2025年1月24日開始、3月10日改定。
せのお たかのり
1.はじめに
日本天文学会の天文学辞典(https://astro-dic.jp/galactic-plane/ )に記載されている、太陽系と銀河系の各面が約60°の角度で交差しており、太陽系の運動方向Sは、銀河系の回転面に沿って約S=220km/sで軌道運動をしている事を前提にして、前回観測された銀河系と地球の絶対運動方向と速度の再確認を、2024年12月21~23日(冬至)の間に行いました。
2.地球の動きの推定
地球の動きEの推定は 前回と同様に太陽系面と同じ面を持つ絶対静止座標(太陽系座標[X, Y, Z]と呼ぶ)を考え、この座標のX軸を現在の地球の公転面の秋分点から春分点の方向とし、Y軸を太陽系面と垂直な方向で地球の北極がある側とし、Z軸を地球の公転面の夏至から冬至の方向とします。この絶対座標上での、3次元ベクトルE[X, Y,Z]で地球の動きを表し、この動きが地球の公転運動V[X, Y, Z]と太陽系の軌道運動S[X, Y, Z]と銀河系全体の動きG([X, Y, Z]の和として表せるものとします。他にも地球の動きに影響を及ぼしているもっと大きな宇宙全体の動きがあるかも知れませんが、それらの動きを全て含めて銀河系の動きGで代表します。この様に表された地球の動きEを、地球上で私たちが観測できる動きE''に座標変換し、これとレーザビームのスポット位置の変位とを比較する事で地球の動きの推定を行います。
2-1.太陽系座標での各動き
銀河系内の太陽系の動きSは、前回と同じX軸からY軸方向に60°回転した方向として、次式で表します。
次にこれに地球の公転Vを加えます。今回の観測日は、冬至(2024年12月21-23日)なので、地球は冬至点に居り、その公転方向はX軸(春分)方向であり、次式で表せます。
これに更に不明な動きGを追加します。
これらを加え合わせたものが、地球の動きEになります。ここでは式の一般性を保つ為、公転運動Vは変数のままとします。
2-2.地球座標に変換
次にこの太陽系座標上の地球の動きEを、地球座標[X'Y'Z'](X':秋分→春分方向、Y':地軸方向、Z':赤道方向)に変換します。
地球座標[X'Y'Z']は、太陽系座標を春分X軸周りに23.4°左回転した座標なので、地球の推定動きEと不明な動きGの座標変換は次式で表せます。この式の第2行目EY'の値は、地球の地軸方向の動きの推定値として、可搬型EWビームスポットの移動量ΔXとの比較に使います。
2-3.日本座標に変換
次に、これを観測日(2024年12月21日)の日本座標に変換します。この時、地球の位置は冬至点にあります。この位置で、日本がほぼ春分方向を向く時刻は、午前6時です。日本は、春分方向から35°上に向いた方向にあるので、この時の日本座標[X''Y''Z'']と地球座標[X'Y'Z']の関係は、下図の様になります。
この地球座標[X'Y'Z']の日本が春分方向を向く6時00分の日本座標[X''Y''Z'']への変換は、次式となります。
地球は常に動いているので、ビームスポットの原点位置(地球が静止した時のスポット位置)は不明です。ビームスポットの原点位置を求める事なく地球の動き速度を推定する為に、この6時00分の日本座標と反対方向(秋分方向)を向く時刻(18時00分)の地球の動きE""の推定値を求め、両者の差分を取ります。
この18時の日本座標への変換は、次式となります。
ここで注意すべき事は、6時の日本座標は[X'', Y'', Z'']=[地→天, 南→北, 東→西]ですが、18時の日本座標は[X'', Y'', Z'']=[南→北, 地→天, 西→東]と異なっているので、18時のX''座標値と Y''座標値を入れ替え、 Z''座標値の正負を反転し、以下とします。
この18時の各座標成分から6時の各座標成分を引くと、以下となります。
この式が、日本で観測される地球の動きの一般式を表しており、観測日の地球の公転運動成分V(X, Y, Z) = (30, 0, 0)(km/s)を入れると次式となります。
この式が、地球上の日本で観測される地球の動きによるビームスポット位置の変位の差分に相当する各速度成分を表しており、実測値と比べる事で不明な動きGとそれを含めた地球の動きEを求める事が出来ます。
3.実験
3-1.観測装置
