アフリカ乾燥地域における洪水灌漑の性能評価と効率改善に関する水文学的研究
地域貢献プロジェクト(R1):代表、ドローンフル活用:農業生産基盤と作物生育状況を一網打尽に監視・診断する
環境・エネルギー研究分野「地球規模の環境課題の解決に資する研究」(H27~H31):分担、研究代表者(吉村千洋)
地域貢献プロジェクト(H30):分担、研究代表者(塚口直史)ドローンを活用した作物生育量推定法の確立
河川基金助成(H30):代表、土砂崩壊にともなう高濃度濁水の功罪:砂浜の回復と地下水涵養量の減少に着目して
若手研究(A)(H27~H30):代表、放棄竹林の拡大と気候変動の複合作用が森林流域の洪水・渇水流量に及ぼす影響の解明
基盤研究(C)(H27~H30):分担、研究代表者(一恩英二)水田周辺の魚類のための上流傾斜隔壁魚道の開発
挑戦的萌芽研究:観測が困難な場所における積雪観測手法の構築:見落とされてていた積雪融雪過程の解明、H27年4月~H29年3月:代表
北陸地域の活性化に関する研究助成事業:音響を利用して雨と雪を判別しながら降水量を計測できる装置の開発、平成29年4月~平成30年3月:代表
地域貢献プロジェクト:手取川上流に発生した地すべりによる濁水が下流に与える影響の解明とその緩和方法の検討、平成28年4月~平成29年3月:分担、研究代表者(柳井清治)
気候変動リスク情報創生プログラム:課題対応型の精密な影響評価:水資源に関する気候変動リスク情報の創出、平成25年~平成29年:分担
クリタ水・環境科学振興財団:夏期の渇水を予測できる雪形の探索:環白山地域を対象として、平成27年10月~平成28年9月:代表
河川基金助成:放棄竹林の拡大は流域水循環に悪影響を及ぼすか?、平成26年4月~平成28年3月:代表
農業農村工学会研究グループ:超高精度温暖化影響評価のための多雪森林流域における積雪データセットの構築、平成26年4月~平成27年3月:代表
挑戦的萌芽:水稲の節水栽培と高温障害抑制を両立する水管理手法の開発、平成25年4月~平成27年3月:代表
基盤研究(B):メコンデルタ高洪水稲作地域における気候変動に向けたダイクシステムの再構築、平成24年4月~平成28年3月:分担、研究代表者(藤井秀人)
国際農林水産業研究センター研究プロジェクト:アフリカにおけるコメ生産向上のための技術開発、平成23年~平成27年:分担
農業農村工学会研究グループ:メコンデルタ洪水常襲地帯の水稲作付体系にみる洪水適応策とその持続性評価、平成24年4月~平成25年3月:代表
京都大学東南アジア研究所共同利用・共同研究拠点「東南アジア研究の国際共同研究拠点」平成23年度共同研究:東南アジアを対象とした過去50年間の広域再解析気象データと村落レベル農業活動履歴の照合、平成23年4月~平成25年3月:分担、研究代表者(星川圭介)
若手研究(A):西アフリカ・ボルタ川流域の大規模な湿地・湖沼における水収支および気象緩和機能解析、平成22年4月~平成25年3月:代表
基盤研究(A):環境トレーサビリティ手法による農業地域水環境形成メカニズムの分析、平成19年4月~平成22年3月:分担、研究代表者(渡邉紹裕)
特別研究員奨励費:流域水循環モデルによる水資源リスク評価と流域管理に関する研究、平成18年4月~平成20年3月:代表
博士論文
2022年度
・白山・千蛇ヶ池雪渓の消長とニホンジカの越冬環境評価に関する研究 小川弘司
修士論文
2022年度
・突発的な高濃度濁水が手取川扇状地の地下水環境に与えた影響の解明 大谷健人
2020年度
・森林の貯雪・融雪遅延機能の評価ー森林内外の消雪日の差に注目してー 平田智道
2019年度
・衛星データによるトンレサップ湖氾濫観測手法の開発と水温変動解析 渡邉裕太
卒業論文
2022年度
・積雪融雪モデルを活用したニホンジカ越冬地の推定 眞田智啓
・石川県能美市にある竹藪用水の湧水の起源推定ー水質の違いを利用してー 辻野一誠
・低コストGNSSの精度検証とその活用に関する研究 中川悠希
2021年度
・昭和9年手取川大洪水における融雪水の寄与率推定:区内気象観測原簿を活用して 橋本莉佳
・掛流し灌漑が玄米品質に与える影響ーマルチスペクトルカメラを搭載したドローンによる評価ー 谷内駿太郎
・スーダン・ガッシュデルタにおける衛星画像による作付け実態の分析と実蒸発散量の推定 横尾大智
2020年度
・突発的な高濃度濁水が扇状地地下水環境に与えた影響 -粒子フィルタを用いた地下水涵養量の時系列推定 大谷健人
・トンレサップ湖の水温変動解析:Google Earth Engineを活用して 奥山浩気
・列状間伐地における積雪・融雪特性 木村文哉
2019年度
・白山千蛇ヵ池雪渓における融雪熱収支特性-千蛇ヵ池雪渓は多年性でなくなってしまうのか- 岩佐海杜
・スギ林における冬期樹冠通過降水量の評価と推定式の確立 川田秋雅
・マルチスペクトルカメラを搭載したUAV(ドローン)による水稲診断法の検討 丸山拓巳
2018年度
・土砂崩壊に伴う高濃度濁水の功罪 小池田奈緒
・Webカメラを利用した雨雪判別 千代泰平
・森林の有する融雪遅延機能の定量評価 平田智道
2017年度
・温度観測による砂浜微地形変化の観測手法の確立 市野雅治
・Drill&Dropによる森林斜面の土壌水分プロファイル観測 加藤裕介
・カンボジア・トンレサップ湖における衛星データを用いた氾濫域判別手法の開発 渡邉裕太
2016年度
・UAV(ドローン)とSfM(Structure from Motion)による高精度な3次元形状の生成に関する研究 川口渉
・音響を利用した雨雪判別手法の構築 長井貴広
・カンボジア・トンレサップ湖における表層水温とSSの変動解析:MODISデータを活用して 横村茉莉花
(2016年度に作成したオープンキャンパスのポスターはこちらです。ポスター。)
2015年度
・衛星高度計を用いたメガデルタにおける氾濫解析 須能麻葵
・竹林拡大が積雪・融雪および土壌物理性に及ぼす影響 両角圭祐
・衛星データを利用した積雪域の変動解析 谷内伸輔
2014年度
・衛星データを利用した水稲収量の時空間変動解析:メコンデルタを対象として 荒川舞
・森林流域内における積雪分布推定手法の新提案 中西裕亮
2013年度
・観測が極めて困難な高山地帯における積雪深観測手法の開発 菊池拓也
・竹林の拡大は水環境に影響を及ぼすか? 堀恵
・メコンデルタの土地利用変化が洪水氾濫に及ぼす影響 村田智香
2012年度
・メコンデルタにおけるフルダイク化の進行とそれに伴う水稲栽培様式の変化 松浦南津子
・手取川流域における溶存態ケイ素の実態に関する調査研究 松川浩子
・メコンデルタにおける三期作化が農地および周辺水文環境へ及ぼす影響 勇崎夏希