-使用にあたり-
●台詞バランスがかなり偏っています。
※台詞バランス重視の場合、1話・2話 通し版(推奨配役あり)をお勧めいたします。
●この台本の上演時間は、約40分です。
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『仁 -JIN-』 2話
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【登場人物】
南方 仁(みなかた じん)
東都大学附属病院脳外科医 38歳。
友永 未来(ともなが みき)
仁の婚約者。現在は植物状態。 30代。
橘 恭太郎(たちばな きょうたろう)
徳川旗本の剣客の武士。咲の兄。 20歳。
橘 咲(たちばな さき)
旗本橘家の娘。 16歳。
橘 栄(たちばな えい)
恭太郎と咲の母。 40代。
坂本 龍馬(さかもと りょうま)
土佐藩藩士。 26歳。
佐分利 祐輔(さぶり ゆうすけ)
紀州の出身の若い医師。 20代。
千葉 重太郎(ちば しげたろう)
幕末の剣客。 30代。
野風花魁(のかぜ おいらん)
吉原「鈴屋」の花魁。未来と瓜二つ。
彦三郎(ひこさぶろう)
吉原「鈴屋」の店主。
喜市(きいち)
枝豆を売る少年。 9歳。
妙(たえ)
喜市の母。
博美(ひろみ)
東都大学附属病院の看護師。
侍C
町娘
男
武士A
武士B
禿(かむろ)
籠屋(かごや)
謎の声
ナレーション
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【2話 配役】3:2:1
①恭太郎/武士A/武士B/侍/佐分利/千葉/籠屋(♂)
②龍馬/謎の声/彦三郎/男(♂)
③仁(♂)
④ナレ/喜市(不問)
⑤咲/博美/禿(♀)
⑥栄/未来/野風/妙/町娘(♀)
---本編---------------------------------------
■現代/東都大学附属病院 病室■
④ナレ :南方仁は東都大学附属病院に勤務する脳外科医である。
朝。自身が勤める大学付属病院の病室で目を覚ます仁。
頭には包帯が巻かれていた。
⑤博美 :気が付きました?
③仁 :……これは。
⑤博美 :昨日、先生、非常階段から落ちて、急性硬膜外血種の手術したんですよ?
覚えてないですか?
③仁 :……覚えてるよ。
階段から落ちて、そのあと、江戸時代にタイムスリップして。
斬られた侍を手術して……。
⑤博美 :はぁ?
……ふふ、あはははは!!
③仁 :いや、本当なんだって!
④ナレ :その時、一人の医師が部屋に入ってきた。
⑤博美 :あ、先生! ふふふ、聞いてくださいよ、南方先生がね。
③仁 :(医師の顔を見て驚く)
……未来!?
⑥未来 :私が執刀したのよ?
③仁 :……未来。
■江戸時代/橘家■
③仁 :……未来!!
……はぁ、はぁ、はぁ。……ゆ、夢か。
④ナレ :仁が目覚めたのは、まぎれもなく、橘家の一室だった。
あたりを見回すが、趣のある和室と着物を着た自身の姿があるのみだった。
③仁 :(自分の顔を何度も叩く)
あぁ、あぁ! うあぁぁぁぁ!!
④ナレ :走って表へ飛び出すも、やはり江戸の街並みが広がっていた。
道端で大根を持ち歩く女性、帯刀する侍。
まぎれもない”江戸時代”の光景を目の当たりにし、仁は呆然とする。
⑤咲 :お目覚めになられたのでございますね。
③仁 :……。
……あの、今は何年ですか?
⑤咲 :文久2年でございますが。 ※文久2年(1862年)
③仁 :……江戸時代、ですか?
⑤咲 :ふふ、ここは、江戸でございますが。
③仁 :あぁ、えっと……。
……将軍様、あ、いや、上様?
⑤咲 :え?
③仁 :いや違う。えっと、うーん……。
……黒船は、もう来ました?
⑤咲 :えぇ。たしか、10年程前かと。
③仁 :……。
⑤咲 :食事の用意をいたしましょうか。
③仁 :……はい。
-間
③仁 :これが、普通の食事なんですか?
⑤咲 :は?
④ナレ :目の前に出された宗和膳。
器には、5合はあろうかという大量の白米と、
わずかな漬物とみそ汁が置かれていた。
③仁 :あ、いや、あの。お、おかずとかは。
⑤咲 :……申し訳ございませぬ。
当家は旗本とはいえ、無役の150石獲(こくど)り故……
③仁 :(被せるように)いやいや、そういう意味ではなくて。
……こんなに、ご飯ばっかり食べるもんなんですか?
⑤咲 :……は?
③仁 :あ。あぁ、いいです、いいです。
いただきます。
(一口食べ、頬張りながら)
……美味い! 釜で炊いてるからかなぁ、全然違います!
⑤咲 :釜で炊かぬ方法が、あるのでございますか?
③仁 :……。
あぁ、いや~ははは。
(漬物を一口食べ)
うん、これも美味いなぁ。
⑤咲 :……。
あ、そういえば。
(咲、時計を取り出し、仁に差し出す)
これが兄の部屋に。
③仁 :あ、どうも。
⑤咲 :それは、何をする道具なのでございますか?
③仁 :……まぁ。 ……はい。
⑤咲 :あの、髷は、お結いになられないのでございますか?
③仁 :……まぁ。 ……はい。
⑤咲 :あの白いお召し物は、異国のものでございますか?
③仁 :そうですねぇ、ある意味。ふふふ。
⑤咲 :では、あの長崎の方にでも行かれたので……
⑥栄 :(被せるように)恭太郎が目覚めたようでございます。
■橘家/恭太郎の部屋■
④ナレ :恭太郎の部屋。仁は恭太郎の頭部の包帯を巻き直している。
③仁 :経過は良好です。
このまま、もう少し安静にしていて下さい。
⑥栄 :(1両を包んだ紙入れを差し出す)
南方先生、この度は、ありがとうございました。
③仁 :……あの、これは?
⑥栄 :お礼でございます。
③仁 :いやぁ、結構です、そんな。
⑥栄 :そのようなわけには、参りませぬ。
③仁 :いや、本当に。
私も、恭太郎さんに命を助けてもらったので。
ですから、本当に。
⑥栄 :……では、せめて籠をお呼びいたします。
お住まいはどちらでございますか?
③仁 :あぁ~、あはは……。
……すいません、覚えてないんです。
⑥栄 :覚えてないとは、どういう事でございますか?
③仁 :林の中で転んだ時に、頭を打ったせいかもしれません。
ほとんど、記憶が無くて……。
⑤咲 :あ、そういうお話、聞いた事がございます。
⑥栄 :お名前は、覚えてらっしゃいましたよね。
③仁 :……えぇ、まぁ。
⑥栄 :(疑いの眼差しで仁を見る)……。
③仁 :あぁ、覚えてたり、覚えてなかったり……。
⑥栄 :ずいぶん、都合のよろしい事で。
③仁 :あは、あはははは。
①恭太郎:身元を、お調べしましょうか?
蘭方医なら、そんなに数が多いわけではございませぬ。
調べれば、すぐにわかるかと……
③仁 :(被せるように)あ、あぁいやいやいや、大丈夫です!
私は、蘭方医ではないので。
⑤咲 :え?
(咲と同時に)
⑥栄 :は?
①恭太郎:蘭方医では、ないのですか?
③仁 :はい。 ……あ、いや、その。
すぐ、思い出すと思いますんで。
あの、本当に、お気遣いなく、あはは、お気遣いなく。
④ナレ :仁は、そそくさと恭太郎の部屋を後にして、別の間に移った。
■応接の間■
③仁 :……そういえば。
あの患者、どうしてあんなものを持ち出そうとしたんだ?
★(回想)★
②謎の声:戻るぜよ、あん世界へ。
★(回想終わり)★
③仁 :……あの人を見つければ、戻れるのか?
あの、胎児性腫瘍の標本は……。
……あれ?
そういえば、医療パッキンはどこだ?
■恭太郎の部屋■
④ナレ :仁は医療バッグを探して恭太郎の部屋に入ろうとしたが
中から、3人の会話が聞こえ、廊下で立ち止まった。
⑥栄 :南方様は、当分ここに居らっしゃるおつもりなのですかね。
⑤咲 :お住まいの方も思い出せないと仰っていたし、
暫くの間、ここに居ていただいては?
⑥栄 :嘘なのではないですか? 話がおかしいではありませぬか。
名前は覚えているのに、住んでいる所はわからぬ。
身元を調べるのも、あの嫌がりよう。
もしかしたら、お尋ね者なのではないですか?
⑤咲 :そんな方には、とても見えませんが。
①恭太郎:(ゆっくり起き上がる)
例え、そうであっても。
私にとっては、命の恩人でございます。
お世話をするのが、人の道かと。
⑥栄 :ですが……
①恭太郎:(被せるように)主は私でございます!
⑥栄 :……ならば!
主らしく、思慮深い行動をしていただきたいものでございますねぇ。
①恭太郎:しているつもりでございますが。
⑥栄 :そうでございますか。
恭太郎さんが襲われたのは、「勝(かつ)」とかいう、
異国贔屓の所に通ってるからではございませぬか?
軽佻浮薄(けいちょうふはく)な流行にのるから、
こういう事になるのではございませぬか!?
①恭太郎:勝先生の御思想こそ、これからのこの国を立ち行かせる、
唯一の道でございます!
⑥栄 :これ以上、主を失くしては、橘家の行く末が危ぶまれまする。
③仁 :(襖越しに聞いている)……。
⑥栄 :南方様には、感謝しております。
ですが、物騒な事には、関わりたくございませぬ。
……私は、最期に父上と約束いたしました。
何があっても、橘家を守り抜くと。
⑤咲 :……しかし母上、父上が生きておられれば、きっと……
⑥栄 :(するどい視線を咲に向ける)……。
⑤咲 :……あ、いえ、なんでも。
-間-
■応接の間■
④ナレ :それから四半刻、現代でいえば30分程が経過した。
⑤咲 :南方先生、お忘れ物が……
④ナレ :咲は、医療バッグを持って応接の間を訪れたが、仁の姿は無かった。
宗和膳の上に目をやると、食べかけの白米の傍に手紙が置かれていた。
③仁 :(手紙)
お食事、ありがとうございました。
身元を思い出したので、これにて失礼いたします。
⑤咲 :……先生。
-間-
■林の中■
④ナレ :仁は、タイムスリップした後に目が覚めた林に来ていた。
③仁 :あいつが居れば、戻れるはずだ。
あいつに連れて来られたようなもんなんだから。
おーい、ホルマリン君っ!
……どこ行っちゃったんだよ。
(溜め息)
……なんで、こんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
(下に流れる川を見つめる)
……ん? この場所……。
……これって、神田川?
……。
また落ちれば……。戻れる?
④ナレ :仁は、谷底に流れる神田川に向かって、一歩、二歩と
崖のような斜面に向かって歩き出した。
そして、今にも谷へ飛び込むかと思われた刹那。
②龍馬 :やめんかぇ!!
④ナレ :男が、仁に向けて声を出した。
その声を聞いた仁の脳裏に、またあの声が蘇る。
★(回想)★
②謎の声:戻るぜよ、あん世界へ。
★(回想終わり)★
②龍馬 :やめんかぇ!! 何しちょるがぜ!!
④ナレ :その男は、仁に抱きつき、そのまま芝に寝転がるように倒れた。
③仁 :ぬわぁぁぁ!!
②龍馬 :おまんは、阿呆かぁ!!
人間はねゃあ、急がんでも、いつか死ぬるがじゃき。
ほっちょいても、いつかは死ぬるがを、わざわざ苦労して死ぬるなんぞ、
阿呆のする事じゃ!!
③仁 :違いますよ!!
②龍馬 :おまんは、そんな事もわからんかぇ。
③仁 :いや、死ぬつもりなんかありませんから……
②龍馬 :(被せるように)この阿呆! 阿呆! 阿呆がぁ!!
③仁 :(被せるように)死ぬつもりなんかないって言ってるじゃないですか!!
離せって、離して下さい、よっ!!
②龍馬 :(仁に跳ねのけられる)
うわあぁぁぁぁぁ!!
③仁 :(息切れしている)
はぁ、はぁ、はぁ。
②龍馬 :(息切れしている)
ほいたら、何しとったがぜ。
どう見ても、死のうとしちゅう風にしか見えんかったぜよ。
③仁 :家に帰ろうと思ったんですよ。
②龍馬 :家に?
③仁 :はい。
②龍馬 :(下に流れる川を見つめ)
おまんの家は、この谷の底にあるがかぇ。
③仁 :……そうです。
②龍馬 :……。
……たっはははははははは!!
ほぉか、ほぉか。
いやぁ、それは邪魔をして、すまんかったのぉ!
ははははは!
③仁 :いえ。
②龍馬 :……おまんは、武士じゃないがかぇ。
③仁 :私は、医者です。
②龍馬 :医者ぁ?
ほぉか。 医者が命を粗末にするわけがないのぉ!
③仁 :そうですよ。
②龍馬 :いや、まっこと、すまんかったぜよ。
阿呆は、わしの方じゃったのぉ。
あっはははははは!!
④ナレ :男は、笑いながら去っていく。
③仁 :……あの!!
②龍馬 :んん?
③仁 :……名前、教えてもらえますか?
あ、いや。
貴方の声が、聞こえたんですよ。
②龍馬 :あぁ?
ほりゃぁ、ほうじゃろう。
③仁 :そうじゃなくて!
②龍馬 :わしか?
わしゃあ…‥
①武士A:おーい!!
もぉ、どこ行きゅうがぜよ。
おまんはそれやき、どこからも、はぐれるがじゃあ!
行くぜよ!!
②龍馬 :おぉおぉ、すまんすまん!! 今行くぜよ!!
③仁 :あぁ、ちょっと!
②龍馬 :(仁に振り向き)
今度、おまんの家、教えてくれ。
わしゃあ、しばらく江戸におるき!
④ナレ :そう言うと、男は再び走り出し、藪の奥へと姿を消した。
仁は、しばらく呆然と立ち尽くしていたが、ふと我に戻った。
③仁 :あぁ。名前!
あの!! 名前を!!
④ナレ :仁は、男の後を追い、走り出した。
林を抜け、街まで戻ったが、男を見つける事は出来なかった。
③仁 :……どこ行っちゃったんだよ。
④ナレ :建ち並ぶ家屋の裏通りから、路地を抜けて、表通りに出てみれば。
そこには、行商人や町民で賑わう江戸の光景が、これでもかと視界に入る。
③仁 :……すごいなぁ。
⑥町娘 :旦那ぁ! 変わった頭だねぇ。
なんだいそりゃあ、新しい流行りなのかい?
③仁 :あ、いや。
⑥町娘 :まぁいいや。黒米稲荷(くろごめいなり)はこっちだよ!
③仁 :黒米稲荷?
⑥町娘 :黒米稲荷だろ? 食べに来たんだろぉ?
ほらごらんよ、皆、夢中でたべてるよ。
今、これを食べなきゃあ、江戸っ子とはいえないよぉ。
ほら、並んだ並んだ!
③仁 :あぁ、あの、ちょっと私は……。
④喜市 :おじさぁん、枝豆買っておくれよぉ!
⑥町娘 :邪魔するんじゃないよぉ、喜市!
④喜市 :枝豆の方が美味いよぉ~!
③仁 :ごめん、ちょっと今、それどころじゃないんだ。
④喜市 :じゃあ、ゆで卵はどう?
ゆで卵は、おっかさんが売ってるんだ!
④ナレ :喜市と呼ばれた少年が、仁の腕を引っ張る。
その時、仁の視線の先に、先ほど林で出会った男の姿が映った。
③仁 :あ、ちょっとごめん!
④ナレ :仁は、喜市の手を振りほどき、男の方へ走り出した。
④喜市 :ちぇっ、けちんぼぉ!
馬に蹴られて死にやがれぇ!!
④ナレ :その刹那、侍の乗っていた馬が喜市の前で急に暴れ出した。
侍が必死で止めようとするが、馬の勢いは収まらず。
前足が、喜市を蹴ろうとした瞬間。
女が喜市を庇い、身代わりとなって頭を蹴られてしまう。
庇った女は、その場に崩れるように倒れた。
④喜市 :おっかさん!!
-間-
③仁 :あの、ちょっと待って!
②龍馬 :おぉおぉ、おまんは、さっきの。
③仁 :あの、貴方……。
②龍馬 :わしか。わしは土佐の……
①侍C :無礼者!!
③仁 :(侍の方を振り返る)
①侍C :急に馬の道を塞ぐから、こういう事になるのだ。
以後、気をつけぇい!!
③仁 :(男の方に向き直り)
……あの、ちょっと、ちょっと待っててくださいね!
④ナレ :仁は男にそう言うと、倒れた女の元へ走って行く。
②龍馬 :……なんじゃあ。
せわしか男じゃのぉ。
④ナレ :倒れている女は、額から出血しており、
傷口はザクロのようにパックリ割れていた。
④喜市 :お、おっかさん……。
おっかさん!! 死なないで、おっかさん!!
おっかさぁん!!
④ナレ :野次馬が集まる。
皆、口々に「もうだめだ」「これは助からない」などと口走っている。
仁が野次馬を押しのけ、女の姿を見つけた時、一人の男が女の前に現れた。
①佐分利:ちょいと見せてもらえまっか?
②男 :なんだおめぇ、医者か!?
①佐分利:医者やなかったら、わざわざ出てくるかいな。
(女の頭を見て)
……あぁ、こら厳しいなぁ。
どこが切れとるんやろ。
③仁 :(佐分利を押しのけ)
ちょっと失礼!
①佐分利:おっと! 何しはるんでっか!
③仁 :ST2のブランチが切れてるなぁ。
①佐分利:え、えすちー、ぶら?
③仁 :(喜市に向かって)
ボク。お母さん、すぐに手当てすれば助かるぞ。
④喜市 :ほ、ほんとに?
①佐分利:余計な事、言いないな!
こんな血ぃ出とって、助かるわけありまへんがな。
私の経験では……
(女の額から出血が止まっている)
血ぃが……!
何で、止まっとるんや!?
③仁 :(女の額の傷口付近に指を当て)
圧迫して、止血しているだけです。
(野次馬に向かって)
あの!!
この人を、手当て出来る場所に運ばなければなりません!
どなたか、手助けしていただけませんか!!
⑥町娘 :運ぶったって、どこへ。
②男 :店先を汚されちゃ、縁起が悪ぃなぁ。
④ナレ :野次馬たちは、顔を見合わせるだけで、なかなか動かなかった。
そこへ。
②龍馬 :おぃ、どけどけどけどけ!!
おい、先生!!
運ぶのは、この板でもええがかぇ?
③仁 :はい!!
②龍馬 :ここに置いてもええがかぇ!?
③仁 :いいです! 頼みます!!
②龍馬 :おぉ!!
(板を下ろす)
おぃ野郎ども、聞いたかぇ!?
とっとと運ぶんじゃあ!!
(佐分利に向かって)
おまん、そっちを持つんじゃ、そっちを!!
①佐分利:え、あ、あぁ!
③仁 :お願いがあります!!
②龍馬 :お? おぉ!!
③仁 :湯島の、樹木谷の、旗本の橘さんのお家に、手術の道具があります!
②龍馬 :しゅ、しゅじゅ、しゅじゅちゅ?
③仁 :あ……。この人を治すための道具です!!
それを、取ってきてもらえませんか?
一刻を争うんです!
②龍馬 :勿論じゃあ!!
……けんど、場所がぁ。
①籠屋 :えっほ、えっほ、えっほ。
②龍馬 :お!!
おいっ! そこの、籠屋の兄(あん)ちゃん!!
おんしらだったら、わかるろぉ!!
湯島の樹木谷の、旗本の橘さん。
行けるか? ほぉか!!
③仁 :どなたか!!
清潔な着物を、貸してもらえませんか!?
④ナレ :籠屋と土佐の男は、橘家へ向かった。
①籠屋 :えっほ、えっほ、えっほ。
あのぉ、乗られたらいかがですかぁ?
②龍馬 :(走っている)
はぁ、はぁ、こっちの方が、早いがじゃろぉ!!
うぉぉぉぉぉ!!
-間-
■番所■
④ナレ :喜市の母は、番所へ運ばれた。
仁は、町民たちに、治療に使えるものを持ってきてほしいとお願いした。
町民が番所に次々にやってくる。
お酢や、沸かしたお茶などを持ってきた。
①佐分利:このお茶は、どないしはるんでっか?
③仁 :お茶に含まれるカテキンは、滅菌作用があるんです。
①佐分利:(仁の手元に近づく)へぇ……。
③仁 :あ、あの、清潔を保ちたいんで、あまり私には近づかないで下さい。
①佐分利:あ、はい。
⑥妙 :(苦しんでいる)
うぅぅ……あぁぁ……。
④喜市 :……おっかさん、大丈夫だよね?
③仁 :あぁ、大丈夫だ。
……頼んだぞ、土佐の人。
-間-
■橘家の前■
①籠屋 :えっほ、えっほ、えっほ。
旦那ぁ、もうすぐですぜ!
……あれ?
もしや!! 橘様のお嬢様でいらっしゃいますか!?
⑤咲 :……当家に、御用でございますか?
②龍馬 :おぉぉ!!
おまん、しゅじゅちゅ道具ちゅうが、分かるかぇ!?
⑤咲 :……はい。
②龍馬 :名前はぁ……。
あぁ、ようわからんが、わからん医者から言いづかったんじゃ!
しゅじゅちゅ、道具、ちゅうがを持ってきてくれっちゅうて!!
⑤咲 :何か、あったのでございますか?
②龍馬 :馬に蹴られた女子がおって、一刻を争うそうじゃ!!
⑤咲 :承知いたしました!
②龍馬 :おぉ!!
④ナレ :咲は屋敷に入り、医療バッグから道具を出し、風呂敷に包んだ。
⑥栄 :何をしておるのです、咲?
⑤咲 :戻ったら、お話しいたします。
⑥栄 :南方様のところへ行くのですか?
勝手な真似は許しませんよ、咲!!
⑤咲 :……あとで、説明いたします、母上。
⑥栄 :咲!!
④ナレ :咲は、止める栄を振りほどき、屋敷を出た。
栄は、畳の上に落ちている、今朝の仁の手紙と、
残された医療バッグを手に取った。
屋敷の前では、咲を待つ土佐の男が、まだかまだかと待ち構えていた。
⑤咲 :お待たせをいたしました。
②龍馬 :おぉ!!
⑤咲 :……。
②龍馬 :ん?
はよぉ、はよぉ渡してくれんかぇ!!
⑤咲 :私も、一緒に参ります。
信用しないというわけではございませぬが、これは、
南方先生の大切な物でございます。
……私も、ご一緒に!
②龍馬 :……ほいたら、おまんは、籠に乗ってくれんかぇ。
-間-
④ナレ :咲たちは、仁の待つ番屋へと急いだ。
①籠屋 :えっほ、えっほ、えっほ。
おっと、お嬢様、一旦下ろしますぜ!
⑤咲 :え? どうしたのですか?
①籠屋 :すいませんお嬢様、降りていただけますか。
あれでさぁ、あれが通り過ぎるまでは走れねぇ。
④ナレ :咲の視線の先には、大名行列が見えた。
⑤咲 :……別の道は、無いのでございますか?
①籠屋 :折り返すと、倍かかっちまう。
②龍馬 :産婆じゃ。産婆じゃちぃ言え。
産婆じゃったら、通してもらえるじゃろうから。
⑤咲 :……。
②龍馬 :ほぉれ!! はよ行かんかやぁ!!
⑤咲 :はい!
④ナレ :土佐の男に促され、咲は走り出した。
①武士B:無礼者!! 貴様、何やつじゃ!!
⑤咲 :……さ、産婆でございます!!
④ナレ :咲は、大名行列の横を走り去っていく。
次第に、空から大粒の雨が落ちてきた。
■番所■
④ナレ :急なにわか雨で、街の人々も散り散りになり、先ほどまで賑わってた町は
一気に、寂しい佇まいとなった。
喜市の母・妙は、先ほどまでは息苦しそうに声を上げていたが、
今はぐったりしている。
④喜市 :……おっかさん、死んでないよね?
大丈夫だよね?
③仁 :……大丈夫だ。 意識を失っているだけだ。
①佐分利:私の経験では、このような状態の輩は何日も持たない……
③仁 :(被せるように)このような状態になっているのは、脳震盪です。
脳震盪は、脳が衝撃を受けて、一時的に意識を失ってるだけです。
大丈夫です。
①佐分利:しかし……
③仁 :黙ってて下さい!!
(喜市に向かって)
……大丈夫だ。大丈夫だから。
④喜市 :うぅ……。
③仁 :……早くしてくれ、土佐の人。
④ナレ :外はどしゃ降りになってきた。
咲は、雨に打たれながらも、懸命に走った。
途中、泥濘に足をとられ転んでしまっても、立ち上がり、また走り出した。
-間-
④ナレ :番所の中で、妙が意識を取り戻した。
④喜市 :おっかさん!!
⑥妙 :……こ、ここは?
④喜市 :番所だよ! おじさんが、おっかさんを治してくれるって!
③仁 :道具が着いたら、すぐに治療しますから。
⑥妙 :お、お医者様……。どうか、どうか、おやめ下さいまし。
(息苦しそうに)
わ、私のような、貧乏人には、薬代を払う事は、出来ませんから……。
③仁 :でも……。 このままでは、死んでしまいますよ?
⑥妙 :はぁ、はぁ……。そ、それが私の、じ、寿命なのでしょう。
③仁 :お代は結構ですよ……
④喜市 :(被せるように)薬代はオイラが払うよ!!
(泣いている)
働いて、必ず、払うから!!
だから、どうか……。どうか、おっかさんを、助けて下さい!!
⑥妙 :き、喜市……。
③仁 :……わかった。
それでは、代金として、枝豆をいただこうかな。
④喜市 :届けるよ……。 オイラ、一生でも届けるよ!
⑤咲 :南方先生!!
お待たせいたしました、手術道具でございます!!
③仁 :……!!
……咲さんが、どうして?
⑤咲 :お手伝いを……。
ささやかながら、お力になれることもあるかと存じます!
③仁 :……助かります!
⑤咲 :清潔な着物に着替えます!
③仁 :はい!!
-間-
④ナレ :咲の着替えも終わり、仁は手術道具を並べている。
しかし。
③仁 :……あれ?
⑤咲 :どうなさったんですか?
③仁 :キシロカインが……。
⑤咲 :きしろ、かいん?
③仁 :麻酔です。 手術の痛みを感じさせないようにする薬です。
これくらいの箱に入った。
⑤咲 :箱……。
……!!
申し訳ございませぬ! 籠を飛ばして、もう一度取って参ります!!
③仁 :どれくらいかかりますか?
⑤咲 :雨が降っているので、一刻は。
③仁 :すいません、一刻というのは、どれぐらいの長さですか?
⑤咲 :どのくらい、と言われても、一刻は、一刻。
③仁 :じゃあ一日は何刻ですか!?
⑤咲 :え、えっと……。
③仁 :……すいません、イライラして。
⑤咲 :いえ。
⑥妙 :……あの。
痛みを感じさせない、薬がないと、し、しじつと言うのは、
出来ないのですか?
③仁 :いや、出来ますが……。 頭の血管を縛るんですよ。
……気の遠くなるような痛みなんです。
⑥妙 :大丈夫です。 私、辛抱だけは、得意なんです……。
③仁 :痛みのあまり、死ぬこともあるんですよ?
⑥妙 :どうせ……。 このまま、死ぬはずだったんですから。
はぁ、はぁ、はぁ。
③仁 :……。
……わかりました。
喜市くん、君は、出て行った方が良い。
④喜市 :……。
⑤咲 :すぐ終わるから……
④喜市 :(被せるように)オイラ頑張る!!
……おっかさんと一緒に、頑張る!!
③仁 :……。
①佐分利:……私が、この子を見ときます。
③仁 :……。
……わかった。 じゃあ、一緒に頑張ろう。
④喜市 :うん。
③仁 :(佐分利に向かって)
この子を、お願いします。
①佐分利:はい!
-間-
④ナレ :仁の執刀が始まった。 麻酔薬なしで、傷口に触れていく。
想像を絶する痛みに、妙も思わず悲鳴を上げる。
⑥妙 :あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
③仁 :大丈夫ですか?
⑥妙 :うぅぅ!!
③仁 :咲さん、妙さんの肩を、しっかり押さえておいて下さい。
⑤咲 :……は、はい。
④ナレ :傷口を消毒し、縫合が始まる。
一針、二針と縫うたびに、妙も声にならない苦痛の叫びを発する。
最初は目を背けていた喜市だが、母の頑張りに応えるように
逃げず、細目ながらも、母の姿をしっかと見守っていた。
③仁 :……妙さん、もう終わります。
あと一か所、あと一か所だけです。 もう少しですから。
④ナレ :仁が最後の縫合を始める。
⑥妙 :うあぁぁぁぁぁぁ!!
④喜市 :……。
①佐分利:(喜市に向かって)
大丈夫か?
⑤咲 :頑張って下さい、妙さん! 頑張って!!
⑥妙 :うぅぅ、うぅぅ!!
⑤咲 :頑張って、妙さん!!
⑥妙 :あぁぁ、ああぁぁぁぁぁぁ!!!!
④ナレ :痛みに耐えかねた妙が、大きく身体をひねると、仁は動揺し、
手から医療機器を落としてしまう。
③仁 :……すいません、手が、滑ってしまって。
⑥妙 :(荒い息)
⑤咲 :先生、妙さんの様子が。
③仁 :……痛みが強すぎるんです。 やっぱり、麻酔がないと。
④ナレ :苦しむ妙を前に、仁の手が止まった。
脳裏によぎるのは、やはり、未来の手術を失敗したあの光景だった。
妙を、未来と同じような目に合わせてしまうのだろうか。
苦しみ、今にも意識を失くしそうな妙と、
植物状態になった未来の顔が重なった。
①佐分利:……おい、どないしたんでっか?
⑤咲 :先生?
③仁 :……。
⑤咲 :先生!!
④喜市 :……ち、ちちん、ぷいぷい。 ちちんぷいぷい……。
ちちんぷいぷい、御代(ごよ)の御宝(おんたから)。
ちちんぷいぷい、御代(ごよ)の御宝(おんたから)!
⑥妙 :き、いち……。
④喜市 :ちちんぷいぷい、御代(ごよ)の御宝(おんたから)!
⑥妙 :喜市……。
③仁 :……これは?
⑤咲 :痛み除けの、おまじないでございます。
……言葉の、麻酔でございます。
④喜市 :ちちんぷいぷい、御代(ごよ)の御宝(おんたから)!
ちちんぷいぷい、御代(ごよ)の御宝(おんたから)!
⑥妙 :あぁ……、喜市……。
④ナレ :瀕死の妙が、喜市に手を伸ばす。
その手を、喜市が力強く握り返す。
④喜市 :ちちんぷいぷい、御代(ごよ)の御宝(おんたから)!
ちちんぷいぷい、御代(ごよ)の御宝(おんたから)!
④ナレ :喜市が、おまじないを唱える度に、妙の表情が少しずつ穏やかになっていく。
喜市は、涙を流しながら、何度も何度も、おまじないを唱えた。
③仁 :……。
……すいませんでした。
妙さん、もう少しですよ。頑張りましょう。
⑥妙 :は、はい……。
④ナレ :仁の手が、再び動き出した。
喜市のおまじないに、妙だけでなく、仁も励まされたのだ。
-間-
■林の中■
④ナレ :仁は、妙の手術を無事に終わらせた。
神田川の上に燦然と輝く夕日を眺めながら、仁は未来を想っていた。
③仁 :(モノローグ)
……未来。
信じられないだろうが、俺は今、江戸に居る。
手術をしていると人殺しに間違われる世の中で、満足な道具や薬も無く、
手術をする羽目になっている。
……とても簡単な手術だ。今なら、まず失敗する事は無い。
でも、そんな手術に、ここでは青息吐息だ。
これまで手術を成功させてきたのは、俺の腕じゃ、なかったんだよ。
今まで、誰かが作ったきてくれた、薬や技術、設備や知識だったんだ。
そんなものを失くした俺は、痛みの少ない縫い方ひとつ知らないヤブだった。
14年も医者をやって、俺はそんな事を知らなかった。
自分が、こんなにもちっぽけだった事を、俺は知らなかった。
謙虚なつもりだったけど、俺みたいなヤブが、
出来る手術だけを選ぶなんて……。
考えてみれば、随分ふざけた話だと、君は、ずっと、
そう言いたかったのかもしれないな。
もしかして、これは、物言えぬ君からの、俺への罰なのか……?
⑤咲 :どこかへ行ってしまったのかと思いましたよ。
③仁 :……。
⑤咲 :どうかなさったのですか、先生?
③仁 :……ここ、よく来る場所だったんです。
⑤咲 :先生は、このあたりに住んでいたって事でございますか?
③仁 :(涙がにじむ)
……。
……でも。 ……でも、ここじゃ、ないんです。
ここじゃ、ないんですよ……。
こんなに……、こんなに、美しいところじゃ、ないんです……。
こんなに美しくては……、いけないんです……。
⑤咲 :……。
③仁 :(モノローグ)
だとしたら、もう、帰してもらえないだろうか。
……わかったから、もう。
ここの夕日が、世界一美しい事も、もう全部、わかったから……。
帰しては、くれないだろうか。
⑤咲 :……。
帰りましょう。
③仁 :……帰る?
⑤咲 :日が暮れると、厄介でございますから。
③仁 :……。
あのぉ……
⑤咲 :(被せるように)
いつか、すべて思い出されて……。
ご自分の家に、戻ってしまうかもしれませぬが。
それまでは、橘の家が、先生の家でございます。
③仁 :……。
……はい。
④ナレ :咲は仁に微笑みかけると、二人、夕日を背に歩き出した。
-間-
■橘家■
④ナレ :仁と咲は、橘の屋敷の前に帰ってきた。
咲は、母の顔が頭をよぎり、玄関先で足を止め大きく深呼吸をした。
③仁 :……あの、なんでしたら、馬小屋でも。
⑤咲 :と、とんでもない。兄の恩人にそんなこと。
③仁 :でも、お母様の手前も……
⑤咲 :母は、私がなんとかいたします。
⑥栄 :私が、なにか?
⑤咲 :母上!
……母上、私は、母上は間違っていると思いま……
⑥栄 :(被せるように)
間違ってるのは、貴方でございます。
⑤咲 :私の、どこがでしょう?
⑥栄 :客人を、このような場所でお待たせするなど言語道断!
⑤咲 :母上……。
①恭太郎:どうぞ、中へ。 咲、湯の支度を。
⑤咲 :……はい、兄上!!
■橘家/仁の部屋
④ナレ :咲、栄、恭太郎。
橘家の温かい心遣いに、仁は目頭が熱くなった。
……その後、仁は、屋敷の一室を使わせてもらう事になった。
タイムスリップする前、杉田から渡された写真を眺めていた。
③仁 :どうしてるかなぁ、未来。
④ナレ :穏やかな表情で写真を見つめていた仁だが、突如、険しい表情になる。
③仁 :あれ……、ピースが、逆?
③仁 :(モノローグ)
俺はこの時、ある可能性に気づいた。
本当だったら死んでいたはずの人の命を救う。
もしかして、これは、歴史を変えるという、
神をも恐れぬ行為なのではないだろうか。
だとすれば早く、一刻も早く、戻らないと……。
-間-
■吉原■
④ナレ :華々しく着飾った、美しい女性たちが溢れかえっている。
ここは江戸・吉原。
両手で持った万華鏡を覗く、ひときわ艶やかな花魁が居た。
②彦三郎:街で、手品師のような医者の話を聞いたよ、野風。
⑥野風 :ふふ、ふふふ。
”医者のような手品師”の間違いじゃありんせんか、親父様?
⑤禿 :野風花魁、お茶屋から呼び出しでありんす。
⑥野風 :……あい。
④ナレ :その花魁は、野風と呼ばれた。
この野風花魁が、今後の仁の運命を動かす重要な人物になるとは
この時はまだ、誰も思ってもいなかった。
-間-
■桶町/千葉道場■
④ナレ :さらに場所は変わって、桶町にある千葉道場。
②龍馬 :産婆じゃちゅうたがまでは良かったけんど、
その後、真かと詰められてのぉ。
わしゃ、一応、脱藩の身じゃきのぉ。
わははははは!!
①千葉 :はぐれてばっかりじゃのぉ、お主は。
このご時世、一人では何も出来んぞ。
②龍馬 :……わかっちゅう。
①千葉 :わしらはな、斬ろうと思うとるんじゃ。
②龍馬 :誰をじゃ?
①千葉 :幕府の癌よ。
軍艦奉行、並(なみ)、勝麟太郎。 ※勝麟太郎=のちの勝海舟
②龍馬 :……ほぉ~。
-間-
■湯島/橘家■
④ナレ :数日後。
④喜市 :先生、先生!!
持ってきたよ、枝豆!
③仁 :あぁ、ありがとう。
④喜市 :おっかさん、あれから少しずつだけど、元気なってきてるよ。
先生、ありがとぉ!!
また、明日も枝豆届けるね!!
④ナレ :そう言って、喜市は駆け出した。
③仁 :……早く(現代に)戻らないとなぁ。
④ナレ :そう呟きながら歩いていると、喜市が立ち止まっていた。
④喜市 :あれぇ、なんか、人が少ないなぁ。
④ナレ :表通りに出た仁と喜市。
いつも活気で溢れていた街だが、この日は確かに人通りは少なかった。
仁も、不思議そうに辺りを見渡す。
すると、偶然にも、土佐の男の姿を見つける。
③仁 :……あ、あの人!
④ナレ :仁は、男を追いかけ走り出した。
④喜市 :ははっ! また走って行っちゃったよ。
⑥町娘 :じゃあ何かい?
④喜市 :……ん?
⑥町娘 :こんなに人が出ないのは…。
②男 :本当らしいぜ。 また、コロリが出てきたって。
④喜市 :……えぇ? ……コロリ。
-間-
③仁 :(走ってる)
はぁはぁ、あの、あのぉ!!
②龍馬 :ん? なんじゃあ、また、おまんかぇ!
……ひょっとして、わしに惚れたがかぇ?
③仁 :(息切れしている)
貴方……、貴方、誰なんですか?
②龍馬 :わしかぁ?
わしゃ土佐の、坂本龍馬っちゅうモンじゃ。
③仁 :さ、坂本……、龍馬!?
③仁 :(モノローグ)
歴史を変えてしまうかもしれないその前に、
一刻も早く戻らないとって思ったけど。
もしかして、俺はすでに、歴史の渦の真っただ中に、
巻き込まれているんじゃなかろうか……。
---2話 完----