-使用にあたり-
※この台本に限り、以下2点を禁止します。
①性別転換(男性が女性役を演じる、など)
②人数変更(指定の比率以外で演じる、など)
③来翔 役の方は、「ものまね」をするくだりがあります。
・ものまねのくだりに関しては、アドリブOK
(梨依音 役の方と事前に打ち合わせしてもOK)
(梨依音 役の方が即興で振ってあげてもOK)
(台本通りでもOK)
【登場人物】
縞田 透(しまだ とおる)
●寧々子の魂が入ってくる
29歳 工場勤務 気が弱いが一途で真面目。
逢沢麻美(あいざわ まみ)
●伸斗の魂が入ってくる
28歳 ウェディングプランナー 美人で酒豪でツンデレ。
堂本伸斗(どうもと のぶと)
●梨依音の魂が入ってくる
35歳 自転車屋経営 強面だが優しいオッサン。
安西寧々子(あんざい ねねこ)
●来翔の魂が入ってくる
20歳 漫画家の卵 おどおどしてて見た目が幼い。
虎口梨依音(ここう りいね)
●透の魂が入ってくる
24歳 来翔の彼女 快活明朗で元気印なバカ。
長内来翔(おさない らいと)
●麻美の魂が入ってくる
26歳 梨依音の彼氏 とても明るい愛すべきバカ。
【配役】3:3 約90分
透(●)/透(M)/透(寧):
麻(●)/麻(M)/麻(伸):
伸(●)/伸(M)/伸(梨):
寧(●)/寧(M)/寧(来):
梨(●)/梨(M)/梨(透):
来(●)/来(M)/来(麻):
-------------------------------------------
【演じ方】
透(●)/透(M)/透(寧):←これ全て、透 役の人がやります
麻(●)/麻(M)/麻(伸):←これ全て、麻美 役の人がやります
伸(●)/伸(M)/伸(梨):←これ全て、伸斗 役の人がやります
寧(●)/寧(M)/寧(来):←これ全て、寧々子 役の人がやります
梨(●)/梨(M)/梨(透):←これ全て、梨依音 役の人がやります
来(●)/来(M)/来(麻):←これ全て、来翔 役の人がやります
※(●)は、役の本人で演じて下さい。
※(M)は、役の本人のモノローグ。
※(名前)は( )内のキャラで演じて下さい。
※PCなどで、キャラの色付けするとき(F3など)
⇒(例)透 役の場合
透( ←ここまでを検索対象にすると、わかりやすいです。
-------------------------------------------
【あらすじ】
ある日突然、6人の身体が入れ替わった。
戸惑いながらも、元の身体に戻る方法を探っていく、ファンタジックコメディー。
-----本編-----
麻(●):ある日、突然、目に映る景色が違ったら、貴方ならどうしますか?
来(●):怖いよね、不安だよね。思わず、現実逃避、したくなるよね。
梨(●):え? そんな事、起こるわけないって? うーん、それはどうかなぁ?
透(●):理屈や常識が、通用しない出来事だって、世の中には、きっとたくさんある。
寧(●):このお話は、そんな世界に迷い込んでしまった、6人の男女の物語。
伸(●):信じられない現実を、彼らは受け入れ、そして乗り越えられるのか……。
透(●):(タイトルコール)
Shuffling Destiny
■2022年5月9日 15時00分■
来(M):……い、いたたたた。一体、何が起きたんだ?
伸(M):……いきなり、目の前が真っ暗になって。
梨(M):……目が覚めたら、なんだか大変な事に。
透(M):……どうして、こんな事になったんだろう?
寧(M):……今でも、し、信じられない。
麻(M):……悪い夢でも、見てるのかしら。
全員 :これ俺(私)の身体じゃなーい!!
麻(伸):と、とりあえず、整理しないか?
来(麻):なんで、私が喋ってるの!?
寧(来):って言ってる君が、俺の身体に居るんだけどね。
透(寧):わ、私が喋ってる……。
伸(梨):じゃあ、ないちゅんは……この女の子になっちゃたの!?
寧(来):え~っと、ないちゅん呼びするって事は……。
えぇーー!! ここっち、こんなオッサンになってるの!?
麻(伸):オ、オッサンとは失礼な!!
来(麻):えぇ、私の身体に居るの、貴方なの……。
麻(伸):な、なんだよ、悪いかよ?
(何か、落ちてるものを見つける)
って、ん? なんだこれ、何か落ちてるな。
梨(透):わぁぁぁ!! それ、僕のです!!
(落ちていたものを拾い上げて、ポケットに入れる)
伸(梨):おお! あたしの身体だ!!
梨(透):と、とにかく、今すごく、ややこしい状況になってますから。
みんな、一旦落ち着きませんか?
透(寧):お、落ち着ける状況でも、無い気がしますがぁ。
伸(梨):(挙手しながら)
はいはいはい!!
じゃあね、じゃあね、皆で自己紹介していこうよ!
誰が、誰の身体に入ってるかも、もう一回整理しよー!!
寧(来):えっと、このオッサンが、ここっちなんだよね。
うん、ここっちぃ~~天才!! さすがだよぉここっちぃ~~!!
麻(伸):ま、またオッサン呼びしやがって。
(咳払い)
じゃあ、とりあえず、その”オッサン”から、自己紹介していいか?
梨(透):そうですね、お願いします。
麻(伸):……っつっても、何、話せばいいんだ?
透(寧):な、名前とか、年齢とか、仕事とか?
麻(伸):名前と年齢と、仕事もか? まぁいいや。
俺の名前は、堂本伸斗。35歳だ。
伸(梨):やっぱ、オッサンじゃぁ~ん!!
麻(伸):うるさい!! なんだか自分が自分に言ってるみたいだ。
とにかく、この奇妙な状況を整理するために喋ってんだから、黙って聞いてくれ。
伸(●):俺の名前は、堂本伸斗。35歳。自営業をしている。
10年くらい前に、当時、勤めていた会社が倒産してな。
そっから、実家がやってた自転車屋を継いで、今に至ってる。
街の外れで、小さな店だけどさ、毎日色んなやつが来るし、なかなか楽しいもんだぜ。
麻(伸):まぁ、そんなところで、いいか?
梨(透):あなたが、堂本さん。
麻(伸):”のぶ”でいいよ。
梨(透):じゃあ、のぶさんで。
寧(来):せっかくだから、オッサンが入ってる身体の人が、次、自己紹介したらいいんじゃね?
伸(梨):あの子が、ないちゅんよね!
さぁすが~ないちゅん、かっこいい~!! あ、でも、今は超カワイイ!!
来(麻):わかったわよ。じゃあ私がやればいいのね。
伸(梨):おぉ! ないちゅんの身体だ!!
来(麻):今、のぶさんが入ってる身体の持ち主が、私。
麻(●):名前は、逢沢麻美。28歳。
仕事は、大学卒業してからずっと、都内のホテルで
ウェディングプランナーをしているわ。
結婚したい男女の幸せのエスコート、って言えば、すごく素敵に聞こえるけど。
サービス残業は当たり前、休日出勤は当たり前。
だけど……。
どんなに疲れてても、新郎新婦の前じゃ、いつだって笑顔でいないといけない。
ある意味、地獄の仕事よね。
寧(来):あはは、その言い方よ。
だけどさ、バリバリのキャリアウーマンだねぇ~!
来(麻):別に。やりたくてやってる仕事でもないし。以上よ。
じゃあ、次は、この身体の持ち主。 あなたよ、お嬢ちゃん。
寧(来):お、お嬢ちゃんって!!
ははは、まぁ見た目が小学生じゃ、そう呼ばれても仕方ねぇか!
透(寧):し、小学生じゃありません!!
寧(来):あははは!!
えっと、さっき喋ってたキャリアウーマンが入ってる身体の持ち主が俺。
来(●):俺の名前は、長内来翔。26歳で、仕事は軽ワゴンに乗ってドーナツ売ってる!
大好きな俺の彼女の、ここっちと一緒にな!!
ここっちは、俺の事、”ないちゅん”って呼んでるけどさ!
でも、この呼び方は、ここっちだけのものだから、あんた達は……
そうだなぁ、”らいちゅん”とかどう?
梨(透):それ、あんまり変わってなくないですか?
寧(来):そんな事ないよぉ、ここっちぃ!!
〈寧々子が梨依音の肩を抱く〉
梨(透):あ、あの、この身体の中身は、彼女さんじゃありませんよ。
寧(来):ぬわあぁぁ!!
伸(梨):ないちゅん、間違えるなんてヒドスぅぅ!!
寧(来):あはは、そうだった!! ごめりん、ここっちぃ!!
まぁ、呼び方は、好きに呼んでよ!!
じゃあ次は、この可愛い少女の持ち主さんだねぇ。
透(寧):あ、は、はい!
あの、私は、その、喋るのは、あまり得意な方じゃないんだけど。
寧(●):私の名前は、安西寧々子。
見た目は幼く、見えるかもしれませんが、一応、今は20歳です。
高校の時は、ファミレスや、お寿司屋さんでバイトしてましたが、
今は、現役の大学生で、バイトはしてなくて。
仕事というか、漫画家になるために、勉強中というか。
麻(伸):へぇ、漫画家目指してるんだ!!
夢を持つって素晴らしい事だと思うよ!
透(寧):あ、ありがとうございます。
でも、プロの道は厳しいって言いますし……
周りは上手いって褒めてくれるけど、自信はあまりなくて。
伸(梨):だいじょうびーだよっ! ねこちゃんっ!!
透(寧):だ、だいじょうびー? ね、ねこちゃんって。
伸(梨):あたし猫ちょー好きなの!!
寧々子ちゃんも、見た目、ちょー可愛いから、呼び名は、ねこちゃん!!
どぉ思う? ないちゅん!
寧(来):可愛い可愛い!! ここっちが考えた呼び名なら、なんでも可愛いよぉ!!
麻(伸):おい、そこのバカップル!!
透(寧):あ、ありがとうございます。
わ、私の自己紹介はこれでおしまいです。
私が入ってしまっている、この身体の持ち主は……。
梨(透):あ、じゃあ、僕ですね。
透(●):僕の名前は、縞田透です。29歳で、工場でアルバイトしています。
僕の勤めてる工場では、ワッシャーを作っています。
ワッシャーって分かりますか?
