機器開発の際に実体顕微鏡を使うことが多かったのですが、透過型の顕微鏡は、堆積物粒子を観察する以外あまり使用する機会がありませんでした。しかし、世の中にはお役御免になった顕微鏡が安価に出回っていることを知り、これらを入手、不足部品の補充や修理を行っているうちに顕微鏡が増殖しました。ここに紹介する顕微鏡はいずれも数世代前の製品ですが、入念な整備と光源の改良などの工夫を施しており、現役機として使用できるものばかりです、というか実際に使用中。ここでは、いにしえの日本光学工業（ニコン）製生物顕微鏡をご紹介します。
昔の顕微鏡は黒塗りのものが多かったのですが、これはその典型、かつては大学の研究室などでよく見かけました。所有しているものは同機種の後期型、一軸粗微動タイプで、ケーラー照明を搭載したS-Ke型です。対物レンズは1.2xから100xまでのほか、オリンパスの短頸PlanApo対物レンズや接眼、リレーレンズを用意して、低倍率から高倍率、低解像度から高解像度までの観察と撮影に対応しています。コンデンサも、低倍率用のローパワー型から写真撮影用のアクロマート型まで揃えました。S-Ke型は、顕微鏡としての総合的な設計は勿論のこと、とくに光源～コンデンサの照明光学系が優れているように思います。今の顕微鏡が忘れてしまった、偏斜（斜光）照明を行えることも魅力です。写真左側のS-Ke型は、4本の対物レンズが付くタイプで、オリンパス製のコンデンサ、対物・接眼レンズ・リレーレンズに交換しています。右側は5本の対物レンズが付くモデルで、対物レンズはすべてプランアクロマート型レンズ、コンデンサはNA=1.4のアクロマート型を取り付けた最強編成です。また、コンデンサホルダは、後述するL型のものに交換しています。どちらの顕微鏡にも、撮影や観察を軽快に行うための自作部品を付けています。光源には、高演色性のチップオンボード白色LEDを採用しました。右写真は本機のコンデンサに、後述する「暗視野の素」を取り付けて撮影したオカメミジンコ(Simocephalus sp.)です（対物レンズPlan 10x NA=0.25 コンデンサNA=1.30+暗視野の素）。
S型顕微鏡の兄貴分、L型顕微鏡です。S型に瓜二つですが、レボルバーとステージがクランプレバー操作で取り外せる点と、照明のフィールドレンズではなくコンデンサで光軸合わせができる点が異なります。同軸型粗微動ダイヤルを搭載したS型、L型顕微鏡のほとんどは、経年劣化で微動ギヤが割れていると考えて間違いなく、いずれステージが動かなくなる運命にあります。そこで、割れたギヤを修復する技を編み出しました。バックラッシュから開放された微動機構は実にスムースで快適ですが、耐久性については保証の限りではありません。本機はかなりの部品が欠損した状態で保護されましたが、余剰部品の補完と裏蓋の製作によって蘇りました。右写真は、本機で撮影したマルミジンコ(Chydorus sphaericus)です（対物レンズPlan 10x NA=0.25、コンデンサNA=1.30 偏斜照明）。
S型用のコンデンサ（NA=1.30とNA=1.25 Achromat型を推奨）のフィルタホルダに組み込むだけで、暗視野観察を手軽に行える輪帯板、名付けて「暗視野の素」です。輪帯板が開口絞りの直下に来るよう設計してあります。1mm間隔で異なるサイズの輪帯板を複数作りましたので、様々な倍率に対応します。暗視野コンデンサが無くても、簡単な工夫で暗視野照明を実現できます。3Dプリンタ印刷用のstlデータを用意しましたので、ご利用ください。
集中講義など、出張先でニコンS-Ke型顕微鏡を使用するときに用いるセットです。S-Ut用の木箱を改造し、カメラアダプタ、LED光源、ケーブル類、ACアダプタと調光器をすべて収納できるようにしてあります。調光器は小型の専用モデルで、3Dプリンタで作成したホルダに固定して収納します。プロジェクターにHDMIポートがあれば、像を直接スクリーンに投影できます。でも、最初は接眼レンズを通して直接観察するべきですね。美しいプレパラートの像を自分の目で見たときの感動は、スクリーンやモニタを介して観察したときの比ではありません。
