【第54回】2022年10月7日(金)9:20--9:45(コーヒータイム)9:45--10:45(セミナー)
講演者:臼杵峻亮(京都大学)
タイトル:Littlewood予想に現れる整数の個数の下からの評価
アブストラクト:ディオファントス近似に関する有名な、90年近くに渡る未解決問題として、次のLittlewood予想と呼ばれるものがある:全ての実数の組 (α,β) に対し、liminf_{n→∞} n ||nα|| ||nβ|| =0 は成り立つか( ||x|| は実数 x の整数との距離)。M. Einsiedler、A. Katok、E. Lindenstraussは2006年の論文で、Littlewood予想が成り立たない (α,β) の集合は(存在したとしても)Hausdorff次元0であることを、力学系の理論から証明した。ここで扱われた力学系とは、SL(3,R)/SL(3,Z)上の diagonal action と呼ばれるもので、これに対する「不変測度の剛性」の系としてこの主張が導かれる。
今回の講演では、Hausdorff次元0の例外集合を除いた全ての(α,β)に対し、小さい正数 ε に対して n ||nα|| ||nβ|| < ε となるような整数 n が、[1,N] に少なくとも O(ε logN) は存在するという、Littlewood予想に現れる整数の個数の評価が、SL(3,R)/SL(3,Z)上の diagonal action の性質から導かれるということについて述べる。
【第55回】2022年10月21日(金)9:20--9:45(コーヒータイム)9:45--10:45(セミナー)
講演者:吉田颯飛(関西大学)
タイトル:特殊関数e^x E_1(x)の連分数展開とその収束性およびEuler-Gompertz定数δの無理性への応用
アブストラクト:特殊関数の一種である指数積分E_1(x)にe^xを掛けたものをF(x)とおく.F(x)の連分数展開を,実数の正則連分数展開に則った方法で得ることができた.具体的にはF_1(x):=1/F(x)とおき,以降整数n≧2に対してF_n(x):=1/(F_{n-1}(x)-(F_{n-1}(x)の主要項))と定めるとF_{2m-1}(x)~x,F_{2m}(x)~1/m (x→∞)が成立することを帰納法で示す.また連分数を有限のところで打ち切ったときに得られる有理式の具体的な表示を与える.更にこのようにして得られたF(x)の連分数が正の実数x>0でF(x)に収束することを二つの方法で示す.Euler-Gompertz定数δは現在も無理数であるか有理数であるか分かっていない定数である.δとEuler定数γはよく似た積分表示を持ち互いに関係を持つことが知られているがγの無理性についても未解決であることは有名である.F(1)=δであることからδの連分数と有理数近似が得られるが,それを用いてδが無理数であるための(充分成立しそうな)十分条件を与える.詳しくは,上記のF(x)のn階の有理式近似の分子と分母に現れる(有理数係数)多項式にx=1を代入して得られる有理数をそれぞれp_n,q_nとおき更にそれぞれの小数部分を{p_n},{q_n}とすると数列δ{q_n}-{p_n} (n=1,2,3,・・・)がある条件を満たせばδは無理数であることが証明できる.
【第56回】2022年11月4日(金)9:00--9:25(コーヒータイム)9:25--10:25(セミナー)
講演者:正井秀俊(東京工業大学)
タイトル:4点穴あき球面上の複素構造と双曲構造の描画
アブストラクト:一般にオイラー数が負の閉曲面(実2次元多様体)上には双曲構造が入り,双曲構造と複素構造は等温座標,一意化定理を通して1対1に対応する.それらの構造のマーキング付き変形空間はタイヒミュラー空間と呼ばれ,さまざまな豊かな理論が展開されている.本講演では複素構造や双曲構造を実際に絵に描くことに,タイヒミュラー理論の視覚的な理解へ向けた研究を組みひも理論との関連なども交えて紹介する.講演者は3次元双曲多様体の体積に関する興味からこれらの描画の研究をしており,講演では3次元双曲多様体論からの動機付けからお話しする.
