2020年度後期

【第14回】2020年9月18日(金)10:10--10:30(お茶会)10:30--11:30(セミナー)

  • 講演者:Ade Irma Suriajaya(九州大学)

  • タイトル:Hardy-Littlewoodのsingular seriesのRiesz平均における誤差項

  • アブストラクト:278年も渡り証明されていないゴールドバッハ予想は4以上の偶数が二つの素数の和として書けることを主張する。その弱い類似は7以上の奇数は三つの素数の和で書けることを主張し、数年前にH. Helfgottにより証明された。G. H. HardyとJ. E. Littlewoodが1922年にそれらの予想を考察し、十分大きな偶数が全て二つの奇素数の和で書けると予想し、その和として表示する方法の個数の漸近公式も予想した。HardyとLittlewoodが予想した漸近公式に素数の積で定義される特殊な級数が現れ、この級数はその後、HardyとLittlewoodのsingular series(特異級数)として知られている。HardyとLittlewoodはゴールドバッハ問題を調べながら偶然に、このゴールドバッハ問題と双子素数予想との密接な関係を発見した。双子素数予想とは、差が2である素数の組が無限個あるという予想である。HardyとLittlewoodは差が偶数である素数の組が無限個あると予想し、その組の個数に対して漸近公式も予想した。より正確に述べれば、n以下の素数の組に対して個数の漸近公式を予想した、そこで再びsingular series(特異級数)が現れた。

この講演では、実数x以下を走る正整数kに対し、(x-k)^mという重みをつけたHardyとLittlewoodのsingular series(特異級数)の「Riesz和」と名付けられる平均を考察し、誤差項の明示公式、下から評価及びリーマンゼータ関数の零点に関わるいくつかの予想の下での精密な評価を紹介する。この研究はサンノゼ州立大学のDaniel Goldston氏との共同研究である。


【第15回】2020年9月25日(金)10:10--10:30(お茶会)10:30--11:30(セミナー)

  • 講演者:鈴木美裕(金沢大学)

  • タイトル:線型周期と二分法

  • アブストラクト:保型形式の周期とは, 閉部分群上での保型形式の積分, もしくはその積分が定める線型形式のことをいう. これは, 保型L関数の極や零点と密接に関係することが知られており, 様々な研究や予想がある. 例えばGan-Gross-Prasad予想(GGP予想)はその代表例である. GGP予想には局所類似(局所GGP予想)があり, それによると, イプシロン因子と呼ばれる関数の特殊値を用いて, p進古典群の表現が閉部分群に関して不変線型形式をもつための条件を記述できる. このような現象を(イプシロン)二分法といい, 類似の予想や定理が多数発見されている. PrasadとTakloo-Bighashは, p進体上の一般線型群の内部形式の表現が, 線型周期をもつための条件に関する二分法(PTB予想)を提唱した. 2011年に発表されたこの予想に関して, 近年, 多くの研究者が色々な手法により解決を試みていた. 今回, 絡周期積分を用いて誘導表現の周期を明示的に与えることで, いくつかの仮定の下でPTB予想を証明できたので, この結果について紹介する. (アリゾナ大学の薛航氏との共同研究)


【第16回】2020年10月2日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:金村佳範(慶應義塾大学)

  • タイトル:局所点を持つ対角的超曲面の族の密度の計算法について

  • アブストラクト:対角的な超曲面に有理点があるかという問題は、古くよりWaring問題やFermat予想に関連して研究されており整数論において興味深い対象の一つである。ここでは、次数を固定して射影空間内の対角的な超曲面の族を考える。本講演では、そのような超曲面の内、局所点を持つ部分族の密度を計算する方法を与えたのでその方法について説明を行う。この方法はBright, Browning, Loughranにより証明された、局所点を持つ超局面の族の密度の「積公式」を元に与えられる。 また、その系として次数が2次と3次の場合に一定の仮定の下で各次元に対して超曲面の有理点を持つ部分族の密度、及びQ-(uni)rationaliityを満たす部分族の密度を計算したので、それらの結果についても紹介する。本研究は慶應義塾大学の平川義之輔氏との共同研究である。


【第17回】2020年10月9日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:佐野薫(同志社大学)

  • タイトル:最大算術次数を持つ点のZariski稠密性(Zariski density of points with the maximal arithmetic degree)

