運転免許証の自主返納と押印

警察庁がまとめた運転免許統計によると.2019年に運転免許証を返納したのは前年に比べ42.7%増の60万1022件となり,制度開始以来,過去最多であった(2020年3月24日発表).高齢者の運転ミスによる事故の影響で免許証の返納が増えているという報道を見聞きするので,警察庁の統計資料(令和元年までの10年間,エクセルファイル)をダウンロードして調べてみた.返納数に関しては,65歳から,5歳刻みで「XX歳以上の返納数」が表になっているだけである.5歳刻みの数を知るには,それぞれについて差をとる必要があるエクセル練習問題みたいな表である.LibreOfficeを使って計算処理して,視覚化してみた.久しく統計処理作業などやっていないので,老化防止を兼ねて作業した次第である.結果を以下に示した.

絶対数は,平成22年の65605件に対して,令和元年には9.15倍の601022件に増加している.平成30年で伸びが鈍っているのは65-70歳,70-75歳が平成28年をピークに減少に転じているのが影響しているようである.この傾向は平成元年には増加に転じている. 75歳以上の返納率は50-60%程をしめていて,その内訳は70-85歳が主であり,85歳以上の返納数は顕著に増加に転じているわけではない.

今年の分が統計に加味された結果が興味深い.

自主返納の総数の年次変化

70-85歳の返納数(前後と色分けが異なります)

年齢別割合(%)の推移

令和元年の内訳(%)

上記のような社会的雰囲気に背を押されたわけではないが,周囲の勧めに従って私も昨年8月4日運転免許を自主返納した.免許証の期限は5月であったが,新型コロナの影響で3ヶ月間期限延長を行なっていた.

正式には「申請による運転免許の取消」ということらしい.近くの警察署に出向いたら,係官が「本当に返納していいんですか?」.「再び運転免許を取得するには,運転免許試験を受け合格する必要がありますよ」と念をおされた.意思確認後,免許センターにおいて,オンラインによる処理を行なったようである.最終的には,A4サイズの「申請による運転免許の取消通知書」を貰ったが,その前に,書類に署名,押印させられた.手続きが終わり警察署を出る前に,穴を開けた運転免許証,運転免許自主返納者への支援事業・サポート制度の書類,反射タスキ,靴の踵に貼る反射シールの入った封筒を手渡された.

菅内閣になって押印廃止が議論されている中,運転免許証の自主返納の際に押印する意味があるのか疑問に思った.幸いバックの底に認印があったので押印できたが,家を出る際は印鑑のことはまったく念頭になかった.押印に意味があるとすれば,気持ちに区切りをつける儀式以外のなにものでもない.本人が警察署に出向き,免許証の写真もあるのに無駄な事務手続きの典型ではないだろうか.

申請による運転免許の取消通知書(A4サイズ)

「申請による運転免許の取消通知書」を貰うと,「運転免許自主返納者へのサポート制度」が用意されていることを説明してくれた.県内を走るバスやタクシーの運賃割引があると説明してくれたが,書類をよくみると,タクシーは熊本市内のタクシー会社のうち,1割引を実施しているのは2社だけであり,サポート制度とは言えない期待外れであった.一層の充実を期待したい.

自家用車の維持費は普通車の場合,任意保険を入れると年40万円程度になるという.引退組はタクシーを使った方が安上がりという意見が多いが,正解かもしれない.私は,自主返納を正当化するために,異常気象の元凶である地球温暖化の防止に微力ながら貢献していると思うことにした.

追記 「申請による運転免許の取消通知書」を持ち歩く代わりに,免許証に変わる「運転履歴証明書」を作っておくと便利らしい.

(2021.1.30)