あの、ボルトやナットを締めるときに挟む、輪っかのような金属です。
いつも仕事でこき使われてて、バイトなのに、なかなかの社畜ですよ。
それ以外は、まぁこれといって、何の面白みも無い、至って普通の人間です。
来(麻):その割には、しつこいほど、私に言い寄ってくるけどね。マジうざい。
梨(透):ま、麻美ちゃん!!
伸(梨):おぉ~!! あたしたち以外にもカップルが!!
来(麻):カップルじゃないわよ!!
梨(透):麻美ちゃん! 僕は、本当に君を心の底から愛しているんだよ。
ずっと、ずっと、君だけを見つめているんだよ。
来(麻):その、女々しい感じやめてよ! 今は女の身体に入ってるんだから……。
伸(梨):あ!! ちょっと待って!!
来(麻):な、なによ!!
伸(梨):”透っち”だったよね。
梨(透):と、透っち?
伸(梨):透っちはぁ、”まーみやん”の事が好きなんだよね!!
来(麻):ま、まーみやんって何よ!!
伸(梨):いいよぉ、透っち!! あたしが許してあげる!!
梨(透):ゆ、許すって、何を?
伸(梨):その身体で、まーみやんに、チューしてもいいよ!!
梨(透):なっ!!
来(麻):な、何を言ってるのよアンタわ!!
伸(梨):だってさ、二人がその身体でチューするってことは、身体だけなら
あたしと、ないちゅんがチューした事になるじゃない?
寧(来):おぉぉ!! ここっち、冴えてるぅぅ~!!
梨(透):い、いいんですか!?
伸(梨):男なら、グイっといっちゃいなさいよぉ!!
梨(透):わ、わかりました!!
というわけで、麻美ちゃん、僕の熱い口づけをぉぉ!!
〈平手打ちされる〉
いたぁぁぁい!!
伸(梨):あぁぁぁ!! あたしのほっぺがぁ!!
来(麻):というわけで、じゃないわよ!!
バッカじゃないの!!
伸(梨):ちっ。惜しかった。
来(麻):あのねぇ!!
これはアンタの彼氏の身体かもしれないけど、今、心は私なんだから
出来るわけないでしょ!!
伸(梨):じゃあ、あたしとする?
来(麻):え!?
伸(梨):あたしなら、迷わずできちゃうけどなぁ~。
寧(来):ちょーっと待ったぁ!!
麻(伸):それは勘弁してくれ!!
寧(来):ここっちぃ~。
いくら心がここっちでも、俺の身体は、こんなオッサンと
チューしたくないと思うよ!!
麻(伸):それはこっちのセリフだろうが!!
お前らは、カップルだからいいかもしんないけど
こっちは巻き添えも良いとこだよ!!
だいたい、そもそもが、見るに堪えられないだろ。
寧(来):想像しただけでも、ゲロりん出てきそうだよ。
伸(梨):そっかぁ、いい案だと思ったんだけどなぁ~。
透っち、また次の案を考えよーね!
梨(透):え? あ、はい!!
来(麻):考えなくていい!!
梨(透):あ、そうだ。じゃあ、この身体に入ってる、”ここっち”さんでしたっけ?
最後に自己紹介をお願いします。
伸(梨):はーい!! 待ちくたびれたよぉ~。
梨(●):あたしの名前は、虎口梨依音。24歳だよ!
さっき、ないちゅんも言ってたけど、ワゴン車でドーナツ売ってるんだよ!
ないちゅん、ドーナツ揚げるの上手いんだぁ!!
でね、”ここっち”も”ないちゅん”も、お互いの苗字が由来している、あだ名なんだよ!
”ないちゅん”は私のもので、”ここっち”はないちゅんだけのものだから
みんなは、あたしのことは、”りぃねたん”って呼んでね!
麻(伸):ただでさえややこしい状況で、あだ名までややこしくなったら覚えられん。
伸(梨):へへへ! まぁ、呼び方は何でもいいよ!
これで、自己紹介は終わり~!! 誰が誰だかわかった?
透(寧):わかったような、わからないような……
梨(透):うーん、正直、まだしっくりこないですね。
麻(伸):だけど、なんでこうなったのかは知らないけど、なんとか元に戻る方法を考えないと。
梨(透):そうですね。こんな感じのファンタジー作品なら聞いたことありますけど。
たいてい、そういうのって、漫画やドラマだけだと思ってたのに……。
多分、ここ、現実世界ですよね。
〈寧々子の電話が鳴る〉
寧(来):あ、電話だ!
っつっても、俺のじゃないんだった。
え~っと、誰だろう?
透(寧):ち、ちょっとぉ、勝手に携帯触らないでくださいぃ~。
寧(来):おぉ、ごめりんごめりん!!
(携帯を渡す)
ほい、どうぞ。
透(寧):ありがとうございます。
(電話に出る)
もしもし、安西です。あ、みくるちゃん、久しぶりだねぇ!!
……え? 誰ですかって。私は……。
寧(来):ふふふ、身体、こっちだぜ。
透(寧):あぁ~! そうでした……。
えっと、わた……じゃなくて、僕は、僕はぁ……。
あぁ、ね、寧々子の兄の、暮太郎《くれたろう》です。
……え? なんか声が変わった?
ひ、久しぶりに話すから、そう聞こえるのかも、しれないね!
あは、あはははは。
今、寧々子は……、えっと、寧々子は……。
あぁ、フォンダンショコラ作ってます!
昔から、お菓子作るのが好きな子でねぇ~。
……え? じゃあ、近くに居るんじゃないかって?
あぁ、えっとね……。 あ、そうだ!
作ったショコラをラスベガスで売るんだって言って、さっき出ていきました。
え? 携帯を置いて行ったのかって?
そ、そうなんだ、妹はそそっかしくてね~。
帰ったら、みくるちゃんに連絡するって言ってたよ。
……え? いつ帰ってきますかって?
ど、どうだろう~、すぐに元に戻れるなら……。
……え? あぁ、なんでもないの、こっちの話。
……あ、ショコラが売り切れたら、帰ってくるんじゃ、ないかなぁ、多分。
あぁ、いえいえ、じゃあ、また。
〈電話を切る〉
……あぁ、疲れた。
麻(伸):喋るの苦手だって言ってた割には……。
梨(透):よく喋ってましたね。ふふ。
来(麻):ところでさぁ。 私たち、ここで倒れる前、何してたか覚えてる?
寧(来):ん~、全然覚えてない!
伸(梨):あたしも!!
麻(伸):えっと、たしか……。
透(寧):なんだったかなぁ、なにかが、動いてたような。
梨(透):……コースター。 ジェットコースターだ!!
たしか、「ラブ・サターン」っていうアトラクションだったと思います。
寧(来):あ、そうだぁ!!
伸(梨):そういえば、コースター乗ったね、ないちゅん!!
梨(透):思い出してきた。
随分、木々が並んでるから、ここ、どこだろうって思ってたけど。
ここ、遊園地ですよ。 ……っても、現在地は随分、端の方ですが。
麻(伸):あぁ、ほんとだ。
現実を受け入れるまでに時間がかかって、遊園地に居る実感がなかったよ。
来(麻):でさ、思い出したんだけど。
私たち、その「ラブ・サターン」に、一緒に乗ってたメンツじゃないかしら。
透(寧):あぁ、そういえば、あのコースターは、1台6人乗りでしたね。
麻(伸):なるほど、これで、この6人の共通点がわかったわけだな。
どおりで、カップルが2組も居やがるわけだよ。
来(麻):ちょっと待って。なんで2組なのよ。
私たちは付き合ってないって言ってるでしょ。
梨(透):そんなぁ、麻美ちゃん……。
来(麻):っていうかさ、私たち、このまま元に戻れなかったら、どうするの?
嫌でも時間は進むし、明日だって来るんだよ。
透(寧):親も、心配するだろうし、戻れないのは困るな~。
みくるちゃんにも連絡しないとだし。
麻(伸):とにかくさ、皆で協力して、元に戻る方法を探さないか?
皆で協力すれば……って。
あれ、あの2人、どこ行った?
来(麻):あの2人?
麻(伸):あのバカップルだよ!
いつの間に消えて……って、あぁ!! あんなとこに居る!!
透(寧):なんとか、あの2人にも、協力してもらわないと。
かたっぽは、私の身体なわけだし。
麻(伸):そう、もうひとつは俺の身体。
ったく、好き勝手やってくれんじゃねーってんだよ!
おい皆、あいつら追いかけよう!!
おーーい! バカップル!! 待てぇぇぇー!!
〈皆、走り出す〉
■2022年5月9日 15時30分■
〈各々が、バカップルに追いつく〉
来(麻):はぁ、はぁ、やっと追いついた。
麻(伸):おい、お前たち、勝手な行動はやめてくれよ。
梨(透):君たちは、何をしてるの?
透(寧):あれ、何だろう。すごく、いい匂いがする~。
寧(来):へっへっへ~!
さっき、色々話してた時に思い出したんだ。
俺と、ここっちは、この遊園地でドーナツ販売してたんだって事をね!
伸(梨):ちょうど休憩中だったから、ワゴンも閉めてたの!
皆、お腹空くかなって思ってさ、ドーナツ作ろうかなってね!!
寧(来):美味しいドーナツを作る事なら、おまかせあ~れ~!!
伸(梨):いぇい!! ないちゅん!!
麻(伸):なんだよ、そう言うことかよ。 まぁだとしても、一言くらい声かけてくれよ。
今、お前たちの身体は、お前たちのものじゃないんだ。
てか、なんでそんなに順応が早いんだよ!
伸(梨):だってぇ、どんな姿してても、ないちゅんは、ないちゅんだし~!!
寧(来):ここっちもぉ、どんな姿してても、……うん、まぁ。
麻(伸):おい、なんで最後まで言わねぇんだよ!!
寧(来):いや、別に。
伸(梨):ないちゅん、ヒドス……。
梨(透):あっ……。
来(麻):ん? どうしたの?
梨(透):あのですね、行きたくなっちゃった。
来(麻):どこに?
梨(透):……トイレ。
来(麻):……あ。あぁぁぁ!!
寧(来):なになに、どしたの?
来(麻):そうよ、トイレ問題があったわね。
今の感じじゃ、なんとなくだけど、すぐに元の身体に戻るのは難しそうだし。
いずれは来ると思ったけど。
ここちゃん、ねこちゃん。あなた達の身体に入ってるのは、男よ!!
