概要
摩擦は,物体同士をすべらせたときに生じる力学現象であり,散逸のある系の物理現象,ひいては開放系の物理現象として,極めて普遍的なものである.3つの経験則が広く成り立つことが知られており,まとめてアモントン―クーロン則と呼ばれている.これまで,アモントン―クーロン則の成立範囲や成立機構について,物質科学,力学,統計物理学等に基づく基礎研究が行われてきた.また,最近になって,アモントン―クーロン則の破れを対象とする研究や,その破れを積極的に活用する例が報告されるようになっている.
本研究会では,アモントン―クーロン則の破れを共通のテーマとして,さまざまな分野の研究成果を議論する.その中で,二つの主要課題を設定する.一つ目は,アモントン―クーロン則の破れを記述する現象論に関するレビューである.摩擦現象は,工業材料の摩擦・摩耗特性を調べる学問であるトライボロジー,機械システム(とくにロボット)の制御法を研究する学問である制御工学,岩盤同士の運動を調べる岩石力学の各分野において,とくに活発な研究が進められている.しかしながら,申請者が知る限り,分野間の交流が全くない.その結果,たとえばゴム製ロボットハンドを自在に制御したり,岩盤間に高圧の水が介在する状況下の地震発生過程を研究したりする際に,他分野で確立されている有用な知見を活用できないという問題を生じることになる.本研究会では,トライボロジー,制御工学,岩石力学の専門家を招待し,レビューを行ってもらうことで,各分野における発展の経緯や方向性,問題点などを確認し,将来の融合研究の可能性を模索する.
二つ目は,アモントン―クーロン則の破れに関する研究の最先端を参加者間で共有することである.非アモントン―クーロン則を示す現象には,それぞれ特有のメカニズムがある.ミクロスケールの励起・散逸過程やメソスケールの接触・破断過程が,マクロスケールに現れるアモントン―クーロン則の破れをどのように引き起こすかについて,各分野の最新の研究成果を持ち寄って議論する.想定される対象としては,前述の分野のみならず,統計物理学,粉体物理学,アクティブマター,量子ダイナミクスなどが考えられる.参加者としても,物性研究者だけでなく,岩石力学,トライボロジー,制御工学,表面科学,量子化学,ソフトマター物理学,生物物理学,生物学などの研究者や学生を広く募り,分野の垣根を越えて議論を深める.
日時・会場
2024/09/05 --- 2024/09/06
基礎物理学研究所 湯川記念館 パナソニック国際交流ホール
プログラム
Invited speakers
松島亘志(筑波大学):土砂のせん断と摩擦則
野田博之(京都大学):広い変形条件における断層の力学的性質と地震サイクル挙動について
吉田康弘(大鉄工業):免震建物でのすべり材の静摩擦について
菊植亮(広島大学):摩擦現象の微分包含式表現と制御・シミュレーションへの応用
佐野友彦(慶應義塾大学):摩擦接触を伴うしなやか材料のダイナミクス -結び目,編み物,ソフトロボティクス-
鷲津仁志(兵庫県立大学):分子シミュレーションによるトライボロジー研究
桑原卓哉(大阪公立大学):第一原理的分子動力学法による摩擦研究
参加登録
下記のフォームから登録してください
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeaKjYC0gVoJHbHE5jgDAIdS7a0qPmUSmvgEbqFPjBoLRWw9g/viewform
・締め切り
講演(口頭およびポスター発表)を申し込む場合:8月6日(火)
講演を申し込む学生の方で旅費の補助をご希望の場合:7月31日(水)
懇親会に参加する場合:8月29日(木)
参加のみの場合:9月6日(金)
世話人
山口哲生 (東京大学)
大槻道夫 (大阪大学)
松川宏 (青山学院大学)