所 長 挨 拶
近年、我が国の教育を取り巻く状況は、技術革新の劇的な加速、グローバル社会の深化、そして予測不能な社会構造の急激な変化など、かつてないほどの複雑さを増しています。これらの変化は、子供たちの成長と学びの環境に多大な影響を与えており、教育現場では持続可能性に関わる喫緊の課題が顕在化しています。
具体的には、児童生徒のウェルビーイングの低下や、過去最多を更新し続ける不登校児童生徒への対応が急務となっています。多様な背景を持つ子供たちが誰一人取り残されないための「多様な学びの場の保障」が求められると同時に、社会経済的背景(ESCS)に基づく教育機会の構造的格差も依然として深刻です。また、GIGAスクール構想は「第2期」を迎え、端末の更新とともに「日常的な学びのツール」としての定着が問われていますが、ここでも環境や指導力の差に起因する新たなデジタル・デバイドが懸念されています。さらに、公立学校教員の採用倍率低下に象徴される「教職の危機」は、我が国の公教育の根幹を揺るがす事態です。
Society 5.0時代が本格化し、生成AIをはじめとする先端技術が社会のインフラとなる中、子供たちに求められるのは、従来の知識蓄積型の学びではありません。AIを「学びのパートナー」として倫理的かつ批判的に協働させながら、個別最適な学びと協働的な学びを融合し、自らの人生と社会を主体的に切り拓く「エージェンシー」と、非認知能力(思考力、創造性、レジリエンス)を育む教育への抜本的な転換が必要です。そのためには、STEAM教育の更なる推進と、AI時代に即した新たなカリキュラムおよび多面的な評価指標の再構築が急務となります。
これからの日本の学校教育は、これらの複合的な課題に真摯に向き合い、子供たち一人ひとりの可能性を最大限に引き出すシステムへ進化しなければなりません。そして、その実現の鍵を握るのは「教師」です。教育内容の質的向上を持続可能にするためには、教職員自身のウェルビーイングが確保されることが不可欠です。抜本的な働き方改革を通じた指導・運営体制の充実、学校・家庭・地域が連携する「チーム学校」の深化、そして最新の知見を常にアップデートできる高度な研修システムと多様なキャリアパスの構築が強く求められています。
当研究所は、独立した教育政策の研究機関として、現場のリアルな課題感と国内外のネットワークを融合させ、これらの課題解決に積極的に取り組んでまいります。具体的には、教育データの連携・活用を推進するプラットフォームと連動し、EBPM(証拠に基づく政策立案)を基盤とした調査研究を深化させます。特に、生成AIの教育的活用におけるガイドラインの策定支援、データ駆動型の公正で包摂的な学習環境の構築、そして教職の魅力向上と持続可能性を担保するための政策提言を、スピード感を持って発信してまいります。
「令和の日本型学校教育」の発展と深化に向けて、当研究所は、子供たちのエージェンシーを育み、公正で包摂的な社会を創造する源泉となるべく、教育政策および教育活動の新たな姿の研究・改革に全力を尽くす所存です。変化の激しい時代において、未来を創る子供たちと、それを支えるすべての教育関係者のために、常に最先端の実践的研究に取り組み、広く社会に貢献してまいります。
皆様の温かいご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
独立総合教育政策研究所 所長 安部慎也