【第31回】2021年4月16日(金)15:00--15:30(お茶会)15:30--16:30(セミナー)
講演者:広瀬稔(名古屋大学)
タイトル:Ohno relation for shuffle regularized multiple zeta values
アブストラクト:多重ゼータ値とは、ある種の多重ディリクレ級数で定義される実数である。多重ゼータ値には様々な線形関係式族が知られており、大野関係式はその一つである。また多重ゼータ値は0から1までの直線パスに沿ったx=dt/tとy=dt/(1-t)の反復積分として表すことができる。この観点からは、多重ゼータ値は許容的なワード(yで始まりxで終わるxとyのワード)に付随する実数として定式化される。表題のシャッフル正規化多重ゼータ値とは、これを許容的とは限らないx,yの任意のワードに拡張したものである。さて発表者は、北九州市立大学の村原氏および九州大学の斎藤氏との共同研究で、大野関係式のシャッフル正規化多重ゼータ値への一般化を得たのでこれについて報告したい。
【第32回】2021年4月30日(金)15:00--15:30(お茶会)15:30--16:30(セミナー)
講演者:岡﨑勝男(九州大学)
タイトル:射影空間の射の高さ函数に対するノースコットの有限性定理の類似
アブストラクト:「高さ函数」とは, 数論的な対象(例えば代数的数や楕円曲線の有理点)の”大きさ”を測る函数であり, ディオファントス方程式等の整数論の問題を考える上で, とても基本的な道具です. 高さ函数の最も基本的な結果の1つとして「ノースコットの有限性定理」と呼ばれる, 代数的数の有限性に関する定理が知られています. イメージとしては, ノースコットの有限性定理は, ディオファントス方程式の解を求める際に, “しらみ潰しの手法”を可能にする定理です.
講演者及び共同研究者は, 有理数体の代数閉包上の射影空間の射に対して, 新たな「高さ函数」を幾つか定義しました. そこで本講演では, 先ずは研究の背景や動機付けとなる高さ函数の基本的な事項について, 修士以下の学生の方等にも解る様に丁寧な概説を行い, それを踏まえて, 我々が定義した射影空間の射の高さ函数に対して, 先のノースコットの有限性定理の類似が成り立つか否かを考察します.
本研究は, 九州大学数理学府の久家聖二氏との共同研究です.
【第33回】2021年5月14日(金)15:00--15:30(お茶会)15:30--16:30(セミナー)
講演者:小林祐一朗(青山学院大学)
タイトル:グラフスペクトルを用いて探索する複雑ネットワークの構造特性
アブストラクト:インターネット,電力網,脳,細胞内の遺伝子間相互作用,人間社会など,多数の要素をもち要素間の関係性が重要であるような対象は総じて「複雑ネットワーク」と呼ばれ,その関係データは多くの場合にグラフとして表現される.グラフの構造的特性(「個性」)はグラフ上で定義される過程に対して大きな影響をもつことが普通であり,応用的興味からは,グラフデータの個性を特徴づけようとする試みが行われることが多い.しかしながら,グラフの持ちうる様々な特性を包括的に扱えるような整備された方法論が広まってきたとは言い難い.一つのものを計算することによってそのグラフデータのもつ性質を探索的に発見できるような,統一的な方法論を考案することはできないだろうか.本発表では,そのような統一的方法論の構築のためにグラフスペクトルが利用できる可能性について議論する.
当日の発表では,まず物理学における近似的な量の捉え方の概念を導入し,物理コミュニティに主導されてきた複雑ネットワーク研究の流れについて概観した上で,グラフスペクトル(とりわけラプラシアンの固有値分布)を観察する動機を説明する.ついで,グラフスペクトルとグラフの構造的特性との対応について知られている事実をいくつか紹介し,それに基づいたグラフデータの理解法を例示する.さらに,スペクトルからグラフを復元する上で問題となる不定性に関連してグラフの不均一性(non-uniformity)の概念を提案するとともに,複雑ネットワークのスペクトルに基づく理解において中心的な役割を果たしうる予想をいくつか提示する.