  • アブストラクト:代数体上で定義された射影多様体の自己射の反復合成を一つの力学系とみなす。この力学系において有理点のWeil高さが漸近的にどのように振る舞うのか、ということが川口-Silvermanにより問われ、高さの漸近的な指数増大度を測る量である算術次数が導入された。一方で力学系次数と呼ばれる、代数的な力学系の幾何的な複雑さを測る量は古典的によく研究されてきた。川口-SilvermanがZariski稠密な軌道を持つ有理点に対しては、算術次数は力学系次数に一致するであろうという予想を立て、松澤により一般に算術次数は力学系次数以下であることが示された。これらに関連して柴田は、松澤の不等式が真の不等式となるような有理点の集合は、固定された代数体上では真のZariski閉集合になるであろう、という予想を立てた。これはある意味で川口-Silvermanの予想より強いものである。柴田の予想の裏を返せば、算術次数が力学系次数に一致するような点は豊富に存在すると考えられる。実際、一般に算術次数が力学系次数に一致する有理点がZariski稠密にあることを代数閉体上で示し、また幾らかの場合には、固定した代数体上で同様のことを示すことに成功した。本講演では、この結果について解説を行う。本研究は柴田崇広氏との共同研究である。


【第18回】2020年10月16日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:坂田実加(大阪体育大学)

  • タイトル:高さ最大の多重ゼータ値について

  • アブストラクト:高さ最小の多重ゼータ値は、リーマンゼータ値たちの多項式で書き表せることがAomoto氏とDrinfel'd氏によって示されていた。2016年に金子昌信氏との共同研究により、高さ最小の多重ゼータ値を高さ最大の多重ゼータ値を用いて対称的な形に書き表す関係式が得られた。2017年には、村原英樹氏との共同研究によりこれを一般化し、高さを固定した多重ゼータ値のある和を高さ最大の多重ゼータ値を用いて書き表す関係式を得た。今回は、これらの結果について紹介する。


【第19回】2020年10月23日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:林拓磨(東京大学)

  • タイトル:Rings of definition of closed K-orbits in some partial flag varieties

  • アブストラクト:実簡約 Lie 群の表現論及び保型表現論などの周辺分野で重要な対象の 1 つに A_q(λ) 加群と呼ばれる実簡約 Lie 群の表現 (Harish-Chandra 加群) がある. この加群は, q に対応する部分旗多様体上の閉 K 軌道上の, −λ に対応する同変線束から捻じれ D 加群の操作によって得られることが知られている. もしこれら部分旗多様体, 閉 K 軌道, そして同変線束がより小さい可換環上定義できれば, 対応する A_q(λ) 加群もより小さい環上定義されることが期待できる. この講演では A_q(λ) 加群の定義環を論じることの保型表現論 (保型 L 関数の特殊値の研究) からの背景及び部分旗概形の閉 K 軌道の定義環の Galois 降下について表現論の専門家以外の方に向けて話したい. この講演は Fabian Januszewski 氏との共同研究に基づく.


【第20回】2020年10月30日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:野崎雄太(広島大学)

  • タイトル:ホモロジーコボルディズムを用いた 3 次元多様体の不変量(スライド

  • アブストラクト:基本的な 3 次元多様体であるレンズ空間 L(p,q) について,種数 1 で境界成分 1 つの曲面をページとするオープンブック分解を考える.このような分解は存在しない場合もあり,その条件は p, q を用いて完全に記述されている.一方,ホモロジーコボルディズムを用いることで,より代数的な類似の問題を考えることができる.本講演では,その問題に対して得られた結果を紹介する.また主結果の証明においては,整係数 2 次形式や Chebotarev の密度定理などの整数論が重要な役割を果たす.


【第21回】2020年11月6日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:川崎盛通(京都大学数理解析研究所)

  • タイトル:ピのカラビ擬準同型の拡張問題とその応用

  • アブストラクト:シンプレクティック多様体には二つの変換群のあることが知られている。一つはシンプレクティック微分同相群であり、もう一つはその正規部分群であるハミルトン微分同相群である。本研究では「擬準同型の拡張問題」を通じて、この2つの変換群の差について考察する。曲面のハミルトン微分同相群上にはピのカラビ擬準同型と呼ばれる実数値函数が存在するが、筆者らはこれがシンプレクティック微分同相群上に(擬準同型として)拡張しないことを証明した。その応用として以下を示した。

