フラクトグラフィとディープラーニング(FraD)の融合研究コンソーシアム成果

1.活動概要

横浜国立大学先端科学高等研究院・リスク共生社会創造センター内に「フラクトグラフィとディープラーニングの融合研究コンソーシアム」(略称 FraDコンソーシアム)を立ち上げ、2019年6月から2023年3月まで活動を行った。以下に本コンソーシアムの概要を示す。

社会的背景

プラントの運転中に、配管や圧力容器などの破壊事故が起きると、早急に事故原因の究明が必要になる。事故原因が特定されれば再発防止策の検討が可能となるとともに、運転再開につながるので、早急な対応が求められる。事故原因の究明のためには、破断面の観察を行うことは重要なことで、フラクトグラフィーと呼ばれる学問分野で取り扱われる。特に、走査型電子顕微鏡による拡大観察は、強力なツール となっていて、 得られた画像から破壊のモードの特定が行われる。しかし、破壊モードの判断には高度の専門性が求められる一方、このような専門性 を有する人材不足が産業界において深刻な問題となっている。そこで、本コンソーシアムでは、 A I の適用によって、破断面画像から損傷モードを自動判別する仕組みを開発することとした。

設立目的

破損調査に必須の破断面調査では、特に観察ベースの調査(定性的な評価)においては、

1:解析の熟練者の減少(人手不足)

2:解析結果の質および評価(解析者が結果に自信が持てない)

が問題になってきている 。 そこで、 本コンソーシアムでは、

1:破断面画像から破壊機構を推定(性状分類)

2:破断面から起点を推定する(起点推定)

を可能とするソフトウェア( AI )を開発して、現在行っている定性的な評価をサポートできる+効率的な破面解析を行う環境を構築することとした。 コンソーシアム活動の総括を行う運営委員会は、横浜国立大学に加え、(株)神戸工業試験場、労働安全衛生総合研究所で構成された。

期待される研究成果

期待される研究成果として以下が考えられる。

• 解析初心者への破断面分類及び起点推定などの解析サポート解析初心者への破断面分類及び起点推定などの解析サポート

• 解析の効率化解析の効率化

• コンソーシアム活動を通しての破断面に関連する技術者、研究者の技能向上コンソーシアム活動を通しての破断面に関連する技術者、研究者の技能向上

運営体制

横浜国立大学内に設置される組織の運営体制を以下に示す。

運営委員会構成 

幹事:酒井信介(横国大) ・ 副幹事:澁谷忠弘(横国大) ・ 主幹事企業:神戸工業試験場

目的 会員企業間のシーズの抽出、共通課題の整理

画像収集WG

目的 破壊試験、SEM観察・外観観察、アノテーション

ソフトウエア開発WG

目的 性状分類AI と起点推定AIの開発

活動スケジュール

性状分類AIの開発、起点推定AIの開発の各フェーズについて、活動の内容、成果の提供の一覧を左図に示す。

委員会開催状況

2019年度 定期報告会1回、ソフトウエア開発WG4回、画像収集WG4回

2020年度 定期報告会1回、合同WG5回

2021年度 定期報告会1回、合同WG4回

2022年度 定期報告会1回、合同WG4回

委員構成

団体会員15社、個人会員15名

2. 主たる成果


2.1 性状分類

2.1.1 分類する性状

 走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する破断面から分類する模様(性状,ラベル)については以下の性状を分類することとした。

1. ディンプル(Dimple)

2. 疲労(Fatigue)

3. ファンシェプト(Fan-Shaped: FS)

4. 粒界割れ(Intergranular: IG)

5. 擬劈開(Quasi-Cleavage: QC)

6. 劈開(Facet)

7. 判別不能(Unknown)

8. 破面で無い(Not-Fracture-Surface: NF)


2.1.2 教師画像

写真集等の書籍の電子化、実験による破断面の収集及びSEM観察により、破断面画像を収集した。その結果、総数13,000枚以上の破断面データ群が構築された。

2.1.3 推論エンジンの開発

開発した破断面データ群を用いて機械学習し、推論エンジンを開発した。その結果、97%以上の評価精度を実現した。

2.1.4 説明可能性(eXplainable AI)について

元の画像に判断根拠となる部分を赤くしたヒートマップを重ねることで、根拠とした領域を明示することとした。

2.1.5 開発した推論エンジンの評価

AIプロダクト品質保証ガイドライン(AQ4AIコンソーシアム、2022/7)により評価したところ、良好な結果を得た。

2.2 起点推定

2.2.1 分類するラベル

起点推定用のラベルは以下の通りである。

1. 起点部

2. 亀裂進展部(ビーチマーク無し)

3. 亀裂進展部(ビーチマークあり)

4. 最終破断部

5. 破断面以外の領域

2.2.2 教師画像

炭素鋼、アルミ合金、銅合金等の疲労試験を行い、起点を含む破面を作成した。デジタルカメラを用いて破面画像を撮影した。また、この画像を前述のラベルの定義に従って塗り分けた画像を作成した。これにより教師画像のセット(破面の画像+塗り分けた画像)を作成した。

2.2.3 推論エンジンの開発

開発した破断面データ群を用いて機械学習し、推論エンジンを開発した。その結果、次に示すように起点部等を推論して塗り分けた画像を作成することに成功した。

3. コンソーシアム終了後の事業活動

2023年3月末にFraDコンソーシアムが終了した後、FraDは株式会社神戸工業試験場が提供するSaaS(Software as a Service)としてサービス提供が継続されることとなった。サービス提供サイト は次の通りである。

AIによる金属破断面の画像解析 FraD

https://www.frad-tech.com/

本サービスは、コンソーシアム会員のみならず、一般にも利用できるサービスとして公開されている。利用者は上記サイトから会員IDを作成することで、有償で本AIを活用することが可能である。

 

現時点では、FraDには金属破断面における「性状分類」と「起点推定」の2つの機能があるが、対象材料を樹脂や複合材に拡張したり、分析内容を記した英文レポートを自動作成したり、FraD機能のバージョンアップを望む声も大きい。そこで、FraDコンソーシアムの運営委員会で議論した結果、FraD IIとしてFraDの後継コンソーシアムを立ち上げ、これらニーズに応える活動を継続していくこととなった。FraD IIでは、上述した対象材料の拡大や英文レポートの自動作成を主軸に、2023年度から三ヶ年計画で活動を行っていく方針である。

 

SaaSサービスとしてのFraDや、後継コンソーシアムであるFraD IIにご興味・ご関心を抱かれた方は、以下にご連絡いただきたい。

株式会社神戸工業試験場 代表取締役副社長 鶴井宣仁 n-tsurui@kmtl.co.jp