「アースシップ沖縄」店主/古賀 新・古賀 佐和子(沖縄シーカヤックガイド)

「楽しい! おもしろい! 」をクリエイトし続けること

〜人と自然に恩返しの12年 これまでとこれから〜

沖縄の人気リゾートエリア恩納村(おんなそん)で、シーカヤックを中心としたアウトドアガイドの店「アースシップ沖縄」を運営する古賀 新さん・佐和子さん夫妻。多くのマリンショップがひしめくこのエリアで店を続け、2021年で12年となる。

今ではリピーターが絶えない人気店となった「アースシップ沖縄」。どのような思いでこの仕事を続けてきたのだろうか。気になる沖縄暮らしの魅力も含めて話を聞いた。


アースシップ沖縄

賀 新さん
NPO法人沖縄県カヤック・カヌー協会 副理事長)

古賀 佐和子さん
(沖縄シーカヤックガイド)


ポイントは「ストーリーとハイライト」。ここでしか味わえないツアーを

アースシップ沖縄がフィールドとする恩納村(おんなそん)は、大型ホテルが建ち並ぶリゾートエリア。自然豊かなこの地の魅力を生かしたいくつかのアクティビティツアーを提供している。

中でも、とあるビーチからカヤックを漕いで“無人島上陸”を目指すツアーがこの店の看板メニューだ。

「ただカヤックに乗って楽しむだけではなく、ひとつのツアーの中に『ストーリーとハイライト』を用意したいと考えました。家族やカップル、友人同士で、無人島への冒険へと漕ぎ出すというストーリーに入り込み、沖縄の魅力を五感で味わってもらいたい。せっかくお客さんの貴重な時間を預かるのなら、とびきりおもしろい体験をしてもらいたいんです」(新さん)


ツアーの内容は次の通り。


ビーチから2人乗りのカヤックに乗り込み、操作方法のレクチャーを受ける。カヤックの操作はそれほど難しくなく、数分もするとそれぞれのペースで悠々と海を渡っていくことができる。

無人島への冒険、といっても決してハードな行程ではない。ビーチから15分ほどでたどり着くことができる、初心者でも参加しやすいツアーだ。


カヤックを降りてしばらく島を探索。少し高台に上がると、遠くに沖縄北部の伊江島(いえじま)が望める。自分の力でたどり着いた無人島から眺める海の美しさは、きっと格別だろう。

散策を終えたら、無人島のビーチからシュノーケルを楽しむ。透明度が高く、いきいきとした珊瑚が残るこのあたりの海では、少し潜っただけでも南国らしい鮮やかな魚たちに出会える。子どもにも大人にも人気の「ニモ(カクレクマノミ)」が暮らしている場所まで案内してもらい、記念撮影を。

シュノーケルの後は、休憩を兼ねたカフェタイム。佐和子さんお手製のおいしいおやつを食べながら、誰もいないビーチでゆっくりと過ごす。この日のおやつはチーズケーキ。やさしい甘さが、心地よい疲れを癒してくれる。

*感染症対策のため、おやつの提供は一時休止しています。

無人島への冒険というストーリーの中に、絶景との出会い、珍しい生き物との出会い、プライベートビーチカフェ、というハイライト。静と動のメリハリもあり、あっという間に時間が過ぎていく。新さんが用意した体験というエンターテイメントがここにあるのだ。

新さんが生み出すストーリーは海だけにとどまらない。12年前にはほとんど知られていなかった、沖縄北部の滝を目指す「リバートレッキング」もツアーに取り入れた。

亜熱帯の美しい海には必ず魅力的な山と川がある。1日かけて、沖縄の海・山・川を楽しめる“よくばりアドベンチャー”。

自分たちにしかできないツアーとは、を常に考え工夫を重ねてきた

人や自然との出会い、そして恩返し

大阪出身の新さんと、東京出身の佐和子さんが沖縄に移住したのは2008年のこと。新さんはそれまで、岐阜県にあるラフティングツアー会社「アースシップ」でラフティングガイドをしていた。

「長良川を囲む美しい山々の中で暮らし、ラフティングやアウトドアの仕事を通して多くを学びました。自然の中で、自分たちの力で楽しむというその理念が好きで、広めていきたいと考えるように。それに、自分がこれまで与えてもらったものを今度は自分が与える側に、つまり恩返しがしたいと思ったことが独立のきっかけです」(新さん)

沖縄本島を自店の拠点と決めるまでは、各地を旅して歩いた。波照間島から屋久島まで、南の島を点々と渡ったことも。


「海外も含めていろいろな旅をしてみて、やはり沖縄の人たちの魅力に惹かれましたね。おもしろい活動をしている人や、チャレンジし続けている人に多く出会いました。ここなら自分らしく挑戦できるのではないかと。あと、寒いのも苦手だったし(笑)」(新さん)