・シンプレクティック微分同相群上にはフラックス準同型というものがあるが、これが切断を持たないことを示した。

・曲面のハミルトン微分同相群上に擬準同型を構成する方法としては、組紐群を用いたGambaudo-Ghys構成という手法が知られているが、ピのカラビ擬準同型がこの手法で構成できないことを示した。

本研究は東京大学の木村満晃氏との共同研究である。また、最近は木村氏に加えて琉球大学の松下尚弘氏、東北大の見村万佐人氏とも共同研究を行っており、これについても時間の許す限り話す。


【第22回】2020年11月13日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:湯淺亘(京都大学数理解析研究所)

  • タイトル:色付きジョーンズ多項式のtailとq-級数

  • アブストラクト:結び目の量子不変量である色付きジョーンズ多項式に対して、その極限からtailと呼ばれるq-級数が存在する。さらに、このtailを用いることで (2,m)-トーラス結び目から(false) theta seriesに関するAndrews-Gordon型の恒等式を得る手法が知られている。今回は sl(3)色付きジョーンズ多項式のtailに関する講演者のこれまでの結果を紹介する。本講演は低次元トポロジーや結び目理論を専門としない方々に向けて、結び目の量子不変量の簡易的なレビューも行う。特に、線形スケイン理論と呼ばれる図を用いた量子不変量の定義、計算手法を紹介する。


【第23回】2020年11月20日(金)16:40--17:00(お茶会)17:00--18:00(セミナー)(ドイツ時間8:40--)

  • 講演者:小谷久寿(Max-Planck-Institut für Mathematik

  • タイトル:4次のMilnor不変量の配置空間積分表示

  • アブストラクト:1990年代半ばに、KontsevichとAxelrod-SingerはChern-Simons摂動理論をベースに配置空間積分の数学的なアプローチを提案した。それ以来、配置空間積分は3次元の位相幾何学のみならず、整数論や4次元多様体論等とも関連し肥沃で広大な研究分野として発展し続けている。結び目理論における有限型不変量の枠組みにおいて、配置空間積分はJacobi図の空間のある双対部分空間から有限型不変量の空間への線形写像を与えるツールとしての役割を果たす。特に、絡み目に対する配置空間積分はGaussにより1833年に最初に導入された絡み数の積分表示の自然な拡張とみなすことができる。他方、絡み数の一般化として代数的に定義されるMilnor不変量は有限型不変量であることが知られている。したがって、理論的には配置空間積分を用いてMilnor 不変量の積分表示を与えることが可能であるが、具体的な積分表示を与えることは容易ではない。本講演では、Koytcheffによる3次のMilnor不変量の積分表示に関する議論を拡張し、4次の場合の表示を説明する。時間があれば講演者の関連する他の研究についても述べる。


【第24回】2020年12月11日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:杉山真吾(日本大学)

  • タイトル:Hilbertモジュラー形式の対称べきL関数のlow-lying zeroの分布とL関数の特殊値による重み付き分布につい

  • アブストラクト:Riemannゼータ関数の零点の分布はRiemann予想を契機としてこれまで研究されてきたが, 1つのゼータ関数の零点の解析とは双対的な立場として, L関数の無限族のlow-lying zero(実軸付近の零点)の分布に着目する研究がある. この研究はKatz, Sarnak (1999)のヒューリスティクスを嚆矢として行われてきた. そのヒューリスティクスとは,「L関数の族のlow-lying zeroの分布は, ランダム行列理論にでてくる古典Lie群の元の固有値分布と一致するはずだ」というものである. 現在までに, Dirichlet L関数, 楕円モジュラー形式の保型L関数など, 様々なL関数の族に対して分布の一致が確認されている. 近年ではShin, Templier (2016) により, Langlands関手性原理などの仮定の下で簡約代数群の保型表現の関手的リフトのL関数に対して考察されたことは記憶に新しい.

さて本講演では, 正則Hilbertモジュラー形式の対称べきL関数の族の零点分布が, ランダム行列理論から生じる分布と一致することを紹介する. この結果は楕円モジュラー形式のRicotta, Royer(2011)の結果の一般化とみなせる. また, L関数の特殊値の重みをつけて零点分布を考察すると, ランダム行列理論から生じる対称性が破れるという現象が観察された. 本講演ではそれについても言及し, L関数の零点と特殊値の関係に関する予想を提示する.