船に持ち込んで堆積物のスミアスライドを観察する、という理由をこしらえて入手しました。POH-3型は、S型の最終モデルとなるS-Ut型顕微鏡をベースにした偏光顕微鏡で、内蔵トランスでAC100Vを6Vに降圧した後、トライアックで交流波形をチョップする方式の調光回路を内蔵しています。光学系の状態は良好でしたが、今では予備電球の入手が難しいことや、製造後40年以上経つ調光回路にAC100Vを突っ込むことに抵抗がありましたので、アルミ丸棒を旋盤加工して作ったソケット互換の高演色性LED電球と、電圧電流変換ICを使用した専用回路を組み込みました。電源部は、安全のため100Vの代わりにACアダプタを使用するよう改めました。電圧インジケータを動かす駆動回路も内蔵しているため、使い勝手は改造前と変わりません。明るい光源はクロスニコル観察の際に威力を発揮します。元々は単眼鏡筒が付いていましたが、手持ちのF型三眼鏡筒の光路に、簡易的な脱偏光フィルタとして1/4λ波長板を付けたものに取り替えました。なお、POH-3型のコンデンサはクランプで固定するハネノケ型で、他のS（L）型のコンデンサはそのままでは取り付けられません。右写真は、堆積物粒子のスミアスライドをクロスニコルで撮影したものです（対物レンズP 10x NA=0.25）。
S型より小型ですが、S型の鏡筒、対物レンズ、コンデンサを付けられる、使いやすい顕微鏡です。照明は自作品で、豊田合成の太陽光LEDと、ジャンク顕微鏡から取り外したコレクタレンズを利用した簡易型です。元々の単眼鏡筒は取り外し、カメラポート付き鏡筒にに交換しました。また、カメラポートは筒を外し、代わりにアダプタを組み合わせたスペーサを取り付けることにより、肉眼観察時とカメラのフォーカスが一致するように高さを調整しました。カメラにはCマウントのUSBカメラ（ラズベリーパイのケースに組み込んでいます）を取り付けました。対物レンズと接眼レンズはCF型に取り替えてあり、肉眼でもカメラを通しても、色収差の無い像を得られるようになっています。光源の電源は単3電池を3本使用しています。顕微鏡のコンパクトさと相まって、講義などのデモに最適です。
小判型のボディに軍艦のような頂部の構造と、一見ライカのカメラのような形をしていますが、実は南極や宇宙でも活躍した、日本光学工業が世界に誇ったフィールド用携帯顕微鏡です。この顕微鏡は倒立式なので、プレパラートを観察するときは、カバーガラス側を下に向けて使用します（そうしないとフォーカスが合わないので故障したと勘違いする）。このため、液体に入った生物試料の検鏡のために、スライドガラスに穴を開け、カバーガラスを接着した専用ホールスライドも作りました。右下の写真は、本機の照明に工夫を施して、淡水性珪藻(Craticula sp.)を対物40xで撮影した画像をトリミングしたものです※。
※光源に452nmの青色LEDを使用、拡散板の上にビニルテープで穴を塞いだワッシャを載せ、ピンセットで設置位置を微調整。raw画像の青チャンネルだけを抽出し、モノクロ画像としました。カメラは、アダプタに取り付けたミラーレス一眼を使用。
ベークライト板と電解コンデンサ用クリップ※を使って、コリメート法撮影のためのスマホホルダを作りました。接眼レンズにはHKW 10xを使います。使用したクリップはナイロン製なので、接眼レンズの側面に傷をつけずに固定できます。カメラアプリにmScopePalを使えば、60年代の携帯顕微鏡は最新鋭のネット顕微鏡に変身します。たとえば、フィールドでスマホで撮影したサンプルの写真をサーバにアップしたり、撮影画像をメール添付で離れた場所にいる知り合いに送り、一緒にサンプルを確認・検討することが可能になります。H型顕微鏡の機動性と優れた光学系は、現代の電子機器との相性も抜群です。
※使用したクリップは、アールエスコンポーネンツで販売しているものです（品番：237-7264）。
H型顕微鏡の光源にはニップル球が使われますが、色温度が低いこと、寿命が短いこと、電池の消耗が早く過放電による液漏れのリスクがあることから、豊田合成の太陽光LEDを使用した光源を開発しました。E10口金の中には、3Vを5Vに昇圧するチャージポンプ回路と定電流回路を組み込んであるため、本体を改造することなく使用できます。このLEDには集光レンズが付いていないため、5mmΦのLEDからレンズ部分を切り出し、切断面を整えたものを紫外線硬化樹脂で固定することによって、検鏡に過不足のない光量を得ました。効果は抜群で、違和感のない色調の像を得られました。右下の珪藻（Cymbella sp.）写真は、このシステムを使い、iPhoneでコリメート法撮影したものです。
最終更新日 Jan/3/2025