ボーイスカウトにおける

長期野営の教育効果に関する研究

ーweb報告書ー

調査の目的

90余年の長い歴史と大きな実績と今後への可能性を有する日本のボーイスカウト教育ですが,わが国におけるボーイスカウトの教育効果に関する実証的研究は,ボーイスカウトの長期野営における体験活動の影響に関するもの(中野・島貫,2012,中野・齋藤,2014),および,短期のキャンプ訓練における体験活動の影響に関するもの(田中,2016)があるのみで,日本のボーイスカウト教育に関する教育効果についての実証的研究は,未だほとんど手が着けられていません。

本研究では,スカウト教育の効果測定の可能性を確認することを主眼とし,隊の年間活動のメインイベントである夏季キャンプについて,そのキャンプの前後に調査を実施し,キャンプの教育効果を明らかにすることを目的としました。

調査概要

調査にご協力いただいたスカウトは、11都県のボーイスカウト124名(男子:101名,女子:23名)でした。

調査は、4泊5日前後でおこなわれる夏キャンプの参加前(事前調査:2016年6~7月)と参加後(事後調査:2016年8~9月)に、質問紙調査により実施しました。

主な調査内容は、

(1)ボーイスカウト活動について、

(2)生きる力、

(3)リーダーシップ、

(4)自尊心

についてたずねました。

結果

1 キャンプで得たもの

「夏キャンプ(キャンポリー)で、あなたが得たものや身に付いたものは何ですか?」という問への回答から、スカウト達は、①「体力と精神力」、②「技能・経験・自信」、③「友情」、④「優しさ」、および、⑤「スカウト精神」の5つの成果を得ていました(図1)。

すなわち、スカウトにとってキャンプへの参加は、①「体力」、および、忍耐力や感謝の気持ちなどの「内的な精神的力」を高めました。そして、②単に、自然の中での貴重な体験に留まらず、キャンプ技能を身に付け、貴重な経験からリーダーシップを学び、自信が高められました。さらに、③キャンプを通して、仲間と友情を育み、④優しさを学び「対他的な社会的スキル」を高めました。そしてこれらに加えて、⑤スカウトの「ちかいとおきて」に含まれる思いやり、礼儀正しさ、勇気、誠実さ、すなわち、『スカウト精神』を体得しました。このことは、スカウトキャンプが 、単なるキャンプとは異なる教育効果を持つことを示し、『スカウトキャンプ』の独自性を表しているといえます。

また、図に描かれた「キャンプで得られた成果」の布置から、成果の領域が「個人的か社会的か」を分ける成果の領域軸(青い軸)と成果の内容が「資質的か能力的か」を分ける成果の内容軸を想定することができました。

2 自信・興味をいだいたスカウト技能

「自信がある、または、好きなスカウト技能は?」について、夏キャンプの前後でたずねたところ、キャンプ参加前(図2)は、野営や野外活動における技能である「野営法・ロープ・野営料理・火おこし・通信・救急法」と、ハイキングなどで必要な「計測・読図」、および、「ソング」が、それぞれ独立して意識されていました。

しかし、キャンプ参加後(図3)は、野営技能である「野営法・火起こし・ロープ」と野外活動で必要となる「野外料理・救急法・通信・ソング」とが区別され、そして、これらとハイキングにおいて必要となる「計測・読図」の技能の大きく3つの技能が明確に区別されています。

また、「ソング」の意味合いが、キャンプの参加前後で、大きく異なっていました。分析結果をみると、キャンプ参加前において、「ソング」は、他のスカウト技能とは、まったく別のものと認識されていましたが(図2)、参加後には、「ソング」とスカウト技能とが結びついています(図3)。これは、「歌を覚える」ことから「歌で(技能を)覚える」というスカウト・ソングがもつ、本来の意味を示しているといえます。

3 夏キャンプ参加が「生きる力」「リーダーシップ」「自尊心」におよぼす影響

3-1 「生きる力」の変化

夏キャンプへの参加により、生きる力は有意に向上していました(前:116.0、後:119.2)。詳しく見ると、「生きる力」を構成する「心理的社会的能力」が向上していました(前:57.2、後:59.5)。

具体的には、「心理的社会的能力」を構成する「積極性」(“自分からすすんでなんでもやる”“前向きに物事を考えられる”)や「視野・判断」(“先を見通して,自分で計画が立てられる”“自分で問題点や課題を見つけることができる”)といった能力が向上していました(図4)。

3-2:リーダーシップ能力の変化

夏キャンプへの参加により、「リーダーシップ」は、有意に向上していました(前:83.4、後:86.7)。

また、リーダー・シップを構成する2つの機能、すなわち、目標を達成させるために計画を立てたり指示を与えたりする「課題達成機能」(前:49.1、後:50.7)と集団の雰囲気を良くし、まとまりを維持・強化しようとする「集団維持機能」(前:33.8、後:35.2)の両方が、有意に向上していました。

さらに、詳しくみてみると、「課題達成機能」については、「計画的に考え行動する力」(前:15.7、後:16.6)が、「集団維持機能」については、「集団内の人間関係を円滑にしようとする力」(前:16.9、後:17.4)が、それぞれ有意に向上していました(図5)。

3-3:自尊心(自己肯定感)の変化

夏キャンプへの参加により、「自尊心(自己肯定感)」は、有意に向上していました(前:32.5、後:34.0)(図6)。

考察

これまで経験的に語られてきたボーイスカウトの教育効果が、今回、関東から九州地区、11都県の124名のスカウトへの調査により、実証的に明らかになりました。

まず、キャンプがスカウトに与える影響の質的な側面としては、キャンプを通して、スカウト達は、①「体力と精神力」、②「野外体験活動から得たリーダーシップと自信」、③「友情」、④「優しさ」、および、⑤「スカウト精神」の5つの成果を得ていました。また、キャンプ参加により、「野営技能」「野外活動」「ハイキング」の3つの技能が明確に区別されるようになり、さらに、「ソング」の意味合いが大きく異なることが明らかとなりました。

次に、「生きる力」「リーダーシップ」「自尊心(自己肯定感)」のすべてに対して、それらを向上させる効果があることが明らかとなりました。

引用について

  • 本報告書の内容は、出典を明記していただければ、すべて引用可です。
  • 紙版の報告書も、このサイトからダウンロードできます。ご自由にダウンロード、印刷、配布していただいて結構です。
  • 入隊説明会等で、ご利用ください。

2017年11月13日 作成

2018年1月15日 更新

2018年3月20日 更新

2018年4月11日 更新

2018年5月22日更新

大妻女子大学 人間関係学部

田中 優