し、しかも、私の身体に入ってるのは……お、おっさ……
麻(伸):(被せるように)
もういい!! みなまで言うな。
まぁ、確かに、異性の身体に入ってしまってるという現状では
色々問題はあるだろう。
さっき、走った時に、上半身が揺れて走りにくかったのも事実。
来(麻):うぅ、この変態オヤジ!!
伸(梨):なんで、あたしに言うのよぉ。
来(麻):だって、面と向かったら、自分なんだもん。
伸(梨):あたしは、もぉいいかな。現実的に仕方ない状況だし。
女だって嫌かもだけど、男だって、女性に自分の身体見られるの
嫌な人も居るんじゃないかな~?
ふふふ、なんつって~!!
寧(来):ここっち!! 優しいんだね、ここっちぃ~!!
俺、感動したよぉ!! 泣いても良いかなぁ!!
伸(梨):あたし、良いこと言った風だったでしょ~!!
ないちゅん、もっと褒めていいよぉ!!
来(麻):……まぁ、そうね。今さら、仕方ないもんね。
透(寧):私も、この身体に入ったと知った時に、もろもろ諦めました。
梨(透):じゃあ、ちょっと、失礼しますね、ここちゃんさん。
来(麻):仕方ないから、私も付いて行ってあげるわよ。
伸(梨):お? そのままチューしちゃってもいいぞぉ~!!
来(麻):しません!!
■2022年5月9日 17時00分■
透(寧):はぁ~。もぉ、この身体になって2時間くらい経ちましたね。
元に戻る方法の糸口もわからないまま、一日が終わるんでしょうか。
寧(来):ほい、お待たせ!!
特製のあんクリームドーナツだよ!!
透(寧):わぁ、美味しそう!!
伸(梨):ないちゅんが作るドーナツは、世界で一番美味しいよ!!
このドーナツ、ひとつひとつに、愛がこもってるの!! あたしへの!!
麻(伸):その愛を、我々が食べてもいいんだろうかね。
寧(来):今日は特別だぜぇ! いっぱい食ってくれよ!
梨(透):それは、楽しみですね!
来(麻):私も頂こうかしら。
麻(伸):そうか、じゃあ、俺も。
梨(透):あ、そういえば、らいとさん、でしたっけ?
寧(来):ん? どうしたの?
梨(透):いえ、らいとさんの身体は、太りやすかったりとかしますか?
寧(来):うーん、どうかなぁ。
学生の頃、無理やり、身体を大きくしたことはあったけど……。
なんでなんで?
梨(透):麻美ちゃん、甘いものに目が無くて。
あと、あぁ見えて、すごい量を食べるんです。
寧(来):まじで? めっちゃ作り甲斐あるじゃん!!
まーみやん、遠慮せずに食べてな!!
俺の身体だって気にしなくていいから!!
来(麻):あ、はい。
もう、透ったら、余計な事言うんじゃないわよ。
……でも、この身体、すごく筋肉質で、素敵じゃない。
寧(来):へへへ、鍛えておいて良かったよ!
伸(梨):ところでさ、透っちの事、透って呼んでるんだね!
来(麻):え?
伸(梨):ねぇ、二人は、どうやって出会ったの?
来(麻):そ、それは……。
梨(透):居酒屋ですよ。
来(麻):ちょっと、透!
梨(透):あの日、僕は仕事だったんですが、残業してたら終電逃しちゃって。
朝までやってる居酒屋に行ってみたら、麻美ちゃんが、そこで飲んでたんです。
来(麻):そんな話、しなくてもいいじゃない。
伸(梨):えぇ~、面白そう。もっと聞きたいなぁ~!
梨(透):えっと、あれは、確か……。
■(回想)2018年2月3日 01時30分■
透(●):うぅぅ寒い!!
(溜め息)あ~あ。残業なんか、やめとけばよかったな。
何が1時間だよ、3時間も残業させやがって。
あ~あ、酒でも飲もうかな。
……朝5時まで営業? ここにするか。
透(M):僕はたまたま、目に入った居酒屋に入ったんです。
客はほとんど居なかったけど、やたら上機嫌の人が居て。
麻(●):(カウンターに座ってる。かなり酔ってる)
♪お~お~おぉ~、さぁWAになって踊ろぉ~
らんらららんら~らぁ~、夢をかなえるぅよぉ~
ってかぁ!!
あははは、この歌、大好きなんだよねぇ~!!
お父さん、もう一杯!!
……え? やだなぁ、私なら大丈夫れすよ~!
日本酒、冷やで入れてくらはい!!
透(M):すごく楽しそうに飲んでたから、つい声をかけたくなって……。
透(●):(隣の席に座る)
あの、すいません、ここ良いですか?
麻(●):お? お兄さん!! どうぞどうぞ、お座りくらはい!
透(●):随分、ご機嫌じゃないですか。何かあったんですか?
麻(●):よ、よくぞ、聞いてくれましたお兄さん!!
今日はね、私の、誕生日なの!!
うーん、まぁ正確には、昨日だけどね!
なのにさ、残業でさ、終電逃しちゃったんですよ!!
透(●):あ、そうなんですね。僕も一緒ですよ!
麻(●):ウエディングプランナーって、なんなんでしょうね。
いつもいつも、幸せな人たちを見て、幸せをおすそ分けしてもらいます~
なんて、言うけどさ。
返ってくる言葉は、「あなたも早く幸せになってね」だってさ。
なりたいですよ、幸せに、私だって!!
もぉ24歳だもの。そりゃあ色々考えますよ。
なのにさ、付き合ってた彼氏には、去年のクリスマスに、フラれちゃうし
誕生日に終電逃すし……。
もぉ、ここ最近、良い事何もなくってさ~……。
透(●):あぁ、そうだったんですか。
麻(●):私は幸せを提供してるんじゃない!!
幸せをもらってるわけでもない!!
ただ、ただ、生きるために、生活の為に、仕事してるの!!
幸せになるためにぃ~!!
透(●):……よく、わかりますよ。
僕は、工場でアルバイトしてますけど、別にこの仕事がしたいわけじゃないし。
かといって、やりたい仕事も無いし。
生きるために、仕事しています。
麻(●):……なんだか、わからないけど、お兄さんとは、気が合うかもね!!
透(●):こ、今度、一緒に食事に行きませんか?
好きなもの、おごりますよ!
麻(●):……なに、ナンパしてくれるの?
こんな、寂しい女を、ナンパしてくれるんですか?
手慣れたお兄さんだことで。
透(●):いえ。人生で初めての、ナンパです。
本当ですよ。
麻(●):ふふ、ふふふ。
……いいよぉ。じゃあ、回転ずし、行きたい!
透(●):か、回転ずしですか?
麻(●):お米、たくさん食べたいの! 付き合ってくれるんでしょ?
透(●):わ、わかりました。
麻(●):やったー。寿司だ寿司だシャリだ~!!
透(●):シャリ!?
麻(●):お兄さんも、お米、いっぱい食べなよぉ~!
透(●):は、はい!
■(回想)2018年2月3日 10時00分■
麻(M):私は、どうやって帰ってきたのかわからなかった。
どこで、何をしたのかも。
ただ、朝起きたら、とにかく酒臭かったのだけは覚えてる。
麻(●):ん、メールだ。……うぅぅ、頭が痛い。
……えっと、「今夜、お寿司食べにいきませんか。おごりますよ。透より」。
透……誰だろう。あぁぁ、だめだ、頭がぁぁ。
(深呼吸)
でも、きっと、昨日一緒に飲んだ人なんだろうな。
おごりなら、行っても良いかな。
■(回想)2018年2月3日 20時15分■
寧(●):いらっしゃいませ。お席ご案内いたします。
ごゆっくりどうぞ。
麻(●):透……さんですよね?
昨日は、なんかすみません。相当酔っぱらっちゃってて、あんまり覚えてなくて。
透(●):あぁ、いえ。
麻(●):……。
透(●):……。
麻(M):会話が続かないなぁ。あぁ、何か話さないと……。
〈パトカーと救急車が通りすぎる音がする〉
麻(●):あ、今、パトカーと救急車が通りましたけど、何か事故でもあったんですかね。
透(●):え、あぁ、どうでしょうか。
麻(●):……。
透(●):……あの。 本当に突然ですみません。
昨日、色々お話しする中で、なんだか、他人のように思えなくて。
いきなり誘うのもどうかと思いましたが、来てくれてありがとうございます。
麻(●):あぁ、いえ。
……じゃあ、食べましょうか。 いただきます。
透(M):彼女は食べだした。そう、食べだした。
彼女のペースは凄まじかった。流れてくる寿司が、ことごとく消えていく。
たった30分で、100貫を平らげた。
途中、寿司をおかずに、白米まで食べていた。
その見事な食べっぷりに、僕は心を掴まれてしまったんだ。
綺麗なその指が皿をとって、寿司をつまみ、彼女の口の中に消えていく。
なんて、美しいんだろう……。
僕は、この瞬間、恋に落ちたんだ。
透(●):す、すごい……。
麻(●):ふぅ、ごちそうさまでした。
透(●):あ、あの。
麻美さん、僕と結婚してくれませんか!?
麻(●):……は、はい?
透(●):僕はあなたに惚れました! 僕と結婚してください!
麻(●):いや、あの。
透(●):返事は、今すぐとは言いません。ずっと待ってますから。
じゃあ、会計してきますね!!
麻(●):あ……。
透(●):……麻美さん!!
大変申し訳ありませんが、50円貸していただけませんか。
財布、空になっちゃいました。
麻(●):え? あぁ、はい。
■2022年5月9日 17時30分■
梨(透):と、まぁ、こんな感じで出会って、恋をして、今に至ってるって感じですかね。
伸(梨):ほぇ~。
……っていうか、展開早すぎじゃない!?
麻(伸):確かに、酒の席で出会って、次の日にプロポーズってなぁ。
来(麻):そうでしょ? 信じられなかった、マジで。
寧(来):まぁ、まーみやんの酔い方も、かなり衝撃的な感じではあったけどなぁ!
来(麻):そこは……言わないで。
そもそも、こっちは結婚に関してはプロ中のプロよ。
よくあんな口説き方で、結婚出来ると思ったわよね。
寧(来):まぁ、当然、断ったんだろうけどさ。
でも、今もこうやって、一緒に居るってことは。
まーみやんも、まんざらではないんじゃね?