今回も、北南方向のNS観測装置に加えて、東西方向のEW観測装置と、東西方向を入れ替えられる可搬型観測装置の3台を使って、ビームスポットの移動量を計測します。
3ー2.観測結果
下図に、2024/12/21の午後6時から、1.5時間毎に12/24の午後17時48分までの3日間に撮影した各観測装置のビームスポット位置の写真の最初の8枚を示します。
下の図は、全スポット位置をグラフ化したものです。どのグラフにも多くの外乱が入っている事が分かります。この外乱は観測地点の微細なランダム振動や、時間経過による観測装置の線形な変形と思われます。
この外乱を除去する為に、3日間の同じ時刻のスポット位置の平均を取った結果を下の図に示します。この操作は地球の自転に同期したフィルタを掛けたのと同じ作用があり、地球の自転に同期してない外乱はほぼ除去されています。残った変動成分は、ほぼ一定と思われる地球の動きを、各時刻での日本座標軸成分として表していると思われます。
今回の観測では、前回の実験結果に大きく現れた、日本が春分方向を向く時刻(6時)と秋分方向を向く時刻(18時)の動き成分の差が、東西ビームのスポット位置の変化にはかなり小さく(ΔHEW=0.05mm, ΔXEW=0.02mm)現れました。その他のスポット位置の変換はほぼ同じ程度の大きさでした。この理由は、大きな太陽系の動き(S=220km/s)に対し、観測される地球の動きは小さいので(E~30km/s程度)、太陽系の動きSは銀河系の動きGによってほぼキャンセルされており、その小さな残差が地球の動きEとして現れている為、見かけ上ばらつきが大きく見えるのではないかと思います。このバラツキについては、更に観測を継続して行きたいと思います。地軸方向の動きは、可搬型観測装置のビームの向きによる水平スポット位置の差として現れますが、その値は、(ΔXEWE=0.28mm)で、前回よりやや小さくなりました。
以上、地球が秋分方向を向いた時(18時)の各スポット位置の平均から、春分方向を向いた時(6時)の各スポット位置の平均を引いた差分を求めると下記の様になります。この差分を、前節で求めた予測値の向きに合わせて符号を補正したものを右端に示します。なお、可搬型東西反転ビームで得られた平均ビーム位置の水平差は、係数1/2を掛けて南から北への変位に変換しています。反転ビームの高さ変位は、外乱として除外しています。
観測装置 観測値 ⇒ 変換値
EWビーム ΔH18-6=0.05mm (地→天) ΔH18-6=0.05mm (地→天)
ΔX18-6=0.02mm (北→南) ΔX18-6=-0.02mm (南→北)
NSビーム ΔH18-6=-0.5mm (地→天) ΔH18-6=-0.5mm (地→天)
ΔX18-6=-0.05mm (西→東) ΔX18-6=0.05mm (東→西)
反転ビーム ΔHave=0.09mm (地→天) 外乱
ΔXave=0.28mm (左→右) ΔXave=0.14mm (南→北)
3-3.観測値から地球の動きを求める
地球の動きEは、ビームスポット位置の変位とは逆向きなので、上記の補正された観測値の正負を更に逆転させて(-ΔH, -ΔXNS, -ΔXWE)、地球の速度差分(ΔEX, ΔEY, ΔEZ)に変換します。
速度差(km/s)=ー観測値(mm) × 光速(km/s) / 光路長(mm)
可搬型観測装置で得られた南北方向の変位は、南北方向が地軸から35°傾いているため、地軸方向の速度に換算する為、cos35°で割っています。
地軸方向速度(km/s)=
ー観測値(mm)/cos35° × 光速(km/s) /光路長(mm)
この速度差成分Δが、予測値ΔE''と地軸方向速度EY'に等しいはずなので、次式が成立します。
これから不明な動きGを求めると以下になります。
GX = (-4,8-131.1) / (-1.638) = 83.0(km/s)
GX = (48.1-131.1) / (-1.638) = 50.7(km/s)
GX = (1.9+91.8)/1.148 = 81.6(km/s)
以上より、Gxの平均値は、
GX = (83.0+50.7+81.6)/3 = 71.8(km/s)
となります。又、
0.794GY - 1.836GZ + 151.2 = -4.8
0.918GY+ 0.397GZ + 174.9 = 29.7
より、GYとGZは、