【第34回】2021年5月28日(金)16:15--16:45(お茶会)16:45--17:45(セミナー)
講演者:小原まり子(大島商船高専)
タイトル:Projective schemes and Serre theorem in SAG
アブストラクト:Serreは1955年に射影スキーム上の連接加群層と次数付加群の圏のある局所化が圏同値であるという定理を証明した。この定理は代数幾何学において基本となる定理である。Serreがこの定理を証明したその後も、GabrielやManinらによって圏論の側面から研究されてきた。例えばSerreの定理の対応を鑑みて、非可換幾何においても射影スキームを考えることができるようになる。
本講演で話す研究は無限圏における代数幾何学である、Spectral Algebraic GeometryにおいてSerreの定理を考えようというものである。これにあたり、次数付きの概念と射影スキームを開被覆を用いて定式化した。LurieのSAGにも射影空間や射影スキームが定義されているがそれらとも比較する。また、トポス、随伴関手の性質を用いてSerreの定理に証明をつける。本研究は鳥居猛氏との共同研究である。
【第35回】2021年6月11日(金)17:10--17:30(お茶会)17:30--18:30(セミナー)
講演者:小田部秀介(東京電機大学)
タイトル:ゼロサイクルのなすChow群の普遍的自明性と不分岐対数的Hodge-Wittコホモロジーの自明性について
アブストラクト:体上の固有スムーズ代数多様体が普遍的に自明なゼロサイクルのなすChow群を持つことは, その関数体が, 全てのサイクル加群に対して自明な不分岐コホモロジーを持つことと同値である. これはMerkurjevによる古典的結果である. Auel–Bigazzi–Böhning–Graf von Bothmerは, 標数 p>0 の体上の固有スムーズ代数多様体が普遍的に自明なゼロサイクルのなすChow群を持つならば, そのコホモロジカル・ブラウアー群も自明であることを示した. 素数ℓがpと異なるとき, ℓ-ねじれ部分が自明なことはMerkurjevの結果から従うので, p-ねじれ部分に関するギャップを克服したということである. さらに最近になって, こうしたコホモロジーの自明性は相互層の一般性質として説明できるということがBinda–Rülling–Saitoによって明らかにされた. 例えば, 不分岐対数的Hodge-Wittコホモロジーが相互層の非自明な例を与える. 今回, 不分岐対数的Hodge-Wittコホモロジーの自明性について, 相互層の理論に頼らない証明を与えたので, そのことについてお話ししたい. 本研究は東北大学の甲斐亘氏と山崎隆雄氏との共同研究である.
【第36回】2021年6月25日(金)12:30--13:00(ランチ),13:00--14:00(セミナー)
講演者:小泉淳之介(東京大学)
タイトル:Zeroth A^1-homology of smooth proper varieties
アブストラクト:A^1ホモトピー論とは、位相空間の代わりに滑らかな代数多様体を用い、単位閉区間の代わりにアファイン直線A^1を用いて展開されるホモトピー論の類似物である.特に位相空間のホモロジー群の類似物として定義される「A^1ホモロジー層」という不変量は、不分岐エタールコホモロジーなど様々な不変量を制御することが知られている.AsokとHaesemeyerは2010年に、固有かつ滑らかな代数多様体Xの0次A^1ホモロジー層がXの有理点の存在を検出することを示した.講演者はこの結果を精密化し、当該の層がXの有理点のある同値類を用いて具体的に記述できることを示したので、それについて紹介する.
【第37回】2021年7月9日(金)15:00--15:30(お茶会)15:30--16:30(セミナー)
講演者:前田洋太(京都大学・ソニーグループ株式会社)
タイトル:Fano Shimura varieties with mostly branched cusps
アブストラクト:志村多様体の小平次元は古くからTai,Mumford,金銅,Gritsenko-Hulek-Sankaran,馬氏らによって研究されてきた.今回,保型形式を用いてより深い双有理幾何学的側面を明らかにすることができたので発表する.具体的には,志村多様体のSatake-Baily-Borelコンパクト化がFano,Calabi-Yau及びlog canonical modelになる判定法を保型形式の観点から示し,その具体例を直交型及びユニタリ型志村多様体に対して与えた.また,特定の鏡映的保型形式の存在の下でcuspの位置が特殊であることや,ユニタリ型志村多様体上ではあまり分岐が起きないことを示したので合わせて話す.本講演は京都大学の尾高悠志氏との共同研究に基づくものである.
The Kodaira dimension has been studied by many people, e.g., Tai, Mumford, Kondo, Gritsenko-Hulek-Sankaran and Ma. In this talk, we study further detailed birational geometrical aspects by using modular forms. Specifically, we show the Satake-Baily-Borel compactification of Shimura varieties are Fano, Calabi-Yau or log canonical model in terms of modular forms and give concrete examples for orthogonal and unitary Shimura varieties. Moreover, we prove most of the cusps on Shimura varieties are branched when the particular reflective modular forms exist and there are not so many branch divisors on unitary Shimura varieties under some conditions.
【第38回】2021年8月6日(金)15:00--15:30(お茶会)15:30--16:30(セミナー)
講演者:大橋亮(横浜国立大学)
タイトル:Appell-Lauricella超幾何級数に付随した曲線における正則微分形式とCartier作用素について
アブストラクト:楕円曲線およびその超特異性は、Gauss超幾何級数と関係が深いことが知られている。表題のAppell-Lauricella超幾何級数とは、Gauss超幾何級数のある種の一般化である。Archinardは、複素数体上においてAppell-Lauricella超幾何級数に付随する曲線C: y^N=f(x)の特異点解消の正則微分形式を決定した。
講演者は任意の完全体にArchinardの結果を拡張し、曲線Cおよびその無限遠点のみで特異点解消を行った曲線の正則微分形式も決定した。ここで、特異点をもつ曲線上での微分形式の正則性はSerreによって定義される。さらに応用として、これらの正則微分形式がなす空間にはCartier作用素が作用することを示し、Cartier作用素をあるAppell-Lauricella超幾何級数のtruncationにより記述することに成功した。
本研究は、横浜国立大学の原下秀士氏との共同研究である。