来(麻):そんなこと、ないわよ。
伸(梨):でもでも、今日は一緒に、この遊園地に来てたんでしょ?
デートでしょ、デート!!
来(麻):そんなんじゃ、ないわよ!!
透が、話したい事があるって言うから来てみたら、遊園地だったの。
梨(透):来てくれて、嬉しかったよ、麻美ちゃん!!
透(寧):……私は、良いと思うなぁ、そういうの。
来(麻):え?
透(寧):私は、そういう、瞬間で恋に落ちるっていうか、なんか運命的な出会いって
すごく素敵だと、思います。
伸(梨):まぁ、そこは人それぞれだよね~!
梨(透):らいとさんと、ここちゃんは、どんな出会いだったんですか?
寧(来):俺たち?
えーっと、俺たちの出会いは確か、4年くらい前だったっけか~?。
伸(梨):ふふふ、実はね……
■(回想)2014年6月10日 16時30分■
梨(M):今からもう8年も前になるかなぁ。あたしは高校1年生だった。
当時のあたしは、今からは想像できないくらい、陰キャだったの。
周りの女の子たちの話題についていけなくて、いつも独りぼっち。
だけど、そんなあたしにも、好きな人は居たの。
筋肉質で、ガタイの良い、2個上の先輩で、レスリング部のキャプテンだった。
来(●):よぉーし、今日の練習、終わり!
今年は絶対、県大会に行って、暴れまわってやろうぜ!!
じゃあ、解散!!
梨(●):先輩、あの、お疲れ様です!
来(●):ん? お前は、1年生か。 新しいマネージャー?
梨(●):いえ、違います。 あの、もし良かったら、これ、食べて下さい!
手作りだから、美味しくないかもしれないけど……。
それじゃ、さよならー!!
〈梨依音、走り去る〉
来(●):え? おい。おーい!!
……なんだ、あの子。 食べて下さいって、これは……手作りドーナツ?
■(回想)2014年8月5日 16時30分■
来(M):県大会をかけた、地方大会の予選。
結局、俺たちは負けてしまった。
来(●):ばかやろー!! くよくよしてんじゃねー!!
確かに、俺たちの夏は、ここで終わっちまったけど
なにも、人生が終わったわけじゃねーんだ。
俺たちが果たせなかった、県大会出場の夢は、後輩のお前たちで叶えてくれ!!
最後は笑顔でサヨナラしようぜ!! な?
あはははは!!
梨(M):先輩は、いつも明るかった。 まるで太陽のような人。
陰キャのあたしには、とても眩しい存在だったんだ。
だけど、その日、みんなが帰った体育倉庫で……。
来(●):(号泣)うぅぅぅ、うぅぅぅぅぅ……。
梨(M):先輩はずっと泣いていた。
■(回想)2018年2月3日 20時00分■
梨(M):それから数年が経って、あたしはアパレルショップでバイトしてた。
高校卒業して、社会に揉まれていくうち、少しずつ自分を出せるようになってきた。
そして、運命のその日を迎えた。
来(M):大学中退して、もうすぐ2年。ずっとやってきたのは、レスリングだけだった。
今年は、国際大会とかに選抜されるように、結果残していきたいなって思ってた。
そして、運命のその日を迎えた。
梨(M):いつものように、バイトが終わって、ふらふら帰り道を歩いてたら
いきなり、どこかのおじさんがぶつかってきて。
その拍子で、勢いよく路上まで転がされちゃったの。
あたしも、すぐ立ち上がれば良かったんだけど、あたしを突き飛ばしたおじさんを
血相を変えて追いかけてる男の人がいてさ。
伸(●):おい!! 待ちやがれ!! 財布返せぇ、このやろーー!!
梨(M):多分、ひったくりにでも、逢ったんだろうね。
ボーっと、その人たちを眺めてて、フッと気がついたときには
あたしの目の前に、車が向かってきてて、クラクションが大きな音を立てて……。
梨(●):……うそ!! いやぁぁぁぁぁ!!
梨(M):あたしは死んだと思った。だけど、数秒後、あたしはまだ、生きていた。
来(●):……はぁ、はぁ、はぁ。だ、大丈夫かぁ?
梨(●):……あ、はい。
……え!?
梨(M):目の前に居たのは、高校時代に憧れだった先輩。長内先輩だった。
来(●):めっちゃ危なかったなぁ!! 俺ももうだめかと思ったけど。
怪我、してないか?
梨(●):は、はい! すこし、膝擦りむいたくらいかな……。
来(●):そっか。なら、良かった!!
梨(●):あの、先輩は……
来(●):え?
梨(●):あぁ、いえ、そちらさまは、怪我はないですか?
来(●):まぁ、多分大丈夫。ちょっと、足の感覚はないんだけどね!
梨(●):足……。え? えぇぇぇ!! めっちゃ血が出てる!!
え、え、え、大丈夫ですか!?
来(●):まぁ、なんとか、なるっしょ!!
梨(M):先輩はそう言ったけど、結局、救急車で運ばれた。
右足の複雑骨折で、かなりの重傷だった。
あたしは、先輩に助けられただけじゃなく、先輩からレスリングを奪ってしまった。
■(回想)2018年3月9日 12時00分■
梨(M):1ヶ月くらい入院して、先輩は退院した。
梨(●):先輩、あの、退院おめでとうございます。
来(●):おお、ここっち! 来てくれたのか!!
梨(●):……まだ、慣れないですね、その呼び方。
来(●):ほらほらぁ。また下を向く~!
梨(●):だって……。あたしは、先輩から、レスリングを……
来(●):ちょーっと待った!!
入院中、ずっとその話!!
……ここっちが、気にする事じゃないって、言ったじゃん?
あれはさ、神様がさ、俺に、レスリングはもぉ諦めなよぉ~って、言ったんだよ。
梨(●):だけど……
来(●):いいか、ここっち!!
人は、後ろばかり見てちゃだめなんだぜ!
高校の時、最後の夏で負けて流した涙が、俺の最後の涙だと思ってる。
泣いてばかりいちゃ、涙の音で、幸せの音がかき消されちゃうからなぁ~!!
あははははは!!
何か今、俺、かっこいいこと言った風、じゃない~!?
なぁここっち~。もっと俺を、崇め奉ってもいいんだぜ~? はははは!!
梨(●):……ふふ、あはは!!
来(●):あははは!!
<ふたり笑いあう>
来(●):なぁ、ここっち! 俺と付き合ってくれねぇか?
俺、ここっちが大好きなんだ!!
レスリングでは夢は叶わなかったけど、新しい夢を、ここっちと見つけたいんだ!!
梨(●):……うん!! あたしも、先輩が大好きです!!
一緒に見つけましょう、新しい夢!!
来(●):やったー!!
じゃあ、ここっちは、今から俺の事を「先輩」呼び禁止ね!!
そうだなぁ~。 長内だから、”ないちゅん”ってのはどう!?
梨(●):ないちゅん!? 可愛い!!
ないちゅん!! ……あはは、あはははは!! 可愛いっ!!
来(●):もし、運命の出会いじゃなかったとしても。
俺たちで、運命に変えちゃえばいいさ!!
梨(●):うん!! そうだね、福山雅治さん!!
来(●):あんちゃん、小雪はさぁ~、あんちゃんの事がすきなんだぁ~
梨(●):あはははは! ちょっとにてる!!
透(●):あのぉ、すいません。
来(●):(福山雅治のものまねで)
どうした小雪~?
(素に戻る)
あ。……(咳払い)なんでしょう?
え? 駅に行くにはどうしたらいいか?
……だってさ、ここっち!!
梨(●):駅に行くには、2つ先の信号を右に行って、そのまままっすぐだよ!
説明してあげてね、アントニオ猪木さん!!
来(●):(アントニオ猪木のものまねで)
元気ですかぁーー!!
迷わず行けよ、行けばわかるさ!
(素に戻って)
あ。……だ、そうです。どうぞ、お気をつけて!
〈透、駅に向かって歩いていく〉
来(●):ここっち~!! あそこで振っちゃいけねぇよぉ~!!
ちょ~恥ずかしいじゃん!!
梨(●):あはは!! でも、似てたよ~!! あはははは!!
〈ふたり笑いあう〉
■2022年5月9日 18時00分■
伸(梨):こんな感じで、今に至ってるの!!
透(寧):わぁぁ、なんか、すごく感動するエピソードでした!
麻(伸):最後のものまねのくだりは、絶対要らなかったと思うけどな。
寧(来):あれは、俺の得意技だぜ~!! エピソードに添えさせてくれよ~!!
伸(梨):ねぇ、まーみやん!!
今は、ないちゅんの身体に居るんだし、ちょっとやってみてよぉ!
来(麻):やるって、なにを?
梨(透):ものまね、じゃない?
伸(梨):ふぅ~!! 透っち、正解~!!
さすが、あたしの身体に入ってるだけあるね!!
さぁ、まーみやん、福山雅治いってみよー!!
来(麻):あんちゃん、小雪はさぁ……って、やるわけないでしょ!!
梨(透):ちょっとは、やるんだね。
来(麻):うるさいわね!
麻(伸):にしても、よく助けたよな。その勇気には恐れ入ったよ。
寧(来):まぁ、タックルは得意だったからなぁ~! はははは!
伸(梨):あたしには、ヘッドライトより眩しかったよ、ないちゅんの方がぁ!!
麻(伸):はいはい、ごちそうさま。
透(寧):あの、それで。
それから、おふたりの夢っていうのは、見つかったんでしょうか?
寧(来):あぁ、見つかったぜ!!
今、みんなが食べてる、このドーナツ!!
こいつを、世界中に売りさばくのが、今の俺たちの夢だな!!
伸(梨):ないちゅんのドーナツは、もう世界一だよ!!
透(寧):うん、とっても美味しいです!!
麻(伸):高校の時、ここちゃんが、らいと君に渡したのもドーナツで。
そして今、二人でドーナツ屋やってるなんて、そこにも運命を感じるな。
寧(来):オッサン、いいとこに気が付いたな!
麻(伸):あのなぁ!! ……いや、もうオッサンでいいや。
寧(来):へへへ。
運命は、自分たちで変えてやるって言ったろ?
ここっちが、昔くれたドーナツ。あの味がこそが、世界最強の味だった。
俺がいくら作っても、あの味には敵わねえよ。
だから、あの味を越えるまで、ドーナツ揚げ続けてやる!!