【第25回】2020年12月18日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:坂田康亮(東京大学)

  • タイトル:signatureを用いたグレブナ基底を求めるアルゴリズムについて

  • アブストラクト:グレブナ基底は代数学の一分野であり,これまで多くの応用分野が提案され,利用されている.グレブナ基底を求めるアルゴリズムの大きな進展の一つに2001年にFaugèreにより提案されたF5アルゴリズムがある.F5はsignatureと呼ばれる元の計算をアルゴリズムに導入することで,従来のアルゴリズムに現れる不要な計算を多く省くことが可能である.この講演ではsignatureを用いたグレブナ基底を求めるアルゴリズムの紹介を行い,その場合に有効な計算方法を紹介する.


【第26回】2021年1月8日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:松澤 陽介(Brown University)

  • タイトル:Vojta予想と数論力学系

  • アブストラクト:代数多様体の自己射の軌道に関して,各座標のサイズの増大度,座標の間の最大公約数,座標のprimitive prime divisor(原始的素因数)の存在などは数論力学系における重要な問題である.これらの問題は1次元の場合はかなり詳細に研究されてきたが,高次元における研究は少なかった.私は最近高次元においてこれらの問題にVojta予想が非常に有効に使えることを示した.より一般にこれらの問題に共通して応用できる高さ関数に関する定理/予想を確立したのでそれを紹介したい.


【第27回】2021年1月15日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:三上陵太(京都大学)

  • タイトル:自明付値体上の滑らかな代数多様体に対するHodge予想のトロピカル類似

  • アブストラクト:トロピカル幾何は、代数幾何の組み合わせ類似であり、部分代数多様体を組み合わせ的に扱うことができる。我々はHodge予想のようなサイクル写像の問題へのトロピカル幾何を用いたアプローチを提案する。この講演では、自明付値体上の滑らかな代数多様体に対するHodge予想のトロピカル類似の証明について話したい。証明は、Quillenらの多くの数学者によって発展した”一般のコホモロジー理論”に関する定理、新しく導入するMilnor K群のトロピカル類似、非アルキメデス幾何を用いた自明な直線束のトロピカルコホモロジーの具体的計算によって行われる。


【第28回】2021年1月22日(金)9:10--9:30(お茶会)9:30--10:30(セミナー)

  • 講演者:浦本 武雄(長浜バイオ大学)

  • タイトル:一般化Witt vectorに対するChristolの定理の数論的類似について

  • アブストラクト:Christolの定理とは,有限体上の形式的冪級数が(その有限体上の)多項式環上で代数的になるための必要十分条件を有限オートマトンの言葉で与える定理であった.本講演では(1) Borgerによって近年導入された一般化Witt vectorに対してChristolの定理の類似が証明できること,またそれと関連する話題として,(2) ある種のLambda環のなす圏が,副有限モノイドの有限集合への作用のなす圏と同値になること,(3) モジュラー関数のある種の変形族の特殊値によってWitt vectorが生成される結果などについて紹介する


【第29回】2021年1月29日(金)15:40--16:00(お茶会)16:00--17:00 (セミナー)

  • 講演者:小貫 啓史(東京大学)

  • タイトル:超特異楕円曲線間の同種写像の暗号応用

  • アブストラクト:現在広く用いられている暗号方式は、素因数分解問題あるいは離散対数問題の困難性に基づいており、量子コンピュータによる攻撃で安全性が脅かされることが 知られている。このため、近年、量子コンピュータによる攻撃に耐性を持つ暗号方式の研究が盛んに行われている。同種写像暗号はそのような方式の1つであり、有限体上の楕円曲線の間の同種写像を求めることが計算量的に困難であるという仮定に基づいている。特に暗号計算の効率性の理由から超特異楕円曲線を用いる方式が研究の主流になっている。本講演では、同種写像暗号の仕組みを解説し、2019年にColoとKohelにより提案された新方式に関する講演者の研究結果を紹介する。


【第30回】2021年2月5日(金)15:40--16:00(お茶会)16:00--17:00(セミナー)

  • 講演者:佐久川 憲児(大阪大学)

  • タイトル:曲線のモジュライ空間の幾何的基本群のp進相対的冪単完備化について

  • アブストラクト: 曲線のモジュライ空間の幾何的基本群の相対的冪単副p完備化とはモジュライ空間上の相対的に冪単な滑らかQp層を分類する淡中基本群のことであり, 2000年代初頭にHain・松本により導入され研究が行われた. 本講演ではこの基本群について解説し, 更にその関数環上のガロワ表現に関して講演者が得た結果を報告する.