化石による巨大地震予測

我国では,コロナ感染の急激な収束が見られる中,ブレイクスルー感染が懸念されている英国のグラスゴーで,国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が始まった.近年頻発している世界規模の自然災害は,人間がその気になって地球温暖化を抑止すれば,避けることができると思うが,巨大地震の発生は避けることはできないという.可能なことがあるとすれば,その発生時期をできる限り正確に予測し,それなりの対応をすることである.以前,NHKの特集番組,「痕跡調査で浮かぶ「スーパーサイクル」 “超”巨大地震の周期」の中で「化石による巨大地震の予測研究」について紹介されていたので,改めて調べてみた.

放送の概要は以下のとおりである.

産業技術総合研究所の宍倉正展研究グループ長は,「スーパーサイクル」の巨大地震や大津波のリスクが各地にあると考え,地震の規模や起こるメカニズムについて知見を得るため,南海トラフの地震について,過去の痕跡を調べた.

南海トラフの地震の震源域のほぼ中央に位置する紀伊半島の和歌山県串本町などでフジツボやゴカイなどの海辺の生物の化石のかたまりが異なる高さで相次いで見つかったことに注目し,和歌山県串本町を中心に30か所以上で化石を採取し,およそ5500年分の化石の年代を調べたところ,おおむね400年から600年の周期で地盤が大きく隆起し,巨大地震が起きていた可能性が高いことが判明した.

南海トラフのプレート境界では,ふだん陸側のプレートがゆっくりと“沈み込み”,地震が起きると.先端の部分が急激に跳ね上がる.その際,先端の地盤は“隆起”する.

フジツボやゴカイは海面付近の岩場などに生息しているため,岩場ごと隆起すると生きることができず,化石となる.それぞれの化石は層のように積み重なっていて,90年から150年ほどの間隔で3つの層を持つ化石も見つかった.

これは地盤の“隆起”と“沈み込み”の繰り返した結果であり,過去の大地震を記録していると考えられるというわけである.

NHK 特集記事の図を引用しました.

大きな隆起を伴う超巨大地震の間(400〜600年間隔)に,それよりも規模の小さい地震が90〜150年の間隔で2〜3回発生している.

復習 高校の地学では,プレート境界の「沈み込み」,「跳ね上がり」現象については,コンニャクを使った「衝突実験」で説明されている.

大陸プレートに見立てたコンニャクを,海洋プレートに見立てたコンニャクの下にもぐり込ませるように衝突させると,海洋プレートに引きずられた大陸プレートのコンニャクは一定程度湾曲するが,耐えきれなくなると跳ね返り,震える.大陸プレートと海洋プレートの境界で起きる海溝型地震は,この震えと同じ仕組みで起こる.(資料 地学基礎 | 第23回 第3編 私たちの大地 海溝の地震 - NHK

産業技術総合研究所の宍倉正展研究グループ長は,東日本大震災の直前,過去の地層からかつてどのような津波が襲ったかを推測する津波堆積物の調査などから,当時想定されていた大地震をはるかに上回る,「スーパーサイクル」の巨大地震と大津波が東北の沿岸に切迫していると考え対策の必要性を訴えていたらしい.

この件については緊急寄稿で以下のように書かれている折りたたみ文書を開く 👉 👉 👉 👉

前略 これは地震が起こってから、今思えばそうだったと言うような、いわゆる後出しジャンケンでは決してない。これらの地質学的な調査結果はすでに論文や報告書でも公表していたし、それに基づいて国の地震調査研究推進本部(地震本部)がまとめ、三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価として早ければ今年4月にも公表する予定だったのである。筆者もこれに関連し、3月23日に地震本部とともに福島県庁に長期評価の内容を説明しに行く予定であった。

 あともう少し地震の発生が遅れてくれていたなら…。地震本部の評価が公表され、各自治体に周知され、それが防災対策に活かされた後であったなら、もっと多くの命が救えたのではないか…。そう思うと非常に無念の思いである。津波が家や車を次々と飲み込んで内陸奥に浸水していく様を映像で見るにつれ、地層の観察から想像していた巨大津波が現実となったことに背筋が凍り付くと同時に、なんともやるせない気持ちになった。

 仮に地震前に防災対策が施されたとしても、おそらく通常の防波堤では今回のような巨大津波は防げなかっただろう。かといって500〜1000年に1回という事象のために、莫大(ばくだい)なお金をかけ、自然景観を著しく害するような巨大な壁を海岸に配することはナンセンスである(ただし原発周辺は別問題)。残念ながら巨大津波をハード面で防御することは難しい。しかし物的被害を防ぐことは無理でも人的被害を減らすことは可能である。すなわち津波警報の発令から住民への周知、そして避難場所、避難経路の整備、さらにハザードマップの作成や定期的な避難訓練といったソフト面での防災対策である。後略

日本地震学会は,東日本大震災後に初めて開いた全国大会で,東北での巨大地震を想定できず反省するとの異例の見解を表明した.これまで,地震学=防災科学ではなかったということである.一方,国の中央防災会議において,「これまで地震学などに偏重していた地震予知の方法論を見直し,まずは古文書などの史料分析,津波堆積物や海岸・地形調査など,科学的知見に基づいて想定される地震の規模や津波の被害を設定し,地震学,地質学,考古学,歴史学など様々な見地から研究を充実させるべき」という趣旨の提言がまとめられたとのことである.

地震学とは無縁の素人として,不思議に思うのは,ウエブ上に「メガ地震予測」の情報提供会社が存在することである.会社のホームページによると,人工衛星測位システムのデータを利用,国土地理院が公表する全国約1300カ所の電子基準点で,どのような地殻変動が起きているかを観測し,地面が大きく沈むなどの異常変動を突き止めることで巨大地震の発生地域を予測するというものである.前兆を捕捉できたケースは90%を超えるという.本件のような予測法は,個人の思いつきに過ぎず,国の公的機関がオーソライズする類のものではないということなのだろうか.

筆者は,高校時代に「地学」を履修していないため,宇宙や地球レベルの巨大科学について知識不足であることを痛感した.今回,ボケ防止を兼ねて巨大地震について勉強してみたが,人間の力では制御できない自然エネルギーの大きさに改めて驚いている次第である.

追記

温暖化により津波の到達距離が延びるとのことである.現在,情報収集中.