伸(梨):がんばれ~!! ないちゅん!!
梨(透):というか、ここちゃんさんが、ドーナツ揚げればいいのでは?
寧(来):へ?
梨(透):だって、高校の時、ここちゃんさんが、ドーナツを作ったんですよね?
伸(梨):……うん。
梨(透):その味を出せるのは、ここちゃんさんなのでは?
寧(来):……。なるほど、その手があったか。
麻(伸):いや、そこ、気付いてなかったんかーい!!
寧(来):ところで、ねこちゃん。
ドーナツ揚げてる時から、気になってたんだけどさ。
ねこちゃんが付けてるこのネイル、凄く可愛いよなぁ!
透(寧):え、あぁ、ありがとうございます。
みくるちゃんていう、ネイリストを目指してる友達が居て。
彼女に、作ってもらったんです。
寧(来):あ、もしかして、さっきの電話の子?
透(寧):あ、はい、そうです。
伸(梨):でも、ほんとにキレイだよね~!
爽やかな青がベースになってて!!
このネイル、何かイメージして作ってもらったの?
透(寧):はい、一応。
みくるちゃんとは、幼馴染で、昔からよく一緒に遊んでたんです。
みくるちゃんは、その頃から、私の描く漫画が好きで。
で、高校卒業する時「一度、描いた漫画をウチに持ってきなよ」って言ってくれて。
来(麻):「ウチに」って?
透(寧):あ、実は、あの、みくるちゃんのお父さんが、出版社に勤めてて。
お父さんに見せてあげるよって。
来(麻):へ~!
透(寧):でも、恥ずかしいから、まずはみくるちゃんに読んでほしいなって思って。
それで完成した時に、みくるちゃんに見せたら、このネイルを作ってくれて。
「漫画を読んだ感想をネイルにしたよ」って。
麻(伸):じゃあ、そのネイルは、ねこちゃんの漫画のイメージだったんだな。
梨(透):その漫画、読んでみたいですね。
透(寧):え? で、でも、恥ずかしいです。
寧(来):俺も、読んでみたいな!!
鞄に入ってる? 持ってこようか?
透(寧):あ、い、いえ! 漫画そのものは、持ち歩いてはないんです。
ただ、表紙だけなら、データはスマホにも入れてるんで、出そうと思えば……。
梨(透):見れるんですか?
透(寧):あ、は、はい。
寧(来):やったー!! 見せて見せて~!!
透(寧):……こ、これなんですが。
寧(来):どれどれ~。
梨(透):タイトルが、「空飛ぶ浮き輪」ですか。
麻(伸):空飛ぶ、浮き輪……?
来(麻):あれ、でもこれ、「浮き輪」っていうか、なんていうか……。
伸(梨):あ、ほんとだ! なんか「タイヤ」みたいだね!!
透(寧):この漫画は、子供向けに描いたやつで……
内容は、どちらかといえば絵本に近いんですが。
実は、この漫画を描くキッカケというのが、ありまして。
……もぉ、10年も前の話しですけど。
■(回想)2012年7月31日 15時30分■
寧(M):10年前。
小学4年生だった私は、友達とプールに行った帰りに、自転車がパンクしてしまい
近くにあった、自転車屋さんに寄りました。
寧(●):あの、こんにちわー。 すみませーん!
こんにちわーー!!
伸(●):はいはい、どちらさま?
おぉ、どうしたぁ、お嬢ちゃん。
寧(M):店の中からは、いかにもガラの悪そうなお兄さんが出てきた。
寧(●):あの、自転車が、パンクしちゃって……。
伸(●):あぁ、パンクかぁ。
おーーい、親父ぃぃ!! お客だぞーーー!! 親父ぃぃ!!
……なんだよ、居ねぇのか。
お嬢ちゃんよ、今、ここのオッサン、居ないみたいだな。
寧(●):え……。じゃあ、あの、パンク、直らないの?
伸(●):え?
寧(●):〈涙ぐみながら〉
明日、みくるちゃんのお家に遊びに行く約束したのに……。
明日は、自転車、乗れないの?
伸(●):お、おい、ちょっと待てよ。
こんな、店先で泣かれちゃ、かなわねぇなぁ。
寧(●):ひっく……だ、だって……。
伸(●):……あぁもう! わかったよ!!
……俺が、直してやるよ。
寧(●):ほ、ほんとに?
伸(●):あぁ。これでも一応、自転車屋の息子だしな。
っつっても、人の自転車を触るのは初めてだから、上手くいくかわかんねぇけどな。
やれるだけ、やってやるよ。
寧(●):……あ、ありがとぉ。
寧(M):いかついお兄さんは、そう言って、黙々と自転車のパンクを直し始めた。
ふと、天井を見上げた時、一台の自転車が天井から吊るされていた。
寧(●):わぁ……。
伸(●):ん? どうした?
寧(●):天井に自転車がぶら下がってる。
伸(●):え? あぁ、あれか。
あれは、今年から販売している、中学生用の自転車だな。
そういや、お嬢ちゃん、いまいくつ?
寧(●):小学4年生です。
伸(●):4年生か。じゃあ、もう少し大きくならないと、あの自転車には乗れないな~。
寧(●):自転車の横に、タイヤもいっぱいぶら下がってる!
伸(●):あぁ。昔から、親父がやってんだ。
子供のころさ、俺も「タイヤが宙に浮いてるぅ~」って、ビックリしたことあったな。
寧(●):ほんとに、宙に浮いてるみたい。
伸(●):お嬢ちゃん、プールの帰りか?
寧(●):え? うん!
伸(●):じゃあ、さしずめ、あの宙に浮いたタイヤは……。
「空飛ぶ浮き輪」ってとこかな。
寧(●):空飛ぶ、浮き輪……。
伸(●):……よし、直ったぜ!!
寧(●):え、あ、ありがとうございます!
〈その時、寧々子の鞄から、何か落ちる〉
伸(●):ん? 何か今、落ちたぞ。
〈伸斗、拾い上げる〉
伸(●):……ん? これは、漫画?
寧(●):あ、あーー!! 見ないで!!
伸(●):これ、お嬢ちゃんが描いたのか?
寧(●):う、うん。
伸(●):へぇ。上手く描けてるな。
ほらよ。
〈漫画を寧々子に渡す〉
もし、またパンクしたら、その時は、またウチに来な。俺が直してやるからよ。
寧(●):あ、あの、お金は?
伸(●):あぁ~。
……ふっ、俺の初めてのお客さんだ。特別にタダにしといてやるよ。
寧(●):あ、ありがとう、お兄さん!
……あ、お兄さん!!
伸(●):あん? なんだ?
寧(●):今日、プールいく前に、朝顔の絵を描いたんだ。
だから、これ、あげるね!
〈寧々子、朝顔の絵を渡す〉
伸(●):へぇ、これも上手く描けてるじゃんか。
ありがとな。
寧(●):あ、あとね……。
伸(●):ん? まだ、なんかあんのか?
寧(●):お兄さんも、この自転車、上手く直せてるよ!
お兄さんに、直してもらえて、うれしかったよ!!
伸(●):……。
……ふっ、バカなこと言ってんじゃねぇよ。
ほら、気を付けて帰るんだぞ。
寧(●):うん! ばいばい、お兄さん!
寧(M):そう言って、見送ってくれたお兄さんの顔は、とても優しかった。
家に帰った私は、早速、空飛ぶ浮き輪の、絵を描いていた。
■(回想)2012年7月31日 18時00分■
伸(M):あの子を見送った後、俺の携帯が鳴った。
俺は、先月まで勤めてた会社が倒産して、無職になってた。
がむしゃらに、転職先を探すも、ことごとく不採用。
その電話は、最後の望みをかけた会社からの、不採用の通知だった。
伸(●):……くそっ。やっぱダメだったか。
伸(M):俺は、携帯を床に叩きつけようとした。
でも、その時、あの子の声が脳裏をよぎった。
寧(●):ありがとう、お兄さん!
お兄さんも、この自転車、上手く直せてるよ!
お兄さんに、直してもらえて、うれしかったよ!!
伸(●):……。
ありがとう、なんて言われたの……、いつぶりだろう。
……自転車屋、かぁ。
伸(M):あの子に出会ったおかげで、俺の人生は変わったんだと思う。
その日を境に、俺は、仕事を探すのをやめた。
そう、実家の自転車屋を継いだんだ。
〈朝顔の絵を見つめながら〉
伸(●):またいつか、あの子、来てくれるかな。
■2022年5月9日 19時00分■
麻(伸):え……ちょっと待て。
あ、あの時の、お嬢ちゃんが、ねこちゃんだったの!?
透(寧):あの時の、お兄さんが、のぶさんだったんですね……。
伸(梨):おぉ~!! なになに、すごい偶然だね!!
梨(透):ほんと、すごい……。 こんな事って、あるんですね。
来(麻):なんか、こうやって繋がってくると、もう偶然じゃないみたい。
麻(伸):空飛ぶ浮き輪って聞いた時、もしかしてって思ったけど。
……なんか、今日は、もう色んな事が起こりすぎて、心臓が痛いよ。
〈麻美、胸をさする〉
来(麻):ちょっとオッサン! 私の胸を触らないでよ!
麻(伸):え? あぁ、そうだった!!
もぉ、ややこしいよ、ほんと。
何とか、元に戻る方法を考えないと……。
梨(透):でも、そろそろ日も暮れてきてますよ。
夜とか、どうしますか?
寧(来):あぁ、それは大丈夫だ。
この遊園地、今夜はオールナイトらしいぜ!
透(寧):え? オールナイト?
梨(透):あぁ、そういえば。
ゴールデンウィークの間、オールナイト営業するはずが
アトラクションのマシントラブルかなんかで、数日潰れたらしく
今日まで延期されてましたね。
寧(来):今日のところは、このままここで、6人で朝を迎えて、明日また考えようぜ。
一応、オールナイト対策として、簡易なテント持ってきてるからさ!
まぁ、狭いかもしれねぇけど、そこで休んでくれよ。
来(麻):私、そうさせてもらおうかな。
少し、疲れちゃった。
梨(透):じゃあ、僕も……
伸(梨):お? またしても、チューのチャンス到来?
来(麻):だから、しませんってば!!
伸(梨):じゃあさ、まーみやん! あたしと少し話そうよ!!
一緒に、テントの中でさぁ!
