テレビのリモコ ンには“d”と書かれたボタンが付 いている.テレ ビでニュースなどの番組を見ている時にこの d ボタンを押すと,番組に関する情報を見たり地域の天気予報を調べたりすることができる.これは放送のディジタル化によって実現したデータ放送という機能である.
2003 年に開始された地上デジタル放送では,映像と音声をそれぞれ数値化して,1本の ストリーム (データ列) にまとめたものを電波に乗せて放送する.このストリー ムは MPEG-2 トラ ンスポートストリームという世界標準の規則に従って並んでいるため,電波を受け取ったテレビ受信機は映像部分と音声部分を識別し,元の状態に番組を再構成して表示することができる.この仕組みを使えば,映像や音声以外でも数値化できる情報は何でも送ることができる.デジタル放送ではこの手法を用いて, 番組表などの表示や各種の制御を可能にしている.
チャンネルによって内容は異なるが,一般的に天気予報 やニュース,生活関連情報などを見ることができる.同じチャンネルでも時間によって表示内容が変わる雨雲の動きや,ニュースの場合はその概要を文字で表示させたり,出演者の紹介などを見ることができる.また,データ放送の大きな特徴のひとつとして,インターネットを併用することによる双方向サービスが可能である.番組のアンケートに参加してリモコンのカラーボタンを押して回答したりすることができる.注)インターネットに接続している場合のみ回答が送信される.接続していない場合は受信機が回答の正否を判断して「おめでとう」,「残念でした」などと表示するが放送局にデータが届かないので集計にはカウントされない.
インターネットのホームページは HTML (HyperText Markup Language) という言語で記述されている.データ放送では,HTMLに放送用の機能を加えた BML (Broadcast Markup Language,放送用マークアップ言語)を用いている.データ放送の 1 ページは複数のファイルで作ら れていて,BML 言語で画面のレイ アウトやリモコン操作に対する動作対応などを記述したファイルのほか,画像や各種データファイルなどが含まれている.
従来,放送はすべての受信者に対して同じ内容を一方的に送信して,同時に同じものを見るためのものであった.これに対しデータ放送では,受信機側で,何時デー タ放送の視聴を始めても必要なデータを取得する事を可能としておく必要がある.そのために同一データを一定周期で 繰り返し送出する”回転木馬”を意味する”カルーセル伝送方式”と呼ばれる手法が用いられている.一般に繰り返しは数秒を必要とすると言われているが実際はそんなに長くは感じない.カルーセル伝送方式を採用することによりテレビ受信機は,パソコンのようにキャッシュ用のメモリを搭載しなくても,一定期間待てば必要なデータを入手できる.そのため,受信機の部品コストを抑えられると言われている.データ放送コンテンツ(放送やネットワークで提供される動画音声テキストなどの情報の内容)を受信した受信機は,内蔵されたBMLブラウザでコンテンツに含まれたBMLの記述内容を解釈,処理し,コンテンツの画面提示を行う.
デジタル放送の進化はインターネットの高速化と無縁ではない.高速回線が一般家庭に普及し,イン ターネットで番組を見られるビデオオンデマンドサービスや動画共有サービスが広なってきた.またパソコン以外の機器,スマートフォンのインターネット対応化が進み,番組コンテンツを見る方法を変化させている.
現行のデジタル放送ではデジタル情報を映像音声と一緒に電波に乗せて送っている.ところが,テレビ電波のすきまを使ってテレビ番組以外のデータを伝送するサービスのため,地上波で伝送できるデジタル情報量はわずかである.そのため,情報量の多い画像を避けて文字に頼らざるをえない状況である.そこで登場したのがデジタル放送と通信が融合した“ハイブリッドキャスト” である.ハイブリッドキャストは放送と通信の組合せを意味しており,テレビで放送を見ながらインターネットの様々な機能やサービスを利用できるようにするもので,2013 年以降,NHK や民間放送局で提供が開始され,ハイブリッド キャスト対応のテレビで利用す ることができる.
ハイブリッドキャストでは従来のデータ 放送とは異なり,全てのデジタルデータはイン ターネットで提供される.ページの記述には新しいバージョンの HTML, HTML5 を使いる.これまでのHTMLや BML と比べて動画再生機能や サーバ通信機能などが向上しているため,動画サービスやソーシャル ネットなどの新しいインターネット のサービスにも対応できるといわれている.次図は総務省のホームページで閲覧できる「データ放送とハイブリッドキャストの違い」をまとめた図である.
ハイブリッドキャストは"ハイブリッドキャスト対応TV"でないと観ることはできない.価格は高価であるが,パソコンが不要になったと言う人もいる.総務省の需要予測では,2020年にはハイブリッドキャスト対応テレビの出荷割合は60%,4K対応テレビは70%と予測している.これからハイブリッドキャスト対応テレビを購入しようと思っている人はインターネット回線はなるべく高速にしておく必要があるようだ.