〇〇様
龍川先生のこと、お知らせいただきありがとうございます。
南高校に入学する直前に、気をつけるべき先生がいるという噂を耳にしていました。それが龍川先生で、生徒指導や現代社会の授業の厳しさを目の当たりにしました。しかし夏休みや冬休み前の生徒指導の話など、笑いを誘っておいて「笑い事でなはい!」と凄んだふりをするなど(あれ狙い通りでしょ、釣られたわー)、どこかひょうきんな一面のある憎めない人でした。また、高校の正門を清掃していた時、生えているクスノキを指差して、幹に髭根が生えていることを嬉しそうに教えてくれるなど、植物に対する造詣の深さを垣間見ることもありました。自分が生物部員だったことを知っていて説明されたのです。
授業の思い出は数限りないですが、先生の添削のテクニックは今思い出しても舌を巻くほどです。主語述語の関係をはっきりさせ、重複や無駄を削いで要点を簡潔にまとめること、句読点の正しく打つことなどを徹底させ、課題について調べたことを黒板にビッシリと書かせていく授業はユニークでした。授業中に全ての文章を添削し終わるのは容易ではなかったはずで、余程日本語を読み込んで、また書き慣れていなければ出来ない技と思います。先生は『現代用語の基礎知識』を参照せよ、ともよく言われていましたが、社会科室の前にはこの本以外にも様々な参考書が置かれてあり、そこで調べることも奨励されました。龍川先生をはじめとする先生方は、生徒たちに公平に学ぶ環境を整えて下さっていたのですが、当時の私たちは、他にやりたいこともいっぱいある年頃、そういった心遣いを感じ取るには、まだ若すぎました。
一度授業で難題を与えられたことがあります。そこで本屋で参考書を片っ端から調べて、これはというものを買って社会科室の前でレポートを書いていた時、通りがかった龍川先生が「よくその本を見つけたな」と言われニヤッとされたことが忘れられません。この本を知っていたのかーという悔しさと、認めてくれた嬉しさが混じった不思議な感情が湧きました。現代社会の授業も終わりに近づいた頃の話です。
龍川先生の教えは、大学で卒論を書く頃から活きてきたように思います。レポートや卒論の執筆にあたり、指導教官があるベストセラーを推薦してくれたのですが、ほとんど心に残らなかったのです。その理由は、その本よりも、龍川先生の授業の方がはるかに論理的で説得力があったからなのでした。そしてそれからずっと後に、石黒鎮雄博士(カズオ・イシグロ氏の父、海洋学者)の著書『日本語からはじめる科学・技術英文の書き方』を入手し、まさに龍川先生と同じ手法、論理で文章を添削していく内容を見て、その共通性に驚いたものでした。
あれから35年が経つというのに、龍川先生のことはいくつも思い出されます。自分はこれから日本語とは無縁の地で、龍川先生が私たちにされたように、学生達に(済)を与える立場になります。言語は違っても、せめて先生から受け継いだものを学生達に伝えられるようにせねば、ならねば、と思います(逆に日本語よりも論理的な言語体系で育った若者達に文章の書き方を教えられたりして)。
合掌
更新日 15/Feb/2021