来(麻):……それは、別に構わないけど。
伸(梨):じゃあ、行こう~!!
〈来翔と伸斗がテントに行く〉
梨(透):(溜息)
はぁ。僕は、やっぱり、麻美ちゃんとは付き合えないんでしょうか。
麻(伸):随分、大きなため息ついたな。
まぁ、この人、確かに美人だし、悪くないと思うけどさ。
女は、麻美ちゃん一人じゃないんだし。
そう、落ち込むなよ。
透(寧):私は、応援したいな。透さんの恋。
麻(伸):え?
透(寧):私、出会った瞬間に運命感じるの、本当に良いなって思うんです。
……こんなところで、言うのも、なんですが。
私、あの、自転車屋で、のぶさんに会ってから。
あの日から、ずっと、のぶさんに恋していました。
麻(伸):え? えぇぇぇぇーーー!?
透(寧):私は、あれからお会いできてなかったですが……。
あの日から、もう10年です。
寧(●):10年ぶりに、こんな形で、再会できるなんて……運命としか思えないっていうか。
今思えば、こうやって「空飛ぶ浮き輪」を、しっかり形に出来たのも、
あの時感じた運命と、10年間、向き合ったからなのかなって……。
だから、ここで、のぶさんに出会えたことは、奇跡とかじゃなくって
本当に、運命なんじゃないかって、そう思うんです。
だから今、この想いを伝えないと、いけないんじゃないかって思って……。
麻(伸):え……。もしかして、今、俺、こ、告白されてる?
梨(透):おそらく、というか、絶対的に、そうじゃないですかね。
透(寧):もちろん、すぐにお付き合いしたいとか、そこまでは考えていませんが
ただ、今までの想いを伝えたいなって、そう思ったら、つい、言ってしまいました。
麻(伸):……。
いや、まさかの展開で、びっくりしたんだけど。
……ほんとに、嬉しい申し出だけどさ。
……ちょっと、返事は待ってくれないかな。
透(寧):え……?
寧(来):なんだぁ、いい感じじゃんよぉ!!
そんな二人には、ほいっ!
甘さたっぷりの、ハッピードーナツだ!!
透(寧):あ、ありがとうございます!!
寧(来):オッサンもさ、格好つけるのもいいけどさ。
自分の気持ちに正直になってやらねぇと、ねこちゃんだって可哀そうじゃね?
麻(伸):いや、別に格好つけてるわけじゃねぇよ。
……ただ、ちゃんと元の身体に、元の俺に戻って、ちゃんと向き合いたいんだ。
伸(●):……実はさ、10年前に貰った、あの朝顔の絵。
昔は財布に入れてたんだけど、一回だけ、ひったくりに遭って失いかけてさ。
もちろん、ひったくりの犯人は捕まえて、財布も絵も戻ってきたんだけど。
あの絵は、俺にとって、大切な絵だったから……。
それからは、額に入れて、店先に飾ってるんだ。
……ねこちゃんは、俺の人生を変えてくれた人だ。
そんな人から、「恋してた」なんて言われて、嬉しくないはずがねぇだろ。
麻(伸):……だからこそ、一緒に、元の身体に戻れるまで、もう少し待ってくれないか?
透(寧):も、もちろんです!!
梨(透):おぉおぉ、青春ですねぇ~。
こうなってくると、余計に僕の心が病んでいきますよ。
あぁ~、どうして僕はぁ~。
あぁ……麻美ちゃん……。
寧(来):まぁまぁ、元気出せよ。
まーみやんだってさ、口では、あぁ言ってるけどさ。
突然のプロポーズから、もう4年も繋がってられる関係なんだろ?
心の底じゃ、待ってるんじゃねぇかな。
梨(透):だけど、いつもいつも、愛の言葉を伝えても……。
一向に、振り向いてくれませんよ。
透(●):僕だって、来年30ですよ。本気で結婚したいって思ってるんです。
麻美ちゃんは、僕が幸せにしてあげたいって、本当に思ってるんです!
僕の想い……麻美ちゃんは、どう感じているんだろう。
今日、麻美ちゃんを呼び出したのは、実は、もう一度……。
あ、いえ、なんでも……ないです。
麻美ちゃんに出会って4年。一度もこの想いは、揺らいだ事はないのに……。
寧(来):……4年間、そんだけの想いをもって、ここまで来たなら。
きっと、伝わるんじゃねぇかな。
梨(透):……え?
寧(来):まーみやんと行った寿司屋で、透っちも、運命感じたんだろ!?
来(●):もしそれが、運命の出会いじゃなかったとしても、自分たちで変えればいい。
運命なんてさ、自分たちの手で、作り出していけばいいんだよ!!
このドーナツみたいにな!! ははは!!
梨(透):らいとさん……。
……そうですね。 ここまで、ずっと思い続けたんだ。
僕も、寧々子さんを見習って、自分が信じた運命に、向き合ってみます。
寧(来):ふぅ~!!
かっこいいじゃん、透っち!!
じゃあ、透っちには、大人の味わい、ビターチョコサンド!!
梨(透):らいとさん。
……ありがとう。
■2022年5月9日 19時20分 / テントの中■
伸(梨):えぇ!? 断ってなかったの、プロポーズ!!
来(麻):う、うん。
返事はいつでもいいって言ってたし、あの時、すぐ付き合うのは出来なかったから
ちょっと待ってくださいって返事したの。
伸(梨):へ~。
でも、ちょっと待ってください、で、もう4年だもんね~。
……ねぇ、まーみやん!
まーみやんは、実際のとこ、透っちの事、どう思ってるの?
来(麻):わ、わたしは、別に……。
伸(梨):嘘だぁ~! ふふふ、あたし分かっちゃうんだよね~。
なんていうの、女の直感、みたいな?
まーみやんはさ、透っちの事が、好きなんだと思うなぁ~。
来(麻):な、なんで、そう思うの?
伸(梨):今のその身体って、ないちゅんじゃん?
ないちゅんの事なら、あたし、全部わかってるもん!
ないちゅんさ、嘘をつくとね、耳が真っ赤になるんだぁ。
今、真っ赤だよ? 耳。
来(麻):……。
ふふ、もう、かなわないな、ここちゃんには。
麻(●):……たしかに、透は好きだよ。
すぐ返事が出来なかったのは、突然だったからってのも勿論あるけど。
あの頃、本当に嫌な事が重なって、相当へこんでたんだ。
自分にも自信を無くして、周りの全てが羨ましく思えた。
でも、透は、そんな私の事を、ずっと想い続けてくれて……。
……だけど、出会った時から、好きだ好きだって言われて。
何度も、同じ言葉を聞いてると、その言葉は本心なの?って不安になるんだよね。
同情して言ってくれてるだけなんじゃないかって……。
私ってさ、なんていうか、アマノジャクだからさ……。
愛を目いっぱい注がれれば、注がれる程……怖くなっちゃうんだよね。
伸(梨):……あたしさぁ。
透っちって、ないちゅんに似てると思うんだよね~。
来(麻):え? どこがよ。
ここちゃんの彼氏さんは、明るくて楽しそうな人だけど。
透は、なんていうか……。
伸(梨):似てるのは、愛情表現だよ。
言い方は違っても、全身全霊で愛を伝えてるって言うのかなぁ~。
ふふ、うまく表現できないけどね。
ないちゅんはさ、周りからは、なんかチャラチャラしてるようにも見られるし
囁いてくれる愛の言葉?ってのも、軽く聞こえてるかもだけどさ。
あたしにはね、すごく響くんだ~。
梨(●):本当はね、ないちゅんに助けられたあの日。
ないちゅんの顔を見て、心が、トンって音を立てたんだぁ。
あぁ、きっとこれは、運命の出会いなんだろうなぁ~って。
あの音が、あたしにとっての、幸せの音だったのかもしれないなぁ~ってね!!
麻(●):幸せの、音……。
梨(●):まーみやんもさ、きっと、自分の気持ちに正直になった時にさ。
聞こえるんじゃないかな? 幸せの音が。
自分から、動き出して、その運命が本物か、確かめに行こうよ!
それで、もし違ったとしても、また変えていけばいいじゃない?
運命は、自分たちの手で、作り出せばいいんだからさ!!
伸(梨):……そろそろ、ないちゅんとこに戻ろうかな。
ゆっくり休んでてね!
〈伸斗、テントから出ていく〉
来(麻):……自分の気持ちに、正直に、かぁ。
■2022年5月9日 21時00分■
透(寧):もぉ、すっかり、夜ですね。
麻(伸):照明が明るいから、あんまり気にならなかったけど、もう21時だぜ。
梨(透):あの、ひとついいですか?
まだ、元に戻る方法は見つかっていないですけど。
こうなってしまった、そもそもの発端は、あのコースターですよね。
もう一度、みんなで、「ラブ・サターン」に乗ってみませんか?
伸(梨):おぉ~! あったまいいねぇ、透っち!
麻(伸):そうだよな……。
なんで最初に、それを試さなかったんだろう。
透(寧):状況が状況だったし……。
梨(透):みんな、余裕がなかったのかもですね。
伸(梨):ないちゅーん、もっかいコースター乗れるよ!!
寧(来):まじかよーー!! ひゃっふー!!
梨(透):……あ、まぁ、余裕のある方も、いらっしゃいますが。
麻(伸):あのバカップルは、ホントに元気だな。
来(麻):とりあえず、もう一度乗ってみましょうか。
何かやらないと、元には、戻れないもんね。
自分から、動き出さなきゃ……。
梨(透):麻美ちゃん?
来(麻):……行こう、透。
みんなも、早く行こう!
■2022年5月9日 22時00分/ラブ・サターン前■
麻(伸):……ここだな。「ラブ・サターン」。
透(寧):数時間前に、ここから始まったんですよね……。
梨(透):もう一度乗れば、元に戻れるんでしょうか……。
来(麻):なんか、ドキドキするよね……。
伸(梨):ないちゅーん早く乗ろ~!!
寧(来):まかせろ、ここっちぃ~!! あはははは!!
麻(伸):って、お前らー!!
少しは緊張感ってもんがないのか!!
寧(来):へへへ!
まぁ、うだうだ考えても、しょうがないっしょ!
さぁ、みんな行こうぜ~!!
来(麻):ちょっと待って!!