移住して1年ほどはいくつかの店でカヤックガイドの経験を積み、2009年1月に「アースシップ沖縄」を始動。同じく沖縄へ移住してきた幼なじみの松尾伸二さんと、妻となる佐和子さんと3人でのスタートだった。

「はじめはとにかくお客さんを楽しませようと必死でした。スタッフ3人で、1組のお客さんを1日じゅうおもてなししたことも。過剰サービスだったと思います(笑)。でも、そんな時間を自分たちも一緒に楽しんでいたんですよね。岐阜のアースシップのモットーである “come as a guest,go as,a friend(来るときはゲスト、帰るときは友達)” を、沖縄でも大切にしています。」(新さん)

12年で変わらないこと、変わったこと

▲休日には家族でカヤックやSUPを楽しむ。カヤック仲間と一緒に、那覇ー慶良間諸島の35Kmの横断にチャレンジしたことも。

オープン当時に新婚旅行で来店した若い夫婦が、数年後に子どもを連れて遊びに来てくれたことがあった。そんなエピソードからも、一人一人を大切にしたいという新さんの思いがうかがえる。そしてそれは10年経った今でも変わらないと、佐和子さんは言う。

「(夫は)特に仕事のこととなると、とことん考えるんです。お店の将来のこともそうですが、明日のお客さんのこと、ツアーのことは事細かにシミュレーションをしていますね。お客さんの年齢や家族構成などを基に、どんなサービスが喜ばれるのか、天候や海の様子などすべてを考慮して毎晩妄想しています(笑)。そういう熱さはあまり表には出さないのですが、すごいなと思って眺めています」(佐和子さん)

この10年の間に、新さんと佐和子さんは2人の子どもの親となった。「子どもが生まれてもあまり大きな変化は感じなかった」とう2人だが、子どもたちと過ごす中でツアー内容は変わっていった。それまでの18歳以限定のツアーに加えて、3歳から参加できるファミリー向けのツアーを取り入れたのだ。

「自分の子どもが3歳になったころ、自分たちと同じくらいの親世代が楽しめるツアーがあったら良いなと思うようになりました。子どもに楽しんでもらうことで、親はもっと旅行を楽しめるのではないかと」(佐和子さん)

ちょうど子ども好きなスタッフがいたことも後押しし、新しいツアーメニューが始まった。このファミリー向けのツアーはたちまち評判となり、家族連れのお客さんは年々増えている。

2020年、観光業界を取り巻く環境は大きく変わった。もちろん商売としては大きな打撃といえるが、新さんと佐和子さんはその変化を前向きに受け止めている。

「これまで繁忙期だったシーズンの予約がぴたりと止まり、その分家族で過ごす時間が多くなりました。仕事としてではなく、ただの遊びとして海を楽しんだのは、もしかして今年が初めてかもしれない。子どもと一緒に釣りをしたり、もずく採りをしたり、もちろんカヤック遊びも。12年目にしてようやく“沖縄の暮らし”を楽しめているような気がします(笑)」 (新さん)

これまでは、「多くのお客さんにいかに楽しんでもらうか」だけを考えてきた2人。子どもとたっぷりと過ごした2020年を終え、これからは自分たち家族が楽しむことも大切にしていきたいと言う。

全力で走ってきた12年があるからこそ、ゆとりの時間を満喫することができる。きっとその経験がまた、お客さんへの温かいサービスとなって循環していくのだろう。

「恩返し」は、次のステージへ

新さんは現在、自店の運営のほかに、小学生にカヤックやSUPのレッスンを行う「おきなわカヌー道場」を主宰。また恩納村観光協会が主宰するカルチャー教室で「はじめてのSUP&カヤック教室」の講師もつとめている。

「岐阜でのラフティングガイドも含めて、今年でガイド歴は20年になります。これまでは、主に県外のお客さんと感動を共感してきました。これからは、県内の大人や子どもたちともふれあい、時間をかけてカヤックの魅力を共有していけるような活動もしてみたいと思うようになりました。」(新さん)


「沖縄の美しい自然はかけがえのない“宝”ですが、ずっと近くで暮らしているとそれに気づかなくなってしまうことも。自分も含めてもう一度、その宝と向き合えるような場を作っていけたら嬉しいですね。カヤックは、海と人が近くで触れ合えるツールでもあります。カヤックが単なるレジャーではなく、いつか沖縄の伝統の一つになったらいいなと夢に描いています」(新さん)

人や自然へ「恩返しがしたい」という思いから店を始めた新さんと佐和子さん。

12年が経った今、沖縄の魅力を次世代へと伝えていくという、次のステージに向かって歩み始めている。


文:てしがわら ひろこ

写真:アースシップ沖縄

撮影協力:CALiN

アースシップ沖縄

沖縄県国頭郡恩納村恩納6084

TEL : 098-975-6312

MAIL : info@earthship-okinawa.jp
https://moichi.earthship-okinawa.jp/