ずっと昔、イングランド南部の海岸線に奇妙な形の構造物が建てられました。コンクリートで作られたその巨大な壁は、遠く離れた航空機の音を聞く耳でした。こうして原始的な早期警戒システムが誕生しました。現代の潜水艦が敵を探知する方法も根本的なアイデアは同じです。
水中で行動する潜水艦は音を使って敵の位置を特定します。塩分を含む海水は電波をほとんど透過しないため、レーダーが使用できません。そこで代わりに音を使うのです。しかし音は海の中で複雑に入り乱れるため、正確な探知を行うには多くの専門知識が必要となります。
ここで明確にしておくべきは、私達の焦点が精巧なシミュレーションの実行ではないということです。専門家ではないより多くのプレイヤーに潜水艦戦闘を体験してもらうことがこのゲームの主なコンセプトです。
そのため私達は、可能な限りダイナミズムを損なわないよう注意を払いながら、より理解しやすい単純な音響モデルを構築しました。このモデルでは、左の図で示されるような音速プロファイルを基準に海洋のレイヤー構造が再現されています。これに基づき、プレイヤーと敵艦のそれぞれの深度に応じて伝搬パターンが変化するよう計算が行われます。
プレイヤーは現在自分がどの層にいるのか、そして敵がいる層はどこか、どこから攻撃してどこへ逃げるべきか、互いの兵器とセンサーの性能、限界深度とレイヤーの関係など様々な条件を考慮して戦う必要があります。ルールは単純で簡単に理解できますが、選択肢は膨大で常に状況が変化します。本物と違うからといって、落ち込む必要はありません!戦闘の重要な要素を強調し、より分かりやすい形式に整理し、ゲームとして楽しめるものに変えるのが私達の役目です。
ここで、装置について知っておきましょう。音波を使って水中の物体を探知する装置をソーナー(sound navigation and ranging)と呼びます。
潜水艦のソーナーには2種類のタイプがあり、それぞれパッシブ、アクティブと呼ばれています。パッシブソーナーは相手の音を聞くだけなので、こちらから音波を発信することはありません。一方、アクティブソーナーは音波を発信してその反射を捉えることで敵を探知します。前者はステルス性を損なわないという利点がありますが、物体の方位とノイズの大きさしか分かりません。後者は敵の位置を素早く正確に把握することができますが、こちらが敵に見つかる可能性も高くなります。
潜水艦の最大の利点がステルス性あることを考えれば、このゲームでは(おそらく実際の潜水艦でも)パッシブソナーが主な探索手段になることでしょう。
パッシブソナーはさらにいくつかの種類に分けられますが、私達は最終的に2つのタイプを搭載することにしました。艦首と船体側面のソーナーアレイは統一し、一つのソーナーとして機能します。もう一つのタイプは曳航式アレイで、潜水艦の後部からケーブルで曳航されます。曳航アレイは船体のアレイに比べてより優れた探知性能を持っていますが、高速航行時には使用できません。
この2つのタイプのソーナーを採用した理由は、敵までの距離を測定する方法と関連していますが、小難しい話を3分以上書くと人類の大半は疲れて寝てしまうので、これについてはまた別の記事で取り上げます。
潜水艦の最も特徴的なものの一つが、このウォーターフォールと呼ばれる画面です。横軸を方位、縦軸を時間としてソーナーで感知したシグナルが表示されます。この装置は水中での位置関係を把握するための重要なツールです。
私達がウォーターフォール画面を設計する際に下した重要な決定の一つは、曳航式アレイが船体のアレイと同様に機能するようにしたことでした。本来の曳航アレイでは鏡写しのように左右に像が表示されます。しかしこれはビギナーのプレイヤーを必要以上に混乱させ、ゲームを諦めさせるのに必要十分なフラストレーションを発生させる可能性があります。また、真の方位を特定するために何時間も費やすことは、私達が想定している1回あたり15~30分のゲームプレイとも一致しません。そのため、こうした簡略化がいくつかの部分で実施されています。
より明確に言えば、このゲームはシミュレーションとアーケードの中間にあるため、過度な複雑さを排除し、また過度な簡単さも排除しなければなりません。
もう一つの重要な機能が音紋解析です。ソーナーで物体を発見したら、次に行うのはそれが何であるか特定することです。ウォーターフォール画面のシグナルにマーカーを合わせ、その方位から聞こえてくる音を周波数として表示します。すると、音紋と呼ばれる一連のスペクトログラムパターンが現れます。試作中のユーザーインターフェイス画像ではちょうど真ん中あたりに表示されている縦線がそれを表しています。さらにその下には海軍のデータベースに記録された音紋が表示されており、プレイヤーはデータを照合しながら一致する船を探します。
さあ、何が聞こえますか?海の中では色々な音が鳴っています。貨物船のエンジン音、クジラ達の会話、深海のクラシック音楽など・・・しかし、残念ながらあなた自身の耳で音を聞き分ける必要はありません。コンピューターによる信号処理は高速で正確な音紋解析を提供してくれることでしょう。
ソーナーシステムのコア部分は既に完成しているものの、パラメータの調整にまだ多くの時間がかかるはずです。私達は艦船の3Dモデリングと同時にデータベースの作成にも取り組んでいます。スペクトログラムパターンを生成する専用のソフトウェアも開発しました。周波数を入力すると適切なサイズの画像が生成されます。
実物とは異なり、音紋データは完全に架空のものになる予定です。実在する兵器を再現することは様々な困難を伴います。よく知られた問題はFPSゲームの銃器の名称や形状に関する権利です。艦船の場合、そうした問題が発生することは比較的少ないですが、別の問題が立ちはだかります。例えばスクリュープロペラの形状や潜航可能深度といった情報は明らかにアクセス不能な場所にあるため、私達には想像力を働かせることしかできません。したがって、欠けた部分をどうするかは完全にゲームデザインの問題になります。この点について、現在チームと検討を進めているところです。ゲームは完成へと着実に近づいていますが、まだまだ議論すべきことがたくさんあります。
2024年2月