GY = {(-4.8-151,2) × 0.397+(29.7-174.9) × 1.836}
/ (0.794×0.397+0.918×1.836)
= (-156.0 × 0.397-145.2× 1.836) / (0.315+1.685)
= (-61.9-266.6) / 2.0 = 328.5/2.0 = -164.3(km/s)
GZ = {29.7-174.9 - 0.918 × (-164.3)} / 0.397
= (-145.2 + 150.8) / 0.397 = 5.6/0.397 =14.2(km/s)
と求まりますから、不明な銀河系の動きGは、
G = [71.8, -164.3, 14.2] (km/s)
と表せます。これより、銀河系の絶対速度は
G = √ {71.8^2+(-164.3)^2+14.2^2 } = 179.9(km/s)
で、その向きはほぼ、秋分方向(-X軸)から下向きに角度θ
tanθ = GY/GX = -164.3/71.8
θ = 66.4°
だけ、下(-Y軸方向)を向いた方向となります。
これより、地球の動きEは、その一般式に公転運動成分V=[30, 0, 0](km/s)と上記の銀河系の動きGを代入にして、以下となります。
この地球の動きの絶対速度は、
E = √{(-8.2)^2+26.2^2+14.2^2} = 30.9(km/s)
となり、地球の公転速度Vとほぼ等しく、その方向はほぼ冬至の方向(Z軸方向)から上向き(Y軸方向)に角度φ
tanφ = EY/EZ = 26.2/14 .2= 1.845
φ = 61.5°
だけ、上を向いた方向になります。この方向は ほぼ北極星の方向(90-23.4=66,6°)です。
太陽系の絶対動きSAきは、銀河系内での太陽系の動きSに銀河系の動きGを加えたものになりますから、以下となります。
この太陽系の絶対速度SAは、以下となり、
SA = √(-38.2)^2+26.2^2+14.2^2) = 48.4(km/s)
その方向Ψは、
tanΨ = SA,Y/SA,X = 26.2/(-38.2) = -0.686
Ψ = -34.4°
となり、秋分方向(-X軸)から34.4°上を向いた方向になります。
以上を図示すると、地球、太陽系、銀河系の絶対動きは、下の図の様になります。
我々の銀河系は、ほぼ銀河系内で太陽系が動く方向Sと逆方向にほぼ同じ速度(221.6km/s)で移動しており、地球は、ほぼ地球の地軸の方向90 - 23.4 = 67.6°に地球の公転速度Vとほぼ同じ速度(E=30.9km/s)で移動しており、太陽系は、銀河系内の太陽系の動きSから秋分方向にほぼ90°戻った方向に(60+34.5=94.5°)絶対速度34.5km/sで動いている事になりなります。
4.観測値の精度
前回の観測値と今回の観測値の平均を取り、ばらつきを求めると以下となります。
前回: 今回: 平均: バラツキ:
地球の動きE:
Ex = -4.5 Ex = -8.2 Ex = -6.4 δEx =±28.9%
EY = 31.7 EY = 26.2 EY = 29.0 δEY =±9.5%
EZ = 17.3 EZ = 14.2 EZ = 15.8 δEZ =±9.8%
EA = 36.4 EA = 30.9 EA = 33.7 δEA =±8.2%
Eφ = 61.4 Eφ = 61.5 Eφ = 61.5 δEφ =±0.08%
銀河系の動きG:
Gx = 78.0 Gx = 71.8 Gx =74.9 δGx =±4.1%
GY = -158.8 GY = -164.3 GY = 161.6 δGY =±1.7%
GZ = 5.2 GZ = 14.2 GZ = 9.7 δEZ =±46.4%
GA = 177.0 GA =179.9 GA = 178.5 δGA =±0.8%
Gθ = 63.8 Gθ = 66.4 Gθ = 65.1 δGθ =±2.0%
銀河系の絶対動きGは、Z軸(冬至)方向成分のバラツキが約46%と比較的大ですが、その値は小さいので大きな影響はありません。その他の方向成分のバラツキは約4%以下に抑えられており、絶対速度GAと動きの方向Gθのバラツキは約2%以下に抑えられており、実験結果の整合性はかなり高いと思います。地球の動きのX軸方向成分以外のバラツキは約30%と比較的大きいのは、地球の公転方向が変化した為と思われます。