【第57回】2022年11月18日(金)9:20--9:45(コーヒータイム)9:45--10:45(セミナー)
講演者:川村花道(東京理科大学)
タイトル:D色根付き木に付随する反復積分
アブストラクト:2色根付き木とそれに付随する有限多重ゼータ値という対象が小野によって導入され、その基本性質を組み合わせることで金子とZagierによって与えられた有限多重ゼータ値のシャッフル関係式が従うことが示された。同様の理論がt進対称多重ゼータ値にも応用できることが小野・関・山本によって判明している。本講演では、これらの理論をともに含む一般化としてD色根付き木に付随する反復積分を導入し、従来得られていた基本性質が一般の反復積分の場合にも成立することを示す。これの応用として、D色根付き木に付随したp進有限多重ポリログおよびt進対称多重ポリログを定義し、これらのシャッフル関係式が得られることも紹介する。
【第58回】2022年12月2日(金)9:20--9:45(コーヒータイム)9:45--10:45(セミナー)
講演者:渡邉天鵬(京都大学)
タイトル:Is the bifurcation radius an algebraic number at the basilica parameter?
アブストラクト:I am interested in random iterations of quadratic polynomial maps which are produced by adding noise to deterministic dynamical systems. It is known that there exists the bifurcation radial parameter such that if the amplitude of the noise is greater than it, then almost every random orbit tends to the point at infinity. In this talk, I would like to show my results and discuss my conjecture that the threshold number is algebraic. The talk is based on arXiv:2206.06702.
【第59回】2022年12月9日(金)9:20--9:45(コーヒータイム)9:45--10:45(セミナー)
講演者:佐野岳人(理化学研究所)
タイトル:A family of slice-torus invariants from the divisibility of reduced Lee classes
アブストラクト:We give a family of slice-torus invariants, one defined for each prime element c in a principal ideal domain R, from the c-divisibility of the reduced Lee class in a variant of reduced Khovanov homology. It is proved that this family contains the Rasmussen invariant s^F over any field F. Moreover, computational results show that the invariants corresponding to (R,c)=(Z,2), (Z,3) and (Z[i],1+i) are distinct from s^Q. This is a joint work with Kouki Sato (Meijo univ.).
preprint: https://arxiv.org/abs/2211.02494
【第60回】2023年1月13日(金)9:20--9:45(コーヒータイム)9:45--10:45(セミナー)
講演者:守谷共起(東京大学)
タイトル:種数3における分解 Richelot 同種写像計算アルゴリズムとその応用
アブストラクト:代数曲線の Jacobi 多様体とは,その曲線により生成される主偏極付きアーベル多様体である.Jacobi 多様体間の Richelot 同種写像とは,楕円曲線の2-同種写像の種数2以上への一般化である.種数2では Richelot 同種写像の理論や計算方法に関して多くがわかっており,近年ではそのグラフ構造の解析や暗号応用への研究が進展している(桂-高島 2020,Florit–Smith 2021,Castryck-Decru 2022など).種数3以上の場合,2021年に桂-高島により分解 Richelot 同種写像と定義域の Jacobi 多様体を生成する曲線の自己同型群の構造についての関係が得られたが,写像の具体的な計算などについて未解決な問題が残されていた.本講演では,桂-高島の理論に基づき,種数3の場合に分解 Richelot 同種写像を明示的に計算するアルゴリズムを提案する. 超楕円の場合の計算量は定義体の2次拡大上の演算として定数時間であり,非超楕円の場合は定義体の適当な拡大体上の演算として定数時間である.また,一般 Howe 曲線は2つの曲線のファイバー積と双有理な曲線であり,双対同種写像の値域に対応している.本講演では,同種写像計算に加えて,種数3の一般 Howe 曲線の生成公式を提案する.これらの応用として,種数3の超特別 Richelot 同種写像グラフの部分グラフを生成するアルゴリズムを与えるとともに,時間があれば高種数の超特別曲線の効率的探索に向けた展望なども述べる.本研究は工藤桃成氏(東京大学)との共同研究である.