……なんか、ここに書いてあるんだけど。
梨(透):あ、ほんとだ。 こんな看板あったかな。
透(寧):最初に乗った時は、気付きませんでしたね。
麻(伸):えぇっと、なになに~。
〈看板に記載されている文字を読む〉
古来より定めを背負ひし者よ
この土星の輪に触れたらば
輪廻の中で己を見よ
願わくば標(しるべ)を見つけ光がさせば
汝らその和をもちて再び集うべし
意をもち一同が介したならば
時経たずして真の己を知る
伸(梨):難しい事書いてるね~。 どういう意味だろう。
ないちゅん、わかる?
寧(来):ん~……。
わかんない!! あはははは!
梨(透):いや、でもこれ、なんか僕たちに少し通じませんか?
来(麻):え?
梨(透):輪廻の中で、っていうのが、なんとなく。
ほら、輪廻転生とも言いますし、僕らもある意味、転生しているというか……。
透(寧):土星ってのは、きっと、この「ラブ・サターン」の事ですよね。
麻(伸):一度、整理してみるか。
最初の「古来より定めを背負ひし者よ」から紐解いてみるか。
梨(透):「定め」っていうのは、おそらく「運命」の事でしょうね。
来(麻):そういえば、今日の会話の中で、運命って言葉、何度も出てたわね。
透(寧):その次の「この土星の輪に触れたらば」っていうのは
おそらく、この「ラブ・サターン」に乗ったら、といったところでしょうか。
寧(来):お、なんか、それっぽいよ、ねこちゃん!
透(寧):あ、ありがとうございます!
伸(梨):じゃあじゃあ、次の「輪廻の中で己を見よ」ってのは
人の身体に転生した時に、転生した身体を見るって事?
麻(伸):いや、多分だけど、転生した身体から「本当の自分」を見ろって事だと思う。
伸(梨):おぉ~!!
来(麻):次が「願わくば標(しるべ)を見つけ光がさせば」だけど……。
麻(伸):標(しるべ)かぁ。
梨(透):自分を見つめ直して、進むべき道を、見つける、とかですかね?
伸(梨):お~透っち、すごいじゃん!!
寧(来):じゃあじゃあ、次の「汝らその和をもちて再び集うべし」ってのは?
来(麻):和って、たしか「答え」って意味もあったわよね。
見つけた答えをもって、もう一度集まれってことかしら。
麻(伸):残りの「意をもち一同が介したならば、時経たずして真の己を知る」ってとこが
何とか、元に戻るって意味だとありがたいんだがなぁ。
梨(透):少なからず、皆、身体が入れ替わってるわけですし。
運命って言葉も、たくさん出てきたのも確かなわけで。
らいとさんが言ったように、うだうだ考えず、まずは乗りませんか?
来(麻):そうね。一度、乗ってみましょう。
寧(来):よぉし!! じゃあ乗ろうぜ!!
みんな、元の身体に戻って、還ってこようぜ!!
〈みんなが頷き、そしてコースターへ乗る〉
-間-
■2022年5月9日 22時30分/ラブ・サターン前■
梨(透):コースター乗り終えたわけですが……。
元に……戻って、ないですね。
来(麻):……なんで。
寧(来):あはは、やっぱダメかぁ~!
伸(梨):まだまだ~、諦めちゃだめだよ~!!
麻(伸):そ、そうだよな。
たった一回乗っただけじゃ、そう、都合よく戻らないよな。
透(寧):じゃあ、もう一回、乗りましょうか。
■2022年5月10日 4時00分/ラブ・サターン前■
透(M):あれから、僕たちは、延々と「ラブ・サターン」を乗り続け……。
麻(M):気が付けば、もう夜明けも間近だった。
伸(梨):も、もぉ、だめ……。
透(寧):さ、さすがに、乗りすぎましたね……。
寧(来):俺なんか、さっきから、乗るたびに、リアルゲロりん、してるんだけど……。
伸(梨):ないちゅん、きたなぁい!!
麻(伸):いや、でも、みんなの体力も、そろそろ限界だろう……。
梨(透):何が足りなんだろう。 絶対、このコースターが関係あるはずなんだけど……。
来(麻):私たち、もう、このまま、元の身体に戻れないのかしら……。
〈一同、少し沈黙〉
寧(来):まぁ、悩んでも仕方ねぇよな。
あ、そうだ、まーみやんに頼みがあるんだけどさ!!
来(麻):え、なに?
寧(来):俺の代わりにさ、その身体でタバコ吸ってくれない?
来(麻):なんでよ!!
寧(来):俺、ちょー吸いたいの!!
だけど、この身体で吸うわけにもいかないじゃん?
透(寧):絶対、やめてください!
寧(来):てなわけだから、よろしく!!
来(麻):てなわけだから、って、意味わかんないんだけど!!
……でも、まぁ、いいわよ。
寧(来):え? いいの?
来(麻):昔、吸ってたことあるのよ。 もうやめたんだけどね。
今日は、なんか特別な日だと思うし、今日くらいは、いいわよね。
……そもそも、私の身体じゃ、ないわけだし。
寧(来):おお! じゃあ、これ!!
〈寧々子、来翔にタバコを渡す〉
来(麻):(タバコを吸う)
ふぅ~~。 ……久しぶりに吸うと、結構苦いね。
(タバコを吸う)
ふぅ~~。
伸(梨):あ!! 見て見て!! 煙が輪になってるよ!!
寧(来):ほんとだ!! きれいな輪になってるね!!
来(麻):輪になってる……。 輪に……。
……あ!!
麻(伸):どうした?
来(麻):ねぇ、「汝らその和をもちて再び集うべし」の和ってさ。
「輪(リング)」のことじゃないかしら!
「答え」の和、じゃなくて、「リング」の輪!!
透(寧):「リング」の輪……。
梨(透):そういえば、僕たち。
なにかと「リング」に関係してませんでしたっけ?
伸(梨):え? 透っち、どういう事?
梨(透):例えば、僕と麻美ちゃん。
そもそも出会った時、麻美ちゃんが歌ってた曲は?
来(麻):……「WAになっておどろう」。
梨(透):そして、僕たちが行った店は?
来(麻):回転ずし。 あ、これも回るから、輪って事ね。
梨(透):で、僕が会計の時、お金が足りなくて、麻美ちゃんから借りたお金が?
来(麻):50円!
梨(透):うん。 これも、輪、だよね!
それから、のぶさんがやってるお店の名前って、もしかして……。
麻(伸):うちは自転車屋だから、「堂本サイクリング」だけど……。
……あ、リング。 なるほどな。
梨(透):そして、ねこちゃんが描いた漫画は?
透(寧):あ、えっと、「空飛ぶ浮き輪」です。
あ、ここにも、輪が……。
梨(透):でしょ!
そして、らいとさんと、ここちゃんさんは、もちろんドーナツ!
伸(梨):あぁ!! ほんとだ!!
寧(来):すげーじゃん、透っち!!
梨(透):ついでに言うと、らいとさんは、レスリングもありますよね。
寧(来):ほんとだぁ!! リングついてた!!
来(麻):そういえば、透の仕事も、ワッシャーっていう、輪を造る仕事よね。
梨(透):うん。
つまり、さっき麻美ちゃんが言った「リング」を持って、もう一度乗ってみれば
もしかすると、もしかするかもしれません!!
寧(来):おおー!! すげぇー!!
伸(梨):透っち、名探偵みたい!!
来(麻):だけど、リングを持つって言ったって……。
麻(伸):サイクリングは、持ってこれないし……。
透(寧):漫画も、スマホに入ってる表紙のデータで良いんでしょうか……。
伸(梨):それなら、心配いらないよ!!
来(麻):え?
伸(梨):ドーナツがあるじゃん!!
みんなで、ドーナツ持って、もう一回乗ってみようよ!!
麻(伸):確かに、ドーナツもリングだけど。
それで、うまくいくのかな。
寧(来):おいおい、オッサン!!
俺たちのドーナツを舐めて貰っちゃ、困るぜぇ~!!
俺たちのドーナツは、世界一なんだからよ!!
伸(梨):そうだよ!! 元に戻れるって願えば、きっとうまくいくよ!!
来(麻):……そうよね。
まぁ、かなり賭けの要素はあるけど、今は縋るしかないわね。
寧(来):よし、じゃあ作ってくるから、ちょっと待っててな~!!
伸(梨):ないちゅん!! あたしも行く~!!
〈二人、走り去る〉
麻(伸):なんだかんだ言って、あいつらが、最後の望みになるんだな。
透(寧):うまく、いくといいですね。
来(麻):きっと、うまくいくわよ。 ね、透?
梨(透):え? うん……。
……そうだね。 そう願ってる。
■2022年5月10日 5時00分/ラブ・サターン前■
〈寧々子、伸斗が走ってくる〉
寧(来):おーい!! お待たせぇー!!
麻(伸):お、もう出来たのか?
寧(来):いやぁ、それがさ。 材料がもう無くってさ。
5個は作れたんだけど、1個足りなくってさ!!
麻(伸):なんだって!?
伸(梨):サイズをダウンして作る? って聞いたんだけどね。
この大きさじゃなきゃ、意味がないって言ってさぁ!
寧(来):ここっちぃ~!
これは、職人のこだわりって言うんだぜ!
麻(伸):この期に及んで、こだわりも何もないだろ~!!
どうすんだ? あと1個のリング!!
寧(来):あはは~! どうしよう?
麻(伸):あはは、じゃない!!
梨(透):あの!!
……実は、リング、ひとつあるんです。
麻(伸):……え?
来(麻):え、どういうこと?
梨(透):もし、6人がリングを持ってコースターに乗って……。
それで、本当に、元の身体に戻れるなら……。
多分、いや、きっと大丈夫だと思います!
来(麻):透……。
透(寧):……透さんを、信じてみませんか?
ドーナツも、これが最後ですし……。
麻(伸):……まぁ、そうだな。
やるしか、ないよな。
寧(来):運命は、自分たちの手で、変えてやろう!
透っちのリングに、俺の運命、預けるぜ!!
伸(梨):あたしも、透っちを信じる!!
来(麻):……行きましょう、透!
梨(透):……うん!
■2022年5月10日 5時10分/ラブ・サターン■
〈ラブ・サターンが動き出す〉
麻(伸):……さぁ、動き出したぜ。
透(寧):元の身体に戻して、お願い!!
伸(梨):みんなに渡したドーナツのおまじない、効くと良いね!!
寧(来):あぁ!! これは最高のドーナツだぜ!!
なんたって、作り手を入れ替えた「シャッフ・リング」だからな!!
〈コースター内に稲光が走る〉
麻(伸):うぉぉぉ!! なんだなんだ!?
透(寧):うぅ、まぶしいよぉ!!
来(麻):ちょっと!? ドーナツが光ってる!!
伸(梨):ちょっとちょっと、どうなってんの!?
あぁ、ドーナツが!!
〈ドーナツは、光を放ちながら、みんなの手から離れた〉
寧(来):うわぁぁ!! みんなのドーナツが、宙に浮いて……
〈そして、透のポケットが光る〉
来(麻):と、透!!
ポ、ポケットが光ってるわよ!?
梨(透):な、なんだ、これ!!
うわぁ、勝手に動くなぁ!!
〈指輪が、梨依音(透)のポケットから出てくる〉
梨(透):うわぁ!! ぐっ……!!
〈指輪が光はじめ、今にも梨依音(透)の手から離れようとする〉
梨(透):うぐぐっ……!!
……離して、たまるもんか。
これだけは……これだけはぁ!
……こ、これは、僕の大事なリングなんだ!!
来(麻):透、そのリングって……。
梨(透):麻美ちゃん、手、出して!!
今日、麻美ちゃんに渡そうとしてた、指輪だよ!!
来(麻):透!?
梨(透):麻美ちゃん!!
透(●):今日、僕は、麻美ちゃんに、もう一度、ちゃんとプロポーズしたかった!!
僕は、ありのままの、麻美ちゃんが好きだ!! 大好きだ!!
素敵な笑顔も、ちょっとそっけないとこも、そして……
……案外、打たれ弱いとこも!!
ぜ~んぶひっくるめて、麻美ちゃんの全てを、愛してる!!
僕は、一生をかけて、この命をかけてでも、麻美ちゃんを守る!!
必ず、幸せにするから!!
だから、この指輪を、受け取ってください!!
来(麻):透!!
透(●):早く……もう、指に力が入らない……。
麻美ちゃん!!
麻(●):透!!
私も、透が大好きだよ!!
こんな私だけど……本当は弱くて、意地っ張りな私だけど……。
透を、一生、信じるから!! 透を、支えるから!!
だから、こんな私を、幸せにしてね、透!!
私も、透を、愛してる!!
〈指輪が、梨依音(透)から来翔(麻美)に渡る〉
透(●):麻美ちゃん!!
麻(●):透!!
〈前から、光の矢が向かってくる〉
伸(●):みんな、危ない!!
全員 :うわぁぁぁぁぁぁ!!
-間-
■2022年5月9日 15時00分■
来(M):……い、いたたたた。一体、何が起きたんだ?
伸(M):……いきなり、目の前に光がさして。
梨(M):……目が覚めたら、もう、お昼になってて。
寧(M):……まだ、信じられないけれど。
麻(M):……私たち、不思議な夢から、覚めたのね。
透(M):……そう、僕たちの身体は。
全員 :元に戻ったぁぁぁぁ~!!
透(●):……ほんとに、元に戻った!!
寧(●):わぁ~!! 自分の身体、自分の声だ!!
麻(●):やっと、元の自分に戻れたわね!!
伸(●):なんだか、逆に違和感すら感じちまうな!!
来(●):そんな事、言うなよぉ、ここっち!!
〈来翔、伸斗の肩を抱く〉
伸(●):俺の身体は、もうお前の彼女じゃないんだよ!!
来(●):ぬわぁぁぁぁ!!
梨(●):うぅ~、ないちゅん、ヒドス……。
来(●):はぁ~!! やっぱりここっちは、この身体、この声だよ~!!
おかえり、ここっち!!
梨(●):ないちゅん!! ないちゅーん!!
ただいま!! おかえり!! おかえり~!!
〈梨依音、来翔に抱きつく〉
来(●):あはは!! ただいま、ここっち!!
伸(●):えっと、この二人って、さっきまで透くんと麻美ちゃんだったんだよな。
寧(●):ふふっ、なんだか、新鮮だけど、たしかに違和感ありますね。
伸(●):……あのさ、ねこちゃん。
さっきの、返事だけど。 改めて、俺から言わせてくれ。
ねこちゃん、俺の彼女になって、俺の人生の希望に、なってくれないか。
寧(●):のぶさん……。
……あの、私で良ければ、もちろんです!!
……タイヤのような浮き輪に、二人で空気を入れていって
いつか、空に飛び立つ時、私も一緒に、連れてってほしいです!!
伸(●):ねこちゃん……、大好きだ!!
梨(●):ひゅ~ひゅ~!! 熱いねぇお二人さん!!
来(●):よかったな、オッサン!!
伸(●):最後までオッサン呼ばわりかよ!!
……ふふっ、でも、ありがとうな。
来(●):へへへ!!
……ん? あ、これは。
〈手の中に、指輪を見つける来翔〉
来(●):そっか、これは、俺が持ってちゃ、いけないよな。
まーみやん!! ほら、これ。
麻(●):あ、指輪……。
〈来翔、指輪を麻美に渡す〉
来(●):透っちと、幸せになってくれよ!!
麻(●):……うん。
透(●):らいとさん……。
麻(●):透、私……。
透(●):麻美ちゃん。
絶対、麻美ちゃんを、幸せにするよ。
頼りないかもしれないけど……僕、頑張るから。
麻(●):透……。
……一人で頑張らなくていいよ。
私も、透と一緒に頑張るから。
だから……。
〈透、麻美を抱きしめる〉
透(●):麻美ちゃん!!
愛してます!!
麻(●):……ありがとう、透。
-間-
梨(●):ねぇねぇ、みんな!
来(●):ん? どうした~ここっち?
梨(●):今日って、何月何日だっけ?
伸(●):え~っと……。
寧(●):5月10日、じゃないでしょうか。
昨日が9日でしたから。
梨(●):だよね!?
でも、ほら、あそこの時計見てみて!!
透(●):……あれ? 5月9日になってる。
寧(●):あ、ほんとだぁ。
麻(●):……あ!! もしかしてだけど。
「時経たずして真の己を知る」って……。
元の自分に戻れたなら、時間も戻るって意味なんじゃないかしら。
来(●):おぉぉ!!
梨(●):じゃあじゃあ、みんなで考えた、あの看板の意味って
やっぱり、元に戻るヒントだったんだね!!
透(●):解釈が全部当たってたのかはわかりませんが……。
無事戻れたってことは、きっと、概ね当たってたんでしょうね!
寧(●):じゃあ、「定めを背負ひし者」って、私たちの事だったんですか。
来(●):みんな、なんだかんだ、運命を感じながら生きてたんだね!!
梨(●):でもさ、ないちゅん!!
透っちとまーみやん、のぶちんとねこちゃんは、元に戻ってから
その”運命”を形にした感じするんだけどさ~!!
あたしと、ないちゅんの”運命”って、何だったんだろうね!!
来(●):俺たちの”運命”かぁ~。
伸(●):……俺さ、なんとなくだけど、お前たちの運命、分かった気がする。
来(●):え? まじかよ~オッサン!!
伸(●):あの看板に書いてあった
「願わくば標(しるべ)を見つけ光がさせば」ってとこだけどさ。
お前たちが、俺たちの”標(しるべ)”だったような気がする。
とんでもない状況になって、混乱している中でも。
お前たちが、明るく接してくれたから、大きく取り乱さなくて済んだんだ。
お前たちが居なければ、元に戻るリング(ドーナツ)は無かったわけだし。
麻(●):……たしかに、そうかもしれないわ。
テントの中で、ここちゃんが言ってくれた事。
私にも、すごく響いた。
コースターの中で、透が必死になって指輪を渡そうとしてくれた時
心の中に、なにかが聞こえたの……。
きっと、それが、幸せの音、だったのかもね。
梨(●):まーみやん……。
そんなこと言われたら、抱きしめたくなっちゃうじゃ~ん!!
〈梨依音、麻美に抱きつく〉
寧(●):最初は、泣きたいくらい不安でしたが……。
二人のやりとりを見てると、その不安も、一瞬でも忘れることができました。
らいとさんが作ってくれたドーナツだって、すっごく美味しかったし。
そもそも、あんなに、素敵な笑顔を作ってる、自分の身体を見て……
私も、あんなふうに、笑えたらいいなって……
だから、これからは、もっと、笑っていきたい!!
来(●):なんだよ~みんなして!!
そんなに褒められちゃうと、ないちゅん調子にのっちゃうよ!?
寧(●):調子に乗っても、だいじょうびー!
ですよね、ここちゃんさん!
梨(●):ねこちゃん……!
そぉだよ! だいじょうびーだよ!!
もぉ、ねこちゃんも抱きしめてあげるぅ~!!
〈梨依音、寧々子に抱きつく〉
伸(●):ははは。
でも、本当に、お前たちが居てくれて、良かったよ。
来(●):へへへ!!
じゃあ……みんなでもう一度、食べるか!?
運命のリング!!
透(●):え、でも、材料がないんじゃ?
来(●):今日は何日だった?
元に戻ったって事は、ドーナツの材料だって、元に戻ってるっしょ!?
梨(●):あと、あたしたちの、おなか事情もね!!
元に戻った記念に、ドーナツ食べながら、祝杯あげちゃお~!!
寧(●):いえーい!! あはははは!!
来(●):お!! ねこちゃん!!
いい笑顔してるじゃん!! あはははは!!
〈みんな、笑いあう〉
梨(●):じゃあ、みんな!
ワゴンに向かって、れっつごー!!
全員 :おぉ~!!
〈みんな、歩き出す〉
〈途中で立ち止まる透〉
透(●):……運命のリングか。
運命は、誰かが決めたものじゃない。
自分の力で、切り拓いていこう。
自分たちで、運命を変えちゃえばいい。
僕と麻美ちゃんが歩んでいく、これからの未来……。
きっと、色んな事が起こるんだろう。
そんな時、後ろを振り返るのは、もうやめよう。
運命を変えていくのは、間違いじゃない。
ただ、まっすぐ、まっすぐ、前を向いて、進んでいこう。
……そういえば、僕たちの名前って。
……。
あぁ、なるほど、そういうことか。
ふふふ、確かに、リング……だなぁ。
麻(●):透、早く来なよ~! 置いてくよ~?
透(●):あ、うん。 今、行くよ~